第七幕 相克相生双生相対相乗運命デュエルLINE 10
七幕十話です、よろしくお願いします
「……では、行ってきますよ」
「……ええ」
母の生気の失せた返事を受け、私は玄関を開ける。
まだまだ暑い渋谷の熱は、私の天敵とも言える。白く輝く姉にも、黒く濁る私にも、共通の敵はあった。
それは曲土であったし、この陽気もそうだ。
どうせなら私たちの片方くらいはお天道様を友達としてみたかったものだが、どうにも世界はままならない。
私と姉とで理由は違うが、なるべく体を覆う恰好でないと目立って仕方がないのは煩わしいことこの上ない。今日だって肌の露出は殆どない。
……私は現在、両親と共に三人で暮らしている。
双生会が潰れて以来、両親は正気を取り戻しつつあるが、それは地獄と向き合うということと相違ない。自分の娘に対して行った仕打ちを直視できなかったのか、母の精神は安定しない。生来の美貌は陰りに陰り、もはやその輝きを示すものはアルバムの中にしかない。
父はというと、仕事に没頭することで目を背けている。そのおかげで、姉を一人で暮らさせるだけのお金を賄えているわけで、それがせめてもの罪滅ぼしという感じなのだろうが、親としては失格だろう。
どちらも、姉に向き合おうとはしていない。いや、できていない。時折手紙を出しているようだが、返事が来たのは一度だけ。それも簡潔なものだったとか。
共に暮らす私にすら、彼らは向き合っているとは言い難い。
……それを責めるような資格が自分にあるとは思っていない。
私だって、両親とどう向き合えばいいのかわからない。ただ、見ていて哀れだとは思うし、だから私は両親と同じ屋根の下で暮らしているわけだけど。
玄関を出て、ひたと一点に向かって歩き出す。
一歩一歩がとても重く感じた。
『マスター、どこに向かうので?』
「そうですね。お別れを言いに」
途中でバスに乗り、五十分ほど。
目的地の一つ目へと達した。
思えば、全ての始まりはここだった。
私は、かつての双生会のあった場所。つまりは、旧曲土家の前にいる。
現在の住人を示す表札は、そこに田村の名を刻んでいる。今となっては、双生会など無縁の一般人の住む家だ。
が。無論、その前に立てば、かつての怒りや恐怖だったりが浮かび上がってくる。
なぜ、こんな忌々しい場にわざわざ向かってきたのか。それは私にも曖昧だ。ただ、こんな場所にも少しばかり懐かしい思いを抱くのは、きっとここにいた時は常に姉がいたからなのだろう。
忌々しいという思いの分だけ長く拘束されたこの地だが、その分姉との絆の象徴でもある。悍ましい地で悍ましい輩に囲まれながらも、傍で輝いていたあの姉は、きっと世界で一番美しいものだと思ったから。
だからその幻影を、最後に見たかったのか。
「マギ、私は何をしているのでしょうね」
『申し訳ありません、私には解りかねます』
「そうですね……私もです」
今となっては唯一本音を打ち明けられる相棒であるマギ。
姉どころか両親にすらどこか壁のある今では、ほんとうに唯一無二の存在だった。
一応変わらず学校には通っているが、姉のいない分孤独は深まった。
さながら奈落に落ちたように。
と。そんな干渉に浸りに来たわけでは無い。
忌々し気にかつての双生会が拠点を眺め、そして背を向けた。
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