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69 川の神様

 王都に向かう隊商と共に一週間。馬車に乗せてもらっているので歩くよりだいぶ速い。尻は痛くなるけど。魔物も盗賊も今のところ出ていない。


 このまま順調に王都かな、と思っていた僕らは足止めを食っていた。川を渡ることができないのだ。


 隊商の隊列が王都に向かうにはここで王国最大の河川を超えなければならない。川幅は2kmほどもあり、橋はかかっておらず渡し船となる。水深は濁っていてよく見えない。川幅からして流れは速くないと思うんだけど深そう。


 今使っている道はそれなりの人が行きかう交易路なので川の両岸には宿場町ができている。そして水面には多くの渡し舟が行き来している、はずなのだけど見当たらないな。


「どうも川の神様が暴れているらしい」

隊商リーダーのおじさんが事情を聴いてきた。なんでも船を出すと川の神様に沈められてしまうから出航できないとのこと。


「なんですかそれ?」

「よくわからないのだが時々あるらしい。二、三日様子を見よう」

しょうがないから宿屋で待ちますか。馬車でお尻が痛くなってたのでちょうどよかった。


 そして三日目。いまだに船は出ない。

「おにいちゃんと一緒だから全然平気だよ」というシャリを除いて、みんな待つのに飽きてきたところ。


「上流か下流に行けないんですか?」

と聞いてみたが、そのルートだと数週間かかるとのこと。そっちに行った直後に通行止めが解除されたら負けだよな……


 ていうか、川の神様ってなんなんだよ!


 宿の人に聞いてみたところ、川の神様というのは長い首を持った何十mもある竜みたいな姿だとのこと。どこかで見れるのか聞いたんだけどそういう言い伝えらしい。

 なんでも、年に何回か神様の機嫌が悪い時があって、その時に無理に川を渡ろうとした船は沈められてしまうそうだ。去年も夜中にこっそり渡ろうとした商人が行方不明になったという。

 宿屋もお客さんで大繁盛して忙しそうなのであまり細かく聞けなかった。


「見れなくても神様というぐらいだから当然どこかで祭ってるんですよね?」

「え、あーそうだな。町はずれに祠があったような」

ちょっと見てこよう。文句の一つも言いたいところ。


 聞いたあたりの場所に来てみたけど全然わからない。


 神様の怒りが鎮まるようにお供えとかしてないのかな。それともそういう文化じゃないのだろうか。


 探し回ったところ小さな祠を見つけた。本当にこれかなってぐらい小さいし、神様が機嫌損ねてもしょうがないかなというぐらい荒れている。もうちょっときちんと祭っておけばいいのに。掃除もされてないし。でも他にそれらしいの見つからないし、これなのかな……


 そうだ。


『クリーン!』


 恩恵の連打ですっかりきれいになった。あとは常設で掃除する妖精を配置しておこう。とりあえず金貨をお供えする。妖精は光るもの好きみたいだし。


『気配察知!』

何かが出てきた。たぶん妖精。そこで。

『テイム!』

やって来た妖精に祠の掃除を命じる。いいことをした気分だな。


・・


 宿が混んできたので、僕たちの個室に隊商のおじさんたちも詰め込まれた。でも一人当たりの宿泊費は同じ。実質値上げだ。おじさんのいびきを我慢して寝ようと苦戦中。


(( もしもし ))

なんだろう。電話?


 いや、電話のわけないな。目を開けると隣ではシャリがくっついて寝ている。特に変わった様子はない。


(( 私の家を掃除していただいてありがとう ))

頭の中で声がした。なんか本物っぽいぞ。本当に神様なら川を渡らせてもらおう。


 シャリの手をほどいて、みんなを起こさないようにそっと部屋から出る。そのまま祠のところまで歩いていく。


 祠の前にぼうっとした光が現れた。それは白いヘビの形になる。長さは2mほど。

(( 私は川の精霊です。私の家を掃除してくれてありがとう ))

『神様じゃなくて精霊?なんか話が違うな』


「えっと、それだったら川の神様に向こう岸に渡れるようにお願いしてくれない?」

(( 川の神様ってなんのことでしょうか? ))

『あれ?』話がおかしい。


「川の神様が暴れて船が向こうに行けないと聞いたんですけど」

(( 川の神様というのが何のことかわかりませんが川はいつも通りですよ ))


・・


 さらに二日後。


「川が渡れるようになったそうだ」

同室の隊商の人が教えてくれた。


「それじゃ行きましょう」

「船が大混雑で、今だと特別料金だと言われたんだが……」

「いいですよ。僕が出しますから」


 通常の10倍払って船を雇い、僕たちは無事対岸に渡った。


「何だったのかしら?」

あかりが不思議がる。


「結局怖いのは人間ってやつかな」


挿絵(By みてみん)

次回より新章 王都


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