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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第四幕 相克相生運命デュアルLINE
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第四幕 相克相生運命デュアルLINE 15

四幕十五話ですね、よろしくお願いします。

「あー! 楽しかった! ね、飛鳥君?」

「まったくだな……」

「なんか含みある?」

「いや、日傘かっこいいな、って。童心をくすぐる」

「はは、気持ちはわかるかも」


 カラオケから道路に出ると、伸びをしながら睦美さんが言う。白く綺麗な肢体は、太陽が翳る時刻になっても眩しく映える。


 何度見ても、綺麗だと思い直す。……顔を合わせるのは三度目だが。都度違う風景の中にあるのに、それら全てを引き立て役に留める極上の美。

 両手を後ろに合わせ、体を傾ける漫画でしか見たことないあのポーズを目の前で取る睦美さんは、目を離し難い魔力を持っている。


 魔力というと、我が人生ではつぼみのみが保有するものであった。それを持つものがここに増えるのはなんとも奇異なことだ。魔力の質、というのも異なる様に思う。

 つぼみのそれは、底なし沼だ。魅入るものを引き摺り込み、決して離さない蟻地獄のような。

 対し睦美さんは、揺籠に佇む母のそれだ。暖かく包み込み、共にどこまでも深い眠りへと堕ちていく。


 ……まあ長々と連ねたが、端的に言えば睦美さんマジ可愛い、とそんだけの話である。


「6時、か」


 まだ明るいが、睦美さんは遠く渋谷に居を構える身なのだし、あまり遅くまで連れ回すわけにもいくまい。


「夕飯にするか」

「そうだね」


 睦美さんのお弁当はかなりボリュームがあったからまだ腹の虫は騒いでいないが、他にすることもない。

 それに、話をするなら、そこがいいだろう。カラオケで話すのは、なんとなく躊躇われた。

 兄たちがいたからだろう。二人が二人でいる時にそばにいると、少し物悲しい気持ちになる。恋情などを蹴り飛ばしたとしても、友として過ごした歳月があまりに長い。

 あの二人は多分フリータイムで夜まで歌い倒すだろうから、今食べるなら再度鉢合うことはないだろう。


 さて、夕飯。流石に二つ目のお弁当があるわけではないだろうし、吉川のレストランに赴くことになるだろう。

 ……はて、どこがいいだろう。


「睦美さんは、何か食べたいものとかある?」

「うーん。そんなに高くないところがいいな。流石に財布がピンチかも」

「そうだなあ。俺もだ」


 アルバイトに励むわけでもないだだの学生には、カラオケ一回、外食一回とて手痛い出費である。一食は千円以内。これは破られるべからざる鉄則なのだ。

 つまりは、普通にリーズナブルなチェーン店入ればいいか。


 相談の末、少し歩いたところにある和食のチェーン店に決まったので、また二人して手を繋いで向かう。


 睦美さんの容姿が容姿なのに加え、日傘もあるので必然、視線が集まる。時間が時間で場所が場所なので、吉川といえど人通りは多い。少し翳りを見せる空なれど、いやだからこそ、この純白は一際目立つ。

