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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第四幕 相克相生運命デュアルLINE
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第四幕 相克相生運命デュアルLINE 12

四幕の十二話ですね、よろしくお願いします

 というわけでボクたちは、引き続きおあしすなる図書館だかなんだかわからない施設にいる。

 その屋外にある無骨な大理石のテーブルに着き、お弁当を突いていた。


 辺りでは、小学校低学年くらいの子たちが広場全体を用いた鬼ごっこに興じている。賑やかな食卓になっている。


 卓に広げられたる我がお弁当の中身は、豚の角煮をメインに、卵焼き、ポテトサラダ、タコさんウィンナーという感じ。事前に好みを訊いても良かったけど、サプライズな方が面白いかと考え直した。何を作っても満足してもらえるという自信もあったし。


 豚の角煮は、なかなか手間がかかったけど、手間に比例して楽しかった。誰かのための料理はやっぱり満たされる。あの時の軽食ですらそうだったんだから、今回はもうニヤニヤルンルンで作っていた。


 そして今、その時思い描いた通りの表情で、飛鳥君はお弁当を頬張っている。

 訊かなくてもわかるくらい、美味しそうに食べてくれていた。その顔を見ていると、自然と笑みが溢れる。


 自分にとってあまり歓迎していない過去が思わぬ形で報われる。恐らく、ボクが飛鳥君に馬鹿だね、と言った時、飛鳥君はこんな気持ちだったのだろう。


 一人で作って一人で食べるだけの料理。それが誰かに食べさせるために作るだけでここまで変わるのだから驚きだ。隠し味は愛情、なんて決まり文句は作り手にも当てはまるのだと改めて思った。


「めちゃくちゃ美味い。……驚いた。本当に料理上手かったんだな。あの時のサンドイッチも美味しかったが、ここまでとは」


 一旦箸を止めてから、飛鳥君が言う。


「えへへ、でしょ?」

「ああ。兄さんを超えるかもしれん」

「……あの人料理もできるの?」

「ああ。カレーだけが上手いわけじゃないんだ」


 ここで名前が出てくるのがつぼみさんでなくお兄さんなのが、彼ららしさなのかもしれない。

 実際、あかね祭の時のカレーは美味しかった。プロ級、とまでは言わないけど、その辺の人を50人くらい捕まえて競わせたらトップは間違いないだろう。

 

「つぼみさんは料理しないの?」

「あいつも上手いけど、それ以上に兄さんが上手いからやらなくなったな」

「ああ、それは確かにね……」


 女の子にもプライドはある。料理は女のすることだ、とかそういうのは時代にそぐわないとしても、意中の男の子に自分の手料理で喜んでもらいたい、と思うのは時代を問わない共通の感情だと思う。というのに、自分よりその男の子の方が料理が上手だったらかなりへこむ。無論それと喜ぶかどうかは別問題だとしても、えも理解できない敗北感におそわれるのは間違いない。


「そんなわけだから、俺の周りで料理できないのは俺と父さんくらいのものだよ」

「そんなものじゃない? お兄さんは、まあ、その、例外として」


 それに、そのおかげで飛鳥君が喜んだというなら、ボクにとってはありがたいことだ。

 ……というのは別にして。


「でも、ボクも飛鳥君の料理、食べてみたいな」

「応えたいのはやまやまだが、睦美さんの味覚が狂ったら俺が困る」

「……なにそれ、馬鹿なんだから」


 ……長い将来。それを見た言葉だ。ドキドキしてくるのは、止められない。

 彼も、言ってから気づいたのか、気恥ずかしそうに顔を少し伏せている。けれど、訂正することはなかった。

 ボクの気を逸らしたいのか、はたまた恥ずかしくて顔を背けたいのか、飛鳥君はまたお弁当を突き始めた。


「……しかし美味いな」

 照れ隠しでもあるんだろうけど、本心であるのも見てとれる。

 ……あんまり嬉しくないだろうけど、可愛いな、と思った。


 自然と口角が釣り上がる。

 平和で、幸せな時間。家族とのわずかなそれを除けば、ボクの人生には殆どなかったものだ。学校で出会う人たちはみんなボクを畏敬の目で見た。偶にいた色眼鏡のない子も、その他に流され、結局は伊達の色眼鏡を掛けた。


 それが当たり前だったから、そのことをどうこう言うつもりもない。ボクだって逆の立場だったら多分流れに逆らうことはできないと思うし。

 だから、まさかこんな風に誰かとお出かけして、ご飯を作るなんて普通の女の子みたいなイベントがあるなんて、思ってなかった。


 ボクが漫画を読むようになったのは、ボクに欠けた普通の幸せを、架空に求めた為だ。

 架空に求めるしかなかった幸せの中に、今ボクはいる。


 だから、こんな行動に出てしまったのだ。

 箸で角煮を掴み、その手はボクの口でなく、飛鳥君の方に向いていた。


「……あ、あー、ん」


 びっくりするくらいぎこちない、あーんに、飛鳥君は応えてくれた。これまたびっくりするくらい顔を赤くして。


「美味しい?」


 ボクもボクで何を言っていいやらわからず、さっきから何回も答えを聞いている問いを投げた。


「……緊張し過ぎて味がわからないなんて、都市伝説だと思ってた」

「……じゃあ、はい」


 第二撃。


「……多分終わらないぞ、これ」

「それはそれで」

「……逆だと思うんだけどな」


 そうして、第三、第四と飛鳥君の口にボクの箸から吸い込まれていく。

 ……後々思い返せば、あーんどころでなく間接キスとかいうやつだったけど、今のボクたちはそんなところに思考が回らなかった。

 結局、その後もしばらくあーんは続き、お弁当の三分の一が、ボクの手を介して飛鳥君の腹中に収まることになった。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。

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