第八幕 無用運命デートor LINE 8
八幕八話です、よろしくお願いします。
……睦美さんの予想外の挙動に、俺たち三人が振り回されてから少し経った。
「えへへ……ごめんなさい……」
ポリポリと頬を掻きながら苦笑しつつ謝る睦美さんを、ベンチに座りながら見上げている。
「まあ、気にするな」
まさか、こんなことになろうとは。
たしかに女子は、絶叫系を好むタイプの場合こよなく愛するイメージはある。あるが、この睦美さんがそうだとは予想していなかった。
常に一歩引いてほくそ笑んでいるつぼみですら、今は座り込んでへばっている。
少し回復してきたとはいえ、次に選ぶは絶叫系ではないだろう。
俺は絶叫系は苦手ではないしむしろ好むところですらあるが、それでも連続で何回もとなると少し、その、目がまわる。
なにかいいアトラクションはないか? 考え込む。
……どうやら兄も同様だったらしく、俺の思案中に声を上げた。
「ゴーカートがあったな、それでどうかな」
「私は、異論ないかな」
「ボクも大丈夫だよ」
兄が俺に目でガッツポーズのサインを送る。
それを見て一つ頷くと、つぼみが少し腰をガクガクさせながら提案した。どうやらジェットコースターの恐怖が抜けきっていないようだが、努めて平静を取り繕っているらしい。
「せっかくならペアでタイムアタックでもしましょうか」
「いいね、でもボクと飛鳥君に勝てるわけないよ」
睦美さんがよくわからない自信に胸を張っている。どうやらかなりテンションが上がっているらしい。多分多人数で遊ぶという経験があまりないのだろう。ここまで喜んでくれるなら、兄と顔を突き合わせた甲斐があるというものだ。
根拠のない自信こそ馬鹿にとっての最重要項だと俺は悟りを得たわけだが、それに則ればこの場でもっとも馬鹿らしいのは睦美さんということになる。
まあ、この身は道化だ。相方が馬鹿になったなら、付き合うのが使命である。
のだが。
「最近のゴーカートの例に漏れず、競うことはない。景観を楽しむのがメインのアトラクションだな」
兄が窘めるように言う。実際その通りで、カート同士でガッツンガッツンぶつかるタイプのゴーカートというのは減ってきているのが実情だ。この東武動物公園のそれが昔どうだったかは覚えていないが、今あるのはそういうタイプのものではないのは確かだ。
それを聞いた途端、つぼみは少し拗ねたが、睦美さんは依然楽しそうに、
「それならそれもいいよね! ね、飛鳥君」
などとはしゃいでいる。
なんとも名誉なことで、ある意味では甲斐のなく。そして幸福なことに、きっと一緒ならなんでも楽しい、というのが睦美さん。そして、俺の本音なのだ。
そうしてゴーカートの列に並び、暫しの歓談を経て乗り込む。
ここのゴーカートはストーブさんの冒険カートとかいい、よくわからない世界観を覗かせるものだ。東武動物公園のアトラクション自体なんだかファンシーな名前とか世界観が見えるものが多い。それだから、先のジェットコースターのような、そういった要素のないものは少し浮いているのだ。別にいいじゃないか、ストーブさんの冒険コースターで、と思うのだが、まあそれも世界観の保全ということなのだろう。
いざ乗りこむ。特に何も考えずに俺が運転席に座ろうとすると、
「ボク運転したい」
「……今の睦美さんはコーヒーカップ全力で回しそうだからなあ」
「そんな無茶できるやつじゃないよねこれ!?」
「まあ、俺はやったことあるものだしな、わかった」
「えへへ、やり」
ハイテンション継続中の睦美さんはなんでもやりたがるようで、興味深そうにハンドルを眺めている。
しばらくして発車する。
後ろで兄たちが手を振っているのが見えたが、睦美さんはどうやらそんなに余裕はない様子。コースは緑豊かで、昔に父母に連れられた栃木のいろは坂を想起させた。無論、縮小版であるが。
表情とテンションに見合わず安全運転の睦美さんだったが、少しするとコツを掴んだか、景観、そして俺にも意識を向けるようになった。
「うわあ、綺麗だねえ」
「そうだな」
睦美さんの方が綺麗だと言ってみようと思ったが、今言ったら運転が危うそうなので取りやめる。せっかく俺を気遣っての安全運転だというのだから台無しにはしたくない。
景観は実際綺麗で、五分程度のドライブでは少し見足りないような気がした。まあ、以前にも乗ったはずなのにまったく覚えていなかったのだから、常軌を逸して綺麗、とかいうほどではない。
