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伝説の七人  作者: HITOSHI
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『伝説の七人』第4章卑弥呼の章

第四章 卑弥呼の章 

1,湯川とアルは翌朝身支度を整えると、2194年湯川が後にした、地球連邦に向かった。長官室に向かおうと2人は中を歩いていると、もう少しで帰ろうとする湯川とすれ違いそうになった。

「まずいヒデキ隠れて。」

アルが叫んだ。

現世の湯川と未来の湯川が遭遇すると、時間軸が歪む怖れがあった。

帰ろうとする湯川をやり過ごして、湯川は長官室をノックした。

「し、失礼します。」

「なんだね湯川君忘れ物かね。」

「いえ長官報告に上がりました。」

「あ、でこれがこないだ言っていたアルです。」

「よっ、金田一ちゃん、よろしくね。」

アルの軽口は地球連邦の長官に対しても一緒だった。

「バカ!失礼な挨拶をすんじゃねえ!」

湯川はアルを叱った。

金田一は気にする様子もなく、アルに対して言った

「初めまして、アインシュタイン教授。お目に書かれて光栄です。今回はとてつもない任務に参加いただき感謝します。」

「でこれは、一体どういう事なんだ。君今帰ったとこじゃないか。」

「はい、おかげさまで無事俺の宇宙船は次元を超え、アルの理論通り時間軸に乗る事ができました。長官のピンクダイヤのおかげで水と食材も十分な量手に入れる事ができました。」

「なんだと!すると何かね、君たちはすでに過去へ行き最初のミッションを終え、またこの時代に戻ってきたというのか!」

金田一は興奮してまた頭を搔きむしった。

「うわぁ、汚ねぇ~」

パラパラ舞い落ちるフケを見て、アルがつい口走った。

金田一は一切気にする様子もなく、言葉を続けた。

「で、並行宇宙の件は解決したのか?」

それについてはアルから説明します。

「え、めんどくさいな。」

と言いながらアルは宇宙船で話した内容をそのまま長官に説明した。

「な、なんという事だ。そんな事が可能なのか?」

「ええ、多分理論的には可能かと。」

湯川もフォローした。

「う~~ん、信じられない。あまりにも凄すぎる。」

金田一は先ほどにも増して、猛烈に頭を掻きむしった。

「長官、長官、聞いてください。」

「ああ、すまないつい興奮してしまって…」

「日本に現れたUFOは必ず俺たちで始末をつけます。ただ戦闘中何が起きるかわかりません。その前に日本市民は全員避難させておいて欲しいんです。」

「過去の長官にそういう命令を下してもらえるよう、なんとかしてもらえませんか?」

湯川は万が一の事を考えて長官にそうお願いした。

「う~ん、私が地球連邦の長官になったのは2年前だ。その頃の私に今までの話を伝えてもそう簡単には信じないだろう。ましてや日本人全員の避難なんて大事業命じるよう説得するなど、下手したら君らが拘束されてしまうぞ。」

金田一は腕組みし、考え込みながらそう言った。

「う~ん、困ったなあ~」

湯川も腕組みしながら考え込んだ。

「ヒデキ、あんたってホント馬鹿よね。今、目の前にいる金田一ちゃんを2年前に連れて行って、本物の金田一ちゃんには2,3日眠ってもらって、その間に目の前の金田一ちゃんにそういう命令だけ下してもらえば、全て丸く収まるじゃん。」

