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伝説の七人  作者: HITOSHI
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『伝説の七人』第5章日本武尊の章

第五章 日本武尊の章

1,「ふぁ~、みんなおはよう。」

食堂にはアルと香音が居た。

アルは朝食をとっていた。

「あれ卑弥呼さんは?」

「部屋に居るみたいよ、ヒデキ呼んできてあげな。」

アルに言われて湯川は卑弥呼の部屋をノックした。

「卑弥呼さ~ん、湯川です。一緒に朝ごはん食べませんか?」

「朝ごはん?お前達は朝からご飯食べるのか?」

中から卑弥呼の声が聞こえた。

「この時代では1日3食たべないんですか?」

「1日1食に決まってるだろうが。」

「朝ごはん食べないと、リキ出ないっすよ。」

「じゃあ、食べる。」

卑弥呼が部屋から出てきた。

卑弥呼はカラーブラウスにキャピワンピを着て出てきた。

「わ、卑弥呼さん似合ってますよ。」

湯川と卑弥呼は食堂へと向かった。

「卑弥呼さん、いつもはどんな物食ってたんですか?」

「米と汁と小魚。」

「肉とか食わないんですか?」

「たまに鶏肉は食ってた。」

「じゃあ、卵も食うんだ。」


「わ、卑弥呼ちゃん可愛い。着替えたんだ。すごく似合ってるよ。」

アルが卑弥呼に気付いて、ニコっと笑った。

卑弥呼はずっと不思議に思っていた。

こいつらは何故いつも笑ってるのか。自分達の時代では笑ってる奴など居ない。

下手に人前で笑おうものなら、馬鹿にしてるのかと、首を刎ねられる怖れがあった。

しかし、それにしてもこいつらはいつも楽しそうだ。

卑弥呼はまだ笑うことなどできなかった。

自分はただ恐怖で国を治めていたのではないか。民衆は自分の事を恐れていたのではないか。

この者たちは自分の事を全く怖れていない。

その違いは何なのか…

そんな事を考えながら、アルに聞いてみた。

「アルの食べてるのはなんだ?」

「ソーセージエッグマフィンとポテト、カフェオーレよ。」

「じゃあ、わらわも同じものを。」

「俺も~」

「じゃあ、2人前用意するわね。」

香音が答えた。

すぐに自動調理器から注文した食事が出てきた。

湯川はハンバーガーにかぶりついた。

卑弥呼はポテトを指でつまむと口に入れた。

卑弥呼は目を見開きそのあまりの美味しさに

うっとりした。

「これは何でできてるんだ。」

卑弥呼はアルに尋ねた。

「じゃがいもよ。」

「じゃがいも?馬鈴薯の事か?」

あの馬鈴薯が調理の仕方でこんなに美味しくなるのか。

卑弥呼は今度はハンバーガーにかぶりついた。

「なんだ、この美味しさは!」

卑弥呼はむさぼりつくように食べ、喉につまらせむせた。

「やだ、卑弥呼ちゃんたらそんな一気に食べたら詰まっちゃうよ。これ飲んで。」

アルは卑弥呼にカフェオーレを渡した。

卑弥呼はカフェオーレを飲むと肩で息をしていた。

「このカフェオーレという飲み物も甘くてまったりしてて美味しい。」

「お前達はいつもこんな美味しいものを食べているのか?」

「こんなの序の口よ、もっと美味しい食べ物がいっぱいあるわ。」

「香音ちゃんに頼んで、メニューを映像化してもらって、好きな物食べて、卑弥呼ちゃん。」

アルは満面の笑みで卑弥呼に伝えた。

卑弥呼はそんなアルの優しさと、食事の美味しさに感動し一粒の涙をこぼした。

しかし、誰も卑弥呼の涙には気付かなかった。


2,3人は食事を終えたが、席を立たず話を続けた。

