第九幕 無要運命ダストLINE 10
九幕10話です、よろしくお願いします。
十二月、二十四日。色々な意味で勝負の日であるクリスマスの前日、イブである。
冬休みを翌日に控えているのに、授業は午後までびっしりだ。中学の時は長期休暇前は午前授業だったというのに、この吉高はそういったことがない。なんとも萎えることだが、クリスマスの空気が少しばかり心を寛容にさせる。
学校にも浮ついた雰囲気が漂い始め、お菓子を持ち合ったり、ちょっとだけしっとりしてるペアなどがそこかしこにいる。
睦美さんがここにいれば、俺とてイチャイチャ見せつけてやるというのに。
我ら兄弟と、その幼馴染は、確かに昔から遊ぶ時はいつでも一緒だったが、昼食を摂るのはそれぞれ学年の中のクラスの中でその性別に因ったグループの中でだった。
悪目立ちが過ぎるのだ。あの麗しき学園のマドンナたる初恋の麗人と昼食を毎日共にするなど。つぼみは「別にそれでも構わないけどね?」などと抜かしていたが、俺たち兄弟の身にもなってくれという話である。
そんなわけだから、昼休みの時ばかりは各々のクラスのグループで食事をとるのが、睦美さんと出会う前からの慣例だった。
しかし、今日という日は違った。
家族ぐるみの付き合いがあった俺たちは、クリスマスを常に共に過ごしてきた。だから、クリスマスプレゼントを渡す、なんてのは当日にやればよかった。
でも今年は、俺が睦美さんの元に赴く。それゆえに、今この時にプレゼントを渡してしまおう、と、閑散とした空き教室の中、昼休みを三人で迎えたわけである。
目の前二人の恋人同士のやりとりは勝手に当日にやってもらうとして、俺はさっさとつぼみに渡してしまおう。
これでも日頃世話になっている、これからもなるであろう幼馴染である。
今までも渡してきたものを引き続き渡すのは、浮気にはならないだろう。
「さっさと渡しておくか」
こういうのは、さらっと渡してしまうのが丸い。弁当を食べながら、何の拍子ということもなく手袋を取り出して押し付けた。
「丁重に扱えよ」
「手袋を? ……まあ、助かるわ、ありがと。それじゃ、私からも。はい、お饅頭」
「饅頭か、怖いな」
「ならいらない?」
「いる! いるって」
けっこう好きなやつだったので没収は地味に痛い。惨めに食い下がると溜飲が下がったか、得意げに笑みを浮かべてフリフリと手を振って、受け取ることを許された。
横にいる兄には例年通り板チョコをくれてやる。またこれかと苦笑いしながら少し眉を顰めるいつもの顔を笑い飛ばしてから、弁当に手をつける。
兄からのプレゼントは、今手をつけている弁当だ。そう聞くと気持ち悪く聞こえるが、兄はクリスマスに家族サービスとして家事を請け負う。その一環として、父や俺、自分の弁当を作っているのだ。だから、兄の歪んだ愛が……とかそういったものではない。
兄の料理は母のそれにこそ及ばないが、それでもかなり美味い。つぼみが料理をあまりしないのは、兄の方が上手いからである。せっかく作ったのに彼氏の方が手が込んだ美味しいものを作るのでは確かに嫌にもなる。つぼみの料理も不味いわけではなく、いや寧ろなかなか美味なのだが、兄が年季の割に上手すぎるのだ。
実際今の弁当もけっこう美味い。
……兄の料理を食べているなど、三代さんに言ったらどんな顔をするだろう。
というか日頃世話になっているし、この弁当を三代さんにあげてもよかったか。半分以上手をつけた今となっては後の祭りだが。
「用もすんだし、俺は教室に戻るか」
「だーめ。今日くらい一緒にいなさいな」
「いやイブだぞ」
「いいのよ、どうせ明日はずっと一緒だもの。ねえ?」
「だな。お前の話を聞かせろ、睦美さんとはどうなんだ」
「ウザい! いいだろそんなの」
「私に隠し事なんて、悲しいわ」
「お前はどうせ睦美さんから色々聞いてるだろ!」
「え、じゃあ知らないの俺だけ?」
「ほら、お兄ちゃん困ってるじゃない。慰めてあげないと」
「ほんとにウザいな、これ!」
泣き真似をする兄がキモすぎるので、極力視界に収めない為にちょっとだけ話した。
無論、睦美さんのトラウマとかには触れてないが。
「ふーん、じゃあまだヤってないの」
俺の話を聞いたつぼみがあっけらかんと言い放つと、俺たち兄弟は咽せに咽せる。
何を言っているのだこいつは。
「一計案じた身としては、面白くないね、だから面白いけど。いや、だから明日、って感じかな?」
「……お前やっぱ睦美さんから色々聞いた上で話してるだろ」
「あ、バレた?」
「あーあー、付き合ってられん。馬鹿みたいだ」
理屈を捏ねて弁当を掻き込み、合掌して立ち上がる。
「これ以上ここにいても碌なことにならん」
「明日、勝利報告期待してるよ」
「まあ、自然なことではあるよな、クリスマスだし」
……ここでお前らだってやることやってるわけじゃないだろと言い返したところで、不毛な争いに転じるだけだ。
溜め息を吐いて、まだ昼食中の二人に背を向けた。
「じゃあ、俺は生徒会室に行くから。お前らのせいなんだから引き止めるなよ」
生徒会長の座に就いたのも、隠すべきを暴かれたのも全部こいつらのせいなのだ。そう思うと無性に苛立ってくる。
それを生徒会の仕事にぶつけるしかないというのは、馬鹿らしいというよりは滑稽か。
「ま、頑張んなさいな」
つぼみの若干はんなりしたようなその言葉を受け、俺は生徒会室に向かった。
……頑張る。言われるまでもないことだ。
睦美さんが望むように。そして、俺が望むように。
明日は勝負の日である。
睦美さんのサンタになって、幸せでも届けにいってやろう。
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