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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE
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第三幕 愚物混沌祭典デステニーLINE 3

三幕三話です。よろしくお願いします。

開店後間もなく、我がクラスは前日同様盛況を迎えた。優秀な看板娘と、気の触れたプロモーション、そして、この俺のささやかな企画の甲斐あって、一般客も取り込み、前日を上回る売り上げを叩き出しつつあった。


「おい、飛鳥! みたか? 超可愛い娘がいるんだよ! ありゃうちのお姫様にも負けてねえぞ」


 裏方で調理……というか盛り付けをしていると、國弘が仕事そっちのけで話しかけてきた。


「それは、この団子よりも可愛いものか?」

「……お前ブレねえよなあ。つまみ食いとかしてねえよな?」

「できるものならしたいがな。生憎忙しいんだ。それどころではない」

「真面目だなーお前は。もうちょっと肩の力抜けよ。なに張り切ってんのかは知らねえけど」


 失恋を振り切る為だなどとは口が裂けても言えない。言ったらどれだけ笑われるかわかったものではない。いや、存外親身になってくれるかもしれないが、どちらにせよ俺のプライドはズタズタである。

 ……それに、間違いなく人生の大事だ。張り切り所を間違える気はない。


「まあ、ちょっと見てこいよ。すげー可愛いんだぜ。なんてのかな、ああいうの。えっと……アルビノ?」

「なんだと?」


 そういえば、もうそんな時間か。作業に夢中になって忘れていた。昼前くらいに赴くと言っていたか。


「注文は?」

「確か、あん団子、だったかな」

「わかった」


 パッと盛り付けると、表に向かう。一応男子も着物に袖を通してある。雰囲気は損なわない。


「は? お前が行くの?」

「悪いがな」

「ずりーぞ、お前」

「聞く耳持たん」


 表に出ると、給仕の女子陣の視線が突き刺さる。が、繁盛しているだけあって俺に構っている暇はないらしい。つぼみも、こちらに一瞥くれると、すぐ仕事に戻っていった。


 さて、内装を施したクラスの席にちょこんと座り、多忙極まる給仕の女子達や、他のお客様方の視線を、たびたび集めおどおどしているあの仙姿玉質の少女。この日の本においてあまりに異質な白磁の肌に、黄金の長髪と双眸。透き通るような透明感を纏う並はずれた美貌に、恥じらいの朱を差した少女は、当然、見覚えのあるあの人だ。

 俺の冬に突如現れた春の兆し。俺の……。


 こちらに気づくと、緊張に満ちた表情が一変し、ぱっと華やぐ抜群の笑みを浮かべた。

 若干足早になる俺が卓に近づくや、睦美さんが言う。


「学生さん、学生さん。茹で加減は、アンダンテ?」

「……どこからツッコめばいいんだ?」


 たじろぐ俺を見て、彼女は更に笑む。彼女もまた、心に悪童を飼う阿呆であるらしい。

 緊張が過ぎれば、真面目が引っ込んで悪童が顔を出す。そういう気分になるのは、よくわかる。今の俺自身、そうして組み上げられたと言っても過言ではないのだから。


「取り敢えず、これ」

「うん、ありがと。着物、似合ってる、よ。飛鳥君」


 頼まれたあん団子を卓に置く。遠慮がちだったので促すと、睦美さんは、頬が赤らんでいるのを隠すように美味しい、美味しいと頬張った。

 幼少から俺を振り回す一人の幼馴染は言った。「女の子は、甘いものが大好きなのだ」と。

 恥じらいからくるものもあるのだろうが、睦美さんも違わず、顔を綻ばせ、満面の笑みを浮かべている。俺の努力は無駄ではなかったのだと、目頭が熱くなる思いだった。


「よく、できてる。すごいね、飛鳥君。すごいね」

「……当然だ」


 水面下の紆余曲折は、ひとまずは表に出さずに置く。涙となって水面が下がり続け、洗いざらい晒してしまいそうだったから。こんな場で涙ながらのカミングアウトなど御免被る。


「今日はよろしくね、飛鳥君」


 純白の彼女のまっさらな美は、筆舌に尽くし難いものがあった。俺の拙い語彙では、彼女の美しさなど到底表しようもないが、最大限の努力をしてみようと思う。


 まず、彼女を見て抱く印象というのは、神々しい白だ。微塵の染みもない純白であるが、白紙というのではなく、丹念に白を塗り込んだ様な、人の温かみのある光の白。

 そんな白の上に、更に純白のワンピースに身を包み、屈託のない笑みを浮かべる様は、まるでアニメかゲームからヒロインが飛び出してきた様であり、そしてそんな虚構ゆえの美を歯牙にも掛けない輝きがあった。

 虚構のオリジナルこそ私である……そんな主張をしても、罷り通る様な神秘を有してもいる。

 全くもって、俺の身の回りには、俺に釣り合わぬ人物ばかりが集う。


「こちらこそ。ようこそ。吉川東高校、馬鹿どもの集いへ」

「うん、良きにはからって?」

「最善を尽くそう」


 しかし、前々から思っていたが、要所要所で冗談を言う人だ。纏う雰囲気は荘厳とすら言えるのに、内面に至ってはごくごく一般的な少女なのだろう。多分、本質的には冗談好きの女の子に違いない。なにが彼女を変化させるに至ったのか。それは気になるが、以前彼女から話すのを待つと決めたのだ。俺にできるのは、多分俺でいることだけだろう。


