『伝説の七人』第9章平将門の章
第九章 平将門の章
1,1日ゆっくりできて、みんな疲れも取れたようだった。
一番先に朝食を摂りに現れたのはアルだった。アルが朝食を食べてるところに、次に現れたのは小角であった。
「アルと同じ物を。」
小角は香音に頼んだ。
「小角ちゃん、これハンバーガー、パンは小麦粉、穀物よ。大丈夫なの。穀物アレルギーなのかと思ったけど…」
「うん、美味しいから大丈夫。」
小角は急に話題を変えた。
「アルって歳いくつなの?」
「15歳」
「小角は何歳なの?」
「多分40歳くらいかな。」
小角は考え込むように、
「俺の嫁になんねえ?」
「きもっ、あんたバカじゃないの。親子ほど歳離れてんのに。」
「この時代普通だよ。」
「絶対、嫌!あんたほんとにデリカシーないよね。」
「ねえ、いいじゃん。」
「あんまりしつこいとぶつわよ。」
小角はその場にへなへなとへたり込んだ。
でも、まんざらでもないアルだった。
そこへ湯川がやって来た。
「おお、2人共仲良くやってるな。」
「うるさい!」
「朝っぱらから何怒ってるんだ、アル。」
「もう、全くこの船にはデリカシーのない男ばっかりね。」
「湯川、デリカシーってなんだ。」
小角の質問に湯川も困った。
「う~ん、気配りがないとか、空気が読めないとか、そんな意味かな…」
「空気は吸うもんで、読むもんじゃねえだろう。」
「そういう事言うのが、デリカシーがないって言うのかな…」
「さっぱりわからん!」
香音はケタケタ笑っていた。
2,そうこうしてる内に三々五々みんなが集まってきた。
「みなさん、ゆっくり休めましたか?」
湯川はみんなに尋ねた。
「ああ、わしはビデオなる物を見ており、あっという間に1日が過ぎてしもうた。」
須佐之男が満足げに言った。
「須佐之男命様はHなビデオばっかり観てらしたのよ。」
香音がばらした。
「あの者達はまぐわった後、みんな婚姻してるのか?」
「それと肝心な部分がぼやけて見えない。わしの目がおかしくなったのか?」
須佐之男の疑問に香音が答えそうになるのを卑弥呼が手で抑えて、「香音このバカに説明する必要はないわ。」
「はい」香音は吹き出していた。
3,「じゃ、作戦会議にしましょう。次は平将門公です。」
香音が提案した。
「そ奴は何者ぞ。香音。」
「はい、須佐之男様、桓武天皇のひ孫にあたる『高望王』の血筋を引く者です。京で天皇の警護に当たっておりましたが、官位も低く天皇をとりまく貴族の中でも、朝廷の要職は藤原氏が独占していました。
そんな中地方の政治は国司が横暴してやりたい放題。
要職に就けない貴族は武士になるしかないという背景がありました。」
「ふむ、ならばそ奴は貴族ではなく、武士だった訳だな、」
「そう言う事です、須佐之男様。」
「平将門公の人生はまさに、裏切りと陰謀の繰り返しの人生でした。
将門公は貴族になるのを諦め、武士が政を司る世を目指します。
当時の朝廷と藤原氏は、民衆に重い税を課し、重い労役に就かせ、自分たちはやりたい放題でした。」
「またか、一体朝廷はどうなってるんだ。」
卑弥呼が嘆いた。
「藤原氏がいいように朝廷を操っていたようです。
そんな中故郷の下総の国に戻った将門公は関東一円を治め、朝廷に対抗する姿勢を見せました。
