第四幕 相克相生運命デュアルLINE 1
四幕の一話です。
よろしくお願いします。
『貴方が、世界を救う勇者様なのですか?』
『そう、ボクが世界を救う勇者だよ、お姫さま』
それは、幼少の劇。相反する二つの瓜が、対照的な役を演じている。
……その場には、調和があった。思い返せば、この時、ボクはボクを確立したのかもしれない。確立というには、余りに幼く、不確かなものだ。
二人を阻むものなどなにもなく、ただ幸福でいられた。二人の絆は永遠であると信じていた。
◆
10月の3日、水曜日。少し肌寒い朝。
ボク、天津 睦美は起床した。時計を見て確認すれば、時刻は9時。
時計の針が、歪んで見えた。一筋の涙が、頬を伝っていた。理由は明白だった。
「どうして、今になって、こんな夢……」
今のボクを形作った、幼少の頃の劇の夢。以前、飛鳥君と出会う前は頻繁に見ていたが、出会ってからは形を潜めていたというのに。
後になって思えば、これはきっと。
ボクの運命の一つの決着を、予期していたのだ。
◆
10月3日の昼だ。季節は秋へと転じ、だんだんと熱が引いていく。前月が茹だる暑さだったことを思えば、なんと快適な涼しさだろうか。
あのあかね祭から、5日が経過した。我が二年四組も、祭りの熱はどこへやら。普段通りのだらけっぷりを披露しつつある。
……一点を除けば。
「なあ、どうやって知り合ったんだよ、あんな可愛い子」
とは、國弘の言だ。いや、クラスのみんな。……どころか学校中のみんなの言葉と言ってよかった。
少しすれば飽きるだろうとたかを括っていたが、どうやらそこまで甘くはないらしい。
事情が事情なので事細かに話すことができないから歯止めも掛けられない。ヒートアップすればつぼみが介入してお開きにしてくれるが、ある程度までは、つぼみはこちらをみて笑うばかりで手を貸してくれない。
つまりは、熱が冷めるのを待つしかない訳だった。
苦難を終えて、ようやく、放課後を迎えた。皆が帰り支度をする中、俺はぐでっと机に伏せている。
「帰らないの、飛鳥?」
顔にいやらしい笑みを貼り付けたつぼみが言った。多分、仕返しなのだろう。実際、睦美さんの件については全面的に俺に非がある。つぼみや兄さんにだけでも睦美さんのことを打ち明けておけばこれ程大事にはならなかったはずだし、何より、俺の為に色々動いてくれていた二人に対して不誠実だから。たしかに二人のしたことはお節介だし傷口に塩を塗るようなものだったが、それでも嬉しく思う自分もいたのだ。
三人の中から二人ができて。それでも二人が三人でいることを選んでくれた。そんな二人の行動は酷く痛かったが、それ以上に暖かかったのだから。
とはいえ、俺が放課後を迎えても帰り支度を整えないのはそういった理由ではない。
「……まだ、祭気分が抜けなくてな」
「呆れた。馬鹿というより腑抜けね、腑抜け」
「……お前には話したろう。睦美さんのこと」
あかね祭の次の日、振り替えで休日だった月曜日、俺はつぼみに呼び出され、こってり絞られてた。流石にアプリがなんだは言っていないが、話せる範囲でつぼみと兄さんには話してある。
「腑と一緒に骨も抜かれたと。まったく、だらしのない」
「お前が平然としすぎなんだよ」
「ふむ。まあ、たしかにそうかも」
つぼみは、幼少の頃からの恋が叶ったというのにあまり変化の見られなかった。俺との蟠りの無くなった兄はといえば、はしゃぎっぱなしなのに。
「というか、否定しなかったね?」
自分のことなど些事だと言わんばかりに、つぼみが端正な顔を少し寄せて屈みながら言った。多分、ちょっと前の俺ならドギマギしてそれを隠すのに必死だったろう。
「……実際。俺は骨抜きなんだろうよ。今の俺は脳無しだよ。腑も骨も脳も全部持っていかれた」
「惚気てる割には、さえない顔」
「そりゃそうだろ。別に付き合ってるわけじゃないんだ」
「告白すればいいじゃない。まどろっこしい。アレで振るなんてありえないだろうし」
ため息混じりのつぼみの言葉を否定する材料を、俺は持ち合わせていない。けれど。
「まだ、その時じゃない。俺たちには、問題が多すぎる」
「……」
「どうした?」
「ううん。飛鳥の言う俺たちの中に私はいないんだなって思うと、なんか、寂しいなって。それだけ」
……最初に俺を省いたのはお前だろ、とつい言いそうになった。
けれど、つぼみの言うことはわかる。三人はいつも一緒だった。家族ぐるみの付き合いの幼馴染と言うのは簡単だが、行事毎に顔を突き合わせ、合同で事をなす程に親子共に仲のいい男女の幼馴染など果たして他にあるだろうか?
そんな三人が、ついに離れ離れになるのか。そう思うと、たしかに物悲しい気持ちになる。
「ごめんね、話逸れちゃった。で、問題っていうのは」
つぼみが強引に話題を戻した。あの話を続けても空気が重くなる一方だから、かなり助かる。とはいえ、それはそれで向き合わなくてはいけない問題ではあったが。
「……俺も知らないんだよな」
睦美さんの状況。
憶測の種になるようなものはいくつかある。彼女の家の異様。あとは……。
「かずき……」
そう。その名前。布団に篭る睦美さんがつぶやいたその名前だ。
「それ、男の名前?」
「わからん」
「なんにせよ、そのかずき君が鍵な訳だ」
「多分、そうなんだろうな」
睦美さんがその名前を口に出した時。彼女は異様に怯えていた。良い関係の人物とはとても思えない。
「……」
これは、天津 睦美という少女の深部だ。これに触れるということは、本当に後に退けなくなるということ。
けど。
ここで迷う俺では、もうない。
何せ俺は、彼女を好いているのだから。そう、言えるようになったのだから。
そんなお花畑な思考こそは、馬鹿の本懐だろう。
「じゃあ、帰るか」
「私は要を待ってるわ」
「今日は生徒会だったか?」
「そうね。部活には顔は出さないと思う」
「生徒会選が近いものな」
先の9月末に祭りを終えたこの吉川東高校だが、気は抜けない。この10月というのはえらく行事の多い月である。あかね祭から長く間をおかずに、二年の修学旅行、中間テスト、生徒会選があるのだ。とはいえ、修学旅行以外はこの愚物には関係のない話であるし、修学旅行も結構どうでもいいが。
ただ、生徒会選に思うところはある。兄が引退する。そこに、兄の影が遠のいていく実感が湧くのである。
……けれど。今向き合うべきは、やはり睦美さんのことだ。心の中で頬を叩いて、帰り支度を終えた。
「よし。今度こそ帰る。今は睦美さんのことを考えないと」
「さっきまでと顔つきがまるで違うじゃない。呆れた。ほんと、男って馬鹿ね」
「そうだよ。それに、気づいたのさ。馬鹿の頭ん中は、ずっとお祭りなんだよ」
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ストックが尽きてきたので、次からは隔日の更新にしたいと思います。
すみません……