ゲッ、またこいつは一瞬で明確な答えを導き出しやがった。

「うーむ、さすがはアインシュタイン博士の生まれ変わりだな私達とは発想力が違う。」

さすがの金田一もうなった。

「ではお手数ですが、長官一緒に過去に来ていただけますか。」

「う~~ん、今日はこの後スケジュールが詰まっていて…、協力したいのは山々なんだが…」

「もお、金田一ちゃんには過去へ旅立った瞬間の時間にまた戻ってきてもらうから、何の心配もないわ。」

「2人ともいい加減に時間移動できるって事は、僕たちには何するにせよ時間がたっぷり残されてるって事に気付いてよ~。」

アルの言う事に完全に湯川も長官も固まってしまった。

時間移動できるって事は、何するにせよ急がないといけない、そんな風に考えていたが逆だったんだな。湯川は理解した。

「確かにこの子はアインシュタイン博士の生まれ変わりである事に間違いないようだな。私も一緒にいこう。」

金田一は席を立った。

「タマヨ~、少しの間湯川君と出かけてくる。すぐに戻るから心配しないでくれ。」

「長官、大丈夫ですわ。今の話全部聞いてましたから。」

「なら、何も指示しておくこともないな。」

「じゃあ行こう、私も時間軸から見える地球にはとても興味がある。」

「香音、長官も一時同行するから、エスポワール号に3人転送してくれ。」

「あいよ。」

香音の返事と共に3人の姿は長官室から消えた。


2,エスポワール号の転送室に着いた3人は長官に時間軸を見せるためコックピットに向かった。

「なんか金田一ちゃんってへんてこな人ね。」

アルはそううそぶいたが、湯川の耳には届かなかった。

「香音、船を時間軸に戻してくれ。」


コックピットに着いた3人だったが、金田一はスクリーンに映る地球の姿に見とれ言葉を失っていた。

しばらく見とれて金田一はアルに語りかけた。

「アル君、これが4次元の世界なのか。なんて綺麗なんだ。ここから好きな時代に行けるのか。」

「そうです長官、試しに2年前の世界へ行ってみますか?」

「おお、香音君久しぶりだな。元気そうで何よりだ。相変わらず綺麗だしな。」

「まあ、長官ったらお上手ね。」

湯川なんかより長官の方が私の事をよっぽど人として見てくれてるわ、と香音は心の中で呟いた。

「では香音君、2年前の今日に連れて行ってくれるかな。」

「あいよ。」


3,エスポワール号は2年前の地球に到着した。

「まだこの時代には海は存在するんだったよね、香音君。」

「ええ、残ってますよ長官。」

「もう一度海のある地球を見せてくれないか。」

「お安い御用ですわ、長官。」

香音がパネルを操作すると、エスポワール号は上昇し、太平洋の遥か上空へと一瞬で移動した。

「ああ、なんて綺麗なんだ。」

金田一は目を潤ませながら言った。

さすがにこの光景には湯川もアルも見とれてしまっていた。

「我々はこの光景をしっかりと目に焼き付けておかないといけない。この光景がこれから君らが進める苦難の連続であろうミッションの〝希望の証〟となる。繰り返えし言うようだが、この綺麗な海の姿をよ~く目に焼き付けておいてくれ。」

