第四幕 相克相生運命デュアルLINE 10
四幕十話ですね、よろしくお願いします
さて、吉川を巡りたいなどという物好きは、相当にレアな人種だ。確か、アルビノの対局の突然変異であるメラニズムは、人間においては未だ一例も確認されていないのだ、などということがwikiに載っているが、恐らくそれを探すよりも難しいのだ。
だのに、吉川に来ようなどとは……。
このデートを終える時の睦美さんの沈んだ表情を思うと、なんとも居た堪れない。これは、砂漠を一日歩き回るのと大差ないような、そんな行為なのだ。
とはいえ、賽は投げられた。そうである以上、俺にできるのは全力で吉川のプロモーションをすることだけだ。……言葉にしてみるとなんとも無理難題に挑んでいると自覚する。肘が顎に付かないように、息を吸いながら吐けないように、蓮城 要にテニスで勝てないように、初めから無理と決まっている問題なのだ。そう世界に定義されているも同然なのである。
現在、俺たちは市民交流センターおあしすにいる。荒涼たる砂漠にも似たこの吉川に構えるのがおあしすというのは、なかなか洒落た皮肉である。
おあしすというのは、吉川市民が少しばかりでも他市の者に誇れるものを作ろうと市長さんらが命がけで考案した(違う)施設である。
図書館や、部屋の貸し出し、多目的ホールなど、その施設は多岐に渡り、なかなかに便利なところだ。
吉川にあって、他にないもの。それを訊かれた市民は、一時間ほど悩んだ末に答えるだろう。「お、おあしす……」と。
そんななけなしのおあしすを初手で切ったのが悪手か否かは、神のみぞ知るところ、というやつだろう。
「ここは、何ができるところなの?」
バスを降り、視界におあしすの全貌を収めた睦美さんが興味深そうに言う。
「そうだな、まあ今の俺たちに使える施設となると、図書館かな」
「……デートで、図書館……」
正気かコイツ? という意が言外に込められているのは明白だった。それはそれで楽しいかもしれないが、静粛を求める図書館は、やはり通常の学徒の求めるところではないだろう。それに関しては、馬鹿も同じだった。
しかし無論、他の施設を抜きにしても、単なる図書館ではない。それだけなのだとしたら、吉川市民の誇りは瓦解している。
「ただの図書館と侮る無かれ。ここでは映画をみたりもできる」
「図書館で、映画……?」
「そうだ。……新作とかではないけどな。あとは、部屋を借りたりもできるが……まあ、今は無縁だろう」
「映画……かあ」
睦美さんの美貌に興味の色が見えた。デートの定番といえば、映画館はその筆頭候補だろう。……ここを映画館と称するのはこの俺でも憚られるが。
「睦美さんが吉川に来たいなどと言わなかったら、普通に映画館にだって行ってたが」
「だーめ。今日、ボクは吉川に来たんだもん。飛鳥君が育った町に」
「……物好きな」
「お互い様だよ?」
……いや、俺とこの美貌の人の価値などとても釣り合ってはいないと思うのだが、睦美さんにとってはどうやらそうではないらしい。
……まあ、ここで反論しても平行線だろうから、とりあえずおあしすに入るように促す。
「……」
「どうした?」
睦美さんが、何やら顔を紅潮させている。……これは所謂〈お花を摘みに行く〉、というやつか……? と、どう切り出すか迷っていた時だった。
睦美さんがぎこちなく、日傘を持っていない方の手をこちらに突き出してきた。
「……ん」
「えっ、と?」
「……ん!」
……ああ。なるほど。
「その方が恥ずかしいだろうに」
「……意地悪、ほんと、ば」
その言葉を聞き切る前に手を繋ぐと、そこで睦美さんの口が止まった。そして、三秒ほど空いて、
「……かぁ」
「馬鹿って言われれば何でもいいわけじゃないんだけどな」
……内心こっちも心臓バックバクだが、一応の平静を保っていられるのは愚物としての研鑽故か。
「……落ち着くねえ……」
「……俺は真逆だけどな」
こうして手を繋げば、当然思い起こされる後夜祭。この俺の生き方全てが結実し、報われたあの時。
まるで、あの時の俺たちがそのまま今に飛んできたようだった。
二人でいれば、いつでもあの祭りに帰れるのだ。
それを、運命と言わずしてなんとするのか。
「……いこ」
「……そうだな」
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