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伝説の七人  作者: HITOSHI
3/18

『伝説の七人』第3章希望への旅立ち

三章 希望への旅立ち

1,色々準備している内に3か月はあっという間に過ぎた。

「香音どうだ、宇宙船は完成したか?」

「ええ、バッチシよ、ヒデキ。」

「じゃあ、アルを呼んでくれ。」

「もう来てるわ。」

アルの声が聞こえた方に湯川は振り向いた。

「なんなんだ、その恰好は!」

アルはセーラー服に赤白帽、ピンクの長靴を履いて、背中にはランドセルを背負っていた。

「だってまずは21世紀に食材調達に行くんでしょ。その頃の15歳の装いにしたのに。」

「いや、なんか色々と間違ってるような…、

アルのAI故障してんじゃないの。」

「まあ、何でもいいじゃない、アル可愛いから。」

香音が笑いをこらえながら言った。

「じゃあ、香音は先に船に移って、俺たちを転送してくれ。」

香音が消えた。

2人は転送室へ行き宇宙船の格納場へ転送するよう香音に命じた。

「わぁ~綺麗!」

アルが感嘆の声を上げるほどそこにはシルバーに輝く、滑らかな流線型の船があった。

「でっかい船だな、これは香音ちゃんがデザインしたの?」

「ええ、そうよ。」

「香音ちゃんセンスも抜群ね♡」

「香音、ステルス機能も試してくれ。」

今度は湯川が命じた。

この船におけるステルス機能とは船の外壁に周りの風景と同じ映像を投影しまるで透明なように見せる技術だった。

「じゃあ試してみるわね。」

という香音の声と共に船は姿を消した。

「うん、まずまずだな。これでどの時代へ行ってもこの船の姿を見られる事はないだろう。どうだ、これは俺が考えた技術なんだ、すごいだろう。」

「ふ~ん。」

アルは余り興味を示さなかった。

なんで、この子は俺に対してもうちょっとリスペクトの意を示さないんだ。

「名前はつけたの?」

アルがどうでもよさそうに湯川に尋ねた。

「エスポワール」

「フランス語で希望って意味だ。」

湯川はそう答えたが、頭のどこかで奇妙な映像が浮かんでいた。

「どっかで聞いたような名前だけど、まあいいわ。エスポワール号でいきましょう。」

と言いながらアルは船の入り口の方へとんとん歩き出した。

「アル、そっちは格納庫だ。入り口はこっちだよ。香音エスカレーターを降ろしてくれ。」

「アハ、これだけ見ると奇妙な光景ね。何もないところにエスカレーターだけある。」

というとキャキャ言いながらアルはエスカレーターに乗った。

「ここがこの船の心臓部コックピットだ。」

そこには中心に船長椅子があり、それを取り囲むように9個の椅子が配置されていた。

「なんでお前そこに座ってるんだ、香音、そこは船長である俺の席だろう。」

「あらヒデキ知らなかったの。この船の操縦は全てこの席に集約してあるの。」

「それともヒデキこの船操縦できるの?」

また勝手に設計図を変えてやがる。

「どうやって操縦するんだ・」

香音が操縦席のひじ掛けの横のスイッチを押すと前面に操縦パネルが投影された。

そこには複雑なボタンやスライドスイッチ、色とりどりのライト、数字の羅列から地図のようなものまで色んな物が投影されていた。

もっと旧式の操縦桿があって、スイッチが並び、ディスプレイが並ぶような操縦方法をイメージしていた湯川にはさっぱり理解できなかった。

「ふん、わかりましたよ。俺には無理ですよ。」

湯川はふくれっ面で答えた。

「香音、スクリーンをオンにしてくれ。」

香音が操縦パネルをちゃちゃっと触ると、前面の大きな扇形スクリーンに外の風景が映し出された。

