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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE
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第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE 5

五話目です。よろしくお願いします。

 囀る小鳥が朝を告げる時刻。7時半。

 全身を包み込むような睡魔との格闘に、ついに打ち勝ってしまったことも、子鳥は告げていた。

 スマホの魔法のアプリには、その格闘の歴史が記されている。

 それは、取り留めもない会話。しかし、それは、この蓮城 飛鳥にとって、不思議なことに、救いだった。


《あれ、もうこんな時間なんだ。ごめんね、徹夜になっちゃった》

《そうだなあ、徹夜明けの学校は、中々に辛いな》

《あ、そっかあ、今日から学校なんだね》

《睦美さんは違うのか?》

《いや、現実と向き合うのが辛いだけだよ》

《なるほど、確かに。違いない》


 流れが、終わりに向かっている。これは一時の夢で、学校に行けば、覚めてしまうのではないかと、そんなことを考えてしまった。

 学校にこそ、夢があるのに。いや、あった、というべきか。……まだ、そうとは言えなさそうだ。


《あのさ、お互い、返せる時に返していく感じにしないか? やり取りを終わらせないで、ずっと続けていく感じで。あ、俺の高校は校則で携帯弄れないから、睦美さんから送られてきても、返せるのは放課後になるけど》


 とはいえ、送ってから、なんだか深夜の昂りがそのまま続いていると自覚する。

 つぼみがどうとか抜きにしても、睦美さんが気になり始めている。そうでなければ、こんな小っ恥ずかしいこと、決して言うまい。馬鹿馬鹿しく振る舞うのはできても、それは助平なお調子者、とかいうのとはまた違うのである。

 内奥に秘められるべき女々しき思考が、だだ漏れになっているようだった。


《うん、いいよ。私も、そう言おうと思ってた。運命みたいだね》


「運、命」


 昨日から、その単語ばかりが、胸を渦巻いて、他の思考を吹き飛ばしている。

 昨日までの運命はといえば、焦がれた幼馴染を兄に取られるなどという、笑えぬ笑い話。

 それがいきなり、見ず知らずの人と運命の人前提のお付き合いを始めることになろうとは。まるで考えの及ばなかった事態である。

 この顔も知らぬ、名前を偽られていたとしても気付くことも叶わない程度の、細い糸の様な繋がりが、如何にして俺の心を救うのだ?


「運命、か」


 その言葉への懐疑は、膨らむばかりである。

 が、それと同時に、期待も膨れているのがわかる。

 男子高校生の性だ。


『ほんと、君は単純だなあ。なんだ、こういう時、えっと……』

「男って馬鹿ね、か?」

『そう、それだ』

「俺は、真性の馬鹿に無く。馬鹿を目指す馬鹿を超える凡夫である、と。そんなことをお前の口から聞いたが?」

『人間、みんなどこかしら馬鹿なのさ。なら、馬鹿であることで、凡夫たると言えるとは思わないかい?』

「……屁理屈だろ」


 以前、深い考え無しにそんなことを言って、兄に屁理屈だと返されたことがあった。あの時の兄はこんな気持ちだったのだろうか。なるほど。一蹴したくもなる訳だ。


「と、いけない、いけない」


《魔法のアプリ曰く、正しく運命の二人らしいからな》


 昨日、夕飯を食べてから、ずっと夢中になって会話を続けていた。

 睦美さんとのやりとりは、楽しかった。暗澹の中、一抹の光が差すようだった。

 明けない夜はない。そう、示してくれているようだった。小鳥の囀りで。


 運命の光。運命の、導き。想起される言葉は数多く、それらは期待を掻き立てる。

 白く神々しい光が、自分を引き上げてくれるような感覚があった。俺は、ちっぽけで雄大な苦しみから、解放されるのか。

 まだ、完全なる忘却には至るまいが、それでも、確かに進んでいる気がした。

 アプリの言葉を借りるなら、無何有郷へと。


「……運命の人、か。そんな人に、嘘を吐くわけには、いかないよな」


 正直、学校には行きたくない。宿題は、今日に提出する分と、何故か終わっている読書感想文だけはなんとか終わらせられたが、そんなことよりも、つぼみと会うのが怖い。

 兄は、全校集会で遠巻きに眺めるくらいだろうが、クラスメイトであるつぼみは、そうもいかない。

 しかし、ここを乗り越えねば、駄目なのだ。新たな運命に向かう為に、つぼみと向き合うのは必須事項だろう。


「……さて、行くぞ。俺は、行くんだ」


 つぼみに言った様に、開拓者たるには、つぼみを超えていくしかない。そうでなければ、睦美さんに顔向けできないではないか。

 それでは、あんまり情けない。馬鹿とか全部抜きにしても、俺は男でありたい。

 あの自覚なき魔性と向き合い、未来に向かうのだ。


『ふむ、来るよ』

「え?」


《貴方が、私の運命の人ですか?》


 ここで投げられたのは、再度の問いかけだった。

 始まりの問い。それに求められた答えは、理解している。ただ……。


《わからない》


 やはり、今の自分には、そうとしか、返せない。返してはいけない。けれど、確かに言えることがあるとするのなら。


《けど、そうなりたいと、思う》


 運命の二人に、なりたい。その為に行くんだ。


「ありがとう」


 決心はついた。

 さあ、立ち向かう時が、やってきた。

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