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伝説の七人  作者: HITOSHI
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『伝説の七人』第6章須佐之男命の章

第六章 須佐之男命の章

1,「やっぱりお湯の出るシャワーは最高だな。」

湯川はバスタオルで頭を拭きながら食堂に入って来た。

そんな湯川にアルが声をかけた。

「ヒデキ、タケルちゃんも誘って来てあげな。」

相変わらず偉そうな奴め。

湯川は日本武尊を連れて戻って来た。

「香音俺今日は、鮭おにぎりと明太子おにぎり、味噌汁と卵焼きでいいや。」

「この透明女に命じると食い物が出て来るのか?」

「タケルさん、透明女ってww、香音って呼んでやってください。」

「ごほん、では香音俺にも湯川と同じ物を頼む。」

「あいよ。」

自動調理器から2人の朝食が出てきた。

日本武尊はおにぎりを頬張り、味噌汁を一口飲んで、「美味いな~」と呟いた。

「タケルさんはいつもどんな物食ってたんすか?」

「う~ん、虫とか野草とか、猪や鹿を殺して焼いて食ってた。」

「野蛮人めが。」

卑弥呼が罵るように言った。


「じゃ、食事しながら今日の作戦を立てましょう。」

湯川が提案した。

「まずはどの時代に行くかだが、香音どうだ?」

「そうね、やっぱり須佐之男命様が八岐大蛇を倒す所に行って、天叢雲剣アメノムラクモノツルギを手に入れた所で来てもらうのが一番ね。」

香音がそう提案した。

「そうだな、俺もそう思う。今回はタケルさんも居るし、安心だな。」

「ヒデキ、今度も一人で行ってらしゃい。」

卑弥呼は冷たく言い放った。

「ゲッ、またっすか?」

湯川は今度は日本武尊が居る事で安心してただけに、マジで驚いた。

「タケルにはわらわの守護をやってもらうわ。」

「卑弥呼さん、この船から出ないんでしょ?

なんで守ってもらう必要があるんすか?