「うん、これなら見やすい。どこへ行っても大丈夫だな。」

「じゃあ、俺は居住区とエンジンルーム、格納庫のチェックをしてくる。」

「で、アルはどこ行ったんだ。」

「きっと退屈で船の中探検でもしてんでしょ。」

まあいいか、湯川は居住区から見て回った。

転送室はOK。一度に10人は転送できそうだ。

医療室には3機の医療ポッドが備えてあった。

食堂には自動調理器が3台備えてあり、テーブルとソファーが備えられ、ホログラム投影もできるようになっていた。

ここでミーティングもできるなと湯川は思った。

そして長い廊下の間には個室が10部屋備えられていた。

部屋に入ると、ベッド、ソファー、バスルーム、トイレ、自動クローゼットが配置され、まるでホテルの1室のようだった。

よく3ヶ月でここまで改良できたな。

香音はやっぱり優秀だ。


湯川は階段を降り、格納庫へ向かった。

「こりゃ広いなあ~」

格納庫は倉庫と巨大な貯水槽、巨大な冷凍庫が装備されていた。

これなら、かなりの量の食材が貯蔵できそうだ。

転送装置も備えてあるな。

湯川は確認すると格納庫を抜けて船のもう一つの心臓部エンジンルームへ向かった。

放射能防護壁で囲まれたエンジンルームは核燃料リサイクルシステムを利用し永久無限炉として、この船の動力源となっていた。

湯川は全てのチェックを終えると、

「コーヒーでも飲むとするか。」と呟きながら

食堂へ向かった。

なんとそこには缶ビールを開けているアルの姿がった。

「お前、また飲んでるのか!、一体どこから缶ビール持ち込みやがった。」

アルがランドセルを開けると缶ビールがいっぱい詰まっていた。

「そろそろ出発するぞ、コックピットへ来い。」

「へぃぃ、わかりゃしたぁぁ。」

アルはフラフラと立ち上がった。


2,「さあいよいよ出発だ。みんな準備はいいか。アル、シートベルトしろよ。」

「へぇぇぃ、し、しょうちいたしゃした。」

こんな3人で本当に大丈夫なのかな、湯川は真剣に心配になった。

香音が操縦パネルを操作して、言った。

「じゃあ、発進するわよ、みんな強いGに備えて。」

「えぃえぃうぉ~。」

アルの変な掛け声と共に、エスポワール号は地下から長い滑走路を猛烈な勢いで突き抜け、あっという間に大気圏を突破、宇宙空間に達した。

「おぇぇ~、」

アルは床に嘔吐していた。

「きったねえなぁ、発進前にビールなんか飲むからだろうが!」

自動お掃除ロボットがアルの嘔吐物を処理してる間に、船は地球の衛星軌道上で安定した。

「宇宙ステーションは無事なようだ。しかしあの地球の姿は悲惨だな。」

湯川はスクリーンを見ながらしみじみと言った。

地球は緑と赤茶色、緑ときれいに3等分に別れていた。

そこには昔の青いきれいな地球の姿は微塵も感じられなかった。

「どうアル、大丈夫?気分はよくなった。」

香音が心配して聞いた。」

「ええ、胃の中の物全部戻したらだいぶ楽になったわ。でもやっぱり香音ちゃんは優しいわね、このおっさんとは大違い。」

アルは湯川を睨んでいた。

「船も安定してるし、どうアル次元転移装置試してみる。」

「僕の次元転移装置は香音ちゃんの操縦プログラムに組み込まれているのね。」

「ええ、いつでも起動できるわ。」

「じゃあ、試してみましょ。レッツラゴン!」

またアルが変な掛け声をかけた。

「じゃ、次元転移装置オン!さっき以上のGがかかるわよ。しっかり掴まってて。」

香音が操縦パネルを操作すると、『ウィーン』という音と共に、エスポワール号はさっき以上の猛スピードで機体を震わせながら空間を突き破るように真っ暗な穴に落ちて行った。

