第九幕 無要運命ダストLINE 12
九幕十二話です、宜しくおねがいします。
すみません曜日感覚狂ってました……
俺がここに来てから二時間が経過した十六時である。夜の闇の訪れは、否が応にもその時を連想させる。
空が薄暗くなるにつれ、睦美さんの顔が赤くなっている気がするのは、多分気のせいではないだろう。
……恐怖でなく、赤面。それだけでも、大きな意味がある。無論、その時になるまでわかったものではないにしても、だ。
前回のあの経験を踏まえると、睦美さんのその顔を見ても興奮するだけとはいかない。
あの怯えた顔は、二度と見たくないものだ。
と、ソファの上、で睦美さんに膝枕からの耳掻きという至上のコンボをくらいながら思う。……なんと格好がつかない姿勢だろう。
まあ、男の夢、その一つの形である。全力で満喫せねば勿体無いというものだろう。
初めてではないが、至福のひと時であると断ずる。
「あ、おっきいの取れましたねえ」
「……え、マジか。掃除してきたんだけどな」
「見る?」
「いや、遠慮しておく。……なんか不公平だな、交代するか」
「大丈夫だよ、女の子に耳垢は存在しないのだ」
「んなわけあるか。昭和のアイドルか」
「……変態」
「おかしくないか?」
「もう、黙ってされるがままになりなよ」
もう片方の耳を晒せと促され、逆らわずに左耳を差し出した。
「素直でよろしい」
言うと、鼻歌混じりに耳をコショコショされる。ゾワゾワするが、心地よい。
胎内で微睡んでいるような、そんな気分になる。
急所を晒しているも同然なのに、こんなにも落ち着くのはやはり信頼しているということなのだろうか。
「お夕飯、何がいい?」
「うーん、選択肢は?」
「ガムご飯か、ハンバーグとか?」
「……逆に怖いもの見たさで頼んでみたくなるようなのを出さないでくれないか」
「おっけー」
「信じてるからな!?」
まあ、確認するまでもなく冗談だが。食べ物を粗末にする睦美さんではない。
そうしてしばらく耳掃除に勤しんだ睦美さんは、せかせか動いて夕飯の準備に乗り出した。
何か手伝うことはあるかと尋ねたのだが、ほとんど下準備は終わっているらしく、俺にできることは皿の用意くらいだった。
俺自身の不器用は重々承知しているが、だからと戦力外通告は不服である。まあ、なら、何ができるか示してみろと言われれば、お湯を沸かしてカップラーメンとか肉をお湯に潜らせてしゃぶしゃぶするくらいが関の山な俺は返す言葉を持たないが。
八面六臂の手際の良さでハンバーグ、コンソメスープを完成させると、まるでレストランのような盛り合わせで食卓に並べられた。
時間は六時。夕飯には少し早い気がしなくもないが、特に異議を挟むレベルではない。
「いただきます」
二人して合掌し、早めの夕飯にありつく。
うん、いまさら再確認するまでもないことではあるが、睦美さんはやはり料理が上手い。
ハンバーグを一口食べるだけで、自然と美味しいと溢れる。
あの兄におそらくは並ぶだろう。
「ま、当然でしょ」
こんなふうに調子に乗るのも当然なレベルで美味い。水を差すのも忘れて、夢中で食べ進めた。
この時、睦美さんが何か覚悟を決めるような顔をしていたのも、知らずに。
二度のおかわりの末、ようやっと腹が満たされた高校生は、
「ごちそうさまでした」
「うん、お粗末様です」
「やっぱり美味しいな」
「えへへ」
満面の笑みを浮かべながら、睦美さんが食器を片していく。
「皿洗いくらいは俺がやるよ」
「いいよお、お客さんなんだから」
「いつもそう言うが、けっこう居た堪れないんだ」
「うーん。じゃあ、お願いしようかな。……いい旦那さんになるね、飛鳥君」
「……いいお嫁さんの極地に言われると自信も湧くな」
二人して自爆しながら赤面するが、俺はなんとか台所をもぎ取り、皿洗いを始める。
料理は苦手だが、皿洗いはそれなりに得意だった。兄が料理を作る時は俺が皿洗い担当だから。
「じゃあ、ボクお風呂沸かしてくるね」
言うと睦美さんは、顔を真っ赤にしながら逃げるように風呂場に向かった。
赤面するのはわかるが、あそこまでか?
ちょっと不思議に思いながらも、俺はここでお風呂をもらうということにソワソワして細かいことに気が付かなかった。
うん、馬鹿だったと言える。
◆
お風呂をもらって、シャワーを浴びながらぼうっと風呂椅子に座り込んでいる。
この家でお風呂を貰うのは二回目だ。
初めて来た時、眠りこける睦美さんを見守った後、お風呂をもらったのだったか。
随分と昔のようにも、つい昨日のようにも思える。
色々あった。あれから、いろいろ。
その末の葛藤が、無論深刻なものであるとはいえ、ヤるヤらないなのは予想外極まる。
前はこの場で悶々としたものだが、今日はここが最後のフロンティアである。
精神を落ち着け、何を言われても格好良く返せるようにしなければ……。
と、考えていた時だった。
ガラガラガラ! と風呂場のドアが開き、ほっそりとした白い肢体が現れた。
唖然として声も出ない俺に、一応水着だけは纏った状態のその少女は言う。
「せ、背中、流すよ……?」
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