それにタケルさん以上に凶暴な須佐之男命に何の力もない俺にどうしろっていうんですか?殺されて来いって言うんすか?」

湯川は一気にまくし立てた。

「とにかく逃げなさい。戦うのは勿論、話しようなんて思うのもダメ。目が合ったら、とにかく必死で逃げなさい!」

「危なくなったら転送してくださいよ。」

湯川も必死だった。

「転送はしない。」

「いいぃぃ、そんな…」

湯川は椅子から転げ落ちた。

「とにかく逃げて、逃げて、逃げ切って、この船の格納庫までおびき寄せて。後はわらわとタケルで何とかするわ。」

卑弥呼の案は恐るべきものだった。

「じゃ、卑弥呼さんとタケルさんで行ってくれればいいじゃないすか?」

「わらわはこの船から1歩も出ない。それが条件だった筈よ。」

「それと今回は透明マントと銃は持って行ってもいいわ、須佐之男命には通用しないでしょうが、ないよりましかも。」

湯川は今度こそ死ぬかもしれない、そう思った。

「スサノオちゃんってそんなに話が通じない人なの?」

アルが聞いてくれた。

卑弥呼は考え込むような顔をしながら続けた。

「私は知らないけど、そんな予感がするの。その凶暴さに対抗するのはこの方法しかないわ。」


2,「ヒデキ、着いたわ。」

香音が言った。

エスポワール号は出雲の国の上空に居た。

「え、もう着いたの。俺まだ心の準備が…」

湯川はなんとか逃げようとしていただけに焦った。

「ヒデキもう覚悟を決めなさい。」

アルは湯川に手を合わせて言った。

「バカ、縁起でもない。」

湯川はアルの頭を叩いた。

「わっ、ヒデキ暴力振るった。パワハラ、野蛮人!バカ。」

なんでこいつはいつも、こんなにお気楽なんだ。

「ヒデキ、あそこに集落が見えるでしょ、須佐之男命様はあそこに向かってるわ。先にヒデキをあの集落に転送するから様子を伺っていて。」

さすがに今回は香音も心配そうな顔をしていた。

「じゃあ、準備してきて、ステルスシート、テイザーガン、アップルホンを忘れないで。」

「アップルホンは必要ないわ。」

香音の言葉に卑弥呼が口を挟んだ。

「じゃ、これを。」

香音に渡されたのは催涙弾とサングラスだった。

「仰せの通りに。」

湯川は前回の事もあり卑弥呼の言う通りにすることにした。

湯川は転送室に向かった。


3,湯川の姿は集落でひと際大きな家の陰にあった。

まだ八岐大蛇の姿はないようだった。

そこに須佐之男命らしき人物が現れた。ガタイがよく頭はつるつる、眼光鋭くいかにも迫力があった。手には草薙の剣ほどではないにしても大きな剛刀を握っていた。

その家から老夫婦が出て来ると、須佐之男命の前に跪き助けを乞うているようだった。

湯川は家の陰からその会話を聞こうと、自分のアップルホンのボリュームを上げた。

「須佐之男命様、私達には8人の子供がおりましたが、1年ごとにあの八岐大蛇に食われてしまいました。今年も生贄として最後の娘を捧げるよう命じられております。」

そういうと、1人の小柄な美女が家から現れた。その可愛さは湯川も息を飲むほどだった。

「この娘が櫛名田比売命クシナダヒメと申します。出雲の神の血を引く娘です。」 

「なんとか、この娘を八岐大蛇から救っていただけないでしょうか。」

須佐之男命はその娘を見ると、考え込むようにこう言った。

「その娘を救うには、八岐大蛇を倒すしか方法はない。」

「今まで何人もの兵士が八岐大蛇を倒そうと戦いましたが、全て一瞬で8つの首で食われてしまいました。」

「わしなら八岐大蛇を倒せるかもしれない。だが1つ条件がある。その娘クシナダヒメをわしの嫁にくれ。」

ゲッ、なんて無茶な要求をするんだ。今会ったばっかりだろう。なんて自分勝手な神なんだ。湯川は驚愕した。

「は、喜んで、娘を差し上げます。」

老夫婦の答えも意外なものだった。

「八岐大蛇はいつも何処から現れる?」

「あの山の向こうからです。」

老夫婦は南の大きな山を指さした。

「では、あの山の周りに濃い酒を並々いれた、大きな樽を8つ用意せよ。」

「はい、では村の物全員で用意いたします。」

「おい、娘、こっちに。」

須佐之男命はクシナダヒメを呼んだ。

須佐之男命は少女に手をかざすと、「えい」と声をかけ、少女を歯の多い櫛に変えてしまった。

「クシナダヒメだけに櫛なのだ。」

そんなクソつまらんギャグも言うのか。

須佐之男命はその櫛を自分の懐に入れると、「これでクシナダヒメとわしは常に一緒だ。共に戦おうぞ。」

と言った。

そうこうしてる内に酒樽の用意ができ、村人達は山の周りに配置し、蓋を開けた。

その匂いに釣られるようにゴォ~という音と共に八岐大蛇が姿を現した。

「なんて大きさだ!1首が山程の大きさがある。まさに化け物だ。」

湯川は驚いたが、

「ふん、この程度か。」

須佐之男命は全く意にかえさぬようだった。

八岐大蛇は酒樽を舐めるように大きな舌で掬い取っていた。

8つの首がほぼ同時に酒を飲み干すと、大きな首が縦に横にゆれていた。

「ふ、酒が回って来たようだな。今だ!」

須佐之男命は剛剣を振り回しながら、8つの首を猛烈な勢いで叩き切って行った。