その時船内では空間が歪み、湯川とアルは全身がバラバラに引き裂かれそうな痛みに歯を食いしばって耐えていた

「ううっ、だめだ香音、もう身体がもたない。中止しよう!」

「ダメよ、ヒデキ後ちょっとだから我慢して。」

アルが湯川を叱るように言った。


3,『ウィーン』さっきと同じ音がしてエスポワール号の振動は止まった。

「ふぅ、死ぬかと思ったよ。で、どうなんだ次元の壁は超えたのか、香音。」

「ええ、アルの言う通り時間軸に上手く乗れたわ。」

「香音、スクリーンをオンにしてくれ。」

そこに映し出された映像は地球が無限ループのようにらせん状に幾重にも重なった映像だった。

「まるでパラパラ漫画みたいね。」

「なんて例えだ、アル。」

湯川は噴き出してしまった。


「これが4次元の世界なのか、あの重なってる地球は時間ごとの地球ってことか。」

「ええ、このらせん状の中心が時間軸よ。ここから好きな時代に戻れるって訳。」

湯川の質問にアルが応えた。

「じゃあ,早速食料と水の調達に行こう。ヒデキ何年の何月何日に設定する?」

「地球で一番物が溢れていた時代。21世紀2018年にできた豊洲市場、その2年後2020年9月13日午前8時に設定しよう。その頃の地図を出せるか、香音。」

「もう出してあるわ、ヒデキ。」

だよな、と思いながら湯川は地図をさし、ここに埋め立て中の大きな空き地があるな。」

湯川は令和島辺りを指さした。

「でもまた地球に戻るのにあの苦痛を味合わないといけないのか?」

「あれは次元を超える時だけだから、時間軸に乗った今は通常航行のように行けるわ。心配しないでヒデキ。」

アルの答えに湯川は胸をなでおろした。

「じゃあ、2020年9月13日の豊洲市場にレッツラゴン。」


4,エスポワール号は無事ステルス機能を使って令和島付近に着陸した。

ここからはエアロバイクで行くか。

湯川は格納庫へ降り、エアロバイクにまたがった。

いつの間にかアルが後ろに座っていた。

「なんだアル、お前も一緒に行くのか?」

「だって、2020年なんて興味津々なんだもん。キュンキュン♡」

「それにこれ。」

アルはポケットから巾着を取り出した。

「あ、ダイヤか。忘れてた。」

2人はバイクで豊洲市場を目指した。

「へえ、これが21世紀の世界なのね。人の多さにびっくりだわ。」

「この歩いてる沢山の人たちは散歩してるの?」

「いや、みんな会社に出勤するために歩いてるんだよ。」

「車もバカみたいに沢山走ってるわね。」

湯川の運転するバイクは車の間をすり抜けながら空中を移動していた。

それは人々の目には奇異に映る筈だったが、ほとんどの人は無関心だった。

「よかったな、アル、この時代の人は自分の事で手いっぱいで人の事なんか気にしてる余裕はないんだ。」

「本当ならこのエアロバイク目立ち過ぎるもんね。」


「着いたぞ、ここが豊洲市場みたいだ。」

「すごい大きな建物ね。僕、市場っていうから路上で食べ物や野菜やビール売ってる商店が並んでいるだけかと思っていた。」

アルの想像に反して、豊洲市場は近代的な建物の中に何でも取り扱っている巨大マーケットだった。

「あ、そうだアル、この時代じゃ絶対ビールは飲むなよ。その格好でビール飲んでたら警察に連れていかれるからな。」

「ええっ、つまんないの。この時代のビール飲むのが目的で一緒に来たのに。」

アルは膨れていた。

「とにかく我慢しろ!」

「ビールも仕入れてやるから。」

「やった~」

いつの間にか湯川はアルがビール飲むことを認めていた。


「まずはダイヤの交換か。」

あの人に聞いてみよう。

湯川は案内カウンターに向かった。

「すいません、このダイヤを換金したいんだけど、どこへ行けばいいっすかね。」

受付の女の子はうっとりと大きなピンクダイヤを見つめながら呟いた。

「でかっ!」

「これって本物ですか?」

「いやあ、本物とか偽物とかよくわかんないんだけど…」

「市場内でこれを換金できそうなお店はないんで、例えば銀座のテファニンならなんとかなるかも…」

「銀座ってどう行けばいいんすかね?」

「市場前駅からゆりかもめに乗って豊洲で東京メトロ有楽町線に乗り換えて30分くらいです。」

湯川はこの子が何言ってるのか全く理解できなかった。

「ああ、ありがとう。」

湯川は市場を後にした。

「アル今の行き方わかったか?」

「全然わかんな~い。」

「困ったなあ、香音なんとかならないか。」

湯川は香音に連絡をとった。

「テファニンのあるビル調べてみたら、屋上には大きなスペースあるし、誰も居ないみたいだから、そこへ転送するわ。」

