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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE
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第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE 8

三幕の八話ですね、よろしくお願いします。

 さて、あまりに、あまりに俺が場違いであると、深く理解している。しかし、俺が愚物である以上、それしきのことで舞台を降りたりはしない。


 俺が舞台に上がることで、歓声が収まっていく。まるで、俺を排斥しようとしているかのように。

 しかし、足を止めるには、至らない。今日の俺の覚悟は生憎その程度でどうにかなるものではなかった。

 客席には、睦美さんもいるのだ。なんであれ、俺は退かない。退くわけには、いかないのだ。俺が、過去を振り切り、未来へ向かうために。


 向こうを見れば、兄さんは笑っていた。大舞台を共にすることが嬉しいのだと朝言っていたから、その為だろうか。

 手に持ったテニスのラケットを、向かいの端にいる兄に向けた。


「さて、兄さんよ! 我ら兄弟の因縁、ここで清算してくれよう!」


 兄が更に笑みを深くしていった。


「望むところ!」

「っととお、どういうことだ!? まあ面白ければなんでもいいな! 学内の生徒ならこいつのことは知ってるだろうが、親御さんや学外からきた人のために言っておこう! こいつはこの曲芸師の実の弟、蓮城 飛鳥! 己は馬鹿であると言って憚らない阿呆だ! もちろん、テニスの経験なんてない!」


 なんとも無責任に國弘が言い、その言葉を受け、会場がようやく俺を異物から、兄の弟へと認識を転じた。


 テニス部の部員達が、中継地点となっていた小型のトランポリンを片づけ、簡易型のテニスコートができあがった。通常使用するものよりは当然狭いが、俺にはあんまり関係ないことだ。部員達が去り際、俺に向かってサムズアップしてくれた。……なんとも沁みる心遣いである。単に、合掌の意味合いかもしれないが。


 そして、側からみればあまりに無謀な。先の兄の曲芸を遥かに超える馬鹿げたショーが幕を開ける。


「ええっと、ルールは一セット先取したほうが勝ち! 尺が足りないから許してくれー!」


 國弘が、テニス部員からルールの記された紙を受け取る小芝居を挟みながら解説した。


 さて。実際のところ、まともにやった場合に勝機というのはまずない。生き馬の目を抜くが如き速度で針の穴に糸を通す正確無比のショットを放つ兄に敵う道理はない。壇上ではバウンドの仕方も違うだろうが、そういったイレギュラーへの対処こそ、あの奇天烈な兄の本領なのだから。


 誰しもが予想した通り、兄のショットを俺に返す術はない。瞬く間に二点を取られた。


 ……加減はするなと言いはしたが、これほどか。テニスなど碌にしない俺ですらわかる。アレは、神童だ。


 しかし、誰が、これはまともなテニスと言ったろうか?


 さて、正念場だ。ここからが、真に俺の愚骨を試すのだ。



「飛鳥君……」


 彼が何をしようとしているのか、わからない。これでは、単なる公開処刑も同然だ。目を背けたくなってくるが、しかし飛鳥君は笑っている。

 飛鳥君がボクに見せたいもの。それが単なる公開処刑に終わるはずはない。


 しかし……どうするというのだろう?


 手に汗握りながら見つめていると、壇上の飛鳥君が言った。


「なかなかやるな! しかし、これならどうか!」


 言ってから、一端脇にはけた飛鳥君が持ってきたのは、隣の晩御飯に突撃する時に持ってるあのしゃもじを悠に超えるサイズの超巨大テニスラケットだった。


「……ふふ」


 これには、ショットを放つお兄さんの手元が狂ったか、ボールは巨大ラケットの端の方に吸い込まれ、お兄さんの側へ跳ね返り、とても返しようのないところへと落ちていった。


 会場に笑いが起こった。そして、趣旨を理解したのだ。正しく、眼前に展開されるこれは阿呆テニス。道理などは、何もないのだと。


「飛鳥君……」


 なんだか、ワクワクしてきた。果たして、次は何が起こるというのか。全く想像ができない。

 ……楽しい。純粋に、そう思っていた。



 眼前に巨大ラケットを見据える要は、思わず吹き出しながら回想していた。


 そう、あれは一週間前。弟にどう声をかけたものか迷っていた夜のことだった。夕飯を食べ終え、風呂に入り。自室で寝転びながら、弟のことを考えていた時。部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ドアを開けたのは、飛鳥だった。


「……兄さん。頼みがあるんだ」


 弟からの頼み事など、平時でも滅多にないことだ。だというのに、この状況でそんなことがあるのか。訝しんだ要だったが、弟から接触を図ってくれたのが嬉しくて、余計なことは吹き飛んでいた。


「な、なんだ? 内容次第だが、俺にできることなら、手を尽くすぞ」


 ぎこちなく返した要に、弟は言ったのだ。


「あかね祭実行委員として、俺はあかね祭を成功に導く、義務がある。だから、その、手を貸してくれないか」

「あ、ああ、もちろん、もちろんだ。そんなことでいいなら、いくらだって手を貸してやる!」

「いや、ちょっとアイデアを出してくれるだけでいいんだ。全部兄さんに任せっきりじゃ、意味がないからな」

「そ、そうか。そうだな、もっともだ」


 そして、もう一つ、と付け加えてから、飛鳥は言った。


「後夜祭のレクリエーションを、俺に少しくれ」


 ……と、そうして、この場ができあがったわけである。詰めていくうちに、兄弟でテニスをすると飛鳥は言った。そして、俺が勝つ、と。


 その結果がまさかこんなものとは予想だにしていなかったが、心底から愉快だった。


 あらゆる蟠りが、今日無くなったようだった。飛鳥は未来に目を向け、そうすることでつぼみとの仲も進展する。そうなれば、弟とは、以前のように接することができる。

 これで、弟との仲は元に戻る。要は信じていた。そう、信じていたのだ。


読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。


唐突ですが、睦美の声のイメージは加隈亜衣さんです。

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