第六幕 相克相生双生相乗運命デュアルLINE 5
六幕5話ですね、よろしくお願いします。
律儀な三点リーダと共に、なんと返信が来る。
なんだか逆に驚いてしまう。いや、対面した時の彼女の対応を思えば、腹の底に何を抱えているかはともかく、割とフランクに接してくる天津 華月であったから、そこまで意外でもないのか。
……彼女が俺に接触してきたのは、彼女が言うには俺の品定めといったところだ。姉を預けるに足る人物か否かという、彼女にとってとても大きな意味を持つ類の。なら、俺からの接触を断る理由というのは、彼女の心境的な理由以外では有り得ない。
こちらにはまだ訊ねたいことがあるのだ。前回は雰囲気に呑まれて訊けなかったが。
……しかし、実際その機会を手にしてみると、どう接するべきか計りかねる。
自分から連絡とっておいてキョドる俺を見て(……見て?)アプリは言う。
『……君、そういうとこあるよな。初めの一歩はノリで踏み出すくせに二歩目で躊躇うの』
「ノリとか軽い言葉で片付けないで欲しいが。結構考えたんだぞ、これでも」
『馬鹿には似つかわしくない言葉だな』
「うるさいな……」
ずっと考え込んでいても仕方のないのだから、セルフ背水の陣を敷くのは悪手でもなかろうに。とはいえ、呆れるのはわかる。俺自身、情けないな、と思わずにはいられない。見苦しいことこの上ないだろう。
日がな考え込んでやっとこさ踏み出した一歩だというのに、二歩目を躊躇するとは一体どういう了見なのか。側から見ていたら、それは悪態の一つも吐きたくなる。
……とりあえず、返信しなければ。時間が空いたせいで切り上げられては、それは笑えない馬鹿である。最悪、退会でもされてしまったらこちらからは手出しができないのだ。
彼女は悪役を買って出ることを厭わない。俺が彼女にどのような印象を抱こうが彼女にとっては石ころほどの価値もないに違いない。なら、慎重に距離を計る必要がある。一つ失言するだけで、いや、しなくても彼女はこの場を開けるのだということを忘れるな。
背水の陣、成ったり。
《運命の番と血を分かつ半身なら、俺の運命も同じことだからな》
とりあえず、普段の俺を崩さないことにする。その方法は知らないが、彼女は俺の素性を知っている。なら、あまり普段からかけ離れるのは得策ではないように思う。
《あら、両手に花がお望みですか? ならそれは叶わぬ夢ですよ。白いお花は黒色を嫌うようですから》
《そういう意味じゃないが》
《だとしても。私は運命という言葉は嫌いですよ。どうしようもないくらいにね》
だからお前と会うことはない、と言いたいのか。少なくとも姉を預けるに足ると認めてくれてはいるようだが、やはりそこに自分が介在するのは良しとしないようだ。
……運命が、嫌い。考えてみれば、それは当然のことだろう。身に宿す運命に振り回され、半身と袂を分つ。文字通りに身を切るような苦しみがそこにはあったはずだ。己が体と、切っても切り離せない運命。
視界に自分の身体がチラリと映り込むだけでも、否が応にも解してしまうに違いない。
自分が姉と違うことを。
……それを、少し前に顔を合わせたばかりの俺が一朝一夕でどうにかできるわけはない。
それを解消できる存在など、言葉にするまでもなく。そしてその唯一こそ、耐え難い苦しみを得てでも守りたかったものであり、それをあろうことが自分で傷つけてしまった。
本来なら、彼女らは仲の良い普通の姉妹であり、冗句を飛ばして笑い合うのが常であるはずだったのだ。
それを思うと遣る瀬無く。そして、このままでいいのだろうかという思いが湧き上がる。
ほんとうに睦美さんのためになることは、なんなのか。それはいまだに答えが出ないことだが、一つ確かなのは。睦美さんは今でも、華月に何かしらの引っかかりがあるということ。
睦美さんの部屋でモフモフと並ぶ二つのテディベア。おそらく、あれは双子を象徴するものだ。あれを捨てないのは、深層心理にだとしても、親愛が残っているのではないか。
……勝手な憶測だが、的を射ているという感覚がある。
睦美さんが過去を語った時。幼稚園時代の、姉妹仲が良好だった時の話などしている時の表情は、後に比べればだがそれほど暗いものではなかったし。
……白いお花は多分、黒色を恐れてはいるが嫌ってはいない。いや、嫌いきれていない。そんな気がする。
《そういうのじゃなくてもいいんだ。もっととり留めのないことでもいい。君のことを知りたいと思う》
《そうして私の真意を探り、お姉ちゃんに話してはい、仲直り、などとは行きませんよ》
《睦美さんに関係ないことでもいいよ。普段はなにしてるのか、とか、趣味はなにか、とかでも》
《趣味。文を書いたりしてますね。普段は小説の執筆など。姉から聞いたかもしれませんが、幼稚園時代の創作が楽しくて》
意外にもすんなり答えてくれた。やはり掴みどころのない人物らしい。睦美さんは見抜くことに、彼女は偽ることに長けていったということだろうか。
とりあえずは色々話して親睦でも深めてみよう。
《ああ、楽しいよな、そういうの。俺も人には言えないノートがあるよ》
勉強机の中に厳重に仕舞い込まれた噴飯ものの設定資料集を思い出す。
まさしく中二時代、俺はなんと厨二だった。
オリジナルの詠唱など作ってはつぼみの前で披露していたものである。
《へえ、そんなものが。拝見したいものですね》
《俺は別に恥ずかしくないから見られても構わないが》
流石に人前で高らかに唱えたりはしないが、人に見られるの自体は嫌いではなかったりする。何かを創ったことがある人ならわかるだろうが、見せるまでは恥ずかしいが、一度見せてしまえばあとは饒舌に語り出すものだ。
まあ語っても困らせるだけなので、厳密には見せるべきではないノート、ということになるが。
とはいえ、見せろと言われれば仕方がない。
ノートを引っ張り出して写真に収め、ここがこうなんだと解説していると、時間は2時を回っていた。
明日のことを思うと、もう寝たくはある。
その旨を伝えると、本日はお開き、ということになった。
《では、おやすみなさい、お兄ちゃん》
《おやすみ、妹》
……あとあと思い返せば、上手く躱されたような気がするが、それもまたいいだろう。機会はまだありそうだし。
……お兄ちゃん。彼女はどんな気持ちでその言葉を打ち込んでいるのだろう。
あるいは、なにも思っていないのか。だとすれば、やはり難敵と言えるか。
敵ならぬ難敵。難儀なものである。ほんとうに。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。
次回でもよろしくお願いします。