将門公はわずかな手勢を引き連れ、戦に連戦連勝、その姿はまさに鬼人のようだったと言われています。」
「朝廷の悪政で苦しんでいた民衆を救った将門公は自ら新皇と名乗り、それが朝廷の逆鱗に触れました。」
香音の説明は続く。
「朝廷は、将門公の首を取った者には貴族の称号を与えるとふれを出し、平貞盛、俵藤太
を頭とした連合軍を結成、常陸の国へと攻め立てます。
後に将門の乱と呼ばれる戦です。
貞盛達が放った火が常陸国を焦土と変え、将門公は手勢を400まで減らされ、相手の大軍勢に囲まれ、流れ矢が将門公の額を貫きました。
その後、将門公の首は京七条河原に晒されます。これが将門公の最後です。」
香音の説明はだいたい終わったようだ。
「ふん、たかが矢ごときで額を貫かれるとはやわな奴。」
須佐之男が吐き捨てるように言った。
「将門公は手のひらから火球を放つ事ができました。当初北風が吹き将門公は追い風に乗り有利に戦いを進めましたが、途中で風向きが強烈な南風に変わり、将門公は向かい風に晒され火球の効果が薄れました。」
香音がフォローした。
「湯川は何故、将門をチームに入れようと思ったんだ。」
日本武尊が聞いた。
「自分の命を賭けても民衆を守ろうとした志、死んでもなお東京を守ろうとした強い念、これは未来の日本を守る上で欠かせない強い思いです。」
湯川のくせにまともな事言いやがった。
アルは思ったが、口には出さなかった。
「香音、もし我らが将門の命を救い、朝廷の連合軍を叩き潰したら歴史はどうなると思う?」
「皮肉なことに、将門公を討ち取った平貞盛の子孫、平清盛が藤原氏を滅ぼし、武家が政を治める世が長く続きます。」
「じゃ、藤原家が平家に取って変わるのが早くなる程度ね。」
「そうですね、卑弥呼様。時間軸が大きく歪むことはないと思います。」
「なら将門を助けましょ。」
「そうね、将門が矢で打たれる10分前くらいでいいかしら。」
「相手の手勢はいくらくらいなんだ。」
日本武尊が香音に尋ねた。
「数千人程度かと思われます。」
「しれてるな。」
こういう時の日本武尊さんは頼もしいなと湯川は思った。
アルも熱い視線を日本武尊に向けていた。
小角はあらぬ方を向きながら鼻をほじりながら顎を鳴らし、「ぽっ、ぽっ」と息を吐いた。
「じゃ、おば…あ、卑弥呼さん今回はどんな作戦で行きますか?」
卑弥呼はまた額に指を当て考えながら言った。
「そうね、またスサノオとタケルは暴れ回って敵を倒してちょうだい。あんた達矢は跳ね返せるわよね?」
「当たり前だ。」
「貞盛と藤太は殺さないで。」
「清明は湯川と一緒に結界を張って待機。」
「小角、今回は大役よ。将門の額に矢が刺さる直前に瞬間移動して矢を掴み取って。」
卑弥呼がまたてきぱきと指示した。
「できそうか?小角。」
心配して日本武尊が訊いた。
「うん、多分大丈夫、かな…」
鼻をほじり顎を鳴らしながら答える小角に、湯川は少し不安感を覚えた。
「アルは船で待機。」
「ちっ、つまんないの。」
アルは口を尖らせた。
「じゃあ、俺の代わりに将門公の説得に行かしてやってもいいぞ。」
「ヒデキ、あんたバカじゃないの!将門ちゃんの事一番リスペクトしてんでしょ?
