第七幕 相克相生双生相乗相対運命デュエルLINE 15
七幕十五話です、よろしくお願いします。
反射的に萎縮してしまったボクを見て、華月は、まるで枯れ木のような笑みを浮かべた。
全てを諦めたような、そんな笑み。
……怖い。それは、事実だ。華月を前にすると心臓を掴まれたみたいな、そんな心地になる。
理由がどうであれ、この心に刻まれた傷はたしかにある。飛鳥君の力を借りたとて、補いきれるものではない。
けど、と。思いはするが、目の前の華月を見ていると、体が竦む。
そんな時。
「自責の念。でもそれは、君だけのものじゃあ、多分ない」
飛鳥君が言う。
「俺はその重さを理解しているわけじゃないけど。睦美さんにもそれがあるのはわかる。そして、それを解消できるとしたら、多分それは、目の前にいる相手だけなんだ」
まるで、飛鳥君の言葉がボクの意思を形作るようだった。
バラバラのパズルピースを、飛鳥君はちゃんと正しい形に組み直してくれる。
ボクの進むべき道を、示してくれる。
多分、見方によっては飛鳥君は傲慢に映るのだろう。部外者のくせに出張ってきて綺麗事をぶちまけるだけの馬鹿だと見えるのだろう。
けど飛鳥君はきちんとボクの本心を読み取った上で言ってくれている。
だから、飛鳥君に言われるとボクはまだ前を向いていける。
怖いけど。目の前の深黒をひたと見つめることができる。
目があった華月は、少し目を見開いていた。
どうやらここでボクが折れてゲームエンド、という目算だったようだ。実際、飛鳥君抜きでは耐えられなかったと思う。
一度、二度。三度と深呼吸して、手に伝わる温もりと、横の男の子の存在を確かめてから、
「このまま終わっちゃったら、この後ずっとボクたちは後悔しながら生きていくことに、なる」
「お姉ちゃんが後悔することなんて、ありませんよ……!」
ボクの言葉を聞いて、華月がテーブルを叩きながら身を乗り出す。
「全部、私の意思が弱かったからこうなった! お姉ちゃんは私を憎めばいい! それで終わる話ですよ!」
そして、またボクに手を伸ばす。
瞬間、肝が冷えた。
目の前の手は、ボクの心臓を掴んでいる。
嫌な汗が額に浮かぶのがわかる。
けど、だ。隣に彼がいるから、まだ耐えられる。
恐怖を振り払うように、右の手で、伸びる華月の右手を掴んだ。
「な……!?」
華月の顔が、今度こそ驚愕に染まった。長い間華月を横で見てきたけど、初めて見る表情だった。
飛鳥君の表情は見えないけど、多分華月と同じだと思う。
ボク自身、こんなことができるとは思っていなかった。彼女を前にした時、恐怖に竦むばかりだったボクとは考えられないことだった。
「ど、どうし……んむ!?」
言いながら、手を振り払おうとする華月の口に、飛鳥君がフレンチトーストを放り込んだ。
「な、なんですか、いきなり! 今そんな時じゃ」
「多分、そんな時だったと思うよ。落ち着こうぜ。それで、よく考えてみろ。今の自分の意地は、そんなにまでして、目の前の幸せを投げ捨ててでも守るべきものか?」
「わかった風な口を! あなたに何が」
「……わかるだろ、こんなの、誰にだって」
文字にできないような声を発してから、華月はボクを見た。
「私、私……は……」
食いしばる華月の手と、飛鳥君の手を離し、ボクは立ち上がった。
ふと飛鳥君の方を見ると、あのあかね祭の時のように、穏やかに笑っていた。
その飛鳥君に一つ頷いてから、ボクは華月の元により、その背後に手を回した。……抱きしめた。
「ごめんね、ごめんね、気付いてあげられなくて。弱いお姉ちゃんで、ごめんねえ」
「……弱くなんて、ありませんよ。こんなに……」
華月に言われなくても、ボクがブルブル震えてるのなんてわかる。
「……私、お姉ちゃんの運命をかえるような存在ではありませんよ。私がいてもいなくても、彼はあなたのものになりますよ。なら、私に執着する必要なんて」
「運命なんて、どうでもいい」
「……は?」
ふふ、と飛鳥君が笑うのが聞こえた。
「そんなのどうでもいい。ボクにとって、必要なんだよ、飛鳥君も。……華月も」
怖いのは変わらないけど、それでもだからと切り捨てられる存在ではない。
血を分つ半身なのだ、ボクたちは。仮に関係を絶ったところで、それでも消えない繋がりがボクたちにはあるのだ。
「……必要……ほんとう、ですか? 私を許してくれますか? お姉ちゃんに好き勝手して、謝りもしないで責め立てて。そんな私でも……必要としてくれるんですか……?」
華月の声に、嗚咽が混じり始めた。
「うん。許してはいないけど……でも。これから許していくことは、できるよ」
「……私……」
「自分が許せないなら、最初はボクのためでいいから。ボクから華月を奪わないで、華月」
「……運命なんてどうでもいいとかいうくせに、随分と運命的なことを言うんですね……」
ここで、おっかなびっくり、華月の腕がボクに回された。
一瞬ビクついてしまったけど、なんとか耐える。
「……ごめん、なさい。ごめんなさい、お姉ちゃん。ごめんなさい……!」
「うん、うん。ボクも、ごめんねえ」
流しても流しても、涙が溢れた。枯れない泉のように。
そのまま暫く、抱き合いながらボクたちは、涙ながらの謝罪を続けた。
一年の別離をへて。ボクたちはようやく一つに戻ろうとしている。
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