幕間 4
幕間、その四です、よろしくお願いします。
自分でも、暴走気味であることは、理解している。
こんな提案をしておいてあれだが、ボクにも恥じらいとか、貞操観念とか、色々ある。
……こんな提案をしておいて、あれなんだけど。
転がり出した石は止まることを知らない。精神にも物理法則は当てはまるらしい。
「……思ってたより、硬いね」
「男の腕なんてそんなもんだろう」
飛鳥君の腕を枕にして、ボクは。いや、ボクたちは布団の上にいる。
飛鳥君のベッドでなく、わざわざ客人用の布団を用意してもらったのは外行きの服で普段使いの布団に入るのは衛生的にどうなんだろうとかそんな理由。
ボクは、アニメとか観ていて、学校から帰ってきた主人公が制服のままベッドに飛び込むのを観て汚いとツッコミを入れてしまうタイプだ。
幸い、飛鳥君も同じ人種らしい。
というか、それが普通だよね? 訊き回って確かめたことなんてないから知らないけど。
と、意外にもどうでもいい思考が巡るのは、意外なことに、高揚感より安心感の方が勝っているからだろうか。
女の子としてどうなんだろうと自分でも思うが、信頼する人の温もりとかいうのは、どうにも心地良い。
もっと欲しくなって、飛鳥君の背中に手を回し、胸に顔を埋めて思いっきり深呼吸する。
「やめてくれ、恥ずかしい」
「やだ」
上目遣いで見上げると、飛鳥君がため息の後、
「……好きにしてくれ」
「やった」
えへへ、と笑いが漏れる。
幸せだ。とんでもなく。
あの孤独の一年は、きっとこんな時を迎えるための試練だったのだ。そう思うと、あの日々にも意味があったと……思うことは流石にできないけど、今が幸せなのに疑念の余地はない。
暖かい。匂いが、腕が、胸板が。
その、存在が。
あらためて考えると、やっぱりとんでもない状況だ。
付き合って一週間で添い寝とか、ぼんやりと好きな人ができて付き合ったらどんなだろうと夢想していた時期には思いもしなかった事態だ。
そんなに安売りするつもりはなかったのだけど、まさかボクから買いにいくことになるとは。恋とは人をここまでおかしくしてしまうものなのか。
それも、全てこの匂いの所為だ。こんなに落ち着く匂いのせいで、危機感とか吹っ飛んでしまうのだ。
そして、そんな思考が迂闊なものだったと、ボクは知る。
なぜか。そんなのは、自明なのだけど。
というか、置かれている状況は同じなのだ。
飛鳥君だって。
その右腕が、ボクの左側の脇下を通って背後に回され、ぐっと抱かれた。
抱き寄せる、ではないのはボクがこれ以上寄れないくらいに近くにいたからだ。その分この上ないくらいに飛鳥君を感じて幸せだったのだけれど、なるほど、背後があったか。
……と、感心している場合ではないのでは……思うが、まあ、ピー音が入ったりするような事態にはならないだろうと思う。
飛鳥君は、多分悶々とはするけどそれ止まり。ボクの背中がせいぜいで、胸や下腹部の辺りに手が伸びることはないと思う。
全て取っ払っても、どこかにブレーキを常に用意しておくタイプの人間だ、飛鳥君は。馬鹿をしたいと宣うくせに、いやだからこそ、超えてはいけないラインに敏感なのだ。
……正直、胸くらいなら触られても構わない、と思う程度には心を許している。いや、許す許さないなら全部あげてもいいんだけど、流石に時期尚早だし、心の準備が足りてない。
「……ふわぁ」
と、飛鳥君の胸元で欠伸をする。
とかく、やはり最も大きいのは安心感だった。
思えば、初めて会った時も、そうだった。
ボクはこの男の子に安心感を覚え、無防備に寝顔を晒したのだった。
あの時は色々ない混ざった末のものだったが、今回は違う。
〈運命の人〉ではなく、蓮城 飛鳥という男の子をきちんと見た上で、こんなことになっている。
「ちょっと、寝ようかな……」
「それも、悪くないか」
初デートだというのに時間を持て余しているような行動だけど、その時一番したいことをしているだけだから無問題。
むしろこんなに幸せなんだから大正解だ。
とはいえ、流石にこれでデートを終えてはもったいないから、
「二時間くらい、寝てたいな」
それでおきられるかはわからないが、起きられなかったらそれはそれでいい。
「飛鳥君は眠い?」
「正直なところ。それどころじゃない。なんで睦美さんは寝られるんだ」
「うーん」
理由を隠しているわけではないけど、話したい気分ではなかった。
「秘密」
「そうかい」
「暇だったら、ボクが寝た後ならおっぱいくらいなら触ってもいいよ」
その言葉を聞くや、ぶっと吹き出し、
「か、揶揄うなよ」
と言う。実際、そうされても構わなくはある、というかそれくらいされても文句は言えない状況だと思うんだけど、やっぱり飛鳥君、理性の人だ。
……まあ、それに。初めては、やっぱりムードが大事だ。
こんな微睡んでいるような時にではなく、きちんとするべきことだ。
その考えを共有できているのは、とても嬉しい。
もう、最高だ、飛鳥君。
「えへへ、ごめんね。ほんとに触っちゃダメだよ?」
「し、しないよ」
「うん。なら、よし。……おやすみ、飛鳥君」
「ああ。おやすみ」
ボクも、大概馬鹿だよなあ、と思いながら、びっくりするくらいスッと眠りに落ちた。
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