第七幕 相克相生双生相乗相対運命デュエルLINE 5
七幕五話です、よろしくお願いします。
確信は、他にもある。
華月の逆鱗に触れたということだ。
シンと冷たく、全てを見下ろす月のような、凍える夜の闇。
初めて顔を合わせた時の、まるで怪異を前にした時のような感覚が蘇る。
しかし、これはある意味ではチャンスではないのか。
少なくとも、彼女がこのまま去っていく、という結末は回避できたのだから。
「……だから、俺たちより多くの情報を持っている、と?」
スマホを握る手に、力が籠った。
機能がアンロック式なことに怒りが積もる。これを開発したやつというのはユーザーを弄んで笑っているだけではないのかと本気で思う。
消すなよ! という何かを察したようなアプリの声がしたが、反応している余裕もない。
『まあ、そんなところですよ』
「俺について詳しいのもそういうことなのか」
『いえ、それは違いますよ。先ほど申し上げた通り、アプリの示す運命は最終到達点。全ての分岐の先にあるものです』
「なら、なんで」
「簡単な話ですよ。あなたたち二人は使っていないみたいですが、過去視です」
過去視。たしかに、それを使えば相手の過去を覗き見ることが叶う。お試しとばかりに自分の過去を見せられた時からするに、あれはかなり自由度の高いものだった。
その気になれば入浴中だろうがトイレ中だろうが覗けるかもしれないプライベートガン無視機能だ。だからこそ、俺たちはそんなものに頼るべきではないとして使用を禁じたわけだが。
しかし、それにしてもおかしい。アプリの示す運命とは、最終到達点である。これは他ならぬ華月の言葉だ。アプリの過去視とは、運命の人に対してのみ効力を持つ。ならば、彼女の運命の人とは……。
「君の運命の人が俺だとでもいうのか……?」
その俺の言葉に、返答はなかった。
しかし、合点のいく答えである。
……この時、もう一つの可能性に、俺は行きつかなかった。
『まあ、どうでもいいですけどね。姉が幸せならそれでかまいません。そして、だからこそ。私が姉に近づくということは、必然あなたとの距離も縮まりますよ。その気なんてまったくありませんが、もし私があなたに気でも持ったら面倒極まる。姉と私であなたを奪い合うなんて笑えませんしね』
……多分、俺の運命の相手として示されたのが睦美さんである以上、俺が最終的に結ばれるのは睦美さんなのだろう。とはいえ、姉妹でのそんないがみ合いなど、望むべくもない。
それに、最終到達点云々が事実だとしても、途中で脇道に逸れる可能性はある。
無論、俺にそんな気は毛頭ない。二人を同時に愛することができるほど器用ではないし、そもそもよそ見ができるほど俺の運命の人は小さくない。
しかし、運命というのは意思を介さずに俺を翻弄する。それは何度となく経験してきたことだ。
『物事に絶対はありません。本気で色恋に身をやつしているのなら、その思いは無敵と疑うことはないでしょうが、それは何の保証にもなりませんよ』
……彼女が言うと、重みの違う言葉だった。
『ですから、余計なことはしないのが得策。あなたにとっていいことなど何もありませんよ』
「……君はそれでいいのか」
『無論です。姉の幸福、笑顔以外に、望むものなどないので』
求めているものは、同じなのだ。俺も、華月も。大切な人を笑顔にしたい、そうあってほしいという思いは同じで。その思いが向かう先も同じだというのに。
その距離が果てしなく遠く感じた。
このままでは、華月に通話を切られてしまう。彼女は約束通り、俺に二回目に及んだ理由を話した。おそらく、この通話が終わってしまえば、二度と彼女とコンタクトを取ることは叶わない。
……と、いうのに。
なにも、言えなかった。言うべき言葉が、出てこなかった。
俺が二人を和解させたいなどというエゴを通したのは、傲慢ではあれど、睦美さんのためだ。そして、どうして睦美さんのために動くのか、という問いには、情けないことに好きだから、としか答えられない。
俺の手の届かないところで幸せになってもらう、というのはどうにも耐えられない。俺が幸せにしたい。共に、幸せになりたい。
なら、だ。
華月の話を聞いた俺は、どのように和解を求めれば良いというのか。
運命など知ったことではない、と。そんなもの覆してやる、と豪語するには、俺たちはあまりにも運命的な結び付きをしていた。
『では、私はこれで。陰ながら。ほんとうに、陰ながらですが、あなたたちの幸せを願っていますよ』
そして、何を言う間もなく。プツン、と。
通話が、切られた。
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