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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第六幕 相克相生双生相乗運命デュアルLINE
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第六幕 相克相生双生相乗運命デュアルLINE 2

六幕二話。よろしくお願いします。

 俺の言葉を受けた天津 華月は、左手の人差し指を唇に当てて考える素振りを見せた後、


「それは無論、貴方に会いに来たのですよ。アポ無しなのは申し訳なく思ってますが、姉には知られたくありませんでしたので。あ、お菓子、チョコレートケーキ持って来たので後でどうぞ。お母様も美味しいと喜んでくださっていましたから、味も期待してもらっていいですよ」


 などと宣う。ニコニコと、まるで昔馴染みの友達のように言う彼女を見ていると、おかしいのはこちらなのではないかというとんでもない思いが少しばかり溢れてくる。

 ……そんなはずはないのだ。断じて警戒を解いていい相手ではない。

 まあ、お菓子は貰うが。甘味に罪はない。


「……それは、なんのためだ」

「さっきも言いましたが。あなたの為人を把握したいからですよ。そして、その後どうするか決めるためです」


 その後がなにを指すのかは知らないが、ずいぶん横柄な物言いである。睦美さんにそれだけのことをしておいて、なにを自分に選択権があるようなことを言っているのか。


「聞くに、あなたは馬鹿になりたいと言うらしい。そして、姉を笑顔にしたい、とか」

「……違いない。運命の人だから」


 未だ直接言えてはいないが、だからこそ、言えるようになるために。

 そのために、今だって在るのだ。


「私たちは幼少のころ、運命姉妹などと呼ばれ畏れられていました。それに違わぬ曰く付き。双生会だなどと宗教じみた集団とも関わりがありました。それでも相手を運命の人と言いますか、言えますか」

「まだあの人に直接言ったことはないが。俺の意思になんら変わりないよ」

「……なるほど。そういう人ですか……。少しばかり、お姉ちゃんを羨ましく思ってしまいますよ」

「お世辞はいらない」

「いえ、本心です……私にも貴方がいれば……と。まあ、もう遅いか。終わった話です」


 ……終わった話。そういえば、以前、初めて会った時も彼女はそう言っていた。

 全ては、過去。終わった話であると。

 その意味は、あの後ずっと考えた。納得できる答えには行きつかなかったが。


「どういう意味だ」

「……そうですね。私も貴方をずっと見てきましたが……そろそろ信じてみてもいいかもしれませんね」


 初めて、彼女が神妙な面持ちになる。今まで常に不適な笑みを浮かべていたが、ここにきてそれが崩れた。

 果たしてそれはなにを意味するのだろう。


「ずっと? どういうことだ、なにを隠してる!」

「姉の話には、空白がありましたよね」


 睦美さんの過去話。たしかに、少し不明瞭な点もある。

 眼前の少女に関わる部分だ。

 決定的な破局である去年の情事。

 それに、なぜ彼女が及んだのか。その点だけは、睦美さんを持ってしてもまるで見当がついていないようだった。

 ……この時、俺は馬鹿だった。この後齎される話に気が向くあまり、追及すべきを一つ、忘れてしまったのだ。

 そんなことは露知らず、俺は彼女と話を続ける。


「……動機か」

「まあ、もったいつけて話すことでもありませんけどね。お姉ちゃん、禍土の視線には気づいてました?」

「……いきなり女を見る目になった、とか、そんなことを言ってたな」

「やっぱり気付いてましたか。まったく、流石ですよ。ま、その姉に隠し通せたのだから、私もなかなか……。いや、後少しばかり、足りませんでしたが」


 天津 華月が目を伏せた。届かぬ過去に想いを馳せるように。

 ……眼前の少女も、所詮は少女である。俺はこれからそれを知る。そして、ただの少女が、時にどれだけのことができるのかも。


「それ、事実です。けど、姉に及ばなかったのは、私が全て受け止めていたからですね」

「……は? それって」


 少女は微笑み、下腹部に手を当てた。


「まあ、そういうことです」


 絶句した。言葉が出てこない。なにを言えばいいのか、言っていいのかすら、わからない。


「……やっぱり、良い人ですね、貴方。まあ、気にすることありませんよ。私は貴方の運命の人の敵ですから」

「……」


 飄々としてはいるが、その裏にどれだけのことを抱え込んでいるというのだろう。

 さっきの話がほんとうなら、敵と切り捨てていいものだろうか。


「疑うのなら、そうですね。マギ、今の話に偽りは?」

『ノー。存在しません』

「これで、証明できましたね。そもそも疑ってない、とか言わないでくださいよ。そんなの馬鹿丸出しです。あ、皮肉ですよ、と。続きを……」


 彼女が話そうとした時、ドアがノックされた。瞬間、彼女の口が止まった。

 反対に、


「お茶持ってきたぞ」


 と、突如現れた兄が言う。


「華月さんがくれたのには敵わないが、うちの虎の子だ」

「お気遣いありがとうございます。いただきますね」


 そうして、二人分のお茶とお菓子が床に置かれた。俺の部屋にテーブルなどと気の利いたものはない。

 満面の笑みで兄を見送ってから、天津 華月が言う。


「いいお兄さんですね」


 二人して自然と座り込んでいた。さっきまで怒りのあまり掴みかかってもおかしくなかったというのに、奇妙なものだ。

 

「別に、そうでもないだろ」


 言いながら、お菓子を手に取ろうと目をやる。……これ、俺が楽しみにしてたプリンでは……?


