第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE 5
三幕五話です、よろしくお願いします。
「やっぱり美味いな、兄さんのカレー」
後から聞いた話だが、お兄さんのカレーは蓮城家の名物であり、あのつぼみさんをたびたび招いては振る舞ったりもしている自信作らしい。
「うん、すっごくおいしかった! 隠し味とかあるのかなあ」
「曰く、愛情、だそうだ」
飛鳥君が、食べ終わると早々クラスを出たがったので、お兄さんが忙しそうになると好機とばかりに出ていった。……ヒューヒュー! というヤジは受けながら。
「……悪いな、あんな兄さんで」
「ううん、素敵なお兄さんだね」
本当に弟思いなのだと、すぐにわかった。あの大して面白くないジョークを飛ばしてから、少し会話をした後に作業に戻ったが、あの後ろ姿は見間違いでなければ泣いていたように見られたからだ。
……ところで。
「……飛鳥君、手……」
「あ、ああ、すまない」
クラスを出る際、飛鳥君は急いでいたからだろう。ボクの手は飛鳥君にがっしと握られていた。それから、ずっとそのままだったのだ。
飛鳥君が、慌てて手を離した。
……少し、もったいないことをしたかもしれないと思った。
「夢中だったから……」
悪戯をした子供のように罰の悪そうな表情で飛鳥君が言った。
「う、ううん。嫌だったわけじゃないんだよ。ただね……」
「ああ……すまない……」
廊下で通り過ぎる人たちが、皆カップルでも見るような目で微笑ましそうにしながら去っていくのだ。
顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
「……次、行くか」
飛鳥君に連れられ、いろいろなところを回った。クラス内に手抜き感あふれる滑り台を作ったクラス。ペットボトルのキャップでアートを作ったクラス。そのバリエーションは多岐に渡った。どれもが、学生の手抜きと学生の情熱に満ちていて、見ていてとても面白い。
暫く歩き回ると、お化け屋敷に着いた。
「ここのお化け屋敷はクソクオリティで勇名を馳せている。笑顔の絶えない、アットホームな感じがウリらしい」
入ってみると、評判通りのひょうきんなお化け達が次々と現れた。小豆洗いは、あん団子(飛鳥君のクラスのらしい)を手に手に持ちながら、美味い美味いとこちらに目もくれずにあん団子を貪っていた。小豆要素はすり潰してあんこになったらしい。傘お化けは両足が見えており、一見すればただ傘をさした青年にしか見えない。挙げ句の果てにはゾンビに襲われる一般人なんてのまでいる始末で、とても人を驚かせようなんて気概は感じられない。
もしかしたら、驚いて抱きついてキャ! みたいな定番のイベントに発展するかと思っていたら、なんとも愉快な顛末に少し拍子抜けした。「あんな道化にはなりたくない」とは飛鳥君の言葉で、なりたい馬鹿は見えずともなりたくない馬鹿像は明瞭なようだ。
「さて、次はどうするか」
泣く子も笑うお化け屋敷を出て話していると、演劇部が体育館で劇をするという看板が見えた。
あれを逃す手はない。
こうして学校を歩き回っていると、楽しさと同時に、悲壮感に似た感情が起こる。学校。ボクの日常から消えたもの。失った一年の重みをひしひしと感じた。
きっと、帰ったらこの悲壮感に打ちひしがれることだろう。だけど。いや、だからこそ。
「アレ行こう! 面白そう!」
今は、楽しもうと思った。
隣にいる人が、願うように。そして、ボク自身の願いでもあるように。
そして、そんなくだらない考えを吹き飛ばすほどに、楽しいのだ。
この人と、いるのは。
食べ歩きも、よくわからないレクリエーション達も、面白かった。しかし、それらをとても面白く思った理由とは、傍にこの少年が居たからに他ならない。
きっと、観劇も、とても楽しいものになるだろう。
一般的観点からすれば、深い付き合いとは言えないのに、なぜボクはこうも彼に心を開いているのか?
……今この胸に湧く感情はなんなのか。いや、なぜなのか。
理屈をつけようとすれば、いくらでもできる。
しかし、それは理屈の上に成り立つものではないのだ。
一介の若人としては、どう思うべきか?
……こんな時、こんな相手を、どんな言葉で表そうか。
そんなものは、決まっている。
忌むべき言葉は、今でも怖い。怖いけど、好き。怖いのと同じくらい、好きになっていた。
◆
「良かった、良かったなあ、飛鳥……」
「気持ちはわかるけどやめなよ要。ここで泣くのは流石にキモい」
「いや、だってな、だってなあ……」
あかね祭も最中。時刻は2時。場所は廊下。要とつぼみは、盛況のクラスに惜しまれながらの休憩時間である。当然、二人は共にあかね祭を回っている。飛鳥を誘って三人で回ろうかとも話したが、流石に今そうできる心境ではなかった。
というのに弟ときたら、とんでもない美人さんを連れてきたのだ。
しかもなかなかいいカンジである。
「く、うう……」
「要、恥ずかしいからやめてよ。まったくもう」
「あ、ああ。そうだな。……でもなあ……うう」
「ああ、もう!」
まどろっこしい! とごちりながら、つぼみが要の手を取った。
途端、要は頬を紅潮させ、しどろもどろしながら、ブラコンから、恋する少年へと転じたのだった。
「な、な」
「さあ、行こう、要」
このつぼみの言葉に逆らう要ではない。つぼみにつれられるまま、あかね祭を回った。回る先々で、揶揄われたりしたが、それも要にとっては楽しかった。重荷が取れた気分だった。飛鳥がつぼみへの未練に決着を付けたのなら、兄弟の仲は元に戻るかもしれないし、つぼみとの仲もきっと進展するだろう。
「今日は、いい日だなあ」
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