「ぎぇぇ~~、」

耳をつんざくような鳴き声を上げながら八岐大蛇はのたうち回った。

須佐之男命は次に邪魔な尻尾をまた猛烈な勢いで叩き切ると、1本の尻尾から1本の妖刀を見つけ、取り出した。

「これはわしの十拳剣トツカノツルギを遥かに凌ぐ剛刀だ。」

須佐之男命はその剣を掴むと、八岐大蛇の腹を幾重にも切り裂いた。八岐大蛇の腹からはドロドロに溶けた動物や人間が出てきた。

湯川はまたその姿と匂いに嘔吐した。

「八岐大蛇は死にましたか?」

老夫婦が尋ねた。

「ああ、だが念のためあの山ごと焼いてくれ。」

須佐之男命は先程の櫛を元の娘の姿に戻すと、

「わしはこの剣を天照大御神に献上し、高天原に復帰し、この娘を嫁にし、子を設ける。」

子を設けたら、また会いに来てやろう。」

須佐之男命は天叢雲剣とクシナダヒメを肩に担ぐと村を後にしようとした。


4,「何者だ、そこに隠れておるのわ。あの大蛇を操っていたのは貴様か?」

ゲッ、須佐之男命に気付かれたかも…

「ヒデキ、催涙弾を使ってすぐ逃げて!」

卑弥呼の声だった。

湯川はステルスシートを脱ぎ捨て、催涙弾を須佐之男命に投げつけ、おもいっきりの勢いで走り出した。

須佐之男命は目を擦りながら、クシナダヒメを地面に降ろすと、湯川の姿を探して後を追いかけた。

湯川はテイザーガンを須佐之男命めがけ撃ったが、全部手で撥ね退けられた。

「ヒデキ、余計な事しないで、とにかく走りなさい!」

「それと香音、ヒデキが走ってるすぐ先に深い谷があるわ、その対岸にこの船を停めて、湯川の方向に向けて、格納庫の扉を開けてちょうだい。」

「それと湯川に乗り物を転送してあげて。」

「タケルは格納庫に行って、スサノオから湯川を守ってあげて。」

卑弥呼はてきぱきと指示するとみんなに急ぐよう言った。

「卑弥呼ちゃんの指示は的確ね。」

アルは感心した。

でも自分は何も指示されなかった事に少し膨れっ面になった。


必死で走ってる湯川は森へと逃げ込んだ。

そして湯川の尻にエアロバイクが転送されてきた。

「ふぅ~、これで何とかなりそうだ。香音ありがとう。」

だが湯川の読みは甘かった。

湯川はエアロバイクで木々の間をフルスロットルで駆け抜けていた。

しかし、須佐之男命は凄まじい勢いで、素手で周りの木々をバキバキとなぎ倒しながら湯川のバイクに迫ってきた。

その姿はまさに鬼神そのものだった。

湯川の目の前に大きな崖が見えてきた。

「しめた、あそこだ。」

湯川は猛スピードで崖から飛び立った。

須佐之男命は何の躊躇もなく崖の上からジャンプした。

「なんて跳躍力だ。まずい追いつかれる。」

須佐之男命の指がバイクの後ろを掴んだ瞬間、バイクもろとも湯川はエスポワール号の格納庫へ突っ込んだ。

湯川と須佐之男命は共に転げながら、米袋の山に突っ込んだ。

米袋がクッションになり湯川は軽傷ですんだ。


5,「香音すぐに格納庫の扉を閉めて。」

そう言い残すと卑弥呼はコックピットから格納庫に急いだ。

「我終手掴住了(やっと捕まえたぞ)」

「我会紛砕也(叩き斬ってやる)」

須佐之男命は湯川の頭目掛けて天叢雲剣を振り下ろした。

ドカン!という音と共に日本武尊がその剣を草薙の剣で受け止めた。

須佐之男命が呻いた。

「准収下我的剣(わが剣を受け止めるとは何者だ)」

須佐之男命と日本武尊は剣を交えた。

凄まじい轟音と共にお互い相手の剣を受け止めながら激しい火花が散り、船が大きく揺らいだ。

その時須佐之男命の蹴りが日本武尊の腹をとらえ、日本武尊は船壁へと吹っ飛んだ。

日本武尊は肩で息をしながら、「我名は日本武尊。」

そこに卑弥呼が現れ。両手を前に突き出し、「2人共やめよ!」

大きな声で一喝した。

須佐之男命は動きを封じられた。

須佐之男命は卑弥呼の方を一蔑し、唸るように言った。

「汝好姐妹(もしや姉さん)」

「えええっ!」

そこに居た全員が驚いた。

卑弥呼はアップルホンを須佐之男命に投げると耳に挟むよう指示した。

「卑弥呼さんと須佐之男命さんは姉弟だったんですか?」

湯川が卑弥呼に尋ねた。

「我らは神の子、わらわはイザナギの左眼から産れ、スサノオは鼻から産れた。」

「だが、わしの知る姉はもっと年配の女性だ。お主は若すぎる。」

須佐之男命は日本武尊と同じことを言った。

「過去の若い時代からこ奴らに連れて来られた。」

「よくわからんが、では天照大御神を名乗る前の卑弥呼ということか?」

「ぎょぇぇぇ~、卑弥呼さん天照大御神さんだったんすか?」

今度は湯川が驚いて尋ねた。

日本武尊も口をあんぐり開け驚いていた、

「それは今のわらわにはよくわからん。」

そらそうだ、若い卑弥呼さんを連れて来たのは俺達だ。湯川は思った。

「卑弥呼は高天原の前身邪馬台国の頃から、まつりごとは全部わしにやらし、自分は部屋に閉じこもるだけだった。そして俺のあまりに強引なやり方に怖れをなし、自ら天岩戸に隠れ天照大御神と名を変え、わしを高天原から追放した。その汚名を晴らすため、わしは邪神八岐大蛇を滅ぼしに出雲へやって来た。」