「助かるよ、香音。」

湯川とアルの姿は豊洲市場から消えた。


「ここが銀座か、ビルだらけだな。」

湯川はそう呟きながら、エレベーターで1階に向かった。

「あの~、すいません。ダイヤを換金したいんだけど。」

「あ、はい、いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。」

湯川とアルはフエルトが引かれたようなテーブルに案内された。

「ええっと、これなんだけど…」

湯川はピンクダイヤを1個、アルは白ダイヤを5個テーブルの上に広げた。

店員は口をあんぐり開けたまま固まっていた。

「す、少しお待ちください。」

店員はダイヤを大事そうに包むと奥へ消えて言った。

「店長、ちょっと来てください。」

店の奥から大きな声がした。

店長と店員が店の奥でこそこそ話を始めた。

が湯川に耳にはアップルホンのおかげでその声が全部聞こえていた。

「これ、本物すよ。」

「そうみたいだな、両方20カラット以上はあるな。」

「こんなダイヤ、俺見たことないっすよ。」

「俺だって初めて見た。」

「ちょっと、本社へ問い合わせてみる。」

店長は裏へ行き電話をしてるようだった。

すぐに戻ってきた店長が、湯川とアルの前に現れた。

「お客さま、これは大変貴重なダイヤです。いかがでしょう。白ダイヤは1個4億円、ピンクダイヤは1個30億円、合計で50億でいかがでしょう。」

「ちょっと待ってくれる?。」

湯川とアルは外へ出て、香音に連絡を取った。

「香音、50億円ってどのくらいの価値なんだ?それで食材調達は可能か?」

「バカねヒデキ、十分すぎるくらい可能よ。きっと店は銀行振り込みにしてくれって言ってくると思うから、この番号に振り込むように言って。ネットに銀行作っといたから。」

「さすが香音手回しいいな。」

湯川は店に戻ると、「じゃあ、50億でいいっすよ」

「現金で用意はここではできませんので、お振込みでもよろしいでしょうか?」

「いいっすよ、じゃあネット銀行のこの番号に振り込んどいて。」

湯川はタブレットを見せ示した。

「ありがとうございます。すぐに振り込みできると思います。」

店長は深々と頭を下げた。

「じゃあ、よろしくね。」

2人は店を後にした。

「ねえねえヒデキ、あの人達奥で、このダイヤオークションに出せば10億は儲かるってこそこそ話してたわよ。」

「まあ、いいじゃないか俺たちは食材と水さえ手に入れる事ができればいいんだから。香音に聞いたら、50億あれば十分だって言ってたし。」

「なんか嫌な感じ~、お金って人をぎすぎすさせちゃうのね。」

アルは昔を思い出すように言った。

「香音また豊洲市場に転送してくれる?」

「ヒデキ、豊洲市場は人が多くて危険だから屋根の上に転送するから後は自分たちで何とかして。」

「わかった、わかった。」

「あ、あとヒデキ手のひらを出して」

香音は湯川にクレジットカードを転送した。

「なんだ、このプラスチックのカードは。」

「そのカード1枚で市場で買い物ができるわ。」

「へえ~そうなんだ。」

「香音ちゃんは相変わらず何でも手回しがいいのね。やっぱり僕のマブダチだね。」

「アルはホントいい子ね。大好き♡」

「もうヒデキはこの時代に置いといて、アルと2人で行った方がミッション上手くいくんじゃないかしら。」

「賛成~~。」

「もう2人で勝手に言ってろ。なんなんだよ、てめぇら。」

そんな湯川の声と共に2人の姿はまた消えた。


5,「おっとっと、危ねえな。いきなりこんなとこに転送しやがって。こんな高いとこからどうやって降りるんだよ。香音。」

「アルのためにちゃんと縄ばしごも転送しといたわ。」

「ありがと、香音ちゃん♡」

二人は屋根から降りると、まずは食材を置いておく倉庫を借りに行った。

湯川は豊洲市場で一番広い倉庫と冷凍庫を借りた。

「次は水だな。」

水の卸店には箱入りの水がうず高く積まれていた。

「すいません、この箱ひとつで何リットル入ってるのかな。」

「10リットルです。」

「この一山で何ケースあるんだ?」

「一山?あ、パレットですね。100ケースです。」

湯川は香音にどのくらいあればいいか聞いた。

「とりあえず5パレット程あればいいわ。」

「これ5パレットでいくら?」

「ええっと、」

店員は電卓を叩きながら計算していた。

「50万円ほどになります。」

「じゃ、このカードで。」

湯川はカードで支払いを済ませると、

