第八幕 無要運命デートor LINE 3
八幕三話です、よろしくお願いします。
「ってことになっちゃって。どうしたらいいかなあ」
暗く沈むボクの心情のように、空もまた黒く佇む夜。
ボクは、唯一の友人と言っていいつぼみさんと例によってベッドに寝っ転がりながら通話をしている。
飛鳥君は眠りについたらしい深夜一時のことだ。話し始めたら、少し泣いちゃったり、しどろもどろしたりで長くなってしまった。付き合ってくれるつぼみさんには本当に感謝である。
話題は無論、今日の飛鳥君とのことだ。
トラウマの詳細は伏せてある。妹に犯されたことが怖くて拒絶してしまった、とは流石に言えない。
『なるほどねえ……うーん』
つぼみさんが悩ましげな声を上げる。
自分で相談しておいてアレだが、多分解決策なんて普通の人は持っていない問題だ。ボクはただ誰かに問題を共有したかったのだと思う。
まったく持って女々しい。それを女らしさと開き直れるほど豪胆だったら、こんなことで悩まないで済むのかもしれないけど。
『飛鳥とするの。いやってわけじゃないのよね?』
「そ、それは、うん。誓って言えるよ」
でなければ、あんな羞恥に悶えながらコンビニで避妊具なんて買わない。
通販で済ませなかったのは、ボクなりに退路を断つためでもあったのだ。心地よい今の関係に終止符を打ち、新たな関係へと進むために。
それは過去からの恐怖によって、道ごと崩れたわけだが、ボクは道の再建を固く誓っている。
飛鳥君が望むことなら、なんでもしてあげたい。
あの時、固く屹立する飛鳥君の……その、アレに少しだけど触れて(いや、太腿に当たっただけだけど)、飛鳥君の気持ちはわかったつもりだ。
品がない、少女に不相応にも程がある例えだけど、そそり立つアレみたいに固く強い獣欲とかいうのを、彼のソレから確かに感じた。
そしてそれは、恥ずかしながらも、ボクから滴っていたものでもある。
飛鳥君が望むことならなんでもしてあげたい。それは真実、偽りない。が、それもそうだが、ボク自身、飛鳥君と繋がりたいと思う。きっと、飛鳥君と同じくらいに。
「ボク、あ、飛鳥君と、その……セ」
『いい、いい、具体的なことは言わなくていいから。まったく、聞いてて恥ずかしいったら。幼馴染の情事なんて笑い話にもならないわ』
「そう言わずにさあ」
『手……いや、知恵を貸さない、とは言ってない。私、これでも引け目を感じてるの。飛鳥のこと。それに、友達の頼みだしね。微力を尽くしますとも』
「……ありがと」
『気にしないで。飛鳥の為でもあるんだから。でも、そうね……』
「どうしたの?」
『回り道と近道。睦美さんは、どっちがいい?』
「……近道は当然」
『もちろん、リスクありあり』
「なら、お手柔らかにお願いしたいなあ」
『そうね。それがいいと思う』
なにやら、つぼみさんには名案があるらしい。
実際、ここで言う近道、というのは多分、飛鳥君に、嫌がるボクに構わず犯させる、というものだと思う。過去の恐怖を上塗りしてしまえばいい、という寸法なんだろうが、それは、うん。怖い。それに、飛鳥君はきっと、そんなボクを見て構わず続きができるタイプではないだろう。
なにか小細工でもすればできなくはないかもしれないが、ボクとしても、初めての時の飛鳥君の顔が曇っていたのではあんまり嫌だ。
それくらいの夢は許してほしい。ボクだって、女の子なのだ。ある意味では、女の子としての最後の望みでもあるのだ。
『なら、回り道しましょう』
「うん、お願いします。で、どうするの?」
『そうねえ。まだ具体的に詰めてないから、もう少し固まったらまた言うわ』
「わ、わかった」
少し不安でもあるけど、飛鳥君、ひいては自分のためでもある。藁にもすがる思いで、つぼみさんの答えを待とう。
と、ここで、一つ疑問が浮かんだ。
つぼみさんは、どのようにして行為に及んだのだろう。事情が違いすぎるとはいえ、何かの参考になるかもしれない。
「つぼみさんは、初めての時どうだったの?」
『ああ、私たちはまだしてないよ』
「あ、そうなんだ」
二人がつきあったのは、確か夏休みの終わり、八月末だったはず。となると、もう結構経っていると思うが、まだとは、なんというか、少し意外だった。
お兄さんはよく知らないが、それでもつぼみさんを大事に思っているのは見て取れる。その気持ちが大きいあまりに手を出さないでいるのか、或いは、つぼみさんの方に問題があるのか。
……はたまた、ボクたちが早すぎるだけ……なのか……? いや、それはなんか、うん。ボクもこんなにボクを安売りするつもりはなかったから否定もできない。
まあ、考えていても詮無いことか。そも、訊けばわかることである。
「どうして?」
『うーん。単純に、タイミングがね』
「タイミング」
確かにあらためて、シたいと告げるのはかなり勇気のいることだとは思うが、季節を一つ越してもその時が来ないというのは、高校生にしては遅いように思う。
ボクたちの出会いが特殊過ぎるから、段階を踏むのが早いというのはあるだろうが、それにしても、だ。
『そう。まあ、もうクリスマスだし。そろそろかなあ、って気もするけどね』
「そっかあ」
クリスマス。
恋人たちが、そのまま昇天してしまうのではないかというほどにプカプカ浮き足立つとき。
普通は、きっかけなんてそんなものかもしれない。
「ありがとう、なんとなくわかったよ」
つぼみさんには悪いが、参考にならないということが、だけど、それでも、参考云々関係なく胸が高鳴るのは、恋バナ(花)に集る虫の性質を持つ女の子ゆえか。
なんの懸念事項もなければ、全力の前傾で恋バナできるんだけど、それはボクには先のことになりそうだ。
飛鳥君とのこと以外にも、引き篭もりのこととか、いろいろ立ち向かう現実が多過ぎる。後者は、ほんとうにそろそろ向き合うべきだろう。……まあ、少なくとも今この時ではないが。
『ならよかったわ。案を詰めたらこっちから連絡するね』
「わかった」
返事をすると同時に、ふわぁと欠伸が漏れる。時計は二時を指している。
これ以上はちょっと厳しいか。もう少しつぼみさんペアについて深掘りしてみたかったが、どうにも眠い。
「そろそろお開きかなあ」
『そうしましょうか。夜更かしはお肌の大敵、ってね。じゃ、またね』
「うん、またねえ」
そうして、通話を終える。気が抜けたのか、また一つ欠伸をして、スマホを放って仰向けになり、目を閉じる。
『お前は、淀見つぼみが解決案を出すと思うか』
「わからないよ、そんなの」
『まあ、それはそうか』
「……新機能、増えてたりするの、マホちゃんは」
『ああ。ほんとうに魔法じみたことまでできそうだ。……ほんとうにいいんだよな?』
「……うん。ボクたちは、お互いの関係を変えるのにアプリの力は借りない」
そうして、きちんと自分のままで飛鳥君と向き合うために、チートに頼るのはやめなければ。
友人として話し相手くらいにはなってもらうけど。
『まあ、お前たちがそう望むならそれもいいだろう』
「うん」
と、そろそろ本格的に、眠気がやってくる。
そのまま、思考を止め、深くまどろんでいく。
淡い期待と、不安を連れて。
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