第八幕 無要運命デートor LINE 12
八幕十二話です、よろしくお願いします。
なんか手とか繋ぎながら動物園エリアに向かう飛鳥たちを見送ってから、要はつぼみに向き直る。
十二月の冷気に、恋人たちはその距離を近づけ、互いに温もりを求めて磁石のようにピタリと組み合っている。
今ジェットコースターなどに乗るのも、体を冷やすことで距離を縮めんとする算段か……などと深読みしすぎる要だった。
そう、飛鳥たちに限った話ではない。手を繋ぐ恋人。朝からちらほら見えた光景だったが、時が過ぎ気温が下がるに連れてだんだんと数が増えている。羨望の眼差しを、変装用の伊達メガネ越しに送る要は、一つの決意をした。
そんな彼らに倣い、要も辿々しく手を差し出したのだ。
飛鳥たちを疎ましく思っているわけでは断じてないが、せっかくの遠出、デートでようやっとの二人きりだったのが後押しをした。
付き合ってから、四ヶ月が過ぎようとしているのだ。
四ヶ月。季節を一つ丸々超えて、更に蝉の寿命を四回もプラスした期間を共に過ごしたというのにキスの一つもしていないのは、やはり物足りなく思ってしまう。
弟がなにやら一つ壁を越えそうなのも相まって、要は少し焦りに似た感覚を覚えていた。
差し出された手をしげしげと見つめてから狐のような笑みを浮かべ、つぼみはその手を取った。
流石に手を繋ぐくらいは何度かあったが、こういったレジャー施設で、となるとなんだか特別感がある。
「さて、何を回ろうか。観覧車?」
「それは最後に四人で乗ろう。いや二組に分かれてだが」
「そうね、それがいいか。となると……」
「絶叫系?」
「うーん……あ、メリーゴーランド」
「……そういえば一応は全アトラクション制覇を掲げようとしてもいたか」
メリーゴーランド。高校生にもなってのるものか? と考えるが、今から絶叫系に乗って体力をすり減らすのは得策ではないように思えた。何よりやはり朝のうちに十分乗りすぎた。
それを思うと優しいメリーゴーランドなどはうってつけではないか。
……ほんとうに? まあ、いいか。
思考にやっつけのピリオドを打ち、手を繋いだままメリーゴーランドに向かう。
途中、男たちの視線がつぼみに吸われているのを感じて少し優越感に浸った。この美貌を惜しげもなく晒し、蠱惑的な笑みを浮かべていれば男の視線などというのはいくらでも寄ってくる。
それらに悪いと思いながらも得意げに胸を張り、メリーゴーランドに辿り着いた。
メリーゴーランド、かくあれかしといった感じの、特筆することはない、求めたままのメリーゴーランドがそこにあった。
「久しぶりだね、こういうの」
つぼみが楽しそうに言う。メリーゴーランドなど、実際幼少の頃以来だろう。要がそうなら、必然的につぼみもそうなる。
「園児の頃だったっけ。飛鳥がメリーゴーランドが怖いと泣きじゃくってたのは」
「そうそう、そのくせ一回乗ったらもう一回もう一回ってね、可愛かったな」
たしか、その時いった遊園地のメリーゴーランドは古びていて、目の当たりの塗装がはげていた。それが飛鳥にとって恐ろしく写ったのだという。馬鹿だなんだと拗らせる前の話だったが、こう回想すると素のままでも面白いやつなのだ、あれは。
飛鳥トークは付き合ってからも減ることはなかった。常に共にあった三人だから、必然とも言えるだろう。
「このメリーゴーランドは新しいやつだからそういうのはないな」
「ま、とりあえず乗りましょ」
そうして乗ったメリーゴーランドは、記憶よりも遅く、低く、退屈で。そして、なぜかそれを面白く感じた。記憶との齟齬を楽しんでいたといってもいい。
やはり、この年になって乗るものではない。
隣に恋人が、いるのでもなければ。
愛する人がそばにいればなんでもいい、などというのは臭すぎて激臭を放つ台詞であると分かってはいても、それが青臭さの臭いなのだ。
「ふふ! あはは」
つぼみが腹を抱えて笑っていた。つまらない、それが面白い!
青汁のようなアトラクションだった。
辺りの時計を見ると、おやつの時間を少し過ぎたあたりを指し示している。
あと少し回ったら、合流して観覧車に乗って締めとなる。
さて、次は何に乗ろうか? 考えていると、つぼみがそこらのベンチに腰を下ろした。
「ちょっと休憩しましょ」
「ま、そうだな」
聞きたいことがあった要はその提案を容れ、隣に座り込んだ。
そのまま、
「今日はつぼみの目論見通りに運んだか?」
つぼみは目をパチクリさせると、また蠱惑的に微笑んだ。
「どうだろう。結局睦美さんが何を見るか次第だから。……まあ、答えなんてないのかもしれないけどね」
「どういうことだ?」
「それは、女の子の秘密」
シーと唇に手を当ててつぼみは言う。そう言われると、追及するわけにもいかない。
「……色々あるんだな、二人にも」
「生きてればそれは色々あるわ」
「……そうだな」
睦美と華月に何があったのかなど要は知る由もない。しかし、並々ならぬ困難があったであろうことはわかる。睦美はもちろん、華月にも、幸せになってもらいたかった。
自分の力の及ぶ範囲ではないにしても、願わずにはいられなかった。
「なあ」
「なに?」
「俺、お前が好きだ」
「どうしたの、突然。しかも今更」
「いや、ただ、なんか、言っておきたくて」
「そう。そうね、私も好きだよ」
蠱惑的な笑みは崩れなかったが、その言葉を聞けるだけで舞い上がってしまう自分を、単純が過ぎると戒めたかったが、玉鋼もかくやという理性で押さえつけようとしても、口角が吊り上がってしまう。
「……ごめんね。別に、嫌とか、そういうわけじゃないの」
「いや、急ぐことじゃないよ」
「最近の要を見てると、そうは思えないかな」
「……そうだな。少し思うところはあったかもしれないけど、今の言葉だけで十分だよ。待つことには慣れてるから」
つぼみが告白してくるまで、兄弟はつぼみに恋だの愛だの語ることはなかった。
待つことには慣れている。たとえ、兄弟間不可侵条約を破ってでも告白する気概がなかったのだとしても、待つことになんて慣れているはずだったのだ。
「理由だけ、訊いてもいいか?」
「……そうね。なんか、怖いの。自分が変わっちゃうこともそうだけど、飛鳥とどう接したらいいか、わからなくなっちゃいそうで」
「それは……たしかにな」
普通なら、ここで弟の名前を出されるというのは恋人としてはいい気のするものではないだろうが、こと要に限っては、納得感があった。
つぼみは飛鳥に並々ならぬ思いを抱いている。そのすべてを理解できるわけはないが、それは友情であり親愛でもあるのだろう。
俺たち三人は、いつも一緒だった。その頻度は減るにしても、これから先もその時間はなくならない。
つぼみは、飛鳥が自分に思いを寄せていたことなど察しているだろう。
無論今では睦美という恋人がいる。気にするべきことではないのはわかるのだが、そこに躊躇いが生まれるのもまたわかるのだ。
「……ごめんね」
「いや、気にするな」
要が返すと同時、つぼみの手がその手に重ねられた。
今は、これが限界なのだろう。
それでもいい。
要は強く思った。
この、時は。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。
感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。
次回でもよろしくお願いします。




