第九幕 無要運命ダストLINE 4
九幕四話です、よろしくお願いします。
次なるプレゼントを求めて、私たちはレイクタウンを彷徨っている。
スマホケースは決めうちだったが、他をどうするか。
写真とか撮っているならそれをデジタルフォトフレームにでも収めてみようかと思ったが、あの二人ときたら双方シャイなものだから記録に残すことを恥ずかしがっている。
姉はともかく、飛鳥さんはあれでかなり奥手な人だ。でなくばあの姉を相手に無駄な理性を働かせたまま年など越すまい。
初々しいのは良いと思うが、いつまでそんなこと言ってんだと呆れる気持ちも確かにある。触れた目が合ったとそれだけでキャッキャするのなど今のうちだけなのだ。ならば……いや、そのあとを考えてイチャイチャするというのはそれは無粋なものか。
と、考えていると、てきとうな雑貨屋が目についた。
とりあえず三人で各個中を見て周り、それというものがあれば飛鳥さんに報告して是非を求める。そう決めて、雑貨屋の中に入る。
私はアクセサリー類のコーナーに赴いた。
……姉なら、何を好むだろう。
昔から私たちはあんまり心のこもった贈り物とかいうのを貰ったことはない。
今は少しまともになりつつあるが、両親は次第にプレゼントに愛より畏敬を込めだしたし。
他、双生会員から何かもらうことはあっても、当然そこに真心などはない。
唯一思い浮かぶのは、当然姉だ。姉とは絵とかを贈り合った記憶がある。絵心のまったくない姉は俗に言う画伯であるが、真心とかいうのには関係のない話だ。
そんな姉に誠心誠意相対し、何かを贈る者が現れたというのは、なんとも感慨深いものだった。
「……私も、負けてはいられませんか」
……私が今更姉に何かを贈るなど、ただのエゴかもしれないが……。
それでも。
自分用に雪の結晶を模したキーホルダーを買うことにして、飛鳥さんのプレゼント探しに戻る。
さて、一つを普段使いのできるスマホケースとしたなら、もう一つはインテリアの類でもいいのではないか、とそちらのコーナーに赴いてみると、そこには飛鳥さんがいた。どうやらスノードームに目を惹かれているようだ。
スノードーム。安定だろう。私も綺麗なスノードームは貰ったらかなり嬉しいものだと思う。
多分、あれに決まるかな。
遠巻きに微笑んでから、一応他に何かないか探しに回ると、お兄さんがなにやら花の意匠を施した簪を手にとり、神妙な面持ちで眺めている。
ふむ、あれは……。
「つぼみさんへの贈り物ですか?」
「ん、うん。悪いな。つい……」
「いえ、大事なことですよ。飛鳥さんはどうやら決めたらしいので、少しばかりは自分のために時間を使ってくださいな」
「助かるよ。……ちょっと訊きたいんだけど、君は、この中だとどれがいい?」
「そうですね……」
一応運命の人とされる人物の、私以外の恋人への贈り物への助言。なんだか奇妙なものだが、現状私に彼への恋心とかいうのは無い。
まず第一に、飛鳥さんにかつて言ったこととは異なるが、そもそもアプリの言う運命とかいうやつが確定事項とは限らないのだ。あの時は都合が良いからああ言ったが、私は少しばかり疑っている。
アプリに、過去視はあっても未来視が無いのは、それを示しているのではないかと勘繰ったりもする。
現状、私のアプリに開放された機能は、運命の人の選定……いや、捜索か。それと、過去視、そして、シミュレーション機能になる。
シミュレーション機能というのは、今で例えるなら、お兄さんの持ついくつかの簪。それぞれ渡した際にどのような反応を得るかを事前に見ることができるというものだ。
これも一種の未来視ではあるかもしれないが、未来視というよりは相手の性質を鑑みた分析に基づいた、文字通りシミュレーションということらしい。
姉に使えたら飛鳥さんの助けにもなれたかもしれないが、例に漏れず運命の相手とされるその人にしか使えない、使えないアプリである。
