好きだった幼馴染のことが忘れられない。俺はどうしたら良いですか?
初投稿です。
よろしくお願いします。
俺、本前陸には、清川可憐という幼馴染がいる。
家が隣同士だった俺たちは、小さい頃から親同士の仲も良く、ゆえに一緒にいる機会が多かった。幼稚園くらいまでは、よくお互いの家を行き来して遊んでいた。
でも、いつからだろう。俺の部屋のベランダから可憐の部屋が見えることに、ドキドキするようになってしまったのは。
可憐は大きめの瞳にさらさらの黒髪、色白な美少女で、見た目こそおとなしい印象を与えるが、実際は明るい性格で、意外と物事をはっきりと口にするタイプだ。
可憐と話していると、いつも楽しい気持ちになれた。彼女と話すときだけは、不思議といつも自分の方も本音を口にすることが出来たから。小さいころから俺は若干、人見知りなところがあったが、可憐は誰とでも簡単に打ち解けていく。彼女を通して知り合った友だちも多い。
小中と同じ学校に通い、クラスこそは違えど、可憐とは帰り道が一緒になるから会話をする機会が多かった。俺はその時間、いつも緊張していた。女の子と一緒に下校するなんて、まるで恋人同士みたいだ。お前らはいつも仲が良いよな、と周りにからかわれることもよくあったが、その中には可憐のような美少女と一緒にいられることに対する妬みが含まれていたことを俺は知っている。可憐は男子の中で密かに人気があった。俺は可憐のことが好きだから、その時間は誰にも渡したくなかった。だけど、可憐はどう思っていたのだろう。
高校も可憐と同じところに入学した。理由は単純で、家から近くて通いやすいからだ。
きっと可憐も、同じような理由だったことだろう。まあ俺の方には、正直にいえば可憐と同じ高校に通えたら、これからも一緒の時間を過ごせるのではないかという打算的な一面もあったのだが。
高校に入学してから初めの数か月は、以前とさほど変わらない日々だった。
新たな友人との出会いもあり、校則に自由度が増したことを実感する場面もあったが、そんな中でも可憐と一緒にいる時間はやはり何も変わらなくて、そしてその時間が俺にとっては一番の幸せだったのだ。
そんな高1の夏のある日。俺たちはいつものように一緒に下校していたが、その日の可憐はほんの少しだけ、普段とは様子が違っていた。
「ねえ、陸。陸ってさ…」
何気ない会話の中で、可憐は少し躊躇うように一瞬口籠ってから、俺にこう尋ねてきた。
「好きな人とか、いる?」
彼女の予想外の問いかけに一瞬思考が停止したこの瞬間を、今でもはっきりと覚えている。
実をいえばこの頃、俺は勇気を出して可憐に告白しようかと考えていた。
自分の中で密かに、しかし長年積み重ねられてきた彼女への想い。それを抑え込み続けることに、既に限界を感じていた。
そんなときだったから、急に可憐の方から、異性に関する話題を振られて、すごく動揺した。混乱してその意図を訊き返してしまったが、可憐は本当にそういう意味で、好きな人を訊いてきたようだった。
「さあ…いないかな。女の子とか、よくわからないし」
俺は恥ずかしさのあまり、こう返すのが精いっぱいだった。
あのときは、この返答で今後、これほどまでに後悔するとは微塵も思っていなかった。
「…そっか…。」
可憐は少し寂しそうに俯いた。その日、それ以上彼女と会話することはなかった。
それから一週間後。
可憐に、彼氏が出来た。
実際にそういう状況になって初めて、俺は、幼馴染という立場に甘えていたことを悟った。
心のどこかで、可憐とはこれからもずっと一緒にいられると思っていたのだ。
好きな女の子が遠く離れていく感覚が、これほどまでに寂しいものであると知った。
そして、その日を境に、俺と可憐が一緒に下校することはなくなった。
帰宅部だった俺は、学校が終わると真っ先に下校するようになった。
うっかり、可憐が別の男子と一緒にいるところなんて、見たくなかった。
しかし、家に帰って、自分の部屋のカーテンを開けると、嫌でも可憐のことを思い出してしまう。俺の部屋と可憐の部屋は隣同士で、昔はベランダ越しによく会話してたっけ。
俺は家にいることも嫌になった。
だから、放課後はすぐ、塾に通うことにした。
俺はまるで何かに憑りつかれたように、勉学に励んだ。別に、勉強することが特別好きだったわけではない。ただ、何か別のことに集中していれば、その間だけは可憐のことを忘れることができた。
たまに学校の廊下ですれ違う可憐は、以前にも増して綺麗になっていた。これが、恋する乙女というやつなのだろう。俺の隣を歩いていた頃の彼女とは既に違うことを感じて、そんな日はやっぱり勉強に打ち込んだ。
