第八幕 無要運命デートor LINE 1
ここから八幕。いろいろ動いていくと思うのでよろしくお願いします。
あれから。
ボクと華月が、一応の和解を経てから、二ヶ月が経過した。
聖夜を前に、あらゆる恋人が浮き足立つ十二月。
それはボクたちとて例外ではない。
あれから二ヶ月を経て、我ながらボクたちは仲睦まじいことこの上ない。
ボクの都合上、あんまり人前に出ることはないけど、きっと数少ない知り合いに見つかれば、苦虫を噛み潰したような顔にさせること請け合いだ。
そんなボクたちは、今、一つの転換点を迎えようとしている。
少年は男へ、少女は女へ、そんな変化を、迎えようとしている。
大人とは何かと問われれば、いろいろな答えが返ってくることと思う。
自立していること。成人していること。いろいろな答えがあると思うが、中には、その……経験をしていること。
そんな事を答える者もあるだろう。
つまりは、うん。ボクらは、そんな転換点を迎えようとしている。
◆
なんとなく、なんとなく。
そろそろなのかなあ、とそわそわしてはいた。
付き合って、二ヶ月。
月の終わりには、クリスマスとか、あと他にもいろいろある月。
今は、ボクの家、そのリビングで、夕飯を食べ終えてソファにいるところだ。
今夜の献立は、ボクがいいところを見せたくて、手の込んだビーフストロガノフだった。そして、そんな肉肉しい味のする唇を、お互いに貪っている。
「ふっ……んむ……ん……」
まるで、相手の全てを腹中に収めんとするかのように。自分の全てを相手に与えるように、歯も磨かずに激しく抱き合い、求め合う。
二ヶ月もすると、キスをすれば舌が絡むようにもなる。甘美な唾液に脳が融けそうになる。
歯を磨いた方が良いのはわかる。女の子だから、如何なる時でも、如何なる部分も可愛くいたい。飛鳥君の前でなら、尚更。
けど、恋人だから。どんな時でも繋がっていたいとも思う。
無論、付き合いたてだからなのだろうけど、なればこそ、この今を大事にしたかった。
自分の存在を刻みつけたくて、遠慮も知らずに全力でお互いの背に手を回す。
食い込みそうなほどに強く締め付けられるのが、なんだか嬉しい。
「……んむ、っぷは」
長い長い口付けが一旦の終わりを見せ、少しばかり顔を離して相手の顔を見る。
紅潮した頬、荒い息。
蕩けるように熱い熱を湛えて、ひたとボクの瞳を見据える。
そんな彼を、彼の瞳に映るボクの一切までが見えるほどに、ただ恍惚と見る。
ああ、幸せだなあ。
思わず破顔してしまう。
「えへへ」
えへへ。内心と、口とがラグ無く同じ言葉を放つ。
「可愛い」
「……えへへ、もう一回、言って……?」
言うと、素直じゃない飛鳥君は、言わなくても伝わるだろうとばかりにまたボクの唇を奪う。
……なんとも、馬鹿馬鹿しいほどに求め合うボクたちだけど、ここまでは、いつもと同じだ。
具体的には、一月前から、ボクたちはこのように求め合っている。
けど、ここまでだ。
服を脱がすことも、胸や、その、下腹部とかに手を伸ばすことはお互いにない。
それは、その先に一つの壁を感じていたこととか、それまでの関係がなんか変わってしまうんじゃないか、とか、いろんな考えがあってのことだったけど、とにかく、その先に、ボクたちは進まないでいた。
けど、そろそろ、その時なんじゃないか。
そんな空気は、ボクたちの間にあって。
お互い、それを口に出すことはなかったけど、でもやっぱりそれはそろそろなんだと思っていた。
だから。
唇を重ね、背後に手を回したまま、ボクは後ろに倒れ込んだ。
大きいソファだから、頭をぶつけたりとかはない。
飛鳥君は驚いて、ボクに覆い被さる形のまま、唇を離してボクを見ている。
きっと、飛鳥君の心臓も、ボクのそれと同じくらいにバクバクと高鳴っているに違いない。
けど、飛鳥君は、そわそわと躊躇っている。
「……来ないの?」
ほんとうにいいのか。
そんな葛藤が巡っているのが、見て取れる。
「……睦美さん……」
「……いい、よ?」
飛鳥君に負けないくらいに顔を赤くして、ボクはつぶやいた。でも……とごもる飛鳥君の胸元に、ボクは手を押し付けた。
反射的にボクの手を見て、飛鳥君の目が見開かれる。
そこに握られているのは、はいわゆる避妊具とか、ゴムとか言われるものだ。
ボクが羞恥に悶え、店員さんの好奇の目線に耐えながらコンビニで買ったものだ。
「……いい、よ……?」
と。そう言うと、箍が外れたというように。彼の手がボクのシャツの内側に滑り込んで来る。
……。
そうして、ボクは。ボクたちは。きっと、最後まで及び、また一つ階段を登り。
次のステップに至るのだ、と。
その時まではそう思っていた。
瞬間、ボクの脳裏に浮かんだのは、飛鳥君の顔ではなく。
涙を浮かべて、ボクを犯す、華月の顔だった。
「……あ、ひ。……う、あ」
こんなはずではなかった。
飛鳥君の顔が怪訝そうに歪む。
違う。そんな顔をさせたかったんじゃない。
飛鳥君の瞳に映るボクは、恐怖に染まっていた。
違うのに。そんな顔をしたいわけないのに。
恥ずかしさとか、高揚感とかが、波のようにさっと引いていく。
そうして、飛鳥君も、ボクから手を引いていく。
「あ、ま、やめ、ない、で」
「……無理しなくていいよ」
飛鳥君は、穏やかに言ってくれるけど。
その胸中が如何なものか。
わからない。
いや。
それを察するだけの余裕が、ボクになかった。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……」
そういって、泣きじゃくるしかない。
そんなボクを、優しく抱きしめて、背中をポンポン叩きながら、
「いいんだ、いいんだ。大丈夫。俺が性急だっただけだ。睦美さんは悪くない」
そんなわけはない。そもそも誘ったのはボクなのだ。それなのに勝手に怯えて拒絶したボクに対して、飛鳥君はひたすら、宥めるように、背中を摩ったり、ポンポンと撫でていた。
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