湯川はこの時代に長官を連れて来てよかったと思った。こんな風に俺を勇気づけてくれる人はこの人を置いて他にはいない。

湯川は心から感謝した。

「じゃ、長官室に行くとするか。香音君私の部屋の内部構造はデータに入ってるんだろう。多分この時間なら隣の応接室には誰も居ないはずだ。転送してくれないか。」

「俺も行きます。長官くれぐれもこの時代の自分には対面しないように、時間軸に歪みが生じてしまいます。」


「こんな物を用意したわ。」

香音が指さした先には、厚手のつるつるの生地が置かれてあった。

「香音、なんだこれ?」

湯川が不思議そうに尋ねた。

「これはステルスシートよ。これで体を包めばこの宇宙船の外郭構造と同じホログラム機能が外生地に仕組んであるから、周りからは透明にしか見えないわ。」

いつの間にこんなメカ用意してたんだ、香音はやっぱすげえなと湯川はまた感心した。

「わぁ~すげ、ヒデキ試してみて。」

湯川はシートをかぶると、香音に合図した。

湯川の姿は一瞬にして消えた。

「わぁ~い、ヒデキが消えた、ヒデキが消えた。このまま居なくなっちゃえ~~。」

アルはキャッキャッ言いながら面白がった。

金田一長官は笑いをこらえていた。

「この大きさなら大人2人くらい隠れれそうだ。香音君助かるよ。」

「じゃ、転送しますね。」


4,2人の姿は長官の応接室にあった。

「隣の部屋に私がいるようだ。タマヨは居ないみたいだし、行こうか湯川君。」

2人はシートをかぶって隣の部屋に移動した。

「長官、下駄は脱いでくださいね。音で気付かれます。」

「わかった。」

長官は下駄を脱いだ。

「くさー。」

そうだった長官はシャワーが苦手だったな。

湯川は鼻を押さえながら金田一に聞いた。

「長官、テイザーガンは何日麻痺に設定しましょう?。」

湯川は長官の耳元で小声で囁いた。

長官は指で7を示した。

湯川はテイザーガンを麻痺7日の設定にし、この時代の長官の背中に向け発射した。

この時代の長官は眠るように机に倒れこんだ。

2人はこの時代の長官をステルスシートに包み、隣の応接室に運んだ。


金田一はタマヨを呼び出し、マイクを地球連邦全職員、全科学者に繋がるよう指示し、マイクに語りかけた。

「みんな手を止めて聞いてくれ、長官の金田一だ。今から2年後日本州に大きな災いが起こるという研究結果が私の元にもたらされた。

2年の間に日本州の住民、及び財産全て、政府機能全てをモンゴル州に移動させる事に決定した。責任者は2年以内に完了するようにすぐに計画に取り掛かってくれ。この業務は最優先事項だ。以上。」

金田一はマイクのスイッチを切ると、湯川と目を合わせ頷いた。

「長官、ありがとうございます。これで心置きなく戦えます。」

湯川は金田一に深々と頭を下げた。

「うん、湯川君。面倒掛けるがまた1週間後のこの時間に私を迎えに来てくれたまえ。1週間私はこの時代の長官を演じているよ。」

「わかりました。」


湯川はエスポワール号に戻った。

「ヒデキどうだった?」

香音が尋ねた。

「ああ、上手くいったよ。あの人はやっぱり凄いよ。俺たちのミッション達成のためには何でもしてくれる。地球連邦の職員全員に日本人全員の避難を最優先で取り組むよう指示してくれた。」

「香音早速だが1週間後の世界に飛んで、金田一長官を迎えに行ってくれ。」

「あいよ。」


5,湯川はまた転送マシンから長官室へと向かった。

長官室の扉をノックすると、

「湯川です。」

「おお、入りたまえ。」

「長官いかがですか、作業は進んでいますかか。」

「ああ、もう日本州移転スケジュールが出来上がり、作業も始まっている。後は任せて大丈夫だろう。」

「じゃあ、この時代の長官を医療ポッドに運びますか。」

「ああ、あのステルスシートを使えば、気付かれる事もないだろう。ただ、タマヨはこの1週間何か違和感を私に対して感じてるようだ。やたらてきぱきと仕事こなしてしまったからな、気を付けないと。」

「ええ、わかりました。気を付けて運びましょう。」

湯川と金田一はこの時代の長官をステルスシートにくるんだまま、医療室に運んだ。

ステルスシートから長官を出すと、医療ポッドに乗せ、今度は2人がステルスシートをかぶり医療室を後にした。

今度は金田一自ら下駄を脱いだ。

シートの中が臭さで満ちた。

医療室の前にはタマヨさんが居て、見えてない筈の湯川に「頑張ってね」と声をかけて、医療室に入って行った。

気のせいかと思った湯川は医療室の前で中の様子を伺った。

長官は目覚めたようだ。

「ん、どうしたのかね、私は眠っていたのか。」

不思議そうな長官にタマヨがこう言った。

「長官は、全職員に日本住民を避難させるよう命じられた後、倒れられました。きっと疲労と激務がたたっていたんでしょう。1週間意識不明状態でした。もう少しの間治療ポッドでお休みください。」