その結果、俺は高校で学年トップ3に入る成績を取り続け、卒業後は地元から離れた他県の国立大に進学することとなる。
転機は、高2の冬あたりだっただろうか。勉強をするうちに、進路について意識するようになるが、俺はそのとき、家から遠く離れた場所で、一人暮らしの大学生活を送れば、可憐のことを忘れられるのではないかと気がついた。それからは猛勉強。無事、現役合格を果たしたときは、両親をはじめ塾の先生方からもお祝いの言葉をたくさんもらって嬉しかった。
そんなわけで、俺はX大の工学部に進学したのだが…
講義のとき、周りを見渡せば、男、男、男。
マジで、男しかいない。
え、キャンパスライフって、こういうものなのか。
現実は、俺の思い描いていたものとは大きく離れていた。
一緒に講義を受ける仲間は、まあ一部、「俺に関わるな」みたいなオーラを出している人や、「学歴ブランドで女の子捕まえてやるぜ!」みたいな強めの個性を持った人もいることは事実だが、大半は当たり障りのない、普通の人達だ。やがて何人かとは、仲良くなることができた。彼らと一緒にレポート課題に取り組む時間は、高校時代ずっと塾で1人黙々と机に向かっていた頃とは違い、なかなかに面白いものである。
ただ、課題が多いために、サークルやバイトに多くの時間を割くことができない。
俺は最初こそサークル探しをしたが、運悪く初めに見学にいったサークルが顔審査?とかあるそっち系のサークルで、嫌気がさしてしまった俺は、結局無所属である。
代わりに、週2回、飲食店でアルバイトをしている。
始めたきっかけは、この男だらけのむさくるしいキャンパスライフ(笑)から脱却したいという理由で、我ながら女の子との出会いを求めているだけの行動に、虚しさを覚える。
バイト仲間との会話は、結構楽しい。一緒にシフトに入ることの多い女の子2人とは、すぐに仲良くなることができた。
片方の子は、よく彼氏の愚痴を言ってくる。彼女曰く、俺は聞き上手で何でも話しやすいらしい。ストレスの捌け口にされているようでちょっと癪だけれど、実際彼女の話は客観的にみればなかなか面白い。
もう1人の子は、特定の男子とは付き合わずに…男の友達がいっぱいいるタイプ(笑)で、俺と一緒に愚痴を聞きながら、「女の方からもっとガツンと!」みたいなアドバイスをしていて、正直ちょっと引いてしまう部分もあるが、気さくで面白いヤツである。
ただ、そんな2人と会話していると、住んでいる世界が違うな、と感じてしまう瞬間がある。2人はいつも、なんだかんだで楽しそうに話をしているが、勢いのある楽観的なノリに、時折ついていけないと感じてしまうときがあるのだ。
はっきり言えば、彼女たちは俺のことを異性としてあまり見ていないからこそ、今の楽しい関係があるのだろう。そして彼女たちのことは、正直俺の方も、あまりそういう相手とは思うことができない。底抜けに明るいところは彼女たちの美点だが、失礼になっちゃうかもしれないけれど、俺はもう少し清楚でしっかり者な一面も持った女の子が好みらしい。
…それこそ、可憐みたいな…
そして、現在。俺は晴れて大学2年生となっている。が、未だに彼女は出来たことがない。
というか、女の子のことを好きになることすらないなんて思いもしなかった。
俺は、早く彼女を作って、可憐のことを忘れたかった。
今は休みの日に一緒に遊ぶ男友達が5人ほどいて、キャンパスライフは充実しているし、とても楽しい。だが、そんな中でも心のどこかで女の子との出会いを求めている自分が、ときどき嫌になる。
そんな、モヤモヤする気持ちに悩んでいた、大学2年の夏。両親に帰省するよう言われて、今回の夏休みを利用して、俺は久しぶりに地元に帰ることとなった。
前回帰ったのはいつだっただろうか。…おそらく、去年の夏になる。
そういえば、正月に帰省しなかったことで、家族には散々怒られたんだっけ。そのときは、レポート課題が忙しいからと、事実でありかつ適当な理由をつけて1人寝正月を迎えたが、正直、あまり帰省したくなかったのだ。心配性な両親は、俺が黙っていても頻繫に連絡をよこしてくるし、何ならビデオチャットまでしてくるものだから、1年ぶりに会うという感じはあまりない。
むしろ、俺は実家の隣に住む、今は地元の大学に通っている女の子に…うっかり会ってしまうことを、避けたかった。