このアトラクションが、あっという間に感じられたのは、やはり隣で彼女の横顔を眺めていたからだろう。
あまりに整ったその美貌が、景観にパッと華やいだり、運転にムッと顰められたりするのは、いくらでも見ていられそうなほどに可愛く、美しく、楽しい。
神の贔屓を一身に受けたような造形。アルビノだというのも、なにか祝福のように思えてくる。
そんなだから、気付けばスタート地点に帰ってきていた。いや、単純に長いコースではないというのもあるけど、やはりなにより睦美さんが面白かったのだ。
カートを降り、睦美さんと談笑しながら兄たちを待つ。二人が戻ってきて、次は何をしようか、と考えていたところ、ぐ〜、と腹の虫が鳴る。
いや、俺のではなく。
音の方に視線を向けると、顔を真っ赤にして慎ましく手を挙げる睦美さんの姿があった。
「ち、ちょっと、お腹空いたかな……」
時間を見ると、十一時を少しばかり過ぎたところだ。空腹には早いような気もするが、1番はしゃいでいた睦美さんだから消耗も激しいのだろう。
「じゃあ、次は昼食にするか。いいよな、兄さん……兄さん?」
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない。俺もお腹空いてきたところだ」
……なんだかおかしいような、そうでもないような。よくわからなかった。睦美さんに訊けばわかるかと思ったが、日傘を持っていない方の手をブンブン振って「いや、別にそんなに空いてるわけでもないんだけどね、まあちょっとは空いてるんだけど、そんなにではないんだよねこれが」とかなんとか、乙女としては譲れない一線があるらしく、その上でよくわからないダンスをしている。多分、今の睦美さんは節穴だろう。
……まあ、大丈夫か。見たところそんなにおかしなところもないし。
「昼時だと混むでしょうしね。丁度いいかもね」
つぼみの承諾もあって、俺たちは近くにあったレストランに次の目的地を定めた。
◆
近いからと入ったその、レストランは名をレストランカーニバルという。アトラクションの世界観からはこれまた外れたものだ。レストランにも趣旨に則ったものがあるのだが、やはりその基準は謎だった。しかし、メニューは申し分ない。どれも想定していたより安かったのだ。サイトを見ていて驚いたものである。
そこでのメニューは、俺と兄さんはエビフライ豚丼なるものに決めた。睦美さんはビビンバ、つぼみが味噌ラーメン。どれも千円前後で、財布に優しい。
運ばれた者から食べ始め、少しした頃、睦美さんがひとくちちょーだい、と宣い、それに普段通りに応えた。
……しまった。そう思った。
今は俺たち二人だけではないのだ。
「見せつけてくれるじゃない」
クスクスと魔性の笑みをつぼみが浮かべていた。
「まるで二人の世界ね」
「あ、えへへ、ごめんなさい、つい癖で……」
「ま、構わないわ。要、私たちもやってやりましょう。エビフライちょーだい」
「主役なんだが!?」
言いつつ、つぼみからの推しに弱い兄はなんだかんだとエビフライをつぼみに差し出した。
正気か兄よ。いくら豚が添えられているとはいえエビフライの占めるウェイトは大きいだろうに。
しかし、兄の顔は少し晴れているように思えた。
未だキスもしていないらしい二人にすれば、あーんも貴重ということか。
恋人らしいことをしていないのはなぜなのだろう、やはり疑問だが、今日が二人の関係を進める起爆剤にでもなればいいものだ。
そうして、全員が昼食を摂り終わる。
結局俺たちは互いに三分の一くらいをシェアしあうバカップルぶりを見せつけた。まだやってるよこいつら、みたいな顔で見られたが、まあ馬鹿なのだ。仕方がない。
次は何をしよう?
考えていると、つぼみがしたり顔になっていう。
何かを企む、悪童の笑み。俺たち兄弟を何かと振り回し続けてきたその笑み。なんだか久しぶりな気もするそんな表情でつぼみが口にしたのは、意外なものだった。いや、意外でない案が常なつぼみではあるが。
意図が読めるような、読めないような、そんな提案だった。
「少しペアを交換して別れて周りましょう」
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なんか百話目みたいらしいですね、モチベが維持できているのも皆さんのおかげです、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。