タマヨはそういうとこっちを見てウインクした。

「私は1週間も眠っていたのか。それにそんな命令を下した覚えもないんだが…」

「長官、一時的な記憶障害も起こされてるようですね。十分養生してください。長官の業務は私が代行しておきますので。」

「ああ、頼むよタマヨ、なんだか身体中から力が抜けてしまったような感じなんだ。」

「長官タマヨさんは何もかも知ってるみたいですね。」

「ああ、香音君ほどじゃないがタマヨも優秀だ。後は大丈夫だろう。」

「香音俺たちを船に戻してくれ。」

「あいよ。」

ステルスシートごと2人の姿は消えた。


「上手くいったみたいね、ヒデキ。」

帰ってきた湯川に香音が声をかけた。

「ああ、タマヨさんのおかげでね。」

「長官、元の世界に戻る前に少しお休みになられますか?時間はたっぷりあります。」

アルの受け売りだがと湯川は思った。

「いやぁ、そんな疲れた訳じゃないからいいよ。」

金田一はまた頭を掻きむしった。

フケがパラパラと舞った。


湯川は金田一長官を元の時代、金田一が過去へ旅立つため部屋を出た瞬間に、戻した。

金田一は危うくその頃の自分とすれ違いそうになるのを避けて、長官室に戻った。

「あら、もうお戻りになられたんですか?今出て行かれたとこなのに。」

タマヨは不思議そうに言った。

「あ、タマヨただいま。あの時はありがとう。」

「はっ?何のことですかしら?」

「いや、なんでもない。」


6,金田一長官を送り届け湯川はまた時間軸に戻った。

「金田一ちゃんっていい人だったね。」

アルも寂しそうだった。

「なんせ地球連邦の長官だからな、地球一の人格者だ。きっとあの人は最後の最後まで地球を守り続けるだろう。あの人のためにも、そして全人類のためにも、俺たちはこのミッションを必ず成功させなければならない。」