そんなわけで帰省に乗り気でなかった俺だけど、実際に飛行機から降りて地元の空気を吸うと、「ああ帰って来たんだな」という実感が湧き、気持ちは高ぶった。電車で移動しながら窓を眺めていると、見慣れた景色が近づいてくる。なんだかんだいって、俺はこの街が好きだ。生まれてからずっと暮らしてきたことで、愛着が湧いている。
そうこうして、懐かしい我が家に着いたのは夕方の3時頃。しかし、散々帰って来いと言った両親は共働きのため、今はいない。
そして、とにかく、暑い。久しぶりの実家でクーラーをガンガン着けて、涼もう。
そう思い、家の玄関のドアを開けようとしたとき…
「…陸くん?」
頭上から、聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。透き通るような、はっきりとした明るい声。
俺はおそるおそる上を見上げると、隣の家の窓をあけて顔を出し、手を振っている俺の幼馴染がいた。
「…お、久しぶり」
このような事態を想定していなかったわけではないとはいえ、咄嗟のことで心の準備が出来ていなかった俺は、彼女に上手く笑いかけられたか、わからない。
「ちょっとそこで待ってて!」
そう言うと、彼女は勢いよく窓を閉めた。
…そうは言われたものの、暑い。俺は彼女を無視して、とっとと自室に入ろうかと思った。
今更、可憐の笑顔なんて、見たくなかった。そしてそれに胸が高まってしまう自分を、認めたくなかったのだ。
だけど、久しぶりに見た幼馴染はどうしようもなく可愛くて、ちょっと話したいと思ってしまっている自分がいた。
「陸くーん!」
勢い良く玄関のドアを開けて、こちらに駆け寄ってくる可憐。
改めて見ると、以前は背中までだった髪は腰のあたりまで伸びていて、それでいて綺麗に手入れされているのがわかる。
整った顔立ちは相変わらず俺好みのままで、大きめの瞳を見ていると思わず吸い込まれてしまいそうだ。
そして、何より話したときの仕草。
自然な会話のしやすい空気感を作り出し、俺の言いたいことを何でも聞いてくれた。会話しているといつでも楽しかった。そんな日々が、まるでついこの前まで続いていたかのように、鮮明に思い出されていく。
「せっかくだし、中に入ってよ!」
そう言って微笑む彼女の誘いに、無意識に乗ってしまいそうになる。
だけど、可憐にはもう彼氏がいる。他の男を勝手に家に上げたら、彼氏さんは良く思わないんじゃ…
そう思い、躊躇うような素振りを見せると、彼女の方が察したようで、
「…あ、ついでにさっ、健斗くんにも会ってくれる?」
と言って、笑った。
「健斗くんとも、きっとすぐ友だちになれるよっ」
と言い、楽しそうにスマホをタップする彼女には、特に深い考えは何もないことがわかるけど、俺は正直、健斗という男には会いたくなかった。
健斗も同じ高校に通っていたが、一度も同じクラスにはなったことがなかった。
バスケ部に所属していて1年の頃からメンバー入りしていた彼は、カッコイイと人気だったから、俺は他のクラスだったとはいえ、可憐の彼氏となる前から、その存在は知っていた。そんな彼が告白して、可憐と付き合うことになって、落ち込んでいた女子が多かったのは、言うまでもない。
俺は、落ち込んでいた男子の方だったが…。
正直、今の俺がどんな顔で健斗という人物に会えばよいのかわからなかった。
健斗は、幼馴染の可憐の大切な人。
そんな彼に、俺は醜い嫉妬を抱いてしまいそうで…
外は暑かったので、先に可憐の家に上げてもらった。幼稚園の頃より後も、俺と可憐は家を行き来することはあった。しかし、そんなに多くはなかったはずだ。そして高1の「あの日」以降は、ずっと隣に住んでいたというのに、すっかり疎遠になっていたから、以前の面影はあるにしろ、俺の記憶の中の可憐の家とは少し違っていた。
やがて10分ほどして、健斗がやってきた。俺と会ってすぐに連絡したとはいえ、来るのが早い。
このまま可憐と2人きりでいたら俺がどうにかなってしまいそうだったので助かったが、可憐と健斗がお互いにいつもやり取りしているという仲の良さを目の当たりにして、胸がチクリと痛む。
「はじめまして」
物怖じしないよう、先手を打って声をかけた俺に対し、健斗は爽やかな笑みを返してくれた。
それから俺たちは、可憐の部屋で、3人で他愛もない話をした。俺からしてみればまるで修羅場のような状況だったが、残りの2人はこの奇妙な状況に対してもまるで全く気にしていないかのような空気でいて…。そのカップルは、俺という異物をいとも簡単に受け入れてくれた。それだけに、俺が、変に可憐を意識してしまっていることが心苦しい。