あんたが将門ちゃんどうしてもチームに加えたいって言ったじゃん。」
「はい。」
湯川はうなだれた。
「じゃ、940年2月14日へGO!」
4,常陸の国、幸島村は戦の主戦場であった。
無数の矢が飛び交っていた。
その中を一騎の武者が馬に乗って、右手で長槍を振り回しながら、左手から火球を出し矢を焼き落としていた。
平将門だった。
そこに突如5人の姿が現れた。
「香音の奴、転送先の指定に慣れてきたな。」
安倍晴明はすぐに自分と湯川の周りに結界を張った。
須佐之男と日本武尊の刀をも跳ね返す鋼の身体に矢が刺さる訳もなく、2人は矢の飛び交う中を、草薙の剣を振り回しながら、敵の首を刎ねまくった。
小角は背から羽を出し空中を飛び回りながら敵を掴んで空高く放り投げていた。
「ん、援軍が到着したのか?」
と、将門は思いさらに勢いを増した。
馬の上から敵の首を刎ね、心臓を串刺しにした。
その時、敵を刺した槍が相手の鎖帷子に引っかかってしまった。
「ん。」
槍をつい両手で引き抜こうとした将門の額に向け1本の槍が迫ってくるのが見えた。
「今よ小角。」
卑弥呼の声だった。
小角の姿が消えた。
将門は矢を避けようとしたが、矢はもう目前にまで迫っていた。
「まずい。」
将門がそう思った瞬間、目の前にその矢を鷲掴みにする両手が現れた。
矢の先っぽは将門の額に1センチほど刺さってしまった。
「あ、ごめんなさい。ちょっと刺さちゃった。」
「いや、この程度の傷、大したことはない。」
「しかしお主らは一体何者だ。」
将門は無事だったようだ。
「それは後でゆっくり説明するから、先に敵倒しちゃお。」
そう言い残すと小角はまた空へ飛び立った。
須佐之男と日本武尊は猛烈な勢いで敵の首を刎ねまくっていた。
将門も火球を放ち敵を燃やし続けた。
数千人居た敵軍はあっという間に200人程になった。
「まだ逆らうか!」
須佐之男の地を揺るがす程の怒声に、残った敵は逃げまどった。
その中を欠きわけるように貞盛と藤太も逃げた。
「待て、貞盛、藤太お主らの首はわしが取る。」
将門は猛烈な勢いで追いかけた。
が、途中で体が固まって全く進めなくなった。
卑弥呼の呪術であった。
「身体が動かぬ、馬も進まぬ。なんだこれは。」
「もうよい、将門。放っておけ。」
須佐之男が命じた。
5,そこへ湯川がひざまずき将門の前に現れた。
「俺は湯川と言います。2000年後の未来から来ました。」
将門も馬から降りた。
「この者達も未来から来たのか?」
「いえ、未来から来たのは俺だけで、こちらは須佐之男命様。」
「何!あの八岐大蛇を倒した伝説の神。」
「こちらは日本武尊命様。」
「何!あの伝説の日本武尊命様だと。」
「将門公を助けたのは役小角様です。」
「何!あの修験道の開祖、役小角様だと。」
「こちらはまだこの時代にはお生まれになっておりませんが、陰陽師の安倍晴明様です。」
「何!知らない。」
「ですよねww。」
「俺の船にはアルって科学者と卑弥呼様も乗っておられます。」
「何!あの卑弥呼様まで。」
今度は将門がひざまずく番だった。
「まあ、よい続きは船に戻ってからだ。」
須佐之男さん、いつも通り酒盛りしながら話そうってか、湯川は思った。
「ここから海までは20里はあるぞ、歩いたら15時間はかかる。」
将門の疑問に湯川は香音にステルス機能を解くよう命じた。
空中に巨大なシルバーに輝くエスポワール号が出現した。
「どっひゃぁ~~。」
将門は腰を抜かした。
「わしも聞きたいことが色々ある。お主の船に行こう。」
「将門公、これを耳にはめてもらえませんか?」
「こうか。」
将門がアップルホンを耳につけた瞬間、7人の姿は消えた。
6,「なんだこれは?一瞬にして船の中に移動したのか、小角殿が突然わしの前に現れたのもこの術式か?」
「これは転送装置と言って未来のメカです。」
湯川が答えた。