湯川はゆっくり噛みしめるように言った。

しかし、周りには誰も居なかった。

「もお、人の話はちゃんと聞けよ。」

アルと香音は湯川を無視して、キャキャ騒いでいた。

「腹減ったから、食堂でなんか食ってくる。」

「私も~~」

「僕も~~」

そこだけは聞いてるのか、湯川は苦虫を噛潰したような顔をして食堂へ向かった。


「お腹もふくれたし、いよいよ古代へと旅立つか。」

「日本の大昔ってどんなんなんだろう、ワクワク。」

「アルは気楽でいいな。」

「あら、ヒデキはワクワクしないの?」

「プレッシャーと恐怖の方が大きいよ。」

「なんせ日本を作った神々を連れて帰ってくるなんて、ほんとにできんのかよ。」

湯川はいよいよ迫る本番に緊張が高まっていた。

「ヒデキ、そんなガチガチに緊張してたら、卑弥呼さんに見透かされてしまうわよ。」

香音はそうフォローした。

「卑弥呼さんは人の頭の中を覗くことができるんだから、雑念を待たず、地球を救う事だけ考えていなさい。」

香音はまるで母親のように湯川を諭した。

「そういう意味では卑弥呼さんを一番に誘いに行くのは、私達にとっては最適の試練と言えるわ。」

香音は言葉を続けた。

「アルを見習いなさい。いつだって何も心配せず、常にポジティブに考えてるから。頭の中もきっと綺麗よ。」

「ただ、バカなだけじゃねえの。」

湯川はアルをディスってみた。

「アホ、バカ、クソヒデキ!」

湯川はアルにケツを蹴られた。

湯川はケツを押さえながら香音に聞いた。

「卑弥呼様は神だから長寿で色んな時代に存在する。どの時代に行くかだな。」

「そうね、邪馬台国の女王として1国を治めていた頃のまだ若い時代がいいんじゃないかしら。」

「そうか、じゃ香音に任すんでそんな時代探してみてくれ。」

「もう時間設定はしてあるわ。」

「はいはい。」


7,エスポワール号は邪馬台国へ向け発進した。

この時代の邪馬台国はまだ北九州の小さな小国に過ぎなかった。

「ここが邪馬台国か、船を止めれる場所も十分ありそうだな。」

そこには小さな平屋に草ぶき屋根の家が点々と無秩序に並び、その中心に高床のひときわ大きな神殿があった。

「きっとあそこが卑弥呼の居場所だな。卑弥呼は神殿にこもって民衆を操っていたと言われているから、きっとあの中に居るんじゃね。」

と軽く言いながらも湯川の手は緊張で震えていた。

香音は少し離れた広い場所に船を降ろした「じゃあ、2人を外に転送するわ。ヒデキ、ステルスシートとこれ。」

湯川が渡されたのはアップルイヤホーンだった。

「これっている?」

「それは卑弥呼さん用よ。」

「あ、なるほ…」

湯川が喋ってる途中で、2人の姿は消えた。


8,湯川とアルはステルスシートに身をくるみ、集落の方へ歩を進めた。

「ヒデキ、この時代の人って変わった格好してるね、男の人はドンゴロス着てるみたい。」

アルが小声で囁いた。

「ドンゴロスって何?」

「ほら、あのコーヒー豆入ってる大きな茶色い袋。」

「あれってドンゴロスっていうのか?」

きっと前世のアルベルトの記憶なんだろうなと、湯川は思った。

「女の人はみんな帯を前で留めてるわ。あれって逆だよね。」

「なんか家も小さいわね、こんな小さい家に何人住めるのかしら。」

「この時代では自分の部屋なんて持てないから、家族みんなが同じ部屋で暮らしてたんだ。」

湯川も小声で囁いた。

「なんか道もデコボコだし。」

「あのうち、外でご飯炊いてるわ。」

「わ、あの人鶏の首絞めてる。」

「わ、鉈で首落としちゃったよ、ぐろ~。」

「わ、牛が歩いてる。」

「わ、見て見てヒデキ、牛がうんこしたよ。」

「わ、あの人手でうんこ掴んでもってたわよ、きったねぇ~。」

「いい加減黙ってろ!アル!」

湯川はつい大声を出してしまった。

「ヒデキが大声出すから、みんなキョロキョロ周りを見てるわ。おもしろ~~。」

「ほらもうそろそろ、神殿に着くぞ。」

全くこいつは緊張感ゼロだな、湯川はまたため息をついた。


8,そこには高い階段を上った上に大きな神殿がそびえ建っていた。

「ええ、この階段上まで登るの。しんど~」

「香音ちゃんに転送してもらえないの?」

「神殿の周りは多くの屈強な官吏が警備を固めている。転送は危険だ。」

アルはしぶしぶ階段を上り始めた。

「アル、あの神殿に入れるのは、卑弥呼とお世話係の1人の選ばれた男性官吏だけだ。

多分今は卑弥呼一人で、鬼道を使って敵を呪い殺していると思う。」

「わぁ、こわ~~」

「その呪いをこっちに向けられないよう、敬意と礼儀を込めて信頼を勝ち取らないといけない。特にお前は礼儀がなってないから呪い殺されないよう注意しろ。」

「もうヒデキったら脅さないでよ。ぷぅ~。」

アルはそう言いながらも全然気にしてない様子だった。

「よし、じゃあ中に入るぞ。」

湯川は念のためテイザーガンを麻痺1日に設定し構えながら扉を静かに開けゆっくり中へ入った。

卑弥呼は訳の分からない呪文を唱えながら背を向けながら神棚に向かっていた。

「アル少し様子を見よう。」

湯川はテイザーガンをステルスシートから出し卑弥呼の背に向けていた。

「誰材那儿。」(何者だ)

「可疑人物か」(不審者か)

