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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE
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第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE 6

読んでくださりありがとうございます。

 我らが吉川東高校は、馬鹿高校である。

 校外に晒す偏差値からして馬鹿丸出しなのだから、そこでしでかす馬鹿の馬鹿は、もう常軌を逸している。恋人のクラスメイトを孕ませて退学する、なんてのも年に何人かはいる程度には。

 だから、そんな馬鹿どもの中にあっても異彩を放つ馬鹿というのは、俺自身、入学してから常に考え続けてきた命題だった。まあ、その命題に答えを出す前に、世界の方が俺に答えを突きつけてきたわけだが。


 現在、二年四組。つまりは我がクラス。その教室の入り口。

 さて、マスコミじみた真似をする連中というのは、モラルなど欠いているのだと、俺は身に染みて理解している。というか今してる。


「飛鳥、聞いたぞ、会長のインタビュー。ありゃ筋金入りだな」

「飛鳥、会長と淀見さん、付き合ったってマジ?」


 新学期初日に登校して早々、なんとも賑やかなことだった。しかも。タイムリーに俺の心を抉る話題で持ち切りだった。


「兄さんに、俺の何がそんなに引っかかっているのか、などというのは命題だ。俺だって知りたい。あと、つぼみと兄さんが付き合っている、などというのは本人に訊け。そこにいるだろ、そこに」


 クラスの引き戸を開けてから、席に着くまでの時間は、本来10秒程度だが、今日は5分経っても席が遠い。まあ無理からぬことではある。学校のプリンスとプリンセス。その双方と接点がある人物など、俺しかいない。そのプリンスとプリンセス双方にホットな話題ありとくれば、問いの嵐もまた、必定か。

 だがしかし、ものには限度というのがあるだろう。

 そこに件のつぼみがいるのだから、問いなどそちらに問えば良しというものだ。


「いいか、お前ら……」


 その旨、改めて高らかに告げようとした時だった。


「ほら、みんな。飛鳥、困ってるでしょ。それに、もうホームルームだよ。席についたついた」

「……つぼみ」


 頼んでもいない助け舟は。超えるべき相手は、向こうからやってきた。

 彼女の発言は、覿面だった。まるで、戯れる鳥の群れに警笛を鳴らしたかの様だった。

 鳥が、散らされる。朝を告げる鳥を散らし、夜の深淵に再び呑まんとするかの様に。無論錯覚だが、魔性の魔力の成せる魔技だ。一度は、その深淵に呑まれた俺だが、しかし今は違う、はずだ。


「おはよう、飛鳥」


 見るものを深淵に誘う魔力を帯びた、深黒の双眸と長髪。目鼻立ちの整った比類なき美貌。蠱惑的な肢体。

 学校でも一際野郎どもの目を引く、かつての我が世の春。麗しき初恋の麗人。明眸皓歯たる、淀見 つぼみ。

 鈴の音の様に可憐な声の警笛でもって、群れを散らし、こちらに相向かう。


「……おはよう、つぼみ」

「うん、良かった、ちゃんと学校、来てくれた」

「……当たり前だろ。学生なんだから。勉学に、生きる為の拠り所は求めない。されど、学校という箱には」

「来て、くれないかと思ってたよ」

「……学生なんだから、当たり前だろ。心配し過ぎなんだ、お前は」

「そりゃ、心配もするよ。親友だもん、私たち」

「……なあ、少し、話せないか?」

「もちろん、いいよ。親友だもん、私たち」

「なら」

「けど、今は駄目。ホームルーム、始まっちゃうわ。ま、私は構わないけど、飛鳥は嫌でしょ?」

「……そうだな」


 学生である以上、時間割のくびきからは逃れられない。

 普段なら、つぼみと話すだけで野郎どもに怨念の籠った視線を向けられるというのに、今日はなんだか哀れみが勝っている様だった。全く、余計なお世話である。

 つぼみの隣の、自分の席についた。

 我が席は、最後列、窓側から二つ目の席。所謂主人公席とかいうやつの隣だった。

 その左サイド、主人公席に収まるのが、麗しのつぼみ。そして、右に収まるのが、


「随分と人気者だな、飛鳥?」


 乱麻 國弘。張り付いた悪童の笑みにふさわしい、問題児であった。とはいえ、別に不良というのではないし、悪童であっても悪人ではないから、それなりに仲良くやっている。友人、言葉にすればなんとも忌々しいことだが、兄とつぼみの次くらいに仲の良いのはこいつであった。