「ねえ、卑弥呼ちゃん、これから次は日本武尊ちゃんを迎えに行くんだけど、何に注意したらいいのかな?」

アルの質問はいつも直球だな、湯川は思った。

「わらわはその日本武尊という者を知らぬが、その者は神なのか?」

「伝説では怪力で凶暴で一人で敵を倒して回ってたっていうけど、人間よ。天皇家の血筋ではあるけどね。」

「天皇家というのもよく分らぬが、まあこの船まで連れてくれば、わらわが暴れぬよう制御してやろう。」

「さっすが卑弥呼ちゃん、頼もしい~。」

アルは相変わらず満面の笑みであった。

「それと今回は湯川一人で行け。」

ぶぅぅ~、湯川はカフェオーレを吹き出しそうになった。

「ええっ、俺一人っすか?」

「俺一人であの凶暴な日本武尊をどうやって船まで連れて来いって…」

湯川は驚いて卑弥呼の方を睨んだ。

「アルがわらわに対したみたいに、下手な小細工は使わず真摯に説得してらっしゃい。」

「くれぐれも透明マントでこっそり近づいて、麻痺させようなんて思わない事。あんた一瞬で殺されるわよ。」

ゲッ、みんなバレてる。

湯川は話題を変えようとした。

「香音、どの時代に行く?」

「そうね、日本武尊が東国征伐に向かった時に草薙の剣を携えていたのは間違いないから、その道中を探しに行きましょう。」

「わ~い、ヒデキ一人で行って来い、行って来い。わらわは高見の見物じゃ。」

「卑弥呼さんの真似するんじゃねえ、アル。」

アルは気楽でいいよな、でもこの純真さが卑弥呼の心に響いたんだから、俺も無心で行こう。湯川は決心した。

「じゃ、香音頼むよ。エスポワール号を発進させてくれ。」

「あいよ。」


3,エスポワール号は西暦140年代の相模付近に着いた。

「多分この辺の筈よ。」

香音は生体反応探索装置を使って、日本武尊の姿を見つけようとしていた。

「見つけた、きっとあの人よ。」

香音はその姿をスクリーンに映し出した。

そこには最初合った時の卑弥呼と同じような恰好をした男性が、刀を背に担ぎ一人で歩いていた。

「わっ、イケメン。」

アルが言った

「ほんとだ男前で、優しそうな感じじゃね。」

「湯川、人を見た眼だけで判断しない事ね、あの男からは強い恨みと、禍々しさを感じるわ。」

卑弥呼が言うんだからきっとそうなんだろう、湯川は思った。

「あの先に広い丘があるわ、そこに転送するから転送室に行って、ヒデキ」

湯川はこっそりステルスシートとテイザーガンを持ち出すと、転送室に向かった。

「あいつはほんとにバカね。あれだけ姑息な真似はするなと言ったのに。」

卑弥呼には全て見えていた。

「でしょ~。卑弥呼ちゃん。ヒデキはマジ小心者のバカクソオヤジなんだから。」

「卑弥呼様、本当にヒデキ一人で大丈夫なんでしょうか?私にはヒデキが無事日本武尊様を連れ帰って来れるとは思いませんが…」

香音が心配して聞いた。

「ええ、簡単にできる事じゃないわ、ヒデキには命の危機が迫るかもしれないけど、でもこれしか今は方法がないわ。」

卑弥呼には何かが見えてるようだ。

「ヒデキ~~、死んじゃだめよ~~。」

アルが大声で叫んだ。

その頃ヒデキは、自室でこの船の外郭に使った特殊金属を練りこんだ防弾スーツに着替えていた。

「あのバカ、縁起でもない事言いやがって、一人で行く俺の身にもなってみやがれ。」

「香音転送頼む。」

湯川は転送室に着いた。


4,湯川の姿は広い丘の上にあった。

湯川はステルスシートを被ると木の陰に隠れて、日本武尊が来るのを待った。

「全くあのクソ親父、俺にばっかり討伐を命じやがって、しかも一人で行って来いとはなんて命令だ。」

日本武尊はぶつぶつ言いながら道を上って来た。

湯川は日本武尊と距離を取ってその後を追った。

