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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第五幕 相克相生双生運命デュアルLINE
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第五幕 相克相生双生運命デュアルLINE 5

五幕の五話ですね。

前回から地続きです。よろしくお願いします。


 ……いや、少なくとも、どうした方がいいか、というのはわかっているのだ。

 睦美さんの話を聞いた限りだと、天津 華月の動機が全くしれない。

 抑圧された末に芽生えた、姉に対する禁断の恋情……なのか? 現状そうとする以外にないが、実際どうかなどはわかったものではない。

 即ち、なんにせよ、天津 華月と話してみる必要がある。

 双生会とかいうクソ組織の現状についても知ることができるかもしれない。

 ……だが、そこに恐怖がないと言えば、無論それは嘘になる。無謀は馬鹿を内包するが、逆はまったくそうではない。

 この俺は愚物であるが、やはり考えなしの無謀ではない。そんなカルトじみた組織に接触する勇気などは持ち合わせていない。


 が。それでも。


「……やるしかない、か」

「なによ急に?」


 見上げると、つぼみがキョトンとした顔でこちらを見下ろしながら言っていた。……相変わらずすごく可愛かったが、今の俺には無縁である。


「いや、なんでもないさ」


 結局のところ、考えるまでもないことなのだ。自明だった。ただ、恐怖に竦んでいただけ。でもそれでは睦美さんの悲しみは除けまい。

 なら、馬鹿になってやる以外に、道はないのだ。


「そういえば、つぼみ」


 なけなしの覚悟を決めた俺は、少し気になっていたことを訊いてみる。


「お前、兄さんと何かあったのか?」


 以前兄とゲームしていた時、兄の表情に若干の翳りがあったのをふと思い出した。それからも、時折その翳りを兄は覗かせる。兄の表情を曇らせるものなど、この俺を除けば、残りは明白である。

 まあ、あの時カラオケで仲良く二組エンカウントしたのだから、問題は解消されているとみるべきかもしれないが。


「あー、なんか落ち込んでたりした?」

「まあ、なんか晴れない表情ではあったな」

「うーん、そっか。いや、私たちキスもまだじゃない? だからかなあ」

「……は?」


 空いた口が塞がらなかった。盛った高校生が付き合ってから季節を一つ越そうというのに、キスもまだ? プラトニックと言えば聞こえはいいのかもしれないが、高校生としてはどうなのだろう?


「あれ、言ってなかったっけ」

「……初耳だが。……なんで?」

「いや、別に嫌とかじゃないの。けど、ね? ほら」

「……恥ずかしいと?」

「ま、端的には」


 恥じらい! 眼前の魔女には最も似合わぬ言葉ではないのか。その口からそんな言葉が飛び出すのは俺を揶揄っている時くらいのものだったはずだが。


「お前が? 恥じらい? 冗談だろ?」

「それは流石にイラッとくるな」


 つぼみが横脇の髪を弄びながら言う。まるで女の子のようだ。


「いや、しかしなあ」

「そんなに似合わない?」

「ガムとご飯程度には」

「なるほど、それは酷い」


 ほんとうに、想像のつかないことではあったが……。

 知ってしまえば、なんとくだらないことか。俺が真剣に悩んでいるというのに。

 ……まあ、望ましいことだ。少なくとも、睦美さんのような事情を抱いていない、というのは。


「でも、ま。少しはサービスしてあげないといけないのかもね」

「お前はそういうのないんだ?」

「私? 私は、別に。一緒に居られればいいよ」

「そういうものか」


 まあ、男子と女子とでは感覚の違うものなのだろう。兄は超然としてはいるが、所詮は男である。


「そういうものだよ」

「そうかよ、まったく、心配して損をした。俺は帰る」

「私は要を待ってるわ。睦美さんによろしくね」

「自分で伝えろよ」





 時は少し過ぎ、夜の9時だ。

 ベッドに寝転がりながら、睦美さんと、取り留めもないやりとりを続けている。

 先まで兄とゲームをしていたが、依然勝利を掴んではいない。運要素の絡むゲームですら、一度も勝てていないのは、もう果たして因果レベルで負けが決まっているからなのか。まあ、それで諦めるのは癪だから挑戦を止めることはないが。


 まあ、ともかく、今は睦美さんである。

 取り留めもない、やりとり。つまりは、彼女の過去には触れていない。触れ方が、わからなかった。

 独自に天津 華月に触れるにしても、そのことは彼女に知らせない方がいいだろう。無論、あの夜に彼女の片割れと接触したことも伏せてある。


《それでな、あのつぼみが恥ずかしいからキスもできないと宣ったんだ》

《それは……たしかに意外かも》

《以外なんてものじゃない。きっと明日は雪が降る》


 ……雪。新雪のように純粋な白たる我が運命は、如何な思いで今あるのだろうか。その神秘に反して、黒い何かを抱えているのだろう。

 俺に全てを打ち明けたのは、俺に向き合う為だろうが、果たしてそれはその為になっているのか。

 余計なものを背負わせては、いなかろうか。

 ……やはり、やるしかないのだと、思った。

 チャットを続けながら、アプリに話かける。


「なあ。天津 華月に過去視ってのは使えるのか?」

『いや、無理だな。あくまで自分の運命の人にしか使えないよ。無差別だったらヤバすぎだろ』

「まあ、そうだよなあ」


 となると、どうやって天津 華月にコンタクトを取れば良いのだろう?

