第七幕 相克相生双生相乗相対運命デュエルLINE 13
七幕十三話です、よろしくお願いします。
運命。その言葉は、俺と睦さんを繋ぐ縁だった。それだけに、その意味は重くのしかかる。今となってはその言葉への懐疑も浮かんでいるが、だとしても依然、いやそれはそれで大きな意味がある。
その分だけ。この場も重い。
向き合う運命。俺と彼女の宿命は。
睦美さんの家……いや、天津家リビング。
そのテーブルに、俺たちはついている。
朝、俺はここにいた。にもかかわらず、まったく違う心持ちで、目の前の少女を見る。キッと厳しい表情で唇を噛む漆黒の妹。次いで、怯えながらも、ひたと目の前を見据える姉。
テーブルの中央には、デカデカとフレンチトーストが置かれている。朝に食べたものと同じだが、時間が経った分卵液が染みていて美味くなっている。
やはり、睦美さんの作るものは絶品だった。
……こんな状況でなければ、がっついていたのだろう。というか、この状況でフレンチトーストを用意する睦美さんの胆力はどうなっているのか。……いや、少しでも先延ばしにしたかったのだろうか。この卓に着くのを。
依然その手は震えている。震えに震えて、俺の手を取っている。流石に、さっきみたいに腕を抱えられてはいないが。
空気が重い。フレンチトーストが置かれてから一分ほど経ったが、俺がフレンチトーストの礼を言ったこと、それに手をつけた時のフォークが発した金属音。
そして、我が心臓の鼓動。それが、この一分で俺の耳にしたものの全てだった。
このままではいけない。
空気を裂くように、俺が口を開こうとした時だった。
華月が、数秒目を閉じ、開いてから俺に先んじて文字通りに口火を切る。
「何をしても無駄ですよ。まったく、困ったものですよ。ねえ、飛鳥さん」
言いつつ、フォークをフレンチトーストに突き刺し、口に運び、やっぱり美味しいですね、などと加えて述べた。
「お兄ちゃん、じゃないのかよ」
「じゃありませんねえ、もう。ねえ、お姉ちゃん」
……なら〈お姉ちゃん〉、でもないのでは。思いはするが、指摘して良いことなど何もないし黙る。
振られた睦美さんの手に力が籠り、俺の手を膝に寄せた。
その睦美さんが、口を開いた。
「……ごめんね、華月」
開口一番のそれに、華月はまた唇を噛み、
「何ですか、それ。お姉ちゃんが謝ることありませんよね」
「ボク、気付けなかった。華月が、どんな……」
口だけでなく、目の方も緩んだか、俺の手に水滴が滴った。
……怖いのも、本心。けど、妹を思う気持ちも、本心なのだ。
それを見て、華月が舌打ちした。
「馬鹿みたい。被害者が加害者に謝りますか。私がお姉ちゃんにしたことは許されるべきことではありませんよ」
「……許すとか、許さないとか。そんな簡単な問題じゃないよ! ボクたち、そんな風に切り捨てられるものじゃないでしょ!?」
「よく言う。あれから一切コンタクトなんて取ろうとしなかったくせに」
「……そ、れは……」
睦美さんの顔に狼狽が見える。
睦美さんの引け目。それは、妹を信じきれなかったことだ。一度酷いことをされたからと、理解を放棄したことだ。
無論、それは誰にも責められることではない。……睦美さん、以外には。
妹が自分の分まで身体を差し出して自分を守っていた。そのことに気づくことなく、妹を拒絶した。
……それは、姉足らんとして妹を多勢から庇うような睦美さんに、どんな思いを与えるのだろう。
涙となって滴り落ちる彼女の心は、絶えず俺の手を濡らす。
止まない雨はない。
それを晴らすに、きっと目の前の存在は不可欠なのだ。
だから。
「露悪的な物言いは止せよ」
ひたと、目の前の深黒を見据えて言う。
俺もこの場にいる意味は、睦美さんに手を貸すためだ。それは、手を繋ぐだけの置き物になるということでは、無論、ない。
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