「この討伐を終えたら、俺を天皇の後継者にするって親父は言ってたけど、信じていいのか。」

湯川は遠くから、日本武尊の周りを100人以上の兵士が取り囲み、その距離をどんどん縮めていく様子を見ていた。

「タケルさんは気付いてないのか。」

湯川はその兵士の輪を遠巻きに見ながら、様子を伺っていた。

日本武尊は急に歩を止め、小声で一言こう言った。

「バカめが。その程度の兵士で俺を殺せると思っているのか。」

兵士達はタケルのすぐそばまで迫っていた。

「ヤマトタケル、覚悟。」

その瞬間日本武尊は兵士たちの頭の上を飛び越え、輪の外に出ると草薙の剣を地面に突き刺し猛烈な勢いで兵士の輪の周りを回った。

日本武尊が丁度1周した時、地面は大きく崩れ、大きく開いた大穴に兵士達は引き込まれていった。

そして日本武尊はとてつもない大きな岩を持ち上げるとその穴目掛けて投げ落とした。

ぐちゃ、ぐちゃと人が潰れる音が聞こえた。

「わっ、なんて攻撃だ。しかもグロい。」

湯川は驚愕した。

日本武尊は草薙の剣を背の鞘に戻しその大岩の上を飛び越え、先へと歩き出した。

湯川も焦って後を追うように大岩の上を移動した。

そこにはぐちゃぐちゃに潰れ肉の塊のようになった兵士の姿があった。

湯川は戻しそうになるのを手で押さえ日本武尊の姿を探した。


今度は日本武尊の2倍はありそうな兵士が十数人領主の周りを取り囲むように固めていた。

「ヤマトタケル今度はそう簡単に倒せはしないぞ。ここに居るのは相模でも有数の猛者達だ。」

きっと領主の声であろう、湯川は思った。

「ふん、こんな奴ら、剣を使うまでもない。」

大男たちが同時に日本武尊に迫った。

日本武尊は大男達の剣を腕で受け止め、屈みこんで一人の両足を持つと、真っ二つに引き裂いた。

その体制のまま別の兵士に蹴りを入れた。

日本武尊の蹴りはその兵士の腹を突き破り腸が飛び散った。

そのまま2人の大男の頭を持つと握りつぶした。

今度は脳みそが飛び散った。

「おぇぇ~。」

今度こそ湯川は嘔吐した。

「みんなこうなりたいか?」

日本武尊は鬼のような形相で大男達を睨んだ。

大男達は蜘蛛の子を散らすようにちりぢりになって逃げた。

「お前だけはこの剣で殺してやろう。」

日本武尊は草薙の剣を抜くと、領主の頭目掛けて振り下ろした。

領主は綺麗に真っ二つになった。


「まだもう一人居るようだな。」

日本武尊が湯川の方に走って来た。

「香音!すぐ湯川を船に戻して!」

卑弥呼が叫んだ。

草薙の剣がステルスシートを切り裂く瞬間に湯川の姿は消えた。


5,「はあぁはぁ、死ぬとこだった。」

湯川の顔は真っ青だった。

「卑弥呼ちゃんの一瞬の判断のおかげよ。卑弥呼ちゃんに感謝しなさい、ヒデキ。」

またアルに怒られた。

「それに正々堂々と向かって行きなさいって言われたのにあれは何!」

「お前、偉そうに言うけどな、実際行ってみろ、あんな化け物に何されるかわかんねえぞ!」

アルと湯川は喧嘩を始めた。

「やめなさい2人共。」

卑弥呼が一喝した。

「湯川、今度は丸腰で正々堂々と日本武尊に会ってきなさい、で、すべてを打ち明けて協力を取り付けてきなさい。」

卑弥呼は湯川に命じた。

「無理無理、殺されてこいって言ってるようなもんすよ。」

「ヒデキ、今度は私も気を付けておくから、危なくなったらすぐに転送するわ。」

「それとさっきの話聞いてたら、日本武尊は天皇になりたがっていた。でも、史実では日本武尊は蝦夷まで一人で攻め入ったのに、天皇にはなれなかったわ、それを父親に抗議しに大和の国に帰る途中で、力尽きて死んでしまった。その事を教えてあげなさい。」

