第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE 6
三幕の6話ですね、よろしくお願いします。
一通りの出し物を回り尽くすと時は過ぎ、時刻は3時。そろそろ、時間だろう。
「そろそろ、クラスに戻ろう」
「当番があるの?」
「そういうわけではないが、直に始まるからな」
「どういうこと?」
「それは、お楽しみだ」
口に人差し指を当て、シー、のジェスチャーをすると、睦美さんは笑って頷いた。
「おい、飛鳥。お前、どういうことだよ」
2時を回った辺りからだろうか。廊下を歩いていると、しきりにそんな問いを投げられた。誰ともなく投げられた。どうやら、学内に名を轟かす馬鹿野郎がとんでもない美少女を引っ提げて闊歩しているぞ、という噂がたちまち広まったらしいのだ。さもありなん。改めて見直しても、この少女のなんと美麗なことか。神話の登場人物かと見紛う程だ。そして、傍にあるのが凡夫凡庸を極めた馬鹿とくれば、何事かと煙も立つというものだ。そもそもいろんなクラスを連れ回していたのだから、火をつけて回っているようなものだったのである。
ある時は不敵に笑い、ある時は軽くあしらい。そうして問いの嵐を掻い潜りながら、ようやっと自分のクラスにたどり着いた。その間、睦美さんの表情は千変万化でとても引き込まれた。
自分のクラスに着いても、嵐は過ぎ去ることはなかった。むしろ、我がクラスこそ、天高く伸びる竜巻の中心だったのである。
祭りも、後夜祭に向け、終わる兆候を見せつつある。客足はようやくまばらになり始め、給仕の女子達も興味津々と言った感じで俺に向かう。
なぜ、二人は知り合ったのか? どんな関係なのか? なぜ、なぜ、なぜ? そんな問いを数十同時に投げつけられた。それは、クラスメイトの総数とほぼ同等だった。
「いろいろあったんだ、いろいろな」
学内に轟く大失恋で哀れまれる立場にあった俺は、一転、嫉妬と尊奉の念とを向けられたのだ。
「んだよ、ケチくせーの。どうせさっきだって湧く俺らを見て笑ってたんだろ、馴れ初めくらい聞いたって良いじゃねえか」
言うのは、悪友の乱麻 國弘だ。その声はどこか憮然としているが、無理からぬことだろう。俺が逆の立場であってもそう思う。
学園のマドンナに振られておきながら、間もなく勝るとも劣らぬ(アルビノであるのを加味すれば睦美の方が目を引きすらする)美貌の人を引っ提げているというのだから、問いの百や千は覚悟して然るべきなのだろう。
俺としてもその問いに答えたいのはやまやまだが、そうすると睦美さんの抱えるものに触れざるを得ない。
悪いとは思うが、お茶を濁す以外になかった。
睦美さんはワタワタと居心地が悪そうにしている。
「やめなさい、彼女、困ってるじゃない。この馬鹿を糾弾するのは、また後でいいでしょう。ほら、飛鳥もなに突っ立ってるの。あなたのお客様でしょ」
ここで助け舟を出してくれたのは、つぼみだった。朝も世話になった。彼女には頭が上がらない。
手をパン! と叩いてから、つぼみが続ける。
「各自、早く持ち場に戻りなさい。客足もまばらとはいえ、まだ祭りは終わっていないのよ」
その言葉を受け、皆が渋々持ち場に戻っていった。
「……えっと」
「気にするな。実際、俺に非があるからな」
言ってから、睦美さんを空いている席に促した。向き合う形で、俺も座り込む。
「大丈夫なの?」
少なくとも、今は。そんなことを返そうとしたが、睦美さんの罪悪感を突くことはない。
「朝聞いたろ。俺はそれなりに頑張った。それなりに休んでも文句は言われないさ」
実際昨日は他のクラスメイトの倍くらいは働いていたのだし、一方的に糾弾されることもないだろう。
「そっか、飛鳥君、偉いね」
「やめてくれ、くすぐったい。さて、何か食べるか。といっても、団子しかないが」
「ボク、みたらし食べたいな」
「わかった」
みたらしの他に、あん二つ、草一つをオーダー。注文をとってくれたのは波江さんで、去り際にサムズアップをサービスしてくれた。
……勘違いではあるが、それを勘違いにしない為の今日だったから、苦笑いして見送るしかなかった。
「美味しいね。今日回った中で一番」
「それは嬉しいことを言うな。兄さんが聞いたら燃えそうだ」
「ふふ、カレーも美味しかったけどね。ボクはこっちの方が好きだよ」
判官贔屓とかではなく、心からそう言ってくれているのがわかった。
今までの俺の行動は、無駄ではなかったのだ。そう思うと、涙を溢してしまいそうになる。
そうして暫く、二人で今日を振り返り始めた。兄のカレー。トンチキなお化け屋敷。他にも、色々。
けど、睦美さんは、この団子屋を頻りに褒めてくれた。
「衣装も可愛いし、内装も綺麗。出てくるものは美味しい。すごいよ、飛鳥君」
「みんなが頑張ったから」
「それでも、指揮を取ったのは飛鳥君なんでしょう? すごいよ、飛鳥君は」
「やめてくれ、くすぐったい」
報われた思いがして、涙が込み上げてきそうになった。男として、こんなところで涙など流したくはなかったが、なかなかどうして若干ダムは決壊してしまったらしい。
「ありがとうね。飛鳥君」
「……わざとだろ、もう」
睦美さんは微笑んでから、ハンカチで目元を拭ってくれた。後々思い返せばとても恥ずかしいことなのだろう。お互いに。けれど、今はどうでもよかった。
「けど、意外だったな。飛鳥君、自分のクラスになにか仕込むんじゃないかって思ってた」
「俺とて、考えないではなかった」
すっかり涙もひいたので、平静を務めて装い返す。
実際、それはアプリとも話したことだ。愚物の営む団子屋とは、何ぞや? と。ただ、それはクラスを巻き込むことだ。少なからず祭りに精を出してくれるみんなの成果物に、俺がちょちょいと馬鹿のスパイスをまぶして何が得られるだろう。そう考えると、単純にクオリティの追求こそ、一番の誠意の見せ方ではないか。そう考えた訳である。
その旨を、睦美さんに伝えると、
「……そっか。ボク、そういうのいいと思う」
と、極上の笑みを浮かべながら言ってくれた。
……ほんとうに、俺にはもったいないくらいの人だ。顔が、とかでなく、その為人が。……顔もだけど。
団子を頬張りながら、睦美さんが続ける。
「ロシアンルーレット団子とかありそうだなあってちょっと思ってたよ」
「まあ、一瞬、過ぎらないではなかったよ」
それから、団子を肴に話し込んだ。きっと、あとで揶揄われるし、追及もされるだろうが、やはりそんなことは気にならなかった。
ちゃんと、向き合えている。そう実感できた。
訥々と、けれどしっかりと、お互いに言葉を交わした。今日という日を噛み締めるように。
そうしていると、睦美さんの言葉に、統括の色が見え始めた。
しかし、そうではない。
「……祭りは、まだ終わってない」
「……ああ、後夜祭、だっけ?」
「そうだ」
ここで、チャイムが鳴った。出店を終え、後夜祭へと移りゆく合図だ。
団子を頬張ってから、俺は言った。
「祭りは、まだ終わっていない」
そして、ここからが、真の正念場でもある。
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