「じゃあ、この倉庫に運んどいて。」

メモを渡し、その場を去った。

「おいなんなんだあれは、あんな大量の水何に使うんだ。」

「アラブの金持ちかなんかじゃないっすか。」

店員たちがこそこそ話していた。


この調子で湯川たちは、肉や魚、野菜、フルーツなどパレット単位で購入し続けた。

「酒も必要だな。きっと古代の神々は酒好きだろう。」

ウイスキーや焼酎、日本酒、ビール、炭酸水等大量に買い付け倉庫へ運んでおくよう指示した。

「荷物運んでる間になんか美味しいものでも食うか、アル。」

「香音まだお金は残ってるか?」

「まだ、49億くらい残ってるわよ。」

「ええっ、あんだけ買って1億円くらいしか使ってないのか!」

「全くこの時代の価値観はどうなってるんだろうね。」

アルの言う通りだった。


「ヒデキお寿司が食べたい。前世の記憶でね、一度日本に来た時ご馳走になったんだけど、美味しかったってなんとなく覚えてるんだよね。」

「よし、じゃあ高級寿司屋で残りの49億使っちまおう。」

「わ~い、わ~い。ヒデキの事初めて尊敬しちゃったかも~。」

2人は豊洲で一番最高級な寿司屋を探して暖簾をくぐった。

「親父さん、この店で一番高い寿司から順に握ってくれ。それと生ビール一つ。」

「ずるい、私も生…」

湯川はアルの口をふさいだ。

「この子にはウーロン茶を頼む。」

「ぷぅぅ~。」

アルは膨れて湯川を睨んでいた。

2人の前に大トロとアワビ、ウニ等が運ばれてきた。

湯川の前にはキンキンに冷えた生ビールが運ばれてきた。

「かあぁぁ~~、悪魔的なうまさだ!」

湯川は一気にビールを飲み干した。

「生ビールおかわり。」

アルは悪魔を見るような眼で湯川を睨みつけていた。


2人は腹いっぱい高級寿司を平らげると、勘定を頼んだ。

「美味しかったわ~、やっぱりお寿司って最高ね。」

アルもビールを飲めないこと以外満足そうだった。

湯川は「アル、こんなに食って49億で足りるかな…」

アルの耳元でささやいた。

「へい、お2人で15万2千円になりやす。」

たった15万円?湯川はいいのかなと思いながら、カードを差し出した。

「ありがとうございやした。」

ホントこの時代の価値観がわからん。湯川は思った。


2人が倉庫に戻ると、すでに全ての荷物が運ばれていた。

湯川はパレット毎にマーカーシールを張ると、香音に船の格納庫に転送するよう命じた。

大量の荷物は一瞬にして消えた。

そして2人の姿とエアロバイクも消えた。


6,「食材調達はうまくいったな。しかし香音この時代の価値観は一体どうなってるんだ。」

「あんな未来では誰も見向きもしないダイヤが50億で、今まで食ったことがないような美味しい寿司が15万円なんて、全く狂ってやがる。」

「まあ、それだけ人類の英知が上がったって事よ。」

香音が呟いた。

「それよりなによ、自分達だけあんな高級な寿司食って、お土産はないの?ぷぅ~」

香音は怖い顔をして湯川を睨みつけた。

ゲッ、また香音のへそを曲げてしまった。

「寿司買って来たってお前食えないだろうがよ。」

「あら、ちゃんと香音ちゃんの分は折詰にして、持って帰ってきたわよ。」

アルが寿司折をぶら下げながらそう言った。

「お前いつの間に…」

「ヒデキがトイレ行ってる間に頼んどいたの。」

「アル~、大好き♡」

香音はアルに抱きついた。

「このおっさんがそんな事気付く訳ないじゃん。」

ううっ、俺は完全にこいつらにディスられている。

「まあまあ、3人でコーヒーでも飲みながら、これからの計画について相談しよう。」

「僕はビール!」

アルはよっぽどビールが飲みたかったんだな。

「まあ、いいけど、酔っぱらう前に金田一長官が心配してた、並行宇宙の件についてアルの見解を聞かせてくれないか。」

「そうねそれは私も聞きたいわ。」

香音も賛同した。

「じゃあ、ミーティングルームへ行きましょ、」

アルはコックピットを後にした。

「みんな座って」

湯川の前にはアイスコーヒー、アルの前には生ビール、香音の前には寿司折が置かれていた。


7,「じゃあ説明するね。」

「アル、ビールはほどほどにしてくれよ説明が終わるまでは。」

アルが酔っぱらうとろれつが回らなくなることを心配して湯川は言った。

「うん、これは大事な事だから、僕もわかってるよ。」

「いい、今この船から見えてる地球の姿、らせん状の幾重にも重なった姿の地球の中心軸に時間軸がある。で、僕たちはその時間軸に乗った状態で安定している。このことをよく覚えておいて、その上で聞いてね。」