香音がフォローしてくれた。

「なるほど、父ちゃんにずっといいように騙されてることを教えてあげて、征伐を諦めさせるのね、香音。」

「そうよ、アル。日本武尊がその話を信じればだけどね。」

卑弥呼は言った。

「僕が代わりに行こうか。」

「アルでは駄目、軽口すぎて日本武尊は信じないわ。」

「え、卑弥呼ちゃんにディスられた。ピエン。」

「わかった、もう一度行ってみるよ。」

湯川は決断した。

あの凶暴さは恐怖だが、味方につければ大きな戦力となる。

「あの地域の地図は入力したからまた転送するわ。それとこれ。」

湯川は香音からアップルホンを渡された。

湯川はうつむきながら転送室へ向かった。

「もう、ありのままで行こう。」

俺は死ぬかも…湯川の胸の鼓動はどきどきが止まらなかった。


6、湯川の姿は日本武尊の道筋にあった。

湯川は道端にあぐらをかき、日本武尊を待った。

「ん、お主は先程の曲者。わざわざまた殺されに戻って来たのか。今度はその首ぶった切ってやろう。」

「ちょっと待ってください。俺の名は湯川秀紀、2000年後の未来から来ました。」

「ん、お主の言葉は全然理解できん。」

あ、そうか、湯川は卑弥呼に最初に会ったアルのように手のひらにアップルホンを乗せ、自分の耳を指さした。

「これを耳につけろと言うのか。」

日本武尊は意外にも素直にアップルホンを耳につけた。

「どうでしょう?俺の言葉分かるようになりましたか?」

「うん、ちゃんと聞こえるぞ。」

「ではもう一度、俺の名前は湯川秀紀、2000年後の未来から来ました。」

「2000年後?」

「そうです2000年後の未来から、日本武尊さんの力を借りに来ました。」

「何故俺の名を知ってる?」

日本武尊は湯川の横に腰をおろした。

「他にも色々知ってますよ、お父上は景行天皇、あなたは天皇の後継者になるため、東へと1人で攻め入ってる。」

「確かにそうだ。それは2000年後の史実に残ってるという事か。で、俺の東征はどうなる?」

「あなたはたった一人で蝦夷まで攻め入り大和朝廷が倭の国を統一する事に貢献します。」

「そうか、で俺はあのクソ親父から後継者になる事を認められたのか?」

「いいえ、あなたの父上は最初からあなたを後継者にする気など全くなく、ただ利用しただけです。」

「なんだと!あのクソ親父め。で、俺はどうなる?」

「あなたは父上に恨みを晴らすため蝦夷から大和の国に戻ろうとする途中、伊勢の国で力尽き死んでしまいます。」

「うぅ、何たる無念。今からあの親父に恨みを晴らしに行ってやる。大和朝廷など俺が滅ぼしてやる。」

「その前にどうしても日本武尊さんの力を俺たちに貸して欲しいんです。」

「そんな暇などない!」

「俺たちは時間を移動する事ができます。もし日本武尊さんが手伝ってくれたら、またこの時間この瞬間に戻ってきます。その後は大和朝廷を煮るなり焼くなり、好きにしてください。」

湯川は、日本武尊を遮って言葉を続けた。

「あなたは人間でありながら、神と同等の力をお持ちです。その力で神をも凌ぎ無敵状態です。しかしそのスーパーパワーが身体に与える負担も凄まじかった。その力に身体が耐えきれず死んでしまう。もうこれ以上東に攻め入るのは危険です。」

「ああ、わかった。で、お主は俺に何を手伝って欲しいんだ。」

「2000年後、人の力以外の物で地球は滅亡します。それを防いで欲しいんです。」

「俺1人でか?」

「いえ、7人でチームを作ろうと思ってます。」

「そうか、ならばその未来の討伐が終わった後、俺を東征前の過去に戻す事は可能か?」

「いえ、それは無理です。同じ時代に同じ人間が存在する事はできません。あなたが戻れるのは未来に出発した瞬間以降です。でも、ここに戻って来れたら、俺の船で大和の国まで送りますよ。」

