第五幕 相克相生双生運命デュアルLINE 3
五幕の三話ですね、よろしくお願いします。
中学校の制服に袖を通してから三年が経っても、依然として双生会は渋谷の街に在った。そんなに大きな組織(と言っていいのかもわからないけど)ではなかったから、公になることはなかった。残念なことに。
ボクたちは、愛も変わらず。いや、相変わらず、お互い以外の支えがない日々を過ごしていた。
けれど、逆に言えば、お互いを支えにできていただけ、まだマシな方だった。引きこもり、孤独に震えるのに比べれば、どれだけ幸福だっただろう。半身を、恐れなければならないことが最も辛かった。それがないだけ、この時期はやはりマシだった。
中学生になっても、ボクたちはずっと同じクラスだった。双子や兄弟などというのは同じクラスにはしないのが普通だとは思うが、まあボクたちは普通ではなかった。双生会だなんだを抜いてもそれは変わらないだろう。
とはいえ、三年も同じクラスに押し込むのは、やはり厄介払いのためだったのだと思う。ボクたちを慮って、だったら良かったのだけど、現実はそうではない。教員すら、ボクたちに必要以上の接触をしなかった。
まあ、ボクたちからすれば、それは望むべきところだったから、WINWINではあった。大人という存在への幻想というのを擦り減らすのには、一役買っていたけれど、それにしても慣れっこだった。
最も身近な大人である両親すら、ボクたちへ畏れを抱いていた。誕生日プレゼントなどは、最たる例だろう。一応、プレゼントをくれはするのだが、これがちょくちょく同じものを贈られる。誕生日になると大きめのテディベアなどがリビングに置かれるのだが、テディベアは全く同じものを三回ももらっている。それに対して失望するほど、望みを両親に対して持ってはいなかったから、別にどうということもないけど。……いや、高校生になって引きこもっている今でも、ボクはそのテディベアたちの手入れを欠かしていない。それが意味するのは、果たしてなんなのか。それは今のボクにも理解の外だ。
……とにかく、両親はなんの当てにもならなかった。
ある時、いつも通り双生会へ赴き、悩み相談を請け負っている時だった。
あの明美ちゃんが、眼前に居たのだ。驚きつつ、ボクは「好きな人ができた」、という彼女の悩みに答えた。
たしかに異様ではあったが、悩みをぶつける彼らは真剣だった。だから、自然とボクたちも身が入る。気味の悪さに比べれば豆粒程度ではあっても、なけなしの真摯さというのは、ボクたちにもあった。
明美ちゃんの悩みに答えると、次の日から、彼女はまた学校に通うようになった。ボクたちとも、比較的多くの接触があった。
彼女は、中学校で唯一の友人であった。それは、高校に入っても、変わらなかった。
場を中学校から高校へと転じても、状況はさして変わらなかった。しかし、高校。新しい風というのも取り込まれる場だ。
少しばかり、ボクたちに対して接触を試みる者が増えていた。揶揄うのではなく、まるで双生会の会員のように、畏れを抱きながら、接してくるのだ。
といっても、多分、めちゃくちゃ美人なクラスメイトに対する遠慮の延長線上にあるものだったから、そこまで忌避感はなかった。
忌避感。この時最もそれを抱いていたのは、当然といえば当然だが、曲土に対してだった。元凶とも言える曲土である。忌避感などあって当たり前だが、最近はそれが膨らみつつあった。高校生になった辺りから、ボクたちを見る目が変わってきたような気がするのだ。道具を見る目から、そう。まるで、女を見る目に。
その頃、華月は大変美しくなっていた。神話の主役として生を受けていてもなんら遜色はないだろう。それだけ、その身の深黒と美貌のコントラストは目を引かれた。
……正直なところ、あれに惑わされるということ自体を、ボクは責められない。陽が沈むように。羽ばたく鳥もいずれは地に堕ちるように。必然ですらあると思えた。文字通り寝食を共にしたボクがいうのだ。あれは魔力を帯びている。
魔力。それは、立ち居振る舞いにも現れていた。口調を丁寧語に改め、ボク以外の全てを冷めた眼で睥睨するその顔に、果たしてどれだけの視線が注がれただろう。依然、彼女には、ボクしかいなかった。
