第四幕 相克相生運命デュアルLINE 11
四幕の十一話ですね、よろしくお願いします。
「ひ、ぐ。う、うう」
「恥ずかしいから、静かに」
「う、わ、わかっ、わかってるけど、だってええ……」
二人で某国民的青狸の劇場版を観た俺たちは、おあしすフロントの卓について話し合っていた。
映画は、どうやら睦美さんの初見のものだったらしく、ノーガードで感動路線を受けた為にここまで嗚咽を漏らしているようだ。
個人的にもあれはなかなか来るものがあったから、初見だったら同じ様……ではないまでも、少し泣くくらいはしていたかもしれない。
まあ、隣がここまで泣いているといずれにしても俺は冷静だったろうが。
「ほら、落ち着いて」
椅子を睦美さんのそばに寄せ、少し躊躇ってから小さな背中を摩る。
……責められる要素は多分無いと思うが、背中の温もりを感じているだけでなんだかいけないことをしているような気持ちになる。
「……あ、ありがと……」
凡そ40秒ほど背中を摩ると、睦美さんも漸く落ち着きを見せてきた。
「ごめんねえ、手間かけさせて」
「気にすることはない。多分立場が逆な可能性もあったろう」
「そう聞くと、ちょっと惜しいことをした気になるね」
「……俺は御免だ」
「なってみると案外悪いものじゃないよ。……恥ずかしいのを除けば」
……睦美さんに甲斐甲斐しく世話を焼かれるもいうのは、なかなかに唆られるものがある。この美貌の人に手を尽くされるだけで男冥利に尽きるというものである。
とはいえ、男には意地がある。ここで泣きじゃくって女の子によしよしされるところなどを衆目に晒してしまえば、待つのはプライドの崩壊に他ならないのだ。
この話を続けていると顔が赤くなってたまらないので、ちょっと強引ではあるが話題を逸らす。
「生徒会長もそうだといいんだけどな」
生徒会長。実際、彼女が望むなら是非もないとはいえ、なぜそれを望むのかくらいは聞いておきたいものだ。
訊ねられた睦美さんは、顎に人差し指を当てながら少し考えて、
「だって面白そうだもん」
などと宣った。
なるほど、面白そう。それに勝る道理などないのだ。愚物の身にとっては骨に染み込んだ道理である。
「そう言われると勝てないな」
「えへへ、頑張れ、生徒会長」
「……気が早いにも程がある」
彼女がこう言うならば、やはり生徒会長を志す以外にない。今だって目の前にあるこの微笑みを、咲かせ、育む水になることこそは今の俺のするべきことなのだ。
……水に、なる。つぼみを思いつづけ、その水になる任はとうとう叶わなかったが、まさかそれが新たな運命の呼び水となり、そして自分自身がその運命を育む水になるとは。
人生とはわからないものだ。あれから幾月と経っていないのに、まさか自分が恋などしようとは、誤算極まる。
「……まあ、やれるだけやってみるさ」
生徒会長の襷を兄から受け取れるかは定かではない。如何に馬鹿高の生徒どもとて、馬鹿を祭り上げるような真似をするかと問われればなんとも答え難い。馬鹿故にするかもしれないし、馬鹿故にしないかもしれない。
まあ、俺にできることなどたかが知れている。如何に小さい頭を回したとしても基本流れには抗えない。ならばまあ、気にするだけ無駄なことだろう。
「さて、次に行こうか」
「もう出ちゃうの?」
「二個目の映画もまあ悪くはないが、そろそろ昼時だろう」
「確かに。ちょっとお腹空いたね」
「この辺りのレストランは……」
「ふふん」
貧弱な吉川のレストランボキャブラリーから何かないかと脳内を検索していると、睦美さんは不敵に笑った。そして、手に持ったカバンを叩いて言った。
「お弁当にしよう」
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。
次回でもよろしくお願いします。