日本武尊は湯川の話がよく理解できなかったが、まあ無駄な東征はもう止めようと思った。

「お前の船はどこにある?」

「この空中です。」

日本武尊は上を見上げたが何も見えなかった。

「香音、ステルス機能オフにしてくれ。」

突然空中に巨大なエスポワール号が現れた。

「どうやらお主の言う事は本当のようだな。わかった。お主について行こう。」

やった俺、説得に成功しちゃったぞ。湯川は小さくガッツポーズをした。


7,日本武尊は湯川の隣に座ったまま話を続けた

「俺は子供のころからずっと孤独だった。

みんな俺を怖れ遠ざかっていた。

俺は気にいらない者は全て殺した。

兄も天皇の地位を狙っていたので、俺は殺した。真っ二つに引き裂いてやった。

そんな俺を親父は疎ましく思ったさ。

だから他国を攻める際も部下もつけてもらえず、俺1人で行かされた。

それでも俺は1人で戦い続けた。

西国を統一した時も、熊襲一族を滅ぼした時も、いつも孤独だった。

俺の姿を見るだけで、民衆は逃げまどった。」

なんか卑弥呼さんも同じような事言ってたな、スーパーパワーを持つ人は常に孤独なのかもしれない。

「しかし、湯川だけは俺を怖れず向き合ってくれた。こんな奴は今までで初めてだった。

始めて人を信用するという事がどういうことか分かったような気がする。

こういうのを未来では何ていうんだ。」

「そうっすね、友達かな…」

「トモダチか、いい響きだ。」


「ヒデキやるじゃん。」

アップルホンで二人の会話を聞いていたアルは驚いていた。

「人は誰だって、自分の事を理解してくれようとする人には、心を開くものよ。それは過去の世界も未来の世界も同じ。わらわはあなた達からそれを学んだわ。」

卑弥呼はアルと香音の顔を見比べながらそう言った。

「卑弥呼様はやっぱり未来が見えるんじゃありませんか?」

香音が直球で卑弥呼に尋ねた。

「まだ自分でもよく分からない。未来の映像がはっきり見えてる訳じゃないわ。咄嗟の判断ってやつよ。」

卑弥呼は否定したが、香音はきっとこの能力がこの後チームを救う大きな力になるだろうと確信していた。


「じゃあ、日本武尊さん、俺の船に乗りに行きますか?」

「ああ、頼む。」

「香音俺たちを船に転送してくれ。」

2人の姿は消えた。

2人はエスポワール号の転送室に戻ると、コックピットに向かった。

「よっ、タケルちゃん。僕の名前はアルフォンジーヌ・アインシュタイン、アルって呼んでね。」

「なんかすごく失礼な挨拶に聞こえたんだが…、こいつも湯川の友達か?」

「ええ、まあ友達というか仲間というか…、少女のように見えますが中身はおっさんすよ。」

湯川はまたアルにケツを蹴られた。

「なんだ、この半分透明みたいな女は!」

日本武尊は香音を見て驚いて湯川に尋ねた。

「彼女は香音、AI(人工知能)です。」

「ヤマトタケル様香音と申します。どうぞこれからよろしくお願いいたします。」

「うっ、喋った。」

「何が起きてるのかさっぱりわからん、」

やっぱりこの時代の人にはAIは理解できないようだ、湯川は思った。

「でも、タケルちゃんってイケメンよね、キュン。」

「アル!やめないか。失礼だろうが。」

「イケメンってどういう意味だ。俺を馬鹿にしてるのか?」

「いや、イケメンというのは未来の言葉で、顔立ちが整ってるという意味です。」

湯川はアルの口をふさぎながらそう答えた。

「そうか、誉め言葉かなら許そう。」

よかった~、日本武尊さんは怒ってない。


「日本武尊とやら、わらわは邪馬台国の女王卑弥呼である。」

いつの間に部屋から出てきたのか、卑弥呼がこの時代の服装に着替え入口に立っていた。

「卑弥呼様、あの伝説の卑弥呼様ですか。」

日本武尊は驚いて入り口の方を振り返った。

「この時代に伝わる卑弥呼様はもっとご高齢なお方かと…」

「この者たちに若い時代から連れてこられたのじゃ。」

「しかしまあ、なんとお綺麗なお姿。神々しさを感じまする。卑弥呼様もこの者達の仲間ですか?」

「わらわはそこのアルに説得され、この者達について行くことにした。」

アルは舌を出して、頭を掻いていた。