「今日、豊洲で僕たちがした一連の事は、本来の21世紀では起こりえなかったことだわ。」

「うん、確かにそうね。」

香音が頷いた。

「本来のこの時代にはあんなダイヤ存在もしなかったし、あんな大量に食料を買い込む人も居なかった。」

「きっと多くの人が驚いてる事でしょ、特に倉庫の管理人は、あの巨大な荷物が急に消えた事に驚愕し、上司に報告している筈よね。」

「アハハ、確かにそうだな。みんなびっくりしてるだろうな。」

湯川はその姿を想像して高笑いした。

「つまり、今日僕たちは本来の21世紀の歴史の一部を変えたことになるわよね。」

「うん、確かにそうだ。」

「だからと言って、21世紀の何かが大きく変わると思う?そりゃ細かい部分ではあのダイヤで儲ける人、大量の食材が一日で売れて喜んでる商店、そんな人は居ると思うけど、人類の歴史には大した影響は及ぼさない。」

「それは時間軸の中には歴史の変革を許さない、未来を変える事はできない大きな力が働いているって事なの。」

「例えば、第二次世界大戦で原発が広島、長崎に落ちるのを僕たちが防いだとしても、戦争はいずれ終了し、日米は協力体制を取り、本来の日米関係に歴史は集約していくわ。大きな意味で歴史は変わらないって事。」

「9・11のテロを僕らが防いだとしても、どこかで他のテロが起こり、アメリカはアルカイダを滅ぼした。でしょう?」

「でも。もし僕たちがナチスドイツに加担してヒトラーが世界を治めてしまったら、人類の歴史は大きく変わることになるわ。」

「そんな事をするとどうなると思う?

僕が考えるに、そんな事時間軸が許す筈がないから、そうね、イメージ的には時間軸がポキッと折れるイメージ。つまりその時点で地球は消えてなくなってしまうわ。」

アルは自分の考えを一気に語った。

「ちょ、ちょっと待て!それじゃあこのミッションが成功しても地球の歴史を大きく変えてしまい、時間軸は折れて、地球は消えてなくなってしまうって事になるじゃないか。」

湯川は驚いて口を挟んでしまった。

「そうよヒデキ、そうなるわ。」

「じゃあ、俺たちのやろうとしている事は全く無駄な事じゃないか!」


「だからそれを防げる神が必要って事ね、アル。」

「さすが、香音ちゃんね。よくわかってるわね。このおっさんとは大違いだわ。」

湯川はこの2人にディスられる事に段々慣れてきた。

「僕も色々考えてみたわ。キリスト、ゼウス、釈迦、でも一番確実なのは…」

「弥勒菩薩様ね。」

香音がアルに代わって答えた。

「そう香音ちゃん、その通り。」

アルも同じ事を考えていた。

「弥勒菩薩って、釈迦の入滅後5億7600万年後に人類救済に現世に現れると伝えられるあの弥勒菩薩か。」

「そうよヒデキ、弥勒ちゃんなら時間をコントロールできて、時間軸の崩壊を防ぐ力を持ってる筈だわ。」

「5億7600万年後って、地球はどうなってるんだ。香音。」

「死の星になってるのは間違いないわね。もしかしたら消えてなくなってるかもしれない。太陽系そのものが消えてるかもしれない。」

「そんな所に出現してもすぐ死んじゃうんじゃないのか。アル。」

「だからそれを救えるのは僕たちと、スーパースキルを持った古代の神々だけよ。特に小角ちゃんの瞬間移動能力と清明ちゃんの結界力は必ず必要になると思うの。」

アルは自分の考えを全て語りホッとしたような表情をしていた。

「弥勒菩薩救済とはまたすげーミッションだな。て事は7人目の神とは弥勒菩薩ってことか、これで10人、丁度だな。」

アルは2杯目のビールを一気に飲み干した。

「かぁぁ~、悪魔的なうまさだぁ!」

それは俺のセリフだ、湯川は思った。

「じゃあ、まずは卑弥呼さんからだな。」

「今日は一日ゆっくり休んで明日出発することにしよう。」

「悔しいけどヒデキの意見に今日は賛成するわ。」

アルが珍しく湯川の意見に賛同した。

「悔しいは余計だけどな。」

「あ、その前に金田一長官に時間軸の件と弥勒菩薩様の件、報告しとかなくっちゃ。」

「明日は一度2194年に戻ってから。卑弥呼さんだな。」

こうして計画の大筋が出来上がり、これから始まる長い旅に備える3人であった。


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