「盛況だね、飛鳥君」


 ふと、辺りを見回しながら睦美さんが言った。


「すごいよ」


 その声音からは、遠目にみえた緊張などは見られなかった。


「お褒めに預かり光栄だな。まあ、功績のいくらくらいが俺のものかは、考えないようにしてるが」


 言うと、睦美が忙しなく動くつぼみを見やった。


「悪魔みたいに可愛い娘、ね」

「……察しの通り、あれがうちの売れ行きの秘訣だな。隠し味に優秀な兄でも足しておけば、この団子屋が出来上がる」


 謙遜ではない。実際、俺の有無などは些事だ。しかし、それでも全力を尽くすと決めた。ここで、寧ろ俺などいない方がいいのでは。などと宣えば、睦美さんにドヤされるのは必定だろう。


「そんなに自分を卑下することないのになあ」

「自分を愚物と見做して生きる。愚物の姿勢とは、愚かであることと、磊落であることが肝要だ。俺はその生き様をこそ生涯貫く柱としているが、それでも自分は大したことないという精神だけは忘れまいよ。愚物の自覚とは、自己否定と共にあるものだ」

「なら、ボクがその分肯定してあげる」


 半分冗談ではぐらかしたつもりだったが、帰ってきた言葉は真剣なものだった。眼前の白磁の肌に差したほのかな赤らみは、先よりも強い。しかし、折れないという信念もまた伴っている。


「な、なに、言ってるんだろうね、飛鳥君、冗談で言ってたのなんて、わかるのに。けど、けどね……」


 ……。その言葉は、一生添い遂げると宣誓したに等しいものだ。きっと、俺の方とてりんごみたく真っ赤になっているに違いなかった。


「飛鳥。その娘、知り合いなの?」


 睦美さんの言葉を遮って、つぼみが俺に言った。この忙しいのに何をしているのか、といった糾弾の眼差しが存分に込められていて、ちょっと唆る。

 辺りを見れば、女子陣どころか、男子達まで調理場から此方を覗き見る始末である。

 いや、当然だが。


「……話せば長くなるが」


 魔法のアプリなんてトンチキな話を抜きにしたとしても、トンチキな要素で構成された繋がりだ。戦時下の検閲された書物並みに要領の得られない話になるだろう。


「ならいいよ、私、忙しいんだもの。ふーん、へえ、私、知らなかったな。飛鳥にそんなに綺麗な知り合いがいたなんて」


 ……若干の怒りも感じられたが、それもまた当然だろう。つぼみにしてみれば、自分と彼氏の気遣いはなんだったのかという話だ。知らぬ間に知り合った美人にデレデレしているのをむざむざと見せつけられれば、それは怒りたくもなる。ましてや、今は忙しいのだ。


 睦美さんは、不穏な雰囲気を感じたが、まだ話の全体図が見えないので口出しできないと言った様子だ。

 つぼみはムッとしながら、何を言おうかと、艶やかな唇に手を添えている。


 このつぼみは、なかなかに不穏なつぼみである。我ら蓮城兄弟は、このつぼみをラフレシア形態と呼んで恐れていた。以前このラフレシアが開花したことがある。それは、つぼみが大事にしている日記帳に、つぼみの気を引きたい男子が悪戯をした小5の時だ。たちまち流麗な黒髪が天を突くが如き怒りを顔に滲ませ、その男子の頬を引っ叩いたのである。発砲音みたいな快音を放つ平手を何度も放ち、皆に押さえられながらつぼみは言い放ったものだ。「死ね」と。


「ま、いいんじゃない」


 しかし、続いたつぼみの言葉は、想定外のものだった。


「交替の時間まではまだあるけど……まあ、飛鳥はよくやってたしね。早くその娘を案内してあげなさいな」

「いいのか?」

「まあ、蓮城君が頑張ってくれたから今こうしてられるんだしね。蓮城君も、楽しもうよ」


 そんな泣ける台詞を言ってくれたのは、ホームルームで可愛い服が着たいと言った波江さんだった。


「多少の早退くらいなんてことないくらい、蓮城君は頑張ってたもん。私たちだって頑張らないとね」

「ま、そういうことね。それはそれとして、その娘のことは、後でキッチリ話してもらうけど」

「ああ。無論だ」


 俺の言葉を聞いて満足気に頷くと、波江さんを仕事に戻らせてから、つぼみが此方の卓に近づいてくる。そのまま睦美さんを見据え、見定めるような視線と共に、問いを投げた。


「あなた、名前は?」

「……。天津 睦美だよ」

「そう。……飛鳥のこと、よろしくね、睦美さん」

「面倒をかけているのはボクだけど……。それでも、うん。力になれるように、頑張るよ」


 その言葉を聞いて、つぼみはまた頷いてから、俺の背をパンと叩いた。


「さ、行きなさい。後夜祭までには、戻ってくるのよ」

「ああ。わかってる」

「そう。なら、いいけど」


 言い終わったつぼみが、シッシッと手を払うので、一つ礼を述べてから、俺は睦美さんを連れて外に向かった。


「______________________」


去り際につぼみが何か呟いていたが、多分仕事のことだろうと思い、問いただすことはしなかった。裏にいる國弘達にも詫びを入れてから、教室の外に出た。


「さて、どこから回ろうか」

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。

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