「どうやら湯川の話は全部本当のようだな。」

日本武尊は信じてくれたようだ。

「まあ、皆様立ち話もなんですから、食堂に行って食事でもしながら、お話しませんか?」

香音がそう促した。

「ビール、ビール」

アルは楽しくて仕方ないようだった。

「餃子、餃子。」

卑弥呼は餃子が気に入ったようだ。


8,4人の前にビールと山盛りの餃子が並んでいた。

「ささっ、餃子食いなっせ、食いなっせ。」

香音は何故か餃子を勧める時だけ変な言葉使いになる。

「うむ、喉の渇きにこの酒は最高だな。この餃子と言う物も美味い。」

「タケルさん、日本酒もどうですか?」

「日本酒とは米を醸した酒か?」

「そうっすよ。この時代にもありましたか?」

日本武尊の質問に湯川は質問で返した。

「ん、美味い。俺が飲んでた酒より辛口だな。俺達が飲んでいた酒は口噛み酒と言って、巫女が米を口の中で嚙み続けていたものを飲んでいたがもっと甘かった。」

「いっ、きたねぇ~」

アルが驚いた。

「そうか?俺達にはそれが普通だった。だから噛んでいた巫女によって酒の味も微妙に違っていた。それに比べたらこの酒はキリっとしてて美味い。」

タケルさんは日本酒が気に入ったみたいだな、湯川はハイボールを飲んでいた。

卑弥呼は餃子を貪り食っていた。

「ところで、2000年後の未来ではこの世界は滅亡していると湯川は言ったが、一体何が起こってるんだ。」

湯川は腕を組んで考えるようにして答えた。

「それについてはチームのメンバー全員が揃った時に詳しく説明します。ただタケルさんには、この船の何十倍もある巨大な船を破壊して欲しいとだけ言っておきます。」

「なんだそんな簡単な事か。」

日本武尊は表情一つ変えずそう言った。

「やだ、タケルちゃん頼もしい~、イケメンで力持ちで優しくて、アル、キュンキュンしちゃう♡」

「ふふ。」

日本武尊が初めて笑った。

「で、後のメンバーは?」

「はい、次は須佐之男命様に協力を仰ごうかと…」

湯川は計画通りの事を日本武尊に伝えた。

「うっ。」

卑弥呼が唸ったように聞こえた。

「卑弥呼さんどうしたんすか?須佐之男命さんとはお知り合いですか?」

「いや、知らん。」

「タケルさんは知ってますよね?」

「ああ、我ら天皇家の始祖とされる神だ。あの八岐大蛇を倒したのはこの時代でも伝説となっている。」

タケルはそう答えると、背の剣を床に落とした。

ドスン!それは船が揺れる程の衝撃だった。

「この草薙の剣も須佐之男命が八岐大蛇の体内から取り出したと伝わっている。」

「タケルちゃん、この剣持ってみてもいい?」

「アル!この剣は天皇家に伝わる貴重な3種の神器の1つなんだ。なんて無礼な事を言うんだ。」

湯川がアルを叱った。

「え、そうなのか?この剣は神器として後世に伝わってるのか。」

「まあいい、アル持ってみな。」

日本武尊は湯川の言葉など全然気にする風でもなくアルにそう言った。

アルは早速剣の鞘に手をかけた。

「ううっ、ヒデキびくともしないよ。そっち持ってみて。」

湯川は剣の反対側に手をかけたが、2人の力ではピクリとも動かなかった。

「ぎぃぃ~。」

湯川は唸り声を上げながら床にへたり込んだ。

「何て重さなんすか。」

「アハハお主達には無理だ。」

日本武尊は片手でヒョいと持ち上げると、また背に担ぎ直した。

「この剣を扱えるのは俺と須佐之男命様だけだろうな。」

希望が見えてきたなと湯川は思った。

「じゃ、出発は明日にしよう。」

「タケルさん、部屋の機器の説明、俺がします。部屋に行きましょう。」

湯川とタケルはタケルの部屋に向かった。

「なんだこのふかふかの床は。」

これはベットと言って、この上でこの布団を被ってで寝ます。」

「お前達はいいな、いつもこんな柔らかいとこで寝てるのか。」

「タケルさんはいつもどんなとこで寝てるんですか?」

「ほとんど草の上とか、岩の上とか、でもだいたいは座ったまま寝てた。」

「ひぇぇ~、そりゃ疲れも取れませんよ。」

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