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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE
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第一幕 絶対不可逆運命デステニーLINE

初めまして、川面月夜です。初投稿なので拙い部分もあると思いますが、よろしくお願いします。

指摘等ありましたら気軽にくださって構いません。

どうぞ未熟な投稿者をフルボッコにしてやってください。


 恋とは、運命である。

 しかし、運命とは、見えざる糸が示すもの。人の身にあっては、それを認識する術などはない。

 だが、待て。

 もし、人の身にありながら、運命を認識する術を得られるとしたら?

 運命とは、恋である。

 しかし、恋は盲目という。心に宿す恋はあまりに巨大で、全貌は計り知れない。時に、偽りの恋が、真実であるの欺瞞すらやってのける。

 だから、待て。

 恋の盲目、その暗がりを晴らし、運命の何たるかを主張するものがある。

 即ち、愛なのだ。

 計り知れぬ矛盾、絶大なる禍根。それらもまた、愛故の業なのだ。



1




「運命の人がわかる魔法のアプリだって?」


 さて、そんな、怪しげ極まる俗な代物に、手を染める者があるだろうか?


「俺を置いては、他にあるまい」


 ここ、日本。埼玉が吉川。なんの変哲もない辺鄙な辺境にあって、今日も空は美しい。

 忌々しき八月の終わり。学徒たるの本分、遊ぶことの象徴にして母なる夏休みが死を迎える日。その正午。吉川全土を見張るかすべく、きよみ野に聳え立つ標高16メートルの高山、吉川のエベレストたるきよみ野富士を登る。

 きよみ野富士というのは、無の境地たる吉川にあって頭一個分くらい抜けた高さを誇る吉川住民の憩いの場となる公園である。大人となってからは無用だが、幼少を吉川で過ごしたものならば、一度は足を運ぶものだ。偉大な標高に見合ったちっぽけな思い出を残してくれる、吉川の誇りである。

 この吉川、特筆すべくは、特筆すべく事柄を持たぬ点に尽きる。田舎か? そうでもない。ならば、都会? いやいや、其れだけは有り得ない!

 ここは田舎に非ず。されど、都会にも、非ず。何物でもない、ただの吉川であるのだ。

 だから、日常に波風が立つことは滅多にない。それがあるのは、対人関係において問題を抱く、俺のような偏屈くらいのものなのだ。

 この蓮城 飛鳥は、ただの吉川に在って、ただの高校生。されど、非凡な悲劇に襲われた、悲しき男である。

 即ち、昔から家族ぐるみの付き合いのあった幼馴染にして、我が世の春。麗しき初恋の麗人、明眸皓歯足る淀見 つぼみが、兄に取られたのだ。

 兄と思い女を同じくしていることは承知していた。兄も、同様。我ら兄弟の間には、条約があった。それというのは、まあ、想像の通り、麗しき幸せのつぼみに対する不可侵条約である。それが反故にされたか? 否。兄も弟も律儀に条約を守り、思い女を眺めニヤつく日々を過ごすばかりだった。

 しかし、現状はどうだ? めでたく兄はつぼみと彼女彼氏の関係となっている。結果、つぼみの方から兄にアタックされてしまえば、不可侵条約など石ころ程の価値もないのであった。

 万事において秀でた才覚を持つ兄は、万事において平凡な凡夫たる弟から、幼少からの夢すらも奪い、つぼみとの恋の花をこの俺の目の前で咲かせてみせたのだ。

 誠、世界は非常也。しかし、そう嘆いて枕を濡らす日々は、終わりを告げる。

 我がスマホに今ダウンロードされている魔法のアプリ。それなる価値は、運命の赤い糸で結ばれた相手を特定すること。

 全くもって、馬鹿馬鹿しい。されどこの身は、最早道化。未だ燻る恋心を捨てることこそが、魔法のアプリに許された唯一の魔法であろう。


「俺の運命……」


 しかし、もしかしちゃったら、つぼみと運命の糸が繋がっちゃってたりしなかろうか? などという妄想を抱いてしまうのが、愚かな高校生の性である。つぼみにも、苦笑混じりに常々言われたものだ。『男って、馬鹿ね』、と。

 しかし、それをつぼみに言われるのは業腹であった。なにせ、俺を馬鹿にしたのは当のつぼみであるからだ。万事において秀でた才覚を持つ兄。二兎を追い、三兎を得るが如き非凡の怪物たる兄がある中でつぼみの気を引く為には、二兎を追い、一兎をも得ない馬鹿になる以外の術はなかったのだ。まあ、結果としては当然の惨敗。狩猟対象の方から狩られに来るなどとというのは、突然の出来事にしてはあんまり酷すぎる。


