第九幕 無要運命ダストLINE 13
九幕十三話です、よろしくお願いします。
これ消されたりしないかな……
「ん……しょ、背中、広いねえ」
「そ、う、だな?」
「力加減とか、どお?」
「いいと思う……」
「えへへ、そっか、なにかあったら言ってね」
風呂椅子に座る俺の後ろで、モゾモゾと背中を洗われている。たしか幼少の頃、つぼみと似たようなシチュになったことはあったが、無論分別のつかないガキの頃の話だ。
今とは訳が違う。
白磁の肌、均整の取れたスタイル、無類の美貌。それら全てをただ一つ水着のみで覆い、後ろで甲斐甲斐しく背中を流されている。……うん、考えるだけでおかしくなりそうだ。
さっきの睦美さんの言葉がリフレインする。『期待はしてた』、と。
……平時の睦美さんの厄介なのは、こういうところだと思う。ブレーキを相手に委ねているのだ。
コミュニケーションや愛情の欠如からくるそれらへの渇望と、俺への罪悪感と。……あと、恋情と。それらすべてない混ざった複雑怪奇なその心模様がこのような奇行に走らせたのだろう。
無論そんな睦美さんをとても愛おしく思いもするが、だからこそ挑発するような言動は程々にしてほしくもある。
……あの時の、怯えた顔が、怖いのだ。
……睦美さんにしてみれば、その怯えを超えるだけの勢いというのが必要なのかもしれない。そしてそれは少女の方から発揮するには面映いものなのだろう。だから、こんな誘い受けみたいな行動を取っている……のだと思う。
月初のあの出来事は、俺たち双方にかなり深く傷を残している。
ダブルデートにはしゃごうが、互いの家で過ごそうが、傷は癒えても消えてはくれない。
その傷が、ぶり返すことは、ほんとうにないのだろうか。
そんなことを考えずにはいられない。
……そして、だ。
大前提として、俺は男であり、こうも挑発されると、その、いろいろ危うい。
理性を欠いて組み伏せたりはしないが、そうしたくなるというだけでも問題なのだ。
ここまで来ておいて、という考えもあるのだろうが、やはり、あの苦しみに満ちた顔を見ていると、安易な行動は取れない。
悶々としながらも、なんとか平成を取り繕っていると、
「……胸で洗ったりした方がいいのかな」
などととんでもないことを抜かす。
「そ、そういうのはまだ早い!」
「でも男の夢だってネットで」
「夢だから早いんだって、簡単に実現したら味気ないだろ? 焦らなくていいんだ。急がなくていい。だから、あんまり無理を」
しなくても、いい。そんなふうに続けるつもりだったが、その先を遮られた。
「……勘違いしてる。ボク、無理なんてしてない。別の話だよ」
ピッタリと、その胸も、顔も背中に貼り付け、両腕を胸板の前で組まれる……抱きしめられる。
水着で覆いきれていない部分の感触がダイレクトに伝わってくる。
期せずしてボディソープがローション代わりになってしまっている。……あるいは、彼女に取っては想定内だったりするのか。
「あの時、怖かったのはね。……拒んじゃったのはね、一年前のことが、フラッシュバックしてきちゃったからで、飛鳥君が嫌な訳じゃないんだよ。前も言ったけど、ほんとのこと」
「……わからない。結局そうなったら、また怖がらせるってことじゃないのか」
「……そうかも」
「だったら!」
「だからだよ」
強く、睦美さんが言う。
「……わかってたことなんだ、ほんとうは」
「……どういうことだ?」
「……一回、ボクの意思なんて関係ないくらいめちゃくちゃにして上書きしてくれたら。きっと、もう大丈夫になるから」
「そ、んなの」
「わかってる。飛鳥君はそんなことしないよね。でも、それでもそうして欲しいんだ。それに、今回は、ボクも心の準備ができてるよ。あの時とは、違うから」
そういうと、睦美さんは体を俺から離し、丁寧に丁寧に、俺の背中を洗い始めた。
「……だから、飛鳥君も、準備して。クリスマスプレゼントに、飛鳥君をちょうだい」
それだけ告げると、睦美さんは背中を流すのに専念した。
その顔は、伺えない。鏡に映るのは、俺の顔と。
屹立する息子を両腿で押さえつける馬鹿だけだった。
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