まあ、それはボクにとっても同じだったけど。明美ちゃんはたしかに友達だったが、友達止まりと言えば、それまでだった。……いや、友達などと思っていたのはボクだけだったのかもしれない。
……同じだったボクたちを異なものとするトリガーは、高校一年目の春。五月に引かれた。
ある時、ボクは先輩の男子に呼び出された。校内で、女子の視線を一手に集めるイケメンさん。要件は、無論のこと、告白だった。
人生で初めてのことだ。大変ドギマギしたが、結局断った。だって、相手のことなど何も知らないのだし。
そうしてクラスに帰ったボクを待ち受けていたのは、明美ちゃんからのとんでもない罵倒だった。そして、明美ちゃんが一頻り吐露し終えると、クラスのみんなが明美ちゃんに牙を剥いた。ボクは止めようとしたが、華月はそうではなかった。ボクの制止も虚しく、クラスのほぼ全員分の好き勝手な暴言を受けた明美ちゃんは、また学校へ来なくなった。
華月に問い詰めたところ、華月は言った。「……世の中には、どうしようもないことだってあるんだよ、お姉ちゃん」。結局、ボクはその言葉の真意を知ることはなかった。
明美ちゃんの件。明美ちゃんが怒るのは、わからないではない。好きな人を盗られたと思ったのだろう。逆恨みではあるが、そうなるのはわかる。当然だが、弁解の機会は今に至るまで訪れてはいない。
ここまでは、波乱はあった。異常もあったが、世に対して希望が失せる程度のものだった。次なる出来事は、ボクの全てを打ち砕き、世界を閉ざすに至らしめた一件。
といってもなぜそれが起こったのか、ボクにはてんで見当がつかない。たしかに華月は明美ちゃんを庇うことはなかったが、それで崩壊する仲ではない。はずだったのに。
普段通りに失望し、普段通りに世界を冷めた目で見ていた日だった。
傍で同じように失望し、睥睨していた片割れが、実は異なる視点を持っていたのだと知る日。
まあ、起こったことはそう長々と連ねることでは無い。
ある日、学校帰りのリビングで、ボクはテーブルに押し倒された。他ならぬ妹に。なぜとかどうしてとかそんなことを頻りに問うたが、妹は涙を流しながら、無言でボクを剥くばかりだった。両親もそこに居たが、何もしてくれない。
恐怖から強く抵抗できないボクを、華月はさんざん弄んだ。そして、下半身に手を伸ばし、愛撫し。何でかは詳しく覚えていないが、とうとう貫くというその時に、ふと全ての表情を失せ、ボクに背を向けた。そして、涙を零しながら、去っていったのだ。
その後、華月とは、飛鳥君が助けに来てくれるあの日まで会うことはなかった。
その後、ボクは引き篭もった。意味がわからなくて。ただただ、怖くて。
そして、そんなボクを放って、両親は華月と家を出た。
ボクは一人になった。孤独だけが、ボクと共に在った。
不思議なのは、双生会からの接触が無かったことだ。それは、飛鳥君とやりとりしている今に至っても変わっていない。いくら考えても、答えは出ないし、確かめに繰り出す勇気など無論ないが。
食材とか生活用品は、一応仕送りがあった。お金も、少しは自由に使えるものがあった。
することのない引き篭もり生活で暇を持て余したボクは、漫画を読み耽って時間を潰した。
そうして、一年が経った。
ある時、死んだ目でネットを適当に泳いでいると、魔法のアプリの噂を目にした。
何を馬鹿なことをと思いながら、おふざけでアプリをインストールしてみた。
すると、スマホが一人でに声を発したではないか。初めは、自分の頭がおかしくなったのだと考えたが、会話をするうちに、どうやら本物の魔法らしいぞ、と考えを改めた。
そうして、アプリに導かれるまま、ボクは彼とチャットをした。
《貴方が、私の運命の人ですか?》
と。
もしかしたら、ボクの運命を変えてくれるかもしれない。そんな淡い、淡すぎる期待を胸に、ボクはスマホを、タップした。
……これが、ボクの知る、ボクの抱えるものの全てだ。
抗えない、過去。
絶対的なものを運命とするのなら。
それは、ボクを縛る最強の運命である。
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回想終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。