「國弘よ、お前は寂しそうだな。わけてやりたいものだ、全く」

「おお、虎の威を借る針子の虎とは、救いようのない馬鹿だな。いや、虎の威を借る針子の狐か」

「そうさ、俺は馬鹿だからな」

「……そうだった、そういうやつだったな、お前は」

「そうだ。だから、今日はほっといてくれ」

「なんだ、傷心かよ?」

「……さあなあ。俺は、傷ついてるのか?」

「んなの俺に訊くなよ。ったく、そんなんで文化祭実行委員が務まるのか?」

「……なるようになるさ」

「己は馬鹿である、と豪語するお前ならと、文化祭実行委員はお前が選ばれたわけだけどな。……お前、やっぱ割と常人だよな?」

「……黙れよ。ホームルームが始まるぞ」


 文化祭。すっかり失念していたが、夏休みも明けた今、その存在は割と間近だ。そしてこの國弘の言うように、俺は文化祭実行委員の役を仰せつかっている。……しかも相方はつぼみである。なかなか、先の思いやられる事態だった。


 そんな俺の憂鬱に構わず、ホームルームが始まった。

 その間、ずっと脳内でリフレインしているのは、親友だもん、というつぼみの言葉と。

 運命を求める、睦美さんのチャットだ。

 その二つの綱引き。双方、過去と未来の引力で引き合い、拮抗。一向に埒のあかない。そもそも、その為につぼみと向き合うのだから、向き合わずして答えを出せようはずもないか。


 隣に視線をやれば、なんとも目を奪うその横顔。物心ついてから今に至るまで、俺の心と目を占有し続けたその顔は、改めて見ても美しかった。

 これと向き合って目を引かれない奴は、男ではない。


「……綺麗だなあ」


 綺麗で、可愛く、凛々しい。一般の男が女性に求めるものを全て兼ね備えた様な造形。吉高の男子に蓮城 要が有るように、吉高の女子にはこの淀見 つぼみが有った。その双璧に挟まるのが、凡庸凡夫、愚劣愚昧なこの俺というのは、全く釣り合うものではない。

 ……釣り合うものでは、ないのだ。

 さりとて、恋の盲目には、その様な道理は眼中にないわけだが。

 だから、盲目の中心で確かに輝くその光が翳らないと、他にきちんと目を向けられないのだ。


『全く、難儀なことだね、思春期というやつは』


 全くもって、その通りである。我ながら、なんと面倒な……。

 ん? というか、今、喋ったのか、こいつ……!


『ああ、気にしなくていい。魔法のアプリを持たないものに、その声は届かないからな。言ったろう? 私は人智を超えているのさ。はは、寧ろリアクションなどしたら、君こそ不審者さ。ん? つまり、学校にいる間は、私は言いたい放題言える訳だなあ! ……あ、予め言っておく。反省している、後でアプリを消すんじゃあないぞ!』


 ……。


『私にはな、命があるんだ! 自由思考体なんだ。尊重しろ、丁重に扱え。敬え、讃えろ、崇めて拝め!』


 ……これがなければ、素直に崇めてやっても良かったものを……。

 と、魔法のアプリの戯言を聞き流していた時だった。側頭部に、コツンと何かがぶつかる。そちらを見やれば、つぼみが紙を投げたのだとわかった。馬鹿高あるある、無駄に厳しい校則によって、校内で携帯が使えないことによるアナログメッセージだろうか? 開いてみれば、どうやら昨日の続きらしい。


《貴方の求める運命って、何?》


 先程こちらの会話の誘いを断っておきながら、自分は手紙放り投げるとか、どんな神経してるのだろうか。


 俺は、自分で言うのもなんだが、馬鹿は馬鹿でもおちゃらけた道化とかいうのではないと自負している。従って、クラスの中にあっても率先して冗談を言ったりするわけではない。ムードメーカーとか、そういうのではないのだ。授業中は、寝てなければ話半分程度に教師の言葉に耳を傾けている。というかそもそもつぼみの目を引きたいだけで他の奴らなどどうでもよかったのだ。

 つまり、教師から見て悪目立ちするような真似はあまりしない。だから、つぼみの手紙への返答もない。そんなのは後でいい。というか、つぼみも長い付き合いなのだから、それくらいはわかっているはずだ。それでもそんな真似をするのは、揶揄って遊んでいるだけなのだ。だから、返答の必要は、ない。


 彼女と向き合う。向き合って背く為に、俺は今日ここに来たのではあるが、TPOは弁えるべきだ。


『聞いているのか? 聞いてるよな……? 私のこと、消さないよなあ!?』


 ……なんだか真面目に考えるのが馬鹿らしくなる。しかし、それこそ、真のこいつの価値なのではないかと、思い始める自分がいた。

 朝から堂々巡りの思考を、ぷつんと途切れさせてくれた。いくらか、気も楽になるというものだ。


 全校集会で、有難い兄や教師のお言葉を、うつらうつら、耳から耳へ流しながら過ごす1日だった。始業日なので、授業もない。集会を終えてクラスに戻ってからも、うつらうつらしながら、ひたすらに放課後を待った。

 都度の休み時間につぼみと話してしまおうとも思ったが、辺りのクラスメイトが俺に集って来て全く時間が取れなかった。

 だから、ひたすらに待つしかなかった。そして、その時はやってきた。

 放課後。運命を、決める時。

次もよろしくお願いします。

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