第九幕 無要運命ダストLINE 9
九幕九話です、よろしくお願いします。
クリスマスを翌週土曜日に控える、木曜日。
その夜のことだった。飛鳥君におやすみした後だというのに、ボクは未だ横になっていない。
即ち、編み物をしているのだ。毛糸のマフラーである。
隈とか作りたくないし、早く寝て土曜日に備え、一番可愛いボクを見てもらいたいのだが、どうにもそうは言っていられない事情があった。
飛鳥君にするプレゼントは何がいいだろうと思い悩んだ末、手編みでマフラーを送ろうと思い至ったのが、先月末である。
編み物は初挑戦だったからなかなか手こずったけど、今では慣れた物で、鼻歌まじりでも勝手に手が動くようになった。最初の頃は、手に傷を作ってしまって飛鳥君に言い訳するのが大変だったのを思うと、うん、継続は力なり、である。
あんまり継続した引きこもり生活の引力を思えば、持続することがどれだけ大きな力を生み出すか理解できるというものだ。
『手編みのマフラーは良いが……やはりワンポイントだとてハートの刺繍は普段使いには厳しいものがあるのでは……?』
「いいの。そのために普段使いできるようなシンプルなやつも編んでるんだから」
『……執念が凄まじいな』
「マホちゃんにとっては歓迎するべきことなんじゃないの?」
『舞い上がり過ぎていたら水を差すのも仕事のうちなものでな』
「……意地悪だなあ、良いじゃん、別に」
ちょっとムッとしちゃうけど、やっぱり手は緩まない。体が覚えた、というやつだろうか。
『それで時間に余裕がなくなっていてはな』
「う、まあ、それは……そうかもしれないけど」
……そう言われると、あんまり追い込むのもどうかと思えてくる。何があるかはわからないから早めに編み終えてしまうつもりだったが、それで目前のデートを楽しめなくなってはもったいないか。
……それに、明日は、このボクが飛鳥君の為でもないのに外に繰り出すという、この一年で初めての日になる、はずだ。
ある意味では勝負の人も言えよう。
戦の前に夜更かしなど、敗北フラグ以外の何物でもない。
「ふんー……!」
肩とか色々伸ばしてから、編みかけのマフラーになりそうななにかを優しく机に置き、さて、眠ろう、というその時、スマホがバイブレーション。
なんだろう、ボクのスマホを鳴らすものなど飛鳥君か華月、それとつぼみさんくらいのものだというのに……。
欠伸混じりにスマホを手に取ると、表示されていたのはやはりというか、我が半身だった。
《話はつけておきました。双方明日は、有給を取るそうですよ》
チャットの内容を見て、生唾を飲んだ。……話すのだ。両親と。
今を、打開するために。
《ありがとう。昼前くらいに行くよ》
《私がいえたことではありませんが、頑張ってください。ほんとうは、一緒に話したいのですが……》
《大丈夫。華月は学校があるでしょ。ボクは一人でも大丈夫だから》
《……わかりました。今の二人なら、お姉ちゃんの要求を跳ねる事はないと思います。なので、気負わないでください》
《わかった。ごめんね、迷惑かけて》
《迷惑などとは思ってませんよ》
《うん、ありがとね。じゃあ、おやすみ、華月》
《おやすみなさい、お姉ちゃん》
……そうして、スマホを置いた。
華月とチャットをするというのも、以前では考えられないことだ。そして、それが誰のために可能になったか。
そう思うと、力が湧いてくる気がした。
明日、ボクは両親のもとに赴く。
そうして、叶えてやるのだ。
ボクの、夢を。
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