「オラはこんなもん使わなくても瞬間でどこでも移動できるよん。」
湯川は将門に耳打ちした。
「小角さんは修業し過ぎてちょっとバカっぽいんです。」
「湯川!」
あ、聞こえちゃったかと湯川はビビった。
「ありがとう。」と、小角に礼をいわれ、小角は「カクン」と顎を鳴らした。
やっぱりこいつはバカだと湯川はこけそうになった。
「将門公念のため、額の傷治療しておきましょう。医務室へどうぞ。」
「この程度、どうってことない。」
香音だった。
「うっ、貴様霊体か!」
「あ、彼女は香音と言って未来の人工知能で今見えてるのはホログラム映像です。」
湯川が説明した。
「まあ、よくわからんが未来の術式だな。」
「香音とやら治療してくれ。」
やっぱ将門公は聡明そうだ。湯川は安心した。
将門の額の傷はすぐ治ったが、この時香音は治療ポッドの映像を見ながら、とんでもない事に気付いていた。
将門が治療している間に、食堂では酒盛りが始まっていた。
「この子がアルで、こちらは卑弥呼さん。」
将門は卑弥呼に敬意を表し、ひざまずいた。
「よっ、将門ちゃん。よろしくね。」
アルの挨拶は相変わらずであった。
「それが未来の挨拶の仕方なのか?」
将門の問いに湯川が答えた。
「いや、ただこいつが常識知らずのバカなだけで…」
言い終わる前に湯川はまたアルにケツを蹴られていた。
みんな笑っていた。
なんだかお決まりの展開だな、湯川の中でアルの蹴りがだんだん快感になって行った。
「まず聞きたいんだが、わしが貞盛と藤太を追おうとした時金縛りのように動けなくなった。あれは何だったんだ?」
「それはわらわの呪術よ。」
「え、卑弥呼様が、またなぜ?」
卑弥呼は額に指を当て、押し黙っていた。
「それは私からお答えしましょう。」
香音だった。
「本来の歴史では将門公はあの時、額を矢で射抜かれ死んでしまわれます。」
「それをお主達に救ってもらった訳だな。という事は歴史が変わってしまったっていう事じゃないのか?」
「将門公様、窓の外をご覧ください。」
窓からはらせん状に続く地球とこの船が居る時間軸が映っていた。
「ここは4次元の世界、見えてる地球は時間ごとの地球よ。」
「これが地球か、なんて綺麗なんだ。」
将門は感嘆していた。
清明もこの映像には目を潤ませていた。
「少し先の地球を見てみましょう。」
香音は時間軸を少し移動させた。
「これはさっきの戦から約200年後の未来よ。平清盛という武士が天皇の側近となり、貴族が国を治める世の中から武士が国事を治める世を作ったの。」
「武士が政を司る世はこの後700年続いたわ。」
「その平清盛という者は我子孫か?」
将門が香音に尋ねた。
「いいえ、貞盛の子孫です。」
将門は驚愕した。
「あんな奴の子孫が武士の世を築いたというのか。」
「だからわざと逃がしたという訳だな。」
「そうよ、わらわの呪術でな。」
「で、将門公の力を未来を救うために俺達に貸して欲しいんです。」
湯川がお願いした。
「うむ、わかった。この地を守るのであれば、この命湯川に預けよう。で、この6人でか?」「後もう一人協力をお願いしようと思っております。」
「それは誰じゃ?」
「みなさん、明日は1日地球の歴史の勉強をしませんか?人類はどう進化したのか、未来でどんな危機にさらされたのか、どう敵を倒すのか。」
香音が提案した。
「そうね、それは詳しく知っておく必要があるわ。」
卑弥呼は賛成した。
「オラ勉強好きだぞ。」
一番勉強と遠いところに居そうな小角の発言に、湯川とアルは吹き出した。
「ただ、先の世界で船を破壊すりゃいいだけだろうが、わしらがそんな事学ぶ必要などない。なあタケル。」
「ああ、暴れりゃいいだけだろ。」
須佐之男と日本武尊はめんどくさそうだな、湯川は思った。
「駄目よ、あんたちもちゃんと知識をつけなさい!」
卑弥呼に一喝され、2人はうなだれた。