「汝是来夵我的喝(わらわを殺しにきたのか)」

「もう正々堂々と姿を見せて、僕たちの正体を明かして、アップルホン渡そ。」

アルはステルスシートを出て、手の上にアップルホンを乗せて、自分の耳を指さしながら卑弥呼に近づいて行った。

「アル待て、危ないって。」

卑弥呼はアルの手のひらのアップルホンに目をキラキラさせて、興味深げに手に取ると、アルを真似して自分の耳に装着した。

「よっ、卑弥呼ちゃん、初めまして、アルフォンジーヌ。アインシュタインと申します。」

「あのバカ、誰に対してもあんな態度だ。」

「ん、お前達の言語が理解できるようになったぞ。」

「僕は今から約2000年後の未来からやって来ました。」

「未来から?…、邪馬台国を滅ぼしに来たのか?」

「まっさか~、卑弥呼ちゃんに助けて欲しくて来たの。」

「卑弥呼ちゃんって人の頭の中覗けるんでしょ?僕の頭の中覗いて見てよ。敵じゃないってすぐわかるから」

卑弥呼はアルの目をじっと見つめ思いにふけるような顔をした。

「お主はどうやらわらわに敵意はないようだ、それに綺麗な純真な心の持ち主のようだ。」

「だがまだそこに隠れている男は邪心を持っておる。」

ギクッ、俺の事か、湯川は震えた。

「皆の物出合え、この男を殺せ。」

卑弥呼がそう命じると数名の屈強な官吏が神殿内に剣を携え入ってきた。

湯川は「殺されると」思い、無意識でテイザーガンを打ちまくりながら逃げ回った。

「いや、これは殺したんじゃなくって、ただ麻痺してるだけだから、明日にはみんな目覚めますんで…」

湯川は言い訳のように、卑弥呼に向け手を挙げた。

そんな湯川には全く興味がないかのように、卑弥呼はアップルホン、ステルスマント、アルのテイザーガン等を興味深そうに弄っていた。

卑弥呼はアルのテイザーガンを手に取ると自分の官吏に向け何発か発射した。

「わ、一瞬で倒れた、すげぇすげぇ。」

卑弥呼はキャキャ騒いでいた。

アルは小声で湯川に呟いた。

「もしかして、卑弥呼ちゃんってオタクじゃね。」

「ほらほら、未来でなんとかっていうじゃない?」

「ニートか。」

湯川が答えた。

「それそれ。」

「ヒデキ、あんた何か他にメカ持って来てないの?」

「う~~ん、タブレットとかチョコレートとか、キャンディーとか。」

「まあいいわ、全部出しなさい。」

卑弥呼はまだステルスマントに夢中であった。

「この中へ入ると外からは見えないのか。」

「ホログラム投影機能って、まあそんな複雑な機能じゃないんですが、おもしろいでしょう。」

卑弥呼は湯川の声に耳を傾けることなくステルスマントに手を入れたり出したりして遊んでいた。

「こんなのもありますよ。」

湯川は卑弥呼にタブレットを渡した。

「こうやって指でなぞると、画面が変わります。あ、これはさっき上空からこの集落を撮った写真です。」

「上空?空から見たこの集落か?お前達は空を飛べるのか?」

「僕達が飛ぶんじゃなくて、空を飛べる船から撮ったんだよ。」

アルは手を広げ湯川にチョコレートを出すよう目配せした。

「これってチョコレートって言うの、一緒に食べよ。」

アルは板チョコを半分に割ると、卑弥呼に渡し、自分も食べた。

卑弥呼は渡されたチョコを匂いを嗅ぎながら口に入れた。

「なんだ、この美味い食べ物は。」

「それはカカオって豆を砕いて…」

湯川の口をアルが押さえた。

「ヒデキ、くどくど言わないの。」


9,「卑弥呼ちゃん、僕達に敵意がない事はわかってもらえたかしら?」

「うん、わかったわ。で、わらわに何の用があるって言うの?」

卑弥呼の信頼は勝ち得たようだと、湯川は安心した。

「今から2000年後地球は絶滅の危機に瀕しているの、それを防ぐために僕達は未来からやって来たの。卑弥呼ちゃんの力を借りたくて。」

アルは簡潔にここへ来た目的を説明した。

「いやだ、わらわはこの神殿から1歩も外に出たくない!それに2000年後の世界が滅ぼうがどうしようがわらわには関係ない事だ。」

「あら、卑弥呼ちゃん空飛ぶ船に乗ってみたいと思わないの?船の中にはもっとすごいメカがいっぱいあるわよ。」

アルは卑弥呼のオタク心をくすぐった。

「うっ、確かに興味はある。」

卑弥呼は目を輝かせた。

いいぞアルは卑弥呼の気を惹いてるぞ。

「で、わらわに何をさせようというのだ。」

おお。食いついて来た、いいぞアル。

ここは俺が余計な事言わない方がいいな、湯川はアルに任せた。

「この後、僕達はこの先の世界へ行って、地球の神々や神の力を持った人達を探しに行くんだけど、みんな乱暴者で僕達の力じゃまとめきれないわ、そこで卑弥呼ちゃんの人を操る力が必要になってくるの。」