 優越感を刺激されなくもないが、こんなところで目立ちたくはないので、少し足速に目当てのレストランを目指す。


「あー、これかあ」


 辿り着いたレストランの看板を見上げ、睦美さんが呟く。まあ結構いろんなところにあるチェーン店だから、見覚えはあるだろう。


 そのまま中に入り、案内のまま二人席に向き合う形で着いた。

 席に着くと、睦美さんは少し緊張したような面持ちだった。それは多分、俺も同様。この美貌の人と二人で食事に及ぶのに緊張しない男はいないだろう。


 とはいえ、俺も。……恐らくは睦美さんも、緊張の理由はそこにはない。

 多分、わかっているのだ。運命の名の下に集った二人が、そのまま運命に身を委ねる為に避けては通れないものだと。


「あ、はい、おしぼり」

「あ、ああ、ありがとう」


 ……本来ならすごくグッとくるこういう仕草にも、今は気が回らない。

 とはいえ、ここでのベストは多分平静を繕うことだと思う。愚物の身には朝飯前だ。棚上げは馬鹿の必須技能なのだ。


「なににしよっかな」


 メニューを開き、財布の機嫌を伺いながらページを進める。育ち盛りだから、量重視。


「ざる蕎麦にしようかな」


 単品なら大盛にして、デザートをつけても千円を少し越えるくらいで済む。二百円くらいなら突き破っても鉄則は許してくれるだろう。


「うーん、じゃあ、ボクは……」


 睦美さんが選んだのは、ねぎとろ重だった。ねぎとろ。実に唆る響きである。金銭に余裕があれば俺もざる蕎麦にねぎとろ重のセットにしていたに違いない。


 注文をして、しばらくくだらないことを話している間に、待望の蕎麦と、ねぎとろ重が到着。

 きちんと手を合わせいただきますをする睦美さんに見惚れながらそれに倣い、手、いや口か、を付ける。

 和食を看板に掲げて憚ることのない店だけあって、やはり美味だ。


「美味しいねえ」

「そうだな」

「……」


 睦美さんがなにやらチラチラとこちらを見やる。……これは、こうか?