須佐之男命は一気にまくし立てた。

「お主の知らぬ事とは言え、わしはお主に恨みを抱いておる。この場でその恨み晴らしてやろう。」

須佐之男命はまた剣を構えた。

「ふん、馬鹿め、わらわはお主の意思を操る事ができる事を忘れたか。」

「その剣、自分の腹に刺すよう命じようか?」

卑弥呼さんならできそうだ、湯川は思った。

「くそ、俺はまたこの女に操られるのか。」

「で、そこにおる日本武尊とは一体何者だ、

なぜわしと同じ剣を持っておる。」

「それについては私が説明しましょう。」

香音も来ていた。

「わ、なんだこの人間もどきの透明女は。」

「人間もどきとは失礼ね、彼女は香音ちゃん未来のAIよ。スサノオちゃん。」

いつの間にかアルも来ていた。

「なんだ子供じゃないか、それにその無礼な態度は何奴じゃ。殺すぞ。」

アルは卑弥呼の陰に隠れた。

「この者達は2000年後の未来から、世界を救うためにやって来た者達だ。2000年も経っておる、言葉や立ち居振る舞いが違うのも仕方なかろう。」

卑弥呼がアルをかばった。

「香音ちゃん、スサノオちゃんに説明してやりな。」

アルは卑弥呼の陰から小声で言った。

さすがの怖いもの知らずのアルでも須佐之男命だけは怖いようだ。

香音が説明を始めた。

「私はこの宇宙船からずっと時間軸を通して史実を追いかけ事実を突き止めようとしたわ。スサノオ様はこの後、天照大御神に八岐大蛇討伐の証にその天叢雲剣を献上されます。

天照大御神様はその功績を認めスサノオ様の高天原への復帰を認める。

そして天照大御神の子孫が天皇家へと受け継がれると同時に天叢雲剣も天皇家へと受け継がれ草薙の剣と名を変え、日本武尊様に託され、東国征伐へと共に向かう。

その途中を私達が日本武尊様もお連れした。だから同じ剣な訳よ。」

「う~む、なるほど。それなら合点がいく。」

須佐之男命は納得したようだ。

香音は話を続けた。

「で、その後スサノオ様は後の景行天皇の皇后となられる播磨稲日大郎姫ハリマイナビノオオイラツメを見初め腹ましてしまわれる。

その子がそこに居る日本武尊様よ。」

香音は驚くべき事を言ってのけた。

「だから俺は親父に疎まれていたのか。この力もスサノオの力を受け継いでいたのか。」

日本武尊も合点がいったようだ。

「って事は、2人は親子で、こっちは姉妹。みんな親族じゃん。」

湯川は驚いた。親子で殺し合うとこだったじゃねえかよ。


6,「で、わしに何用じゃ。」

「えっと、2000年後の世界では人類が死滅しかけています。この倭の国も全て焼き尽くされました。その世界を救って欲しいんです。」

湯川が須佐之男命に頭を下げた。

「無理じゃ、わしは出雲に櫛名田比売命クシナダヒメを残して来てしまった。あの娘を残したまま旅に立つ事はできん。」

須佐之男命は首を横に振った。

「それなら大丈夫よ。僕達の用がすんだら、スサノオちゃんをこの瞬間に連れ戻すから。」

アルが湯川の言葉を繋いだ。

「嫌じゃ、わしは今すぐにでもあの娘とまぐわいたい。」

また須佐之男命は首を横に振った。

「わ、バカ、やだこの糞スケベじじい。人類救済より自分の性欲を優先させる訳。」

「この無礼者!その首刎ねてやる。」

須佐之男命の大声が船中に響いた。

アルはまた卑弥呼の陰に隠れた。

「確かにこ奴は口が悪いが、言ってることは正しい。」

卑弥呼はアルをかばった。

卑弥呼の陰でアルはあっかんべーをしていた。

「で、その未来とやらではわしは思う存分暴れる事ができるのか?先ほどの八岐大蛇との闘いは少し物足りなかった。」

げっ、あんな化け物やっつけたのに全力じゃなかったてか?