「なんだ、そんな簡単な事か。」

うわ~、卑弥呼が乗って来た。湯川は喜んだ。

「しかし、わらわは今この地を離れる事はできない。邪馬台国はこれから領土を広げ、わらわは倭の国の王にならねばならぬ。」

ふ、そのことに対しても、地球を救った後今のこの時代に卑弥呼を戻す事で答えは用意済みだ。

湯川はアルの答えを待った。

「なによ、あんたただ引きこもってるだけじゃない?」

アルの答えは湯川の予想を遥かに上回るとんでもない言葉だった。

「引きこもってるだけじゃない!わらわはここで敵国の領主を呪いで殺してるんだ!」

卑弥呼は怒って声を荒げた。

「なんか、暗~~い、それに怖~~い。」

「僕達は時間移動ができるから、手伝ってくれたら卑弥呼ちゃんをまたこの時代に戻してあげるから、好きに呪い殺せばいいわ。」

「それに未来へ行くことで新たな知恵も授かり、卑弥呼ちゃんの能力も格段に上がるわ。」

アルの説得方法は湯川の想像を超えていた。

香音の言う通り、アルは純粋無垢なのかもしれない。

「もしそなたらの言う通り未来を救ったら、わらわに何の見返りがある?」

「ご褒美なんて何もないわ。ただ、この後卑弥呼ちゃんは倭の国の王として、魏の国から認められるって史実にちゃんと残ってるわ。」確かにそうだ。

「それは誠か?今はこんな小さい領土の邪馬台国が倭の国を治めるというのか?」

そういう未来の話をしちゃうのはまずいんじゃないの?歴史変わっちゃうんじゃないの?湯川は思った。

そんな心配顔の湯川の耳元にアルはこう囁いた。

「バカね、そんな事未来へ行けばみんなばれちゃうわ。」

卑弥呼は考え込むと、「じゃあ、一度その船をみせてくれない?」

「いいわ、卑弥呼ちゃん、そう思うのは当り前よね。」

「香音ちゃん、聞いてた?僕達をエスポワール号の外に転送してくれる。卑弥呼ちゃんもアップルホンつけてるわ。」

「あいよ。」

3人の姿は神殿から消えた。


10,「何よ、何もないじゃない。」

「船はステルス機能で透明になってるの。」

「ちょっと待ってね。」

「香音ちゃん、ステルス機能オフにして、エスカレーター出して。」

3人の前にシルバーの滑らかな流線型の船、エスポワール号が姿を現した。

「なんて大きさ、なんて綺麗な船なの。こんな大きな物が空を飛ぶっていうの?」

「空を飛ぶだけじゃなく、時空も移動できるわ。」

アルは湯川の方を見て、ウインクした。

卑弥呼は協力してくれる。って意味か、湯川は思った。

「この船にわらわの部屋はあるの。」

「うん、ちゃんと用意してあるわ。」

卑弥呼は考え込むようにして、指を3本立ててこう言った。

「お前達に協力するのに、わらわの条件を3つ飲んでもらう。

1つ目はわらわの部屋に神殿の神棚を運ぶこと。

2つ目はわらわはどの時代に行ってもこの船から1歩も外へ出ない事。

3つ目は戦闘には一切参加しない事。

この3つの条件を飲めるなら、協力してあげるわ。」

「OKね、ヒデキ」

「うん、まあ。」

「じゃあ、卑弥呼ちゃん船の中へどうぞ。美味しいお酒でも飲みましょう。」

3人はエスカレーターで船内に入った。


11,アルは自動調理器から勝手に生ビールを取り出していた。

「卑弥呼ちゃんこれがビールって麦から作ったお酒よ。」