「……あ、あの野郎……」

「いい性格したお兄さんですね」


 微笑みながら、遠慮なく口に含まれていくプリンを少し口惜しく見やる。……女子の口元は艶めかしいのが理解できた。変態もまた馬鹿とは違う生き物である。しかし、男子とは往々にして変態である。

 ……いや、流石に今はそんなことを気にしている場合ではないか。色々。さっきの話の続きをするのに考えていてはいいことではなかった。


「で、続きなんですけどね」


 多分、努めてだろうが、なんでもないように彼女は言う。そんなはずはないのに。


「私、まあ、そういう感じだったわけです。姉の為だから耐えられましたが、その分積み重なるものはありまして」

「……睦美さんへの思い?」

「そうです。親は頼りにならない、学校に友人もいない、私には姉しかいませんでしたからね。それで……まあ、拗らせてしまって。それで、ね」

「……姉への行為に及んだ、と」

「そうです……ほんと、あと少しだったんですけどね……。あ、その少しあと、映像とか色々使って双生会は潰しました。姉への接触がないのは、そもそも存在しないからです」

「つ、潰したって……」


 じゃあ、ここ最近の葛藤の少しは意味のないものだったのか。

 いや、それに越したことはないが……。


「ま、その気になれば小娘にだってやりようはありますよ」

「……そういうのは、よくないだろ」

「そうですね。それが転じて姉を傷つけてしまったわけですからね」

「そうじゃない。じゃあどうすれば良かったのか、とか、そんなこと、わかんないけどさ。それは……」

「やっぱり良い人ですね。けど、それじゃダメな時ってあるんですよ。悪いことが必要になる時だってあります」

「……そう、かもしれない、けど」


 安易に否定していいことではないのはわかる。どれだけの覚悟と嫌悪感を伴ったか。やはり想像すらできないけど、だからこそ外野が否定しなければならないこともある。

 ……今、俺はそうするべきなのだ。きっと。俺がする覚悟なんて、彼女の何分の一だろう。それすら、できないのか? 俺は。


「そうです。だからこそ、良くあろうとすることは尊い。私はそれができなかった。だから、一番守りたかったものを自分で傷つけてしまいました。貴方は自分を見失わないでくださいね」

「……ああ」


 ……彼女が、どのような想いで行為に及んだのかを計ることは俺にはできないが、途方もないのだけはわかる。

 それを、一度ならず、二度も……二度? 二度目はつい先月。睦美さんが俺に助けを求めた日。矛盾というほど大きな綻びではないが、少し違和感があった。

 一年の歳月が禁断の愛を育て、ついに爆発した……? どうにもそれはしっくりこない。もしそうなら。睦美さんの純潔が奪われていないというのはおかしい気がする。


「……二回目は」

「……なかなか鋭い人ですね。ですがその理由はまだ話せません。……確証がない」

「確証がないのに睦美さんを襲ったのか」

「……そうです。いずれお話ししますので、どうかこの場での追及は勘弁して貰えませんか」

「……睦美さんの為、なんだな」

「ええ。それは誓って」

「……なら、わかった」

「感謝しますよ」


 この判断が誤りか否か。……正直、彼女に同情してしまったのかもしれない。それが、判断を鈍らせた。

 そのツケは、近い将来、払うことになる。


「さて、まあ、こんなところですか。私から話せるのは」

「……少し、誤解してたかもしれない。すまない」

「誤解などありませんよ。結局私は自分を律しきれず姉を傷つけた駄目な妹です。ですので、私たちの仲直りなど考えるだけ無駄なこと。姉を余計に傷つけるだけですから。姉のことは、貴方が幸せにしてあげてください。わたしには、できないことです」


 言うと、彼女はお茶とお菓子を詰め込んでから立ち上がった。


「有意義な時間でした。ありがとうございます。お母様にご飯美味しかったと伝えておいてください。あ、プリンも美味しかったですよ」

「……それでいいのか」

「いいのですよ。それが、いいのです。貴方とも、もう直接会うことはないでしょう」

「連絡先、くれ。さっきの話、教えてくれないと困る」

「……わかりました」


 連絡先を交換すると、彼女。華月は、ふっと振り向いた。


「では、さようなら。お兄ちゃん?」


 悪戯っ子みたいな顔をしてそう言い残し、彼女は我が家を出て行った。


「……クソ……」


 一人部屋に座り込み、俺はそう溢した。

 ……これで、いいのだろうか?

 

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。


華月、まだ何か隠してはいますが、その真意は明らかになりましたかね。

双生会。最初から話に絡む予定はありませんでした。ジャンル変わっちゃうのでね。

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