こら本物の化け物だ。すごい戦力になりそうだ。湯川は驚いた。

「ええ、思う存分暴れてちょうだい。ただ八岐大蛇ほどやわじゃないかもよ。お前の力だけでは通用しないわ。みんなで協力し合わないと。」

卑弥呼にはやっぱり未来が見えてるのか、湯川は思った。

「ふん、どんな奴かは知らぬが、俺1人で倒してやる。」

「こりゃすげープライドの持ち主だ。」

思わず湯川は呟いてしまった。


7,「先程の戦いで腹が減った。ここには何か食うものはないのか?それと酒も」

出た出た、お決まりの展開。須佐之男命も自動調理器の美味さには驚くぞ。食い物の恨みは強いって言うけど、裏返して考えてみりゃ、食い物で繋がった絆は強いって事だ。湯川は変な自信を持った。

「生ビール、生ビール。」

「餃子、餃子。」

アルはいつも通りルンルンだったが、卑弥呼が少し笑ったように、湯川には見えた。

この船に来て、初めて卑弥呼さん笑ったんじゃね?

「えへん、香音、メニューを映し出してくれ。」

調理器の前にメニューが映し出されたが、須佐之男命には何が何やらさっぱりわからなかった。

「湯川、一番美味い酒を頼む。それと肉が食いたい。」

「じゃ、香音、スサノオさんとタケルさんにウイスキーと唐揚げとステーキを頼む。」

「私は生ビールとソーセージと唐揚げ。」とアル。

「わらわは日本酒と餃子」と卑弥呼。

「アル、お前は今回何も仕事してないじゃねえか。」

湯川はまたアルにケツを蹴られた。

「そういうの、パワハラって言うんじゃ。」

湯川にはまた少し卑弥呼が笑ったように見えた。

須佐之男命と日本武尊はウイスキーを瓶のままラッパ飲みした。

『これは美味い。』

2人の声がシンクロしていた。

で、手づかみでステーキと唐揚げを食った。

「これも美味い」

「これは一体何の肉だ。」

須佐之男命が尋ねた。

「鶏肉と牛肉です。」

と湯川が答えると、2人は同時に嘔吐した。

『おぇぇ~』

「貴様ら牛を食うのか!」

須佐之男命が怒鳴った。

「俺の時代でも、牛は畑を耕す家畜で乳は飲んでも、肉は食わん。」

日本武尊が言った。

「未来の世界では、一番上等な肉が牛肉っすよ。よく味わって見てください。絶対美味しいすから。」

湯川もステーキを口にしながら言った。

「どれわらわも味わってみよう。」

卑弥呼が日本武尊のステーキを横から取って口に入れた。

「ん、これは…、噛まなくても口の中でとろけていくぞ。なんだこの美味さは。」

「この唐揚げという食べ物も、外はカリカリで中はジューシーで美味いぞ。」

日本武尊は恐る恐るステーキを口に入れてみた。

「ん、ホントだ。美味い。スサノオさんも食いなっせ。」

日本武尊は香音の真似をしていた。

須佐之男命も満足そうな顔をしていた。


「ところで、さっきの話だと卑弥呼様は家系上俺の叔母に当たる訳ですよね。で、須佐之男命様は俺の実の父親になる訳ですよね。」

「そう言うことになるわね。」

卑弥呼が答えた。

「じゃ、卑弥呼様は叔母さん、須佐之男命様は父ちゃんと呼んでいいですか?」

「バカ者、なんで年上のお前からおばさんなんて呼ばれなきゃいかん。」

「バカ者、なんで年端も変わらぬお主に父ちゃんなどと呼ばれなきゃいかん。」

卑弥呼と同時に須佐之男命も怒った。

日本武尊ってちょっとバカなんじゃねえ?湯川は思った。

「まあまあ喧嘩しないで、みんな名前で呼べばいいじゃん。」

アルが取りなした。

日本武尊と須佐之男命は2人で3本ずつウイスキーを開け、酔っぱらったのかふらふらになりながら、部屋に戻った。

「この勢いで毎日飲まれたら酒なくなっちゃうぞ。」

「それに米もバカみたいに食ってたぞ。」

「また21世紀に仕入れに行けばいいじゃん。」

湯川の呟きにアルが答えた。

「あの2人を連れてか?なんか心配だな…」

「あ、スサノオさんに部屋の説明するの忘れた。」

「もお明日でいいじゃん。ヒデキは何かと心配し過ぎ。」

「わかった、今日はもう寝よう。」

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