144 日本【完】
目が覚めるとベッドの中だった。それは普通のことのはずなんだけど、何か普通じゃない気がする。昨日は何時に寝たんだっけ。
見慣れた部屋の見慣れた天井。大学に行くために借りたアパートの一室。
昨日のことを思い出そうとするがどうも思い出せない。どこかに出かけたような覚えはあるんだけど。
「おはよう、お兄ちゃん」
ベッドのすぐ脇から妹の声がした。そういえば今日遊びに来るって聞いた気がする。ずいぶん早いな、というか起きた時間が遅いのか。声がした方を向くと、茶髪の女子高生がこっちに屈んで僕の顔を覗き込んでいた。角度的に胸の谷間の奥が見えそうになって慌てて目を逸らす。
「おはよう、あかり」
・・
「昨日はどこに行ってたの?連絡が付かなくて心配したんだよ」
だんだん思い出してきた。昨日は前から興味があった神社に小旅行に行ったんだ。どうも行った後の記憶があいまいなんだけど。
「昨日は、えっと……」
「ピンポーン」
玄関の呼び鈴が鳴った。お客さん?
「あかり、ちょっと待ってて」
狭いアパートの台所を通って玄関へ向かう。扉を開けると20代後半ぐらいの女性が立っていた。
「こんにちは。隣に引っ越してきた者なんですが、引っ越しのご挨拶に」
「えーっと、ご丁寧にありがとうございます」
菓子折りのようなものを受け取った。
「お兄ちゃん、誰?彼女?」
「なに言ってるんだよあかり、引っ越してきたお隣さんだって」
「え、あかり?」
「はい?」
お隣さんとあかりがびっくりしたように目を合わせた。
「私もあかりっていうんです。山峰あかりです。よろしくお願いしますね」
「この人の妹でちょくちょく遊びに来てます。よろしくお願いします!」
・・
来客で中断していた会話を思い出そうとするけど、何を話していたっけ。寝起きだったので思い出せない。というか物凄く眠い。
「もうちょっと寝ていい?」
「私も一緒に寝る」
ベッドに入るとあかりが一緒に潜り込んできた。
「お前、妹なんだからもうちょっと離れろよ」
「妹なんだからいいでしょ」
ちょっと当たってるし、妹ってそういうもんじゃなくない?そんなことを思っている僕に構わず、妹は布団の中で僕にくっついてきた。僕の胸に耳を当てささやく。
「おにいちゃんの心臓の音聞くの、前から好きだったの」
ふと頭に情景が浮かんだ。金髪で細くて小さい女の子。
「シャリ……」
僕の妹は顔を上げると僕の目を見つめる。挑戦的なまなざし。満足そうな微笑み。ちょっとどや顔。
「おにいちゃん、おはよう」
――
妹ダン 完
SS「その後」へ続く
完結までお読みいただきありがとうございました。次回、SSがあります。
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