アルは一気に飲み干した。

「かあぁぁ~、悪魔的なうまさだ。」

だからそれは俺のセリフだちゅうの。

卑弥呼は恐る恐るビールを口に含んだ。

「何なの、この美味しさは。のど越しの良さ、このすっきり感、心地いいこの苦み、最高だわ。」

アルが今度はビールのおかわりとスタミナ餃子を持ってきた。

「ビールにはやっぱり餃子よね、卑弥呼様ささ食いなっせ、食いなっせ。」

香音が卑弥呼の隣で声をかけていた。

「ひぇ~、何なのこの透明感のある人間は?」

卑弥呼は驚いて椅子から転げ落ちそうになった。

「ああ、紹介するわ、彼女は香音ちゃん、未来のAI(人工知能)よ。」

「彼女がこの船全てを管理してる。この船の操縦もしてくれるわ。」

アルが答えた。

「全く、お前達の文化はわらわには全然理解できん。」

と言いながらも卑弥呼はビールと餃子を夢中でむさぼり食っていた。

「卑弥呼様とアル気が合いそうね。」

また俺はのけ者かよ、湯川は落ち込んだ。

「あ、そうだ香音ちゃん、卑弥呼ちゃんの神殿の神棚、転送して卑弥呼ちゃんの部屋に運んでおいてくれる?マーカーシールは張っておいたわ。」

こいついつの間に…、湯川は驚いた。

「あいよ、アル。」


12,食事を済ませた3人はそれぞれの部屋に行った。

卑弥呼は呪文を唱えているようだった。

「アル、卑弥呼さんとこ行って、シャワーやクローゼット、モニターの使い方教えてやんな。」

「卑弥呼さん、まだ香音には慣れてないみたいだからな。」

「うん、わかった。」

意外にも素直にアルは卑弥呼の部屋に行った。


しばらくするとアルと香音が湯川の部屋にやって来た。

「第一ミッションクリアね」

「ハラハラしながら聞いてたけど、アルの交渉術は大したものね。」

香音が言った。

「俺も聞きたかったんだが、アルは全て計算づくだったのか。」

「ううん、全然。何も考えてなかったわ。」

「だよな、あん時のお前自然だったもんな。」

「でもさあ、僕不思議なんだけど、卑弥呼ちゃんは僕らに神通力使わなかったよね。最初頭の中は覗かれたけど、その後3つの条件とかつけなくても、意思操ればいいじゃん。そもそも最初から気に入らなきゃすぐ帰るよう操ればいいじゃん。」

そう言えば卑弥呼はちゃんと俺たちと向き合って話、してくれたよな湯川も思った。

「もしかして、卑弥呼ちゃんは僕たちが来ることも知ってたんじゃないかな。」

「アル、それって卑弥呼様は未来を予知していたって事。」

香音も驚いていた。

「うん、僕はそう思うの。だとしたらその凄い能力でチームを救ってくれると思うわ。」

アルの分析力はさすがだな、湯川は感心した。

この時点ではまだ卑弥呼自身でさえ気付いていなかったが、卑弥呼は未来をイメージしながら、自分の行動を決めていた。

卑弥呼自身がこの能力に目覚めた時、チームの大きな戦力になる。

この後、湯川とアルはそれを身をもって実感する事になるが、それはまだ先の話だった。

「今日はこのくらいでゆっくり休んで、次のミッションは明日からにしたら。」

香音の提案をみんな納得した。

「じゃ、また明日ね。」

アルは去り、香音は消えた。


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