61 ダンジョンの向こう側
ボス部屋の前で準備。僕らにはメイの鎧があるがシャリのプロテクションも上掛けする。これでかなり硬いはず。攻撃力付与は僕とシャリとメイにしておく。
「とりあえず足止めして魔法をぶち込むということで」
ざっくり方針を決めてワンピースのシャリとビキニアーマーのメイが並んで扉を開ける。僕はあかりのガードに入る。レイラさんのパーティは飛び道具を構えて待つ。
扉が開くと部屋だった。といっても今までのボス部屋ほど広くない。すぐ前にトロールが何と八体。多いよ。
あかりが詠唱を開始。こっちに気がついたトロールがやって来るが、シャリのメイスから麻痺光線が発射され先頭のトロールがこける。それでもやってくるトロールにはメイと僕がシャリの頭越しにダーツを投げる。レイラさんパーティがクロスボウを打ち込む。トロールの動きが鈍くなってきたか。そろそろあかりの呪文が。
「マジックストーム!」
光る魔法の刃が空間を飛び交い、トロールに傷をつける。青い血飛沫が飛ぶ。
『今だ!』
僕はアイテム化していたオイル樽をトロールの真ん中にぶち投げると実体化させた。樽が魔法の刃に切り刻まれてオイルが飛び散ったところに恩恵で着火した松明を放り込む。
ボワン!
霧状になったオイルに点火した。爆発的に炎上。
「閉めて!」
扉を閉めると熱で熱くなってきた。この扉は何で出来てるんだろう。
扉の前で待ちながら自分のレベルを観察。あ、ちょっと上がった。まだレベル3にはなってないけどもうちょい。そろそろ焼けたかなというところで扉を蹴っ飛ばす。
部屋にトロールはいなくなっていた。溶けちゃったのか。この部屋はボス的なものはいないんだろうか。見渡すと奥の方になんか置いてあるな。モワモワと光っている。
シャリと二人だけで近寄ってみると、魔法か何かの装置っぽい。刺のようなアンテナのようなものが何本も生えていて直径は3mほど。
「シャリ、叩いてみて」
よくわかんないけどぶっ壊してみた。刺が折れて破片が飛び散る。
部屋のあちこちにチラチラとした光が瞬く。もうリポップタイムか。
「あかり!」
入り口に残っていたあかりが呪文の詠唱を始めた。僕とシャリは入り口に走る。光の中からトロールが現れてきた。一体、二体、……。八体のトロールが復活すると、のっそりと僕らの方にやってくる。そこにアイテム化してあったもう一個の樽をぶん投げた。オイルがトロールの足元に飛び散ったところに松明を点火して投擲。
ボワ!
さっきほどではないがオイルが着火して燃え上がる。トロールが躊躇して足が止まる。そうしているとあかりの呪文が発動する。
「マジックボム!」
部屋の中に白い光。純粋なエネルギーが広がっていく。僕らは慌てて扉を閉める。
ドガーン!!!
爆風で扉が閉まる。扉の向こうからものすごい音。体の奥から込み上げるレベルの上がる感触。レベル3だ!なんておいしい。
「これ無限に繰り返せないかな」
「そのうち誰か事故るわよ」
まあ今のも結構タイミングギリギリの勝負だったな。
静かになったので扉を開けてみるとトロールはいない。部屋の奥の装置の光も消えている。今のでぶっ壊れたかな。今度は僕だけ装置を見に行く。何かあったら縮地で逃げるから。
よくわからない装置はあちこち溶けたり割れたりしていた。どう見てもぶっ壊しただろこれ。
その時、部屋の奥の壁が横に開いた。エレベーターのドアみたいな感じ。そしてひょろっとした犬頭が出てくる。僕と目が合った。びっくりした様に立ちすくんでいる。誰かがいるとは思ってなかったような感じだけど。どうする?
一瞬考えたが、迷った時は攻撃。スコップ!を実体化して高めの位置に構える。
『縮地!』
瞬時に犬頭の直前に移動。スコップ!が犬頭を首位置で切断する。
『よし、戻ろう!』
・・
犬頭を掴んで戻る。トロールはまだリポップしない。
「あかり、犬頭持ってきたよ」
ごろんと転がる犬頭の首。
「ちょっと、戦国武将じゃないんだから!」
そう言いながらも頭を短剣で突っついている。
「見たことないわね」
「私も見たことないですね」
レイラさん達も見たことないようだ。
ところで。
「なんでこの首消えないんだろう」
バグベアもトロールも死体は消えるのに。
「妖精じゃないから?」
聞いてみる。
「ダンジョンはリポップする魔物は妖精じゃなくても死ぬと消えるのよ」
あかりが言うけどじゃあこいつは?
そういえば今回はトロールなかなかリポップしないな。
今度はあかりがぶっ壊れた魔法装置の残骸を見に行く。ぶっ壊れたというより正確にはぶっ壊しただな。鑑定をかけている。
「なるほど」
あかりが宣言する。
「謎は全て解けた!」
・・
「まずこの装置はダンジョン中からエネルギーを吸い上げてここのリポップのエネルギーを供給する装置ね」
「なにそれ」鑑定って何でもわかるんだな。
「多分だけどトロールの養殖をしてたんじゃないかな」
「誰が?なんで?」
「なんでの方はポーション原料?」
あかりが続ける。
「そして誰がはこれ」
犬頭が置かれる。
「これは何なの?」
「消えてないんだから私たちと同じよ」
「つまり?」
「ダンジョンの外から来た生き物」
あかりの顔を見て説明を促す。
「つまりこのダンジョンはこの生き物の世界に繋がってる可能性が高いわ」
『話がSFっぽくなってきたぞ』
「で、僕たちはどうする?」
「決まってるでしょ」
あかりは結論を出す。
「日本に繋がってないなら他行くわよ」