第六幕 相克相生双生相乗運命デュアルLINE 6
六幕6話です。おもってたよりあっさり終わってしまいましたね
義憤に燃えるというのは、俺にとってなかなかあることではない。ニュースを見ていて事件の犯人に怒りを覚えたりすることはあるが、真に身につまされるようなのは今回の睦美さんが初めてと言ってもいい。
やり場のない怒り。遠慮なくぶつけられる双生会すら、知らぬ間にこの世をから存在を消した。
振り上げた拳を、下ろす先がない。
無論、今俺は怒りのみでここに立っているわけではない。とはいえ、華月と話して以来続く思考は、結局は無力を実感するだけだった。その無力感が、とんちきなことにこの俺を原稿などに向かわせたわけだが。
全ては、過去。その言葉の意味を、俺はようやく実感していた。
過去は変えられない。ある意味では、絶対の運命などというのは過去にしかないのかもしれない。華月の言は、要はそういうことだった。お前は運命の人の過去を変えられないが、それでも支える覚悟は在り也? と。
自然と、目の前の演台に両手を付いていた。まるで、届かない幻想に追い縋るような心地だった。
「馬鹿とは、自分の思うままに動くこと。その上で、周りの人が、笑っていること。それが根拠のない自信という真に馬鹿げたものを育む。それこそは馬鹿の本懐です」
段々口調がブレてくる。そして、原稿は無視して思うままにくっちゃべっている。
奥の方で鵜飼がまた頭を抱えているのが見える。いや、ほんと悪いとは思うが、どうにも止められない。
「だから、周りの何かを阻害することはあってはいけない。寧ろ、促すべきだ。馬鹿とは、人生の小休止。オアシスにして、パライゾ」
……もう自分でも何言ってんだかって感じだが、この口は止まらない。
「自分が馬鹿をやらなくてもいい。他の誰かが馬鹿をやっているのを見て、それで少しでも気が晴れるのならそれでいい。そして、馬鹿に心動かされたのなら、その分だけ馬鹿になっているのだ。自ずと馬鹿をして、誰かのオアシスになればいい」
何も考えずにしゃべっていたが、ここにきてなにか面白そうなことが飛び出した。
……そうだ。それは、ほんとうにそうだ、そうした正のスパイラルこそ、ほんとうに望むべきものだ。
そうした渦に、睦美さんを巻き込んでいければ、そんなに嬉しいことはない。
その後は、よく覚えていないが、似たようなことを言葉を変えて繰り返していた気がする。結局のところ、今回の俺は睦美さんに対する思いをカモフラージュしてぶつけているに過ぎないから仕方ない。
「そうした、馬鹿馬鹿しい学校を、俺は作りたいと思います」
最後にそんなふうに締めくくり、まばらな拍手を背に舞台袖に帰った。ちらりと見えたつぼみは、苦笑しながら大きな拍手をしてくれていた。
「ま、よくやったんじゃないか」
兄がそんなことを言いながら、右手を掲げた。
腹いせもかねて思いきり右手を叩いてやるが、兄は嬉しそうに、
「ま、あとは頼むよ、生徒会長」
などとほざく。
「は、不信任確定の名演説だったと思うが」
「そうか? 良いこと言ってたと思うけどな」
「鵜飼の困り顔を見せてやりたいよ」
「ここからじゃあな」
舞台袖から体育館の奥に佇む鵜飼は見えまいよ、と兄は肩を竦めた。
「……当選すると思うか? ほんとうに」
「したいのか?」
「わからん。けど、やり切った」
「なら、あとは神頼みだな。結果は神の味噌スープ」
「殺すぞ」
まあ、たしかに結果はどうでもいいことか。どちらにせよ睦美さんは笑っていることだろう。
……それに、俺の本心みたいなのを再確認できた気がする。
睦美さんを泣かせてしまうかもしれないが、より良い笑顔になってもらうために。
◆
その日の夜である。
例によってベッドに寝転がりながら睦美さんとチャットタイム。
しかし今回はイベント付きだ。当落の結果通知の場でもある。
《……当選……してしまった……》
なぜ? そんなに生徒会長に興味がないのか? と思ったが、意外と演説自体を良かったと言ってくれる馬鹿も多かった。馬鹿じゃないのか、まったく。
《おお! おめでとう!》
《めでたくはないな》
経緯的にはむしろおめでとうはこちらの台詞である。勿論、皮肉で。
さて。今日のチャットタイムは結果発表の場だが、それだけではない。
心臓がバクバクと高鳴る。
また、迷いが生じた。ほんとうに、いいのか。姉妹を繋ぐことは、エゴだ。姉妹のどちらも望まないことだ。……たとえその双方がほんとうは仲直りしたいのだとしても、それは大きな壁がある。
……ほんとうに、やるか。
……悪役を厭わない華月の覚悟。それがどれだけ辛いものか。それでも。
《話がある》
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。
次回でもよろしくお願いします。




