第九幕 無要運命ダストLINE 11
九幕11話です、よろしくお願いします。
クリスマスが本来どのような意味を持ったかなど、この日本においてはさほど意味を持たないことだ。
サンタクロースとキリストに如何な関係があるかなども知ったことではないが、それでも何か神聖なものであるという意識は、ある。
性夜などとくだらぬことを言う気はないにしても、そういった意識が今の俺にないかと問われれば、まあ、ある。
……多分に華月の所為だ。次会った時は気まずくなるくらい洗いざらい話してやる。
などとそんなことを考えながら、睦美さんの家、そのインターフォンの前に立つ俺は、真紅の衣装に身を包んでいる。
形から入るタイプであるという自覚はないが、そうせずにはいられなかったのだ。
真紅の衣装、純白の付け髭、真っ白いおっきな袋に荷物を詰めて肩に掛けたその姿は、まあ端的に述べてしまえばサンタクロースのコスプレということになる。
この家に入る時は今でもそうだが、インターフォンを押すのになんとも時間が掛かる。
心の準備とかいうのに慣れはないらしい。いや、違うか。今日に限っては、普段はあえて意識しないようにしていたことが脳裏に焼きついて離れない。
これは華月の所為で間違いない、うん。
『さっさとしろよ』
衣装の内ポケットから何やら響く声を無視して、八つほど深呼吸して、その後にまた六つほど繰り返し、ようやっとインターフォンを押した。
この俺の無謬の脳内シミュレーションでは、この後はこうなる。
ドタドタ駆け降りた睦美さんが玄関が開けた瞬間、とびきりのメリクリをくれてやり、その時の勢いがなんか後の方で上手いこと作用してどうにかなるのだ、完璧。
予想通りにドタドタと階段を駆け降りる音が外にまで響き、勢いよく玄関のドアが開け放たれる。
さて、一発かましてやろう。
「「メリークリスマス! ……あれ」」
この時、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしたのは、睦美さん。だけではなかった。
睦美さんの隣に華月がいたとか、そんなことでは無論ない。なら誰かとなると、それは俺で。なら何故かとなると、それは睦美さんが真紅の衣装を見に纏い、可愛く付け髭を蓄え、短いスカートですらりと伸びた脚をほんの少し隠してモジモジするミニスカサンタさんだったからなのだ!
お互い数瞬固まってから、苦笑し、それがだんだんと微笑に変わっていった。
「……メリークリスマス」
「うん、メリクリ」
そうして、ご近所さんから隠れるように、俺は睦美さんの家に転がり込んだ。
◆
ずるい。別に誰に責められるわけでもないのに言い訳を内心でしながら、俺はサンタ服のままリビングで睦美さんの淹れてくれたお茶を飲んでいる。美味い。
こんな野郎のサンタなどより睦美さんのサンタの方が価値があるに決まっている。見る部分など何もない、感想など、「サンタのコスプレじゃん」意外に引き出しようがない俺に比べて、睦美さんの愛らしさときたら、月とスッポンと形容してはスッポンに失礼なほどだ。
拝んでいてお金を払った方がいいのかと考えてしまうくらいに可愛い。有金全てに身ぐるみ剥がれても文句は言うまい。
月とスッポンポンになったとて、その価値はあろう。
単にとんでもない美貌と整ったスタイルなのもあるが、アルビノの肌に真紅の衣装の映えること。
この光景を独り占めしてしまうのは、人類にとって大きな損失なのではないか? といった感想を否定できない。いや、する気もないけど。
「今の睦美さんを戦場に置いたら多分戦争は止まるだろうな」
「どんな褒め言葉!? えへ、でも、ありがと。飛鳥君も、その、かっこいいよ」
字面だとコメントに困って苦笑しながら言っているようにも見えるかもしれないが、睦美さんは衣装に釣られたように頬を紅潮させている。
こんな見る価値もないコスプレに価値を見出してくれるとか、天使か何かか。サンタよりそっちの方が向いてるんじゃないか。
……いや、サンタのコスプレにかっこいいと言われてもそれはどうなんだといった感じだが。
「あ。クッキー焼いたけど、食べる?」
「頂こう」
言った睦美さんは、ミニスカをヒラヒラ揺らしながら台所にまた向かっていった。
……あの後ろ姿、すらりと伸びた脚は反則だろ、と、いけないと思いながらも、視界から消えるまでついぞ目を離せなかった。
……いかんいかんと、考える。
持ってきた白い袋に入った睦美さんへのプレゼント。あれをいつ渡すか。
普通ならもう渡していいとは思うのだが、まあ今日は普通ではないのだ。
……普通に、なるための日なのだ。
きっと、夜になってから渡して。その勢いのまま……みたいなことを睦美さんも考えている。だからお互いまだプレゼントの存在に触れないのだ。
白い大きなサンタの袋なんて真っ先に触れて然るべきである。
なら、俺も夜に渡すべきか。
今日は、知人の家に泊まると家族には言ってある。……バレバレなんだろうが。
だから、後ろの時間を気にする必要はない。
……まあ、今日は長いのだ。気長に探っていこう。
そうしないと、心臓が破裂してしまいそうだ。
華月の言葉がリフレインする。今日が童貞最後の日だと。
「はい、クッキー。けっこう上手く焼けたんだよ……飛鳥君?」
と、考えていると、睦美さんがクッキーを携えて戻ってきた。
「ああ、いや。……さっきは目のやり場に困っていたから」
「? ……あ、もう……えっち」
「わ、悪いとは思ってる」
「ま、まあ、期待もしてた、けど。面と向かって言われると困るよお」
プレゼント云々の思考を隠すためとか……いろいろ考えていたことが吹っ飛ぶような言葉を受け、どうにかするためにクッキーに手を伸ばした。
「……ほんとに美味いな」
サクサクとした食感、バターの風味と、甘さ。すべてが俺の好みに合わせて調節されている。まだ手をつけていないが、色合いから見て、チョコや抹茶のものもある。
照れ隠しで口に入れたが、いや、ほんとうに美味い。
手が止まらなくなった俺を見て、頬を赤くしながらも微笑して、
「まだまだあるから、好きなだけ食べてね」
クッキーを噛みながら頷くと、睦美さんは更に微笑んだ。
……睦美さんのことだ。俺の思考をどこまで読み取っているかわかったものではないが、俺のすべきは変わらない。
この笑顔を守ることであり、増やすことだ。
決意を新たに、クッキーを味わった。
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