第四幕 相克相生運命デュアルLINE 7
四幕の七話です。よろしくお願いします。
さて、その日は始まりからしておかしかった。
というか昨日の兄の去り際の一言。「お前、生徒会長になれ」の一件は全く解決などしていなかったのだから、前日の異常を引き継いでいると言うべきか。
朝、寝ぼけ眼を擦り一階のリビングに朝食を求めて降りた俺をその視界に認めると、兄さんは開口一番それをまた言った。
「生徒会長にならないか」
「……本気だったのかよ、それ」
「俺はいつだって本気だったさ。そして、今だってな」
笑みを浮かべて言う兄は、まるで既に俺が生徒会長に立候補すること、どころか、当選することまでわかりきっていると言わんばかりだ。ある種超然としているとすら形容できるこの堂に入った兄こそ普段の兄だから、常の兄に戻ったという意味では素直に喜ばしく思えた。けれど、こういう兄の言うことは大抵実現する。感情の機微には若干疎いが、そうでなければ聡いことこの上ない兄だ。俺は時々意固地になって、なけなしの反骨精神を振り絞るが、その反抗が身を結んだことは未だない。
「俺がやるわけないだろう」
「まあ、そう言わずに。お前にも、損のない話だと思うぞ」
「……どこがだよ」
「将来的に、な。内申点は上げておくに越したことはない」
「一般論だろ、そんなの」
今更そんなことで俺に生徒会長なんてものを頼むとは思えなかった。
「まあ、説明が難しいんだがな。そんな気がするんだ。お前にとって、大きな意味を持つ。遠い将来とか、そんなんじゃなく、近い未来においてな」
……ここまで押しの強い兄は、初めて見たかもしれない。どこか超然としていながらも、最終的な決断は相手に委ね、促すのが兄のやり方だった。それが、どうしたというのか?
どうにも奇妙だった。この兄にすら予測のつかない何かがあるというのだろうか。
とはいえ、だ。
「俺の運命は、もう揺らがないさ」
生徒会長? この、俺が? なんど再考したとて、有り得るものではない。
俺が会長足るに相応しくない。無論それは大前提としてある。
しかし、その大前提の前の前。今の俺という存在が何を求めるか。それはつまり、睦美さんという人の為に何ができるかという一点に尽きた。その思いは多数の人に向けられるものではなく、一人の愛する人に向けてこそ真価を発揮できる(と思う)のだ。
だから、余計なことにかまけて睦美さんを疎かにしてはならない。
俺の決意は堅かった。しかし、この時の俺は、兄という超人を見縊っていたのだ。
「まったく、本当に、お前は彼女が好きなんだな」
そういう兄は、普段通りの穏やかな笑みを浮かべていた。やっと諦めたかと胸を撫で下ろした時、スマホがバイブレーション。
《天津睦美だな》
という、俺以外には聞こえないはずの言葉が添えられた通知に、俺は思わず視線を寝衣のポケットのスマホに落とした。次いで兄を見ると、兄は整った顎でスマホを指した。どうやら、一旦は解放してくれるらしい。
メシア足る睦美さんに感謝しながらスマホを取り出し、兄に背を向けた。
そして、表示されたメッセージを見て、俺の動きと思考は数秒止まった。
《馬鹿みたいな生徒会長、ボクは素敵だと思うよ》
ハッとして兄を見ると、兄は笑んで言った。
「気は変わったか?」
この瞬間、俺は全てを悟った。昨日俺が断った時点で、兄は今朝に向けて動いていたのだ、と。
「……いいだろう。睦美さんが望むなら、是非もない」
彼女が望む馬鹿に。彼女が俺を見て、また馬鹿だと笑うように。
ここに、進退は窮まった。
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