 睦美さんに過去視は使いたくない、というのは、つい先日決めたばかりだし。……いや、天津 華月になら使っていいのかと問われるとなんとも困るけれど。


 あの人の妹への接触。そもそもそれができなければなんにも始まらないというのに。睦美さんに知らせたくないのに睦美さんに訊ねるわけにもいくまい。それに、俺に過去を晒すのと、妹の連絡先を教えるのでは流石に意味が違う。それは、双生会という奈落に繋がっている可能性があるのだ。優しい睦美さんがわざわざ俺を巻き込むようなことはすまい。あくまで俺にすべてをさらして踏み出すのが目的であって、俺に過去を清算しろと言っているわけではないのだ。


 ……そういえば、彼女は俺の家の前にいたが、それはなぜなのだろう。俺と彼女に接点など無いはずだ。睦美さんだってあの時我が家の向かいに構える淀見家に泊まるまで知らなかったのに。

 なにか彼女独自のネットワークがあるのだろうか。

 ……ネットワーク。


「……なあ」

『何か』

「天津 華月が魔法のアプリを持っていたとしたら、コンタクトを取れるか?」

『……いや、難しいな。アプリの言う運命とは、赤い糸だ。要は、恋愛関係に限る。君と天津 華月は、将来義理の兄妹となる仲ではあるが、赤い糸とは呼べまい』

「……まあ、道理か。そもそも、彼女がアプリを持っているかもわからないんだしな」

『……それだけどな。今向こうのアプリに聞いたんだが……多分持っている』


 もうアプリが勝手にやりとりしていることなどに驚く俺ではないので、そのまま答える。


「どういうことだ?」

『君が天津 睦美に出会う日。天津 華月がその姉に接触した際、天津 華月は向こうのアプリに言葉を返したらしい』

「マホちゃんと会話してたってことか?」

『ああ、そういうことだね。そして、アプリの声を聴けるのは、アプリユーザーに限る。なら』

「天津 華月は、魔法のアプリを持っている……と」


 たしかに、睦美さんの話を聞くに、あの時の睦美さんは錯乱状態にあった。俺に助けを求めたのも無意識のことらしい。となれば、妹とアプリとの会話に意識がいかないのも当然か。マホちゃんが睦美さんに伝えなかったのは、多分俺と似たような理由だろう。アプリはなんだかんだでユーザーのことをちゃんと考えている。

 それは、俺もわかる。


 天津 華月が、アプリを持っている。確かアプリは、運命を強く求めるものにしか降りてこない筈だ。となると、天津 華月もまた、運命の相手を求めていた、ということにならないか。根本的に、アプリは新たな出会いを求める者でなければ無縁のもののはずだ。

 ……だめだ、訳がわからない。天津 華月は、姉を愛したのではないのか。その末に、姉を犯したのではないのか。

 天津 華月。いったい、何を考えているのだろうか?


 と、思考に集中し過ぎたか、縦スクロール画面に天津さんからのチャットが重なった。


《何かあった?》

《ごめん。少し母親に呼ばれて》


 偽るのは心苦しいが、オープンにする思考ではないだろう。


《あ、こっちこそごめんね、催促したわけじゃないんだけど》

《気にするな》

《お母さん、か。挨拶したかったな》

《……それは早くないか》


 不意にドキッとさせることを言わないで欲しいものだ。……いや、いずれは通る道だが。


《早くないよ。交際を前提にチャットさせて貰ってます、ってね》

《……やっぱり早くないか?》


 そんなことを報告されてどうしろと……となることでもないか。両親とて俺の失恋は知っているし、彼女候補があんなアルビノの美人さんだと知ったら驚くのは間違いない。


 という、それ以上に。

 交際を前提。その言葉に、心が躍る。いや、逆になぜしていないのかと言われるような関係であるのは自負しているが、それで跳ねる心を抑えられるかといえば、まったくそうではないわけで。


《……そうだね。ボクが吹っ切るまでは、早いよね》

《焦ることじゃないさ。今だって悪いものじゃない。むしろすごく素敵だと思う》

《ありがとね、飛鳥君》


「……ほんと、狡いだろ」


 彼女のために馬鹿であると誓った身だ。彼女の為に動くのに迷いなどあろうはずもない。


「運命の人、だからな」


 もう、そう断言するのに迷いはない。

 アプリがそうだと示したからとか、そういうのではなく。この胸に、心に突き刺さる思いを、叶える為にも。

 天津 華月。

 彼女のことを知らねばなるまい。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。


さて、華月は何を考えているのでしょう。

……ほんとうに。

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