第四幕 相克相生運命デュアルLINE 5
四幕五話ですね、よろしくお願いします。
「兄さん、女子ってデートで何したら喜ぶんだ?」
時刻は夜9時。場所は我が楽園、我が自室。
そこで、兄と対戦アクションゲームに興じながら、俺は問うていた。
プレイしているのは人気シリーズの新作で、八人までが同時にプレイできるものだが、現在は兄弟による一騎討ちの最中だ。
俺の突然の一言に、兄は面食らってから一頻り笑い、涙を湛えて言った。
「そうさなあ。っと、いや、俺のサンプルなんてつぼみくらいだから参考になるかは、わからないぞ」
ゲームの際、身体を揺らしながらプレイする質の兄は、例によってまるでジェットコースターに乗っているかのような挙動の最中に答える。
ゲームセンスのないやつの典型なくせに、この兄ときたら器用さだけで常に俺を負かしてくるのだからたまらない。
さて、肝心の答えの方だが、考えてみれば当然だった。我ら兄弟ときたら女子なんてつぼみしかいないとでも思っているのかというくらい、つぼみ一筋の人生だったのだから。
だから、あのモテようでつぼみ以外の女子を知らないなどということになるのだ。
いや、つぼみすら知らないのが俺ではあるが。
……自嘲も大概にしておくが、淀見 つぼみという女は、とにかく常軌を逸する。常に場を俯瞰して楽しむ癖を持った、魔性の女なのだ。
最近は流石に形を潜めていたが、元来のつぼみに戻れば、我ら兄弟、特に恋人となった兄が振り回される日々が帰ってくるのだろう。
つぼみが喜ぶようなことを他の女の子に当てはめて考えてはいけない。
花にやるのはガソリンか灯油か、くらいには規格外でとんちきな話なのだ。
「アレを基準にされたらたまらん」
「だろ? 訊く相手を、間違ってるんじゃ、ないか。っと、俺の勝ちだな」
「……ずるいぞ、そうやって人の機微をつく」
「ふむ。なら、やめるか?」
「冗談。俺は負けてない。今まではウォーミングアップだよ」
「なるほどな。よし、相手になろう」
負けっぱなしは癪だから、キャラクターを変えて当然のリトライ。
「さっきはコントローラーが不調だった。俺は負けてない」
「わかったわかった、と。というか、デートか。お前、付き合ったのか?」
ニマニマと気色悪い笑みを浮かべて兄が言う。……気色悪い笑みのくせに、造形が良過ぎて嫌味を感じない。気色悪い笑みが絵になる男などこの兄くらいだろう。
「……告白したわけじゃないからな、互い」
「なんでだ? 何か懸念があるのか」
「睦美さんは多分、並々ならぬものを抱えてる。それが何かはわからないが、それを除きたいんだ。そうして真っ新にしてから、互いを見つめ直したい」
「……なるほどな。嘘じゃないんだろうが、それを言うには、もう遅いんじゃないか」
使用キャラクターを選びながら、兄が言った。
……確かに、そうなのだ。兄の言葉は。
俺はもはやこの新たな恋心を偽ることはできない。
「お前、もう惚れてるだろ」
「……兄さん、変わったか?」
以前は、もう少し人の恋心に疎いというか、踏み込んでこないところがあった気がする。それは、互いの思い人が同じというのもあったろうが、単純にもっと鈍かったように思う。
「……この一月ちょっと。これほど無力感に苛まれたことはなかった。だから、多分ちょっと物の見方が変わったんだな。それに……」
「単純に、恋を知れば恋について聡くなるか。なるほど、道理だな」
「そうでもないさ。多分、お前たちの方が青春してるよ」
「よく言う。今日だってつぼみは兄さんを待っていたのに」
恋人が、自分の多忙を慮り共に帰る為に待ってくれるなどというのは、とてつもない青春ではないのか。
言おうとしたが、どうにも兄さんの顔は晴れなかった。
「……まあな……」
「歯切れが悪いな、喧嘩でもしたか? 全く、俺から奪っておいてなんて面だ」
自分でも、この言葉には驚いた。本当に、つぼみへの未練などないようなこの言葉には。この言葉を、冗談として笑いながら飛ばせたのは、本当に自分の恋が未来に向かっている証だ。
兄さんも、面食らってキャラクターを選ぶ手が止まっていた。
「……そうか、お前は、本当にあの娘に惚れているんだな」
しばらく溜めてから、今までで一番穏やかな笑みを浮かべながら兄さんは言った。
「そうだな、俺がしょげていたら、お前に悪いな」
「……そうだ。何やら知らんが、そんな様じゃ、敗北は近いな」
「抜かせ、愚弟」
すっかり普段通りの笑みで兄が言う。
そのまま、次のゲームが始まった。時だった。
ふと、そういえば、と枕につけて、兄がとんでもないことを宣ったのだ。
「お前、生徒会長にならないか」
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