第五幕 相克相生双生運命デュアルLINE 1
ここから五幕です。よろしくお願いします。
閉め切った部屋。時間感覚などは失せ、時報の様に学校終わりに送られてくる彼からのチャット以外に指標はない。
ボクは引きこもりではあるが、まだ日は浅い一年目の若輩者。多分ボク自身の気質もあって、生活リズムとかいうのは割と整っている。……いた。
あれから。
飛鳥君にボクのことを打ち明けてから2日経った火曜日。
ボクは、布団の中で蹲っていた。
「……飛鳥君」
確かめるように、その名を呟く。
ボクのことを受け止めてくれるか。それはわからないけれど、彼は真剣にボクのすべてに耳を傾けてくれた。
『……大丈夫か』
「うん……大丈夫……だよ」
結局、彼に話す時もまた泣いてしまったけど、それでも身の内から沸き立つあの恐怖が和らいでいるのは、自覚している。
飛鳥君のお陰だ。
けど。
それでも、思ってしまう。
「……華月」
涙と共に、ふと、そう溢していた。
どうして、こうなってしまったのだろう。
ボクの抱える、二つの運命の片割れ。決して変えられない過去の証。
運命とは揺るがないものだとマホちゃんは言う。
さて、だとするなら。
ボクの過去という絶対の運命を、ボクはいかにして克服するというのだろう。
◆
西暦にして2000と幾つかを数えた頃。ボクたちは相反する異端として世に生を受けた。
アルビノと、メラニズムの双生児。世界的に見ても例のない、人のメラニズムを含む双子は、その存在を秘匿され生きてきた。
メディアの取材などの悉くを両親は拒否し、普通と変わらぬ愛情を注ぎ、ボクたちはのほほんとその愛情に甘えて生きていた。
常に傍に寄り添う妹を愛しく思い、常に共にあらんと、赤子の頃のそんなぼんやりした思いを、ボクは未だに覚えている。ボクの一番古い記憶は、同じ揺籠の中で眠りこける妹の寝顔だった。愛らしい妹。愛しかった妹の。
……今では、とてもそんな綺麗なものではないけれど、昔のボクは間違いなく、妹を愛していたのだ。
そのまま、物心付いても、ボクたちは両親の庇護のもと、幸せに暮らしていた。
いつしか、ボクたちは幼稚園に通う様になった。いつまでも鳥籠の中で過ごしてはいられない。いずれは世に出て、そこで生きる必要がある。それは明白だった。両親も相当に悩んだらしいが、結局は二人揃って入園の運びとなった。
そこでも、基本的には大きな異常はなかった。「お姉ちゃん。華月ね、お姉ちゃんのこと、大好き」、「睦美もだよ、華月ちゃん。ずっと、一緒にいようね」、そんなことを常に言い合い、仲睦まじく園でも過ごしていた。
とはいえ、さすがに偏見がゼロだった訳ではない。
ある男児が、華月のことを揶揄うことがあった。曰く、「なんでおまえは真っ黒なの?」と。
ボクとて真っ白い分際だけど、どちらかと言えばメラニズムの方が異様に映るのか、華月は偶に揶揄われることがあった。今思えば、華月を好いた男の子が気を引きたくてやっていたんだろうから、少し悪いなと考えなくもないが、無論当時のボクにそういった遠慮はなかった。そういう時は決まって、「華月ちゃんをいじめるな! 華月ちゃんは睦美が守るんだから!」、と男子に掴みかかって追い払っていた。
そんな日が続いたある日、その男の子が、徒党を組んで、華月でなくボクを囲うことがあった。幼児の時分に体躯の性差はないとはいえ、いや、だからこそ多数を相手にボクはなす術がなかった。
ボクが強気に出ていたのは、妹の為だったから、ボク自身を狙われるとどうにも弱かった。
暴力とかではなかったけど、取り囲まれて拙い悪口を言われていると、少しだけど涙が滲んだ。そんな時、ふと、半身の声がしたのだ。
「ボクのお姉ちゃんをいじめるな!」
それは、虚勢だったろう。だとしても、自分を偽ってでも、ボクのために戦ってくれた。
それ以来、華月の一人称は改められた。
◆
幼稚園での生活で、何年か経つと、もうみんな慣れたのか、色眼鏡で見られることはそんなに無くなっていた。幼いゆえに、無邪気の邪気を発することもあるが、幼いゆえに無垢で曇りないレンズを通して物事を見ている、そんな世代。
思えば、ボクたちが普通にしていられた最後の時期だ。
ある時、毎年恒例の児童による劇の主役を決めることになった。俺が俺が、と前に出たがる時期だろうと自薦を禁じた結果、主役に選ばれたのは、ボクたちだった。
「ボクたちが主役! やったね、お姉ちゃん!」
「うん!」
必要はほぼ無くなっても、華月は《ボク》を使っていた。が、それゆえか、華月にお姫様のお鉢が回った。久しく見ていない、しおらしい華月を見てみたい、という声が多かった。その中には、当時ではすっかり形を潜めていたが、ボクたち二人によくちょっかいをかけていた男の子もいた。
消去法で、ボクが勇者役になった。
演目は、園児全員で創作した、オリジナルだった。幼児の夢を統括した、混沌の劇の割には、結構形になっていたと思う。ボクたち二人が手綱を握っていたというのはあるだろうが、やはり素材がよかった。
当時から、華月。……いや、ボクたちの容姿は整っていた。二人の対極の異様を除いても、園に並ぶものは片割れ以外になかった。
それが、掻き立てるシチュエーションを共通のものにしていたのだ。
即ち、魔王からお姫様を救う勇者様のお話である。
無論、今思い返せば失笑ものの出来だが、まあ園児にしてはよくできていたろう。
劇は盛況だった。中でも、ボクの勇者役は評判で、保護者一同からしきりに褒められたのを覚えている。その中にボクたちの人生を狂わせる元凶がいたとも知らずに、ボクは笑顔を振り撒いていた。
「ボクが世界を救う勇者だよ、お姫様」
決め台詞として用いたそれは、一時期園での流行語となった。
そこでいい気になったボクは、一人称をボクへと改めた。それに合わせて、華月は苦笑しながら一人称を自分の名前へと戻したのだ。
……そして、それ以降、今に至るまで、ボクはボクのままだ。
華月が私へと改める小学校の時に至っても、ボクは変わることはなかった。
……小学校。何度でも思うが、幼稚園児だったあの頃は、ボクたちが一応の普通でいられた最後の時期だった。
なにも考えずにのほほんと過ごし、友達や、家族。己の半身と笑っていられた、最後の時期だった。
《双生会》。それが、ボクたち、天津一家の歯車を致命的に狂わせる。
そんなことをつゆほども知らずに、片割れと手を繋いで笑い合っていた。
そんな日が続くと、思っていた。
もし、可能なら。過去に戻って全てをやり直すことができるのなら。
ボクはこの時に帰り、半身に告げるだろう。
「逃げよう」、と。
そして、何のしがらみもない状態で、彼に出会いたかった。
……無論。叶わぬ話だ。
けれど、願わずにはいられない。だって、ここから先。小学校から、高校に入り、引き篭もるまで。
ボクの人生に、良いことなど何もなかったのだから。
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次回でもよろしくお願いします。
ここもっとじっくりやろうかとも思ってたんですけどジャンル変わっちまいそうなんで巻いていきます。