「睦美さんの料理程じゃ、ないにしても」


 切ったカードは、どうやら正答だったか、睦美さんの表情に笑みを与えることに成功した。

 実際、ガラス細工の様に繊細な男の味覚を刺激する品だったのもあって、お弁当とどちらが美味しかったかといえば、弁当と答えるのに憚りはない。

 そこに惚れたなんやらがないかと問われれば、それは黙秘権を行使するが。


「えへへ、もう、褒めてもお弁当しか出ないよ?」

「褒めてあれが出てくるならいくらでも褒めるやつが大半だろうけどな」


 しかも作るのが睦美さんときたら、少なくとも野郎ならばほぼ全員が全力で褒めそやすに違いない。


「えへへ、気遣いありがとね。でも、これ、ほんとに美味しいよ」


 時折ふざける睦美さんだから、多分俺の回答まで見越した上で仕組んだ流れだと思う。その上で、自分の頼んだ品を持ち上げる。

 さて、多分次はこうくるのではないか。


「ちょっと、食べてみる……?」


 などと、そんな、まったく予想通りの言葉を発して、睦美さんは赤くなっている。


「じゃあ、貰おうかな」

「むぅ、なんかムカつく。なんでそんなに冷静なの」

「馬鹿を言う。内心バクバクだよ」


 嘘ではない。予想できたからといって、それとこれとは別問題なのだ。


「表に出さなきゃつまらないよ」


 言いつつ、睦美さんがねぎとろ重を救ってこっちの口まで持ってくる。

 恥じらいながら、それを頂戴し、咀嚼する。その全てをまじまじと見られているから、落ち着かない。

 うん。やっぱり。


「味わかんねえ……」

「やっとドキドキしてくれた?」

「だからずっとしてるんだって」

「表に出さなきゃ、つまんないよ」

「……わかんない、じゃないのかよ」


 言って、正面を見ると、満面の笑みがそこにあった。なんとも度し難いものだ。そして、なんとも尊いものだ。


「ボクばっかりして、飛鳥君ずるくない?」


 そして、勢いそのままに睦美さんが切り出した。

 ……狙いはここにあったらしい。うん。なんとも狡猾なことだが……。


「デザートでな。蕎麦では流石に難しい」

「……あ、たしかに」


 計算高いのか、抜けているのか……。なんにせよ、愛らしいのは間違いないが。

 しかし、まあ問題の先延ばしでしかないのは、事実だ。

 しばらくして。

 蕎麦を食べ終え、睦美さんはねぎとろ重を食べ終え、そして今手元にはデザートの抹茶クリームぜんざい。

 逃げ場はない。


「早く、早く」

「……恥ずかしくないのか?」

「……は、早く、早く」

「表に出さなきゃ、つまらないよ、か」


 なるほど、道理らしい。そして、これを言った側が実は楽しんでいるのも、先と同様なのだろう。

 これでも生物学的には雄に分類される存在である。覚悟を決め、ぜんざいを掬う。


「白玉もちょうだい?」

「……」


 ぜんざいに白玉を乗せ直し、睦美さんの口に持って行った。


「……ほんとだ、味、わかんないね」

「だろ。都市伝説じゃないんだ」

「経験者は語るね」

「ビギナーだけどな。もう一口いるか?」

「いや、大丈夫だよ。さすがにその量で二口貰ったら貰いすぎかな」

「わかった」


 ……これ睦美さんが口付けたスプーンだよな、と思うとなんか色々躊躇ってしまうが、流石にこのまま溶けるのを見守るわけにもいかないので、意を決して食べ進める。

 ふと、睦美さんを見ると、顔を赤らめて俯いている。

 ……少しは俺の気持ちがわかったらしい。


 さて、ぜんざいを食べ終え、睦美さんと向かい直し、くだらないことを話す。

 食べ終わったので、席を立つ……には、至っていない。


 わかっているのだ。わかっていたのだ。

 今日のデートはもう終わり。そして、終わり際、何があるかなんてことは。

 くだらない話のくだらない流れを断ち切る様に、その言葉は放たれた。


「……飛鳥君」


 ただ、一言。それだけで、空気がシンと静まる。


「無理、してないか?」

「大丈夫だよ」


 そのやりとりは、予想していた。睦美さんも同様だろう。それでも切り出してきたということは、やはり引く気は無いのだ。


「今度は、ボクの番だから」

「……わかった。無理そうなら、途中でやめても構わない」

「……ありがと。けど、ほんとに大丈夫だから」


 そうして、睦美さんは、三つほど深呼吸をして、訥々と、語り始めた。



 少し肌寒い夜9時。俺は、自宅の玄関の前に、意味もなく立っていた。先程、睦美さんはつぼみの家に送った。どうやら、今日はつぼみの家に泊まることが予め決まっていたらしい。いつそんなに仲良くなったやら。


 玄関に佇む俺の瞼の裏に焼き付くのは、全てを語り終えた睦美さんの、涙を堪えたような笑顔だ。

 睦美さんを変えた過去。その重さを、当事者ですらない俺ですら受け止められないでいる。

 なら、睦美さんの悲しみは如何程だろう。

 睦美さんは、俺を信じて打ち明けてくれた。

 けれど、どうすればいいのだろう。俺は、その過去を受けて、何をすればいいのだろう。

 わからなかった。


「……ちくしょう」


 そんな言葉が、虚空に溶ける。虚無の吉川。けれど、そこに生く人は、生意気にも、必死こいて生きている。喜びもすれば、悲しみもするのだ。

 どうすれば、いいのか。考えていると、足音がした。


「……睦美さん?」


 どうして、その名前が浮かんだのか。

 さっぱりわからなかった。

 けれど、その姿を見た時、俺は悟った。

 整ったスタイル。相貌。それらは、先ほどまで共にいたあの少女と全く同じものだ。身長から、その起伏に至るまで、見た目に差異は見られない。

 異なる点を挙げるとするなら、その髪型。睦美さんは長髪だが、眼前にいる少女はボブカットだった。

 そして、闇に溶ける深黒。睦美さんと鏡写しの美貌でありながら、その性質は真逆と言っていい。

 メラニズム。アルビノの対極の突然変異。


「……天津、華月」


 名前に反応した訳ではないだろうが、その唇が動いた。


「ふふ、お初にお目に掛かります。さて、私がどういった者かは、多分存じているのでしょうから、言わせてもらいます。すべては、過去。終わった話なのですよ。あなたに立ち入る隙はない」


 睦美さんと、まったく同じといってもいいはずなのに、身に纏うもの全てが異なっている。衣服は白のワンピースで睦美さんと同じはずなのに、放つのはあの朗らかな太陽のような風情ではない。シンと冷たく全てを見下ろす月のような、そんな風情があった。


「……どういう意味だ」

「そのままの意味ですよ。まあ、すべては教えてあげません。お姉ちゃんの知らないことも、この世にはありますとも」


 言うと、彼女は踵を返した。


「お姉ちゃんに会いたいのはやまやまですが、会ってしまったら怖がらせてしまいますからね。私は、これで」

「ま」


 追おうとしたその時には、もう彼女は視界から消えていた。


「すべては……過去」


 変えられないものを、運命とするなら。

 果たして、それは?

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。


これで四幕はおわり。次から五幕に入ります。最初は多分回想ですね。

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