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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第八幕 無要運命デートor LINE
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第八幕 無要運命デートor LINE 14

八幕十四話ですね、よろしくお願いします。

 夜の闇が次第に辺りを包む中で、一筋の光であるかのように睦美さんが駆けて行く。俺たち三人はそれを早歩きで追う。

 人足早く目的地へと辿り着いた睦美さんは振り返り、ピョンピョン跳ねながら手を振っている。


「早く、早く!」


 ハイテンションは継続中らしい。

 まあ、眼前に聳え立つそれを見れば、否応なく高揚するのは必定か。

 かくある俺とて、それに乗り込むことを思えば、少なからず心が高鳴るというものだ。


 遊園地の終わり。二人の空間。


 即ち、観覧車である。馬鹿は高いところを好き好む。観覧車というのは地上の人間を砂粒のように一望できる至高のアトラクションなのだ。

 吉川に聳え立つきよみの富士とは格がちがう高度にまで上るそれは、空に手が届くような全能感をもたらしてくれる。


 一日に及ぶダブルデート。その締めくくりとして、これほどに相応しいものはないだろう。

 流石に観覧車に四人で乗るのは無粋であるとして、二組に分かれることとなっている。ここで分かれないのなら華月が帰る必要もない。四人ならそれはそれで楽しいとも思うが、やはり観覧車、恋人とくれば二人で乗る以外に道はない。


 列に並ぶ睦美さんに追いつく。夜になり、人気も減り、日傘を差さなくなった睦美さんはその輝く美貌を惜しげもなく晒している。


 あまりに照り輝くものだから、俺は彼女から目が離せなかった。

 そんな俺に気付いてか気づかずか、睦美さんはニッと笑い、俺の手を取った。


 そのままひたと寄り添って腕を組まれる。刺さって痛い視線など後ろの二人のものくらいだ。この身を睦美さんの人形とすることもやぶさかではない。


「ボク、観覧車って初めて」

「前来た時は乗らなかったのか」

「うん、華月が怖がってね。あれで結構ビビりなんだよ」

「それはまた、想像できないな」


 いや、存外内面は普通な娘だ。薄皮一枚剥いでしまえば、おそらくは怖がりな少女がそこにいるのだろう。


 観覧車の列は、さほど長いものでもない。話しながら待っていると、すぐに自分たちの番が来た。


「じゃ、お先に」


 後ろの二人に言い、シッシッと虫を払うようにする兄たちを笑って、俺たちはゴンドラに乗り込んだ。


 まず先に俺が乗り、睦美さんの手を引いた。睦美さんは、向かい合って座るか隣に座るか悩んだ末に、俺の隣に腰を据え、また腕を胸に抱き寄せて頬を二の腕の辺りに添えた。


 なんだか大胆なのは、遊園地という浮かれた土地柄がそうさせるのか、それとも天に登るゴンドラが共に気持ちを浮き浮きと高登らせるからなのか。


 いずれにせよ、睦美さんは大胆であった。「えへへ」と笑い、まだろくに上昇していないにも関わらず、その顔は緩み切っている。

 あんなことがあったとはいえ、関係に亀裂が入ったわけではないのだ。むしろ他で相手の成分を補給せんとするのは道理かもしれない。


 少しすると、行き場を失った右手の置き場に困り、空中に意味のわからない新種の指揮を描いてから、その手を睦美さんの腿に落ち着けた。

 同時、ビクッと睦美さんが跳ね、おずおずとこちらを見やり何かを目で抗議している。


「……えっち……」

「い、いや、浮かせたままだと疲れるから……」


 よくよく考えれば腕を胸に寄せておいて何を言ってるんだという感じだが、テンパった俺はそんなところに意識は向かなかった。


「……あんまり、動かさないでね……?」

「保証する」


 多分脚を撫でたりする分には睦美さんのトラウマを刺激することはないだろう。それくらいのことはしている。脚を撫でたことはないにしても、膝枕してもらって寝返りを打ったことなどは何度かある。

