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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
幕間 番外お家デートLINE
92/183

幕間 7

幕間、その七です、よろしくお願いします

「あらあらまあまああらまあまあ」 


 あらあらうふふ。

 そんな感じに、頬に手を添えて微笑む飛鳥君のお母さんを前に、ボクと飛鳥君は各々違う恥ずかしさを持って、また卓に付いている。


 飛鳥君のお母さんは、その名を空というらしい。

 茶色がかった長い髪と穏やかな笑み。母親、かくあるべし。そんな感じのいいお母さんだった。飛鳥君もお母さんについて愚痴ることはあっても、悪口を聞いたことはないから、家族仲も悪くないのだろう。

 羨ましい話だ。

 ボクはまだ母親と会ってもいないのに。


 なんだか眩しく感じてしまうけど、それはお母さんも同じらしく。


「飛鳥ってば、よくこんなに綺麗な娘、捕まえてきたね」


 などと嬉しいことを言い、少し呆気に取られたようにボクを見ながら続ける。


「華月ちゃんと、似てるような気がするけど……」

「あ、ああ、双子なんです、ボ……私たち。しかも、アルビノとメラニズムの」


 流石に〈ボク〉、はなんか変な目で見られそうだから自重する。引き篭もり云々も……今は晒す必要もないだろう。

 長い付き合いになるだろう人だ。良い印象を持たれるよう心がけねば。……後が怖いだけだろうか……? それにつぼみさんには〈ボク〉で通してしまった以上今更でもあるんだけど、なんにせよ、もう遅い。

 お母さんの前では〈私〉を使うようにしよう。


 と、そんなことを考えるボクに、真剣な眼差しを向けたお母さんは心配そうに、


「そう……大変だったでしょう?」

「ええ……いろいろありました」


 その点については、ほんとうに、いろいろあった。

 あったが、いろいろの果てに、今ここにいるのだ。


 ボクは、もう過去に揺さぶられたりしない。多分まだ泣いちゃうこともあるし、人肌を恋しく思うこともあるだろうが、飛鳥君がいるし、一応、華月だっている。

 足踏みをしてしまうことはない。

 ……学生としての資格を取り戻すのは、もう少しばかり先になりそうではあるけど。


「そう、そこの馬鹿息子が負担かけないといいんだけどねえ」


 どうやら、それ以上掘り下げることはないようだ。多分ボクを気遣ってのことだろう。


「う、うるさいな、やめてくれ」

「ボ……私の方こそ、負担をかけてばかりですよ」

「気遣わなくていいのよ?」

「いえ、本心ですよ」


 顔を真っ赤にする飛鳥君を見て穏やかに笑いながらお母さんが、


「ほんと、よかったねえ、飛鳥」

「やめてくれって……」


 二人のやりとりで、ボクまで笑顔になってきた。お母さんは飛鳥君の失恋を知っているのだろう。その上で触れることなく暖かく心配している。

 そんな親を前にする飛鳥君はこんな感じなのか。なんだか可愛らしく思えて、役得だった。


「ふふ」

「……酷いな、笑うなよ」

「ううん。あのね、お母さんって……こう、だよなあって」

「……そうか」

「睦美ちゃんも、私をもう一人のお母さんと思ってくれてもいいのよ、ウチ二人とも男の子だから、ちょっと憧れてたの」

「よく言う。つぼみを着せ替え人形にして遊んでたろうに」

「そんなこともあったかもねえ。……あら、どうしたの?」


 少し黙るボクの異常を敏感に察して、お母さんがボクに訊ねる。

 ……もう一人の、お母さん。

 その申し出は、冗談だとしても、くるものがある。


 よくわからないけど、泣きそうになってしまう。


 気が早いけど。ボクも、この家族の一員になったら、失せたものを取り戻せるだろうか。


 飛鳥君は、今のボクにとって一番大事な存在だし、いっぱい甘えてるし、それはもう大好き、愛してると言ってもいいんだけど、流石に母親のようだと思ったことはない。


「いえ、なんでもないんです。ただ、ちょっと、嬉しくて」

「そう。なら、遠慮はいらないから、いつでも遊びにきてね」

「はい!」


 欠けたもの。ボクに失せたもの。

 きっと、華月と同じように。

 いつまでもこのままではいられない。

 それは両親のことだけではない。他にも、ある。

 それらと、向き合う時はきっとそう遠くない。

 そう思うけど。今は、目の前と。横にいる人たちと一緒に笑っていたかった。


 それから、いろいろ話した。昔の飛鳥君の愚行。ボクたちの馴れ初め(話せる範囲で)。料理のコツとか。すごく楽しかったけど、それだけにあっという間でもあった。


「そろそろ時間じゃないか」


 ふと言う飛鳥君の言葉にハッとして時間を見ると、八時になるところだった。ざっと一時間くらい話していたことになる。


「そう、残念ねえ。千種によろしくね」

「あ、はい」


 千種、というのはたしか、つぼみさんのお母さんだったと思う。

 家族ぐるみの付き合いというのは、流石につぼみさんとお兄さんがくっついてから減っているようだが、母親同士は未だとても仲が良いようだ。


「今日は、ありがとうございました」


 言って、お母さんの「またいらっしゃい」を受けお辞儀をしてから、玄関に行く。

 見送りは飛鳥君一人で、


「じゃあ、行ってきます、飛鳥君」


 行ってきます。なんだかもうここに住んでいるような言葉を放ったからか、少し呆気に取られる飛鳥君だったが、


「行ってらっしゃい」


 たしかにそう返してくれた。


 ……行ってらっしゃい。ある種さよならでもあるそれを言われて、改めて今日の終わり(ごめんつぼみさん)を意識してしまう。

 するとどうしようもなく、気づけば飛鳥君に抱きついていた。


 胸板に顔を押し付けて思いっきり息を吸い込んでから顔を離し、照れ隠しに、目を閉じて「ん」、と、口にキスをせがんだ。


 その時の飛鳥君がどんな表情だったのか。見られないのは残念ではあったが、唇に触れる感触が、そんなものを吹き飛ばした。


「……じゃあ、行ってくるね」

「しがみついたまま言われてもな」

「行ってくるね?」

「……ああ、行ってらっしゃい。また、後でな」


 もう一度そう言われて、ようやくボクは背中に回す腕を解いた。

 そのまま靴を履き、振り向いてもう一度。


「行ってくる」


 そう言ってから、返事も聞かずに飛び出した。


 何度目かのキス。胸が高鳴り、相手への思いもまた募る。カレー味のキスも、風情こそないがいいものだ。

 幸せだなあ。そう思いながら、唇に手を当てる。


「えへへ」 

『ずいぶん機嫌が良いな』


 なんだか久しぶりな気がする、マホちゃんの声に応える。


「良いよ〜? 超いいよ」


 音符マークをつけても良いくらいにテンションを上げながら、つぼみさんの家のインターフォンを押した。


 良い日だな、そう思った。

 これから来る、新たな混沌を知らず、呑気に、そう思っていた。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。


これで幕間は終わり、次から八幕ですね。

それに伴って、少し展開考えたいので、木曜の更新は休みます。申し訳ありません…

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