「……この、赤のものが、つぼみさんには似合うのではないでしょうか」
当然、今もシミュレーションは使えない。つぼみさんの好みも知らないから単純に私の好みで答える。
「……なるほど、ありがとう、助かった。なら、買ってみようかな」
お兄さんは、乙女であれば誰でも惚れてしまうような満面の笑みを浮かべ、その簪をレジへと持っていった。
お兄さんを見送ってから、飛鳥さんのもとに行くと、まだ決めあぐねているようだった。
「スノードームですか?」
「ああ、好きそうだと思って。二人はやっぱりそういう好みって似てるのか?」
「そうですね、基本的には同じようなものを好む傾向にありますよ」
「なるほど、なら、どれがいいと思う?」
「そうですね……」
提示されているのはどれも綺麗なものだが、その中で一つとなると……。
手が伸びたのは、特にどこが秀でているでもないが、それゆえにずっとぼうっと眺めていられるような、そんなもの。
ただひたすらにひらひらと雪が舞い降りる続ける、それだけのスノードーム。
「なるほどな、シンプル思考か」
「そうですね、落ち着きます……。ずっと、眺めていたくなるようです」
「わかった、じゃあ買ってくる。兄さんは?」
「つぼみさんへのプレゼントを買いに向かわせましたよ」
「……そうか、それも大事だな」
飛鳥さんは一つ頷いてから、レジに向かった。
少しして、兄弟揃って戻ってくる。
「さて、用件は終わりましたし、時間も時間ですから、私はこのまま帰ろうかと思います」
「そうだな、今日は助かった。送ってやりたいんだが……」
「東京まで着いてくることもできないでしょう。それに私にそんな気を使うなら姉にしてください」
「それもそうだが、感謝の意は示さないとな」
飛鳥さんが言うと、手に持つ袋をガサガサやって、中から箱を取り出した。
……これは。
「さっきの、スノードーム……?」
「今日はずいぶん助けられたからな。その御礼」
「いや、だってそれはお姉ちゃんのために……。もしかして、さっきの問答、ハメられました……?」
「他ならぬ自分の口で好ましいと言ったものだ、受け取らないとは言わないよな」
「……まったく。貴方という人は」
「君が自分のことをどう思ってるかはわからないが。睦美さんは、少なくとも君の幸せを望んでる。だから、君には幸せになる義務があるさ」
「ほんとうに、貴方という人は」
おずおずと、スノードームの箱を手に取る。
確かに自分で選んだに等しいものだ。悔しいが、惹かれてしまう。
「……ありがとうございます。嬉しいです、ほんとうに」
そう言うと、なんだか久しぶりに自然に笑えたような気がした。
まだ、自分にその資格があるとは思わない。けど、ちょっとだけ。ほんの少しぐらいは、肯定してやってもいいところも、あるのかもしれない。
「……困りましたね、どうしましょう。ほんとうに、嬉しいです……」
「やっぱり、笑顔の方が似合うよ、君たちは」
「……姉へのプレゼントはどうするのですか?」
「抜かりはない……が、あとで是非を訊ねることになる。写真を送る。あと少し手伝ってくれ」
「仕方ありませんね……ほんとうに、貴方という人は……。じゃあ、私は行きます、今日は楽しかったですよ。お兄さんも、急に声を掛けてすみませんでした」
「気にすることはないよ。あと、なんか弟に先を越されたが、クリスマスのプレゼントは今日の感謝の分奮発するよ、助かった」
「楽しみにしています……あと、飛鳥さん。ほんとうにありがとうございました、で、では」
言うと、返事も聞かずに二人に背を向けた。
少し、泣いてしまいそうだったから。
けど、そんな雨模様に対して。
心は晴れやかだった。
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