第四幕 相克相生運命デュアルLINE 9
四幕の九話ですね、よろしくお願いします。
それは、勝負の時だった。男として、譲れないものだったのだ。
役立たずの兄や幼馴染に縋ったことを後悔したまま、その日はやってきた。
10月6日。あの祭の後、初めて迎える日曜日。彼女をきちんと見据えて迎える、初めての日曜日。
即ち、睦美さんとの初デートの日。
即ち、この俺の人生、初デートの日。
即ち。
運命に触れる日。
◆
『待ち合わせ30分前って、君は本当に』
「黙れ。睦美さんが来たら、もう喋るなよ」
『わかっているよ。私たちアプリが邪魔になっちゃお終いだしね』
涼しげな朝だった。気持ちの良い晴れ間は、まるで今日という日を祝福しているように俺を照らす。
そんな中、俺は吉川駅の南口で、黄金のナマズ像をバックに立ち尽くしている。我が吉川名物のナマズを模した像だが、果たして如何様な価値があるのか。黄金とはいえ金メッキだが、ナマズの輝きに目が眩んだ賊徒がナマズのヒゲをパクる事件が昔あったのを見るに、その輝きだけは伊達では無いのかもしれない。
いや、ただ一度吉川駅が世間の注目を浴びたのがその事件だったのだから、その賊が吉川駅を磨いてくれたということになる……訳は流石にないか。
アプリが色々宣っているが、それに答えたら俺は一人でブツブツ呟く不審者である。スルー安定だった。
まあなんにせよ、吉川駅のことなんてのは些事だった。ナマズのヒゲがパクられた時は、俺に物心がなかったため覚えていないが、あったとしても3秒笑って次の瞬間には忘れていただろう。
吉川に生く人にも、大事なものはあるのだ。生意気にもロマンスの中にある吉川人だっている。
例えば、俺のように。
日本の些事たる吉川に住んでいる俺は、吉川駅のコンビニ前に佇み、待ち人に思いを馳せた。
待ち合わせ30分前の9時半は、いくら吉川といえども流石に人通りが多い(吉川比)。その中から人一人を認めることは難しい……のだろう、本来は。
その人が壁を越え姿を現した瞬間から、俺の目は彼女に吸い取られて離れなかった。
白磁の肌を長袖のワンピースに包んだ少女。黄金の長髪に、紺碧の双眸。百人が百人振り返る仙姿玉質の少女。
待ち人。つまりは、天津 睦美。即ち、運命の人だった。
彼女は、その視界に俺を認めるとパッと顔を綻ばせ、深窓の令嬢の様に日傘を開き、駆け寄ってきた。
「飛鳥君、早いね。ごめんね、待たせちゃったかな」
純白のワンピース(一丁羅らしい)に身を包んだ可憐極まるその少女、我が運命たる天津 睦美は、日傘をこちらに傾け、すこし困ったように笑って続けた。
「まだ待ち合わせまで30分もあるのに」
「……吉川の時計が全部30分ズレてたんだろう」
「もう、なにそれ」
微笑みながら、馬鹿だなあ、と睦美さんが零した。
「……ボク、こういう時に待つの、ちょっと憧れてたんだけどなあ」
……まあ確かに、所謂「ごめん、待った?」、「ううん、今来たところ」のやりとりにおいて、待っているのは大抵女子サイドなように思う。サンプルは漫画だからリアルでの確度はわからないが。
とはいえ、である。いくら吉川とてこの美貌の女子をこんなところに一人で待たせていては、誰に声をかけられるかわかったものではないのだ。誰に絡まれても気丈に振る舞える睦美さんではないと思う。
「……ごめん、待たせたか?」
「いや形だけ再現されても嬉しくないよ!?」
とかなんとか言いながら、眉間に皺を寄せむくれる睦美さんも可愛いものだった。
「冗談だ」
「……馬鹿にして」
「人のことを嬉しそうに馬鹿馬鹿言うのは睦美さんだろう」
「よく言うよね。本当に嬉しいのは自分なのに」
……返す言葉もなかった。
「……さて、行こうか。吉川行脚などと物好きなお姫様」
「馬鹿、だね」
そう言って、睦美さんは俺の服の袖を摘んだ。
「……王子様」
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次回でもよろしくお願いします。
デート編ですね。結構尺取そうです。