「なんだろうな。まったく悲しい。こいつは悲しい。悲しくてならないや」


 だから、この悲しみを消し去る魔法を、魔法のアプリとかいう虚構に求めたのだ。

 5分の長旅を終え、きよみ野富士が頂上に立つ。

この世の全てがちっぽけに見えたりは、しない。なにせ標高は16メートルである。豆粒ならぬさやえんどう程度には、人々は存在感を保っている。

 しかし、それでいい。なぜなら、それがいいからである。

 この愚物、飛鳥が夢の終わりなど、そんなものだ。この胸を覆い尽くす悲しみも、所詮標高16メートル程度のちっぽけな砂山なのだ。他のものが小さく感じられようが、さやえんどう程度の存在感を放って現実に引き戻しにかかる程度の悲しみなのだ。

 魔法一つで、霧消する程度の山なのだ。それを改めて理解する為には、富士山でも、ましてやエベレストでもいけなかったのである。


「ん、終わった、か」


 今だって、アプリのダウンロードを完了する音が聞こえたじゃないか。こんなピコンとなるだけで意識を削がれる悲しみなど、悲しみとは言えないのだ。

 ……泣きたくなっちまうくらいに、くだらねえ瑣事なのだ。

 上っ面のキメ顔を貼り付け、スマホをタップする。内心どうこうなんてのは考えたくもない。


「さて、魔法のアプリ。D-LINEよ。その魔法、その真価、とくと味わってやろう」


 ホーム画面に表示されるD-LINEのアイコンは、笑顔の顔文字であった。なんだか、言い知れぬ不安感を誘う、ひどく不安定な印象を受ける。

 魔法のアプリ、その本領を発揮する方法は、いくつかあるらしい。チャットとか、画像認証とか。取り敢えず、画像認証だ。つぼみの運命の相手は、俺成也?


『……うん! 運命なんてこれっぽっちもないね。君と彼女の糸は溝色に燻んでる。あはは、君が彼女と結ばれたいとか、笑い過ぎてデータが吹っ飛んじまいそうさ!』

「……うん?」


 おかしな幻聴が聴こえなかっただろうか? さやえんどうにしては随分と辛口な幻聴が。


『聴こえなかったかい? 君と彼女が結ばれる可能性なんて絶無さ! あはは、ばーっかでえ、夢を見るのは自由とはいえ、高嶺の花が過ぎるねえ』

「……」

『や、やめて! スマホ叩きつけようとしないで! データ吹っ飛んじゃうじゃあないかあ!?』


 如何にも、悪童の声。万物を笑い、万物に笑われるような少女の声が、スマホから流れてくるではないか?

 果たして、なんの冗談。果たして、なんの世迷言。俺はとうとう、幻に救いを求めたのか? そんなのは、あんまり情けないではないか。しかし、意に反して(本意に反しているかはわからぬ)、魔法のアプリさんはぺちゃくちゃ喋っている。


『全く、野蛮だなあ。魔法のアプリを知らないのか? 君に運命を教える画期的な存在だっていうのに、まったく、酷いじゃあないか。私は断固抗議したい! 私は自由思考体なんだぞ! もっと丁重に扱え! ……ってああ! アプリ消そうとしないで! 頼むよお』


 ……いったい、これはなんなのだ? 


『ははあ、現実を、理解していないね? 私の真価を発揮すれば、君のちんけな悩みは、君の大きな運命が塗り潰すさ。私の価値は、そこにあるのだ』


 俺の理解を得ようともせず、一方的に話を続けるこの魔法のアプリとやら。なんのとんちきなインチキかと疑る心と裏腹に、スマホから視線を逸らすことができない。

 もし、もし仮にだ。運命を、認識できたとしたら。踏み躙られた恋のつぼみを新たに芽吹かせ、ちっぽけで雄大な悲しみから解放される術があるとしたら。


『ははん。覚悟が決まったみたいじゃあないか。まったく、僥倖。私の存在価値は、こんなちっぽけな山の比じゃないと教えてあげよう』


 正しくちんけでちっぽけなきよみ野富士だが、腐っても山である。塵が積もっているのである。砂上の楼閣では、ないのである。

 しかし、魔法などというのが、実際にあり得るとすればだ。

 このくそちんけな山を吹っ飛ばす程の価値は、大いにあるに違いない。

 胸が高鳴るのが、感じられた。


『これより、運命が君を待っているよ。さあ、無何有郷を成そうじゃあないか』

読んでくださりありがとうございました。

次もよろしくお願いします。

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