 とはいえ、今ではない。それは俺とて重々承知している。

 無謀と馬鹿とは異なるものなのだ。


 腕が睦美さんの脚に吸い込まれたのもほんとうに腕が疲れた末である。


 少し沈黙が流れると、睦美さんがあからさまにそれを打破しようと口を開いた。


「今日は楽しかったなあ」

「そうだな。こういうのもいいものだ」

「うん、また来たいな」


 朝っぱらは前アトラクション制覇とか宣ったが、結局は二組合わせてもそれには至っていない。まだまだ巡る場所はたくさんある。


「今度は二人で来たいな」

「酷いんだ、邪魔みたいに言うじゃん」

「そんなもんでいいんだ、あいつらは」

「ふふ、そっか。でも、そうだね。二人でも、来たいな」


 睦美さんがしみじみと呟いた。

 一言一言を確かめるように、自分に言い聞かせるように。


 ふと外を見る。大体四分の一程度だろうか。


 次第にパークの全容が見え始める高度だ。華月のドリンク処理を手伝ったカフェが遠く見え、その小ささが高度を教えてくれる。


「……なあ、睦美さん」


 ゴンドラの高度が上がったからか、気分も高揚している。


 俺が言うと、睦美さんは顔を赤らめてじっとこちらを見る。紺碧の瞳に吸い込まれるように視線をやっていると、やがてその眼が閉ざされた。


 こうなった時、止まる術を恋人は持ち合わせていない。


 さっきウサギにお預けを食らった分を取り戻すように、睦美さんの唇を貪るように啄んだ。

 睦美さんの腕が、俺の腕から背に回され、いっそう激しく唇を交わす。体内の唾液が全て循環したような心地だった。


「ぷ、はぁ」


 窒息するんじゃないかというその時まで唇を重ね、空気を求めて一呼吸してから、もう一度唇を交わす。

 そんなことを繰り返していると、いつの間にかゴンドラが頂点に到達していた。


 このまま下に降りてもいいが、それでは笑い話にもならない。抱き合ったまま、外を指差した。睦美さんの視線がその誘導にそって外に向けられる。


「わぁ」


 そんな間の抜けた声がさっきまで重ねていた唇から漏れた。


 さっきまでも小さく見えていたあのカフェがさらに小さい。


 こここそはこの東武動物公園の最高峰。まさしく人がゴミのようである。


 抱き合った手を解くことも忘れ、二人で外を眺めている。

 まるで、時が止まったかのように。

 特別景観が美しいとかいうわけではないが、ここは朝に回ったジェットコースター、ここはバイキング、などと視界に飛び込んでくると同時に思い出が想起された。


 楽しい一日だった。一言で今日を表すなら、それに尽きる。


「……」


 ふと、何を思ったか、睦美さんが俺の掌を取り、なんとその胸に這わせた。

 白く、柔く。どちらかといえば大きい方に入る、そんな果実。


 いくら服越しとはいえ、流石にここまでのアプローチはあの時以来、というか他にない。


「だ、大丈夫なのか?」


 しかし、興奮よりも、まずは心配が来た。無論、興奮していないわけではない。

 愚息が俺にも景色を見させろと屹立を始めようとしている。


 潤んだ瞳を、睦美さんがこちらに向けた。


「……大丈夫じゃない」

「なら」

「だから、その、練習、しないと」


 顔を真っ赤にしてそう言うと同時、俺の手は睦美さんの手に従ってその膨らみから離された。


 どうやらここらが限界、ということらしい。


「……高くつくからね」


 日傘がない今、顔を隠すものがない睦美さんは、緊急避難先として俺の胸元を選んだ。胸元に顔を埋めて、また俺の背に手を回している。


 スーハーと息を吸い込んでから、胸元に顔をやったまま睦美さんが続ける。


「好き、大好き」


 言ってから、一拍、三拍ほど置いて、胸元から顔を離し、ひたと俺を見据えて、最後に加えようとする。


「……あ、あい、あい」


 お猿さんみたいな何かをいじらしく紡ごうとする口を見て少しのいたずら心と、抑えきれない本心が湧き出て、睦美さんに先んじた。


「愛してるよ」

「……うぅ……」


 俺が言うと、また睦美さんの顔が俺の胸元に埋められた。


「……ボクも、愛してる」


 そうして、また唇を交わした。

 ゴンドラが下に降りるまで、何度も、何度も。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。

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