実際に話してみてわかったが、健斗はいいヤツだった。何気ない会話の中で見せる気配りと、リラックスした空気感を簡単に作ってしまう彼のように、俺はなれないと思った。
俺は3人と話していてとても楽しかったし、盛り上がったため、別れ際には健斗とメッセージアプリの連絡先をうっかり交換してしまったが、ときどき会話の中で可憐と健斗の間に、無自覚に湧き上がる2人だけの空気感をたびたび目の当たりにしてしまったことで、しばらくは胸が締め付けられるような気持ちを味わう羽目になった。
だから、俺は久々に入った実家の自室のカーテンを開けることは、一度もなかった。
久しぶりに会った可憐は、以前にも増して綺麗になっていた。
だが、彼女の傍には既に、大切な人がいる。
彼女にとって、俺は懐かしい昔の友達で、だけど今となっては既に彼女の生活の中に俺はいないのだ。
夜になって帰宅してきた両親には、「可憐ちゃんには会えた?」とだけ訊かれたので、俺は「うん」とだけ返事をした。
両親は、俺が可憐のことを女の子として好きだったことは知らない。いや、もしかしたら何か察していた可能性もあるが、今となってはどうでも良いことだ。それ以上、両親が可憐について聞いてくることはなかったし、俺もここを発つまで可憐に会うことはしなかった。
久々の帰省は、楽しいものだった。一人っ子の俺は、ここぞとばかりに張りきっていた両親に、さんざん甘えた(笑) 美味しいものも食べに行ったし、父親が好きな野球観戦にも無理やり付き合わされたが、大学の近くにはスタジアムがないため、それも新鮮で楽しい思い出となった。
そんな日々もあっという間に過ぎて、今は帰り道。電車の窓から見える風景。俺の故郷が遠くなっていくのを眺めていると、ふと可憐の顔が脳裏に浮かぶ。
「陸くんもさ、早く彼女作っちゃいなよ!陸くんは頭も良いし、優しいし、わ、私みたいな可愛い女の子も、選り取り見取りだよっ!」
健斗が帰った後の別れ際に、冗談めかしてそう微笑んだ彼女は、恥ずかしかったのだろうか、最後のセリフはちょっと嚙んでいたけど、そこも可愛かった。
だが、この言葉は俺の心に深く刺さった。
俺がずっと好きだったのは、可憐、だよ。
その言葉を伝えることは、どうしてもできなかった。
今、俺と接点のある女の子なんて片手に収まる程度で、気になる子すらいないなんて、可憐には想像もつかないことなのだろう。
そんな可憐との最後の会話は、俺の立場から考えたらまるで馬鹿にされたようなセリフにも思えたが、そのときの可憐の目は真剣そのもので、長年付き合いのあった俺には、何の嫌味もない彼女の本心であることがわかってしまう。
今になって思い返せば、あの日。あの高1の夏の日、俺に好きな人がいるのかを尋ねてきたときは、健斗に告白されたときだったのだろう。
その日まで一度もしたことのない異性の話題をわざわざ俺に振って、俺の返答に寂しそうな表情を浮かべたのは、もしかすると可憐は俺からの告白をずっと待っていたからではないか?
だけど、俺の態度から脈がないと感じた可憐は、散々悩んだ末に健斗と付き合ってみることにしたのではないか?
いつも、思っていることを気軽に言い合ってきた俺たち2人の間に、嘘や隠し事なんてあったことはなかった。
だけど、どうしてあのとき、本当は好きな人はいる、俺は可憐のことが好きだ、と言えなかったのだろう。
終わってしまったことは、悔やんでも仕方ない。
そうはわかっていても、俺は考えることを止められない。
どうしても付き合ってほしいと無理を言ったのがきっかけだ、一週間も返事を待たされてしまった、と苦笑しながら語っていた健斗の顔も浮かんでくる。
…ダメだ。何を考えているんだ。
可憐と健斗は、あんなに幸せそうだったじゃないか。
可憐と釣り合うのは、健斗のような男だけだと自分に言い聞かせ、俺は電車を降りる。
空港から飛び立ち、今の住まいに帰れば、このモヤモヤした気持ちもこの地に置いてくることができるのだろうか。
家に着き、誰もいないドアを開ける。
真っ暗な部屋に明かりをつけて、ふと機内モードにしたままとなっていたスマホを手に取ると、メッセージアプリには可憐からの通知があり、「またね」のスタンプだけが、送信されていた。
…途端、行き場のない気持ちが溢れてきて、俺は衝動的に可憐の連絡先をブロックしようとする。
だけど、結局できなかった。
小さい頃から一緒だった、俺の大切な「友達」を、自分だけの一方的な、勝手な気持ちで、無下にすることはできなかった。
好きだった幼馴染のことが忘れられない。俺はどうしたら良いですか?
拙い部分もあったかと思いますが、読んでくださりありがとうございました。