第六幕 相克相生双生相乗運命デュアルLINE 3
六幕三話、お願いします。
思えば、吉川東高校、今年度の生徒会選は波乱の幕開けだった。
なんと、立候補者がいない!
馬鹿高にも内申点を主食とするクリーチャーが少しは居るものだが、それらがその研いだ牙を剥かないのは、先代である我が実兄の功績が偉大過ぎるからだろうか。
まあ気持ちはわかる。あの兄はこの馬鹿高校すら変えたのだ。俺が入学した時にはもう馬鹿の風が吹く素晴らしい学校であった。
そこに、兄の尽力があったらしい。兄は弟が入る学校を良くするために生徒会に入り、その才覚とアメリカのお菓子のように甘過ぎるマスクで校風を少しばかり良い方向に持っていったのだ。
長年、この吉川高校は不良どもの巣窟、馬鹿高校として市内に名を馳せてきた。時代の変化で多少はマシになったとはいえ、それでも偏差値等からわかるように民度は低かった。名を吉川高校から吉川東高校に変える小賢しすぎる小細工に始まり、定期的なボランティアの強制(強制されたボランティアに価値があるのかと思うのだが、周囲の吉高を見る目は少しマシになってきているらしい)等、いろいろやりはしたが、近く何があったかと問われれば、生徒会長蓮城 要の尽力であると教員ですら答える。
インハイの優勝にはじまる功績は眩いほどに輝き、生徒会長になりたがる数少ない真面目な生徒の志をへし折った。
その輝きを後光とする俺しか立候補しないのも、まあ頷けるのである。
現在、10月は18日の月曜日。その放課後だった。件の生徒会選を明後日に控えた俺は、生徒会選スピーチの最終稿に着手している。
いつもの如く、隣ではつぼみが俺の痛いところをどれだけ痛く突けるかを試すように笑っている。
が、そんなつぼみに構っている暇はない。今手をつけている最終稿だが、なんとそれを挙げるのは二度目なのである。先週の金曜日には、先生方から普段からこうならなと称される程無難に纏めた決定稿を提出していたのだ。
先週の金曜ですら遅かったというのに、それを取り下げ、無理を言いまくって反故にしてまで再度着手しているのは、無論週末のことがあったからだった。
天津 華月。その少女との対話。それは、睦美さんの境遇の捉え方そのものを一変させかねない程度には大きな出来事だった。
なにせ、無難にやり過ごそうとした俺が無難を捨ててでも本心を書き殴ってやろうと考えを改めるほどだ。あの話をしてから上がっていた原稿を見ても、何も感じなかった。
きっと、相当の悪手を取らなければ、スピーチで何を言おうが俺の当選で選挙は終わる。選挙活動を通してわかった。みんな(俺もそうだったが)生徒会長など誰でも良いと思っている。あの兄に比べれば誰あろうとさして差がない、とかそういうのもあるが、基本的には生徒会長など誰がやっていても変わらないだろう、というのがこの吉高生徒たちの考えだった。実際、兄が例外なのであって、俺が何を変えられると思っているわけでもない。
けど。だからと手を抜こうと、思えなくなっていた。
具体的に、あの対話の何がどう影響して今原稿に手をつけているのか。それを説明するのは自分でも難しい。
けど、ただただ強く、思ったのだ。
このままではいけないぞ、と。
「睦美さんの妹さんと会ったんだっけ? それが原因?」
隣のつぼみが、長くしなやかな脚をプラプラ振りながら問うた。
……目が行くのは男なら仕方ないと思う。
「いきなり原稿見直させてくれ、なんて。面食らってたわ、先生たち」
なんとも面白いものを見た、という風に言うつぼみは、やはり魔力がある。魔法のアプリよりよほど魔法が似合うだろう。
「今集中してるの分からないか?」
「まあ、答えてよ。睦美さんはもう私の友達でもあるんだし」
その言葉は、なるほど確かに理がある。無碍にするわけにもいかないだろう。
「睦美さんの妹、華月と話して、まあ、思うところがあった」
「……華月、ああ、カズキって言うから男の子だと思ってたら、妹だったの」
「びっくりだよな。まあ、実物見たらもっとびっくりするだろうけど」
「なに? 妹もアルビノだったりするの」
「いや、それよりはるかに面食らうだろう。メラニズムだ、メラニズム」
「……メラニズム、って、まだ確認されてないんじゃなかったっけ」
「居たもんは居たんだ、仕方ない。神話の登場人物みたいでめちゃくちゃ綺麗だった」
「飛鳥が容姿評を口にするなんて、珍しい」
自分でも思う。しかも、綺麗だなどというおまけ付きでだ。
「見ればわかるよ。なんか、ステージが違うっていうか。芸術品みたいな感じなんだ」
「どれだけなのよ、それ」
別に睦美さんが美しさで劣るとかいうわけではない。単にアルビノとメラニズムの差だ。アルビノはまだ現実感があるが、メラニズムはそうではない。それが神秘的な雰囲気につながっているのかもしれない。
加えて、あの佇まい。睦美さんは容姿こそとんでもない美貌と異質を同棲させているが、立ち居振る舞いはごく普通の少女のものだ。慣れてきてそれがわかった。
対し、華月の方はどこか超然とこちらを品定めするような、そんな雰囲気が常にある。それが得体の知れない美しさに転じているのだろうか。
……それも、打ち解けていけば、多分印象が変わるのだろう。去り際に、悪童の顔で「お兄ちゃん」などと抜かしたのだ。多分ああいったのが素なんだろう。
睦美さんには口が裂けても言えないが、姉妹だなあ、と思わずにはいられない。そして、そんな普通の姉妹が引き裂かれる事態になったことへの怒り。
もしかしたら、それをぶつけるために、俺は今こうして原稿と格闘を続けているのかも知れなかった。
「……できた」
思いの丈をただただ連ねた原稿。推敲など全くない、俺の本心。まるで鏡写の俺のようだが、そんな俺の原稿を見て、
「多分ボツね、これ」
と、つぼみがバッサリ。しかし、
hey
「まあ、だよなあ」
それは俺もわかっている。漫然とただ学校をよくしたい、と宣うだけではダメなのだ。そして、前に添削された馬鹿云々が再噴出。
これで教員がOKを出すわけがない。
が。
「馬鹿、やるんでしょ。良いんじゃない、その方が面白いわ」
「……そうだな。それでダメなら、その時はその時か」
きっと、睦美さんも笑ってくれるに違いない。
根拠のない自信。俺があかね祭で得たものは、何も翳ってなど、いない。
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