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伝説の七人  作者: HITOSHI
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『伝説の七人』第17章九州のUFOの章

第十七章 九州のUFOの章

1,船に戻った九人はゆっくり風呂に浸かり疲れを癒した。

三々五々食堂に集まって来た。

最後に卑弥呼が現れ、湯川が口を開いた。

「卑弥呼さん、戦闘には参加しないって言ってたじゃないですか?」

「あんた達が不甲斐ないから、わらわが出ざるを得なくなったんじゃない。」

言葉のきつさとは裏腹に、卑弥呼は笑っていた。

「でも卑弥呼さんはメンタル担当で、フィジカルは全然だと思ってました。」

湯川は正直に言った。

「わらわも神の力は持ってるわ。弥勒さんからゼウスの雷霆を預かった時に普通に持てた自分に驚いたわ。」

「せやで、湯川、潜在能力はスサノオより卑弥呼はんの方が上やと、ワシはわかっとった。だから雷霆を卑弥呼はんに預けたんや。」

「それからわらわはみんなに隠れて、槍を使いこなせるよう修業してたの。」

「アルにまで黙っていてごめんね。」

「ううん、あの時の卑弥呼姉ちゃん、すげーかっこよかった。」

「わしもまさか姉さんにあんな力があったなんて驚きだ。過去の世界でもそんな話聞いたこともなかった。」

須佐之男は少しプライドが傷ついたようだった。

「そやけど、あの雷霆は最後の手段として取って置きにしたかったんやけどな。まあでもあの状況やったら、ワシかスサノオで使わなあかんかったかもしれんな。」

弥勒が続けた。

「もうなんも奥の手は残ってないで。」

「残された時間も2日しか残されてませんしね。」

湯川も肩を落とした。

「奴らは常に、私達の予想を超える攻撃をしてきた。最後のUFOもきっと思わぬ攻撃をしてくるだろう。それに対抗手段をもう持っていない私達は追い詰められてるんだろうか?」

清明が冷静に疑問を呈した。

「そうかもしれない、でも次のUFOを破壊できればミッションは終わるわ。その希望を持って、次は最初からみんな協力して全力で戦いましょう。」

卑弥呼がそれでまとめたつもりだったが、

「気持ちだけで勝てるんなら苦労はせん。」

須佐之男が吐き捨てるように言った。

よっぽどプライド傷ついたんだろうな、と湯川は思った。

「スサノオちゃん、卑弥呼姉ちゃんにパワーでも追い越されたから、胸糞悪いんでしょ?」

アルが言ってはいけない事を訊いてしまった。

アルは咄嗟に卑弥呼の陰に隠れた。

が、須佐之男から返って来た答えは意外なものだった。

「そうだな、アルの言う通りだ。タケルとあれだけ修行して、最強の強さを手に入れたと思ったのに、あっさり姉さんに抜かれてしまった。俺のプライドは傷ついたさ。」

須佐之男さんやけに素直だな、湯川は思った。

「でも、よく考えたらわし達は同じ神の血筋の姉弟だ。同じ力を持っていても当然、だがわしにはあの槍は扱えん。

それほどあの槍の力は強大なものだ。

それをいとも簡単にUFOに突き刺すとはまいったよ。」

須佐之男は悔しそうに言った。

「叔母さん、次は最初から戦闘に参加してくださいね。」

日本武尊が軽口をたたいた。

「ええ、もちろんそのつもりよ。」

「わ、頼もしい卑弥呼姉ちゃん。」

アルは胸のお守りをぎゅっと握りしめながら笑顔で言った。

「最後のUFOは一体どんな手を使って、目的を達成しようとしてくるんだろう?」

清明が腕組みして考えるように言った。

「今回の時間軸の歪みは、今までで一番きつかった。多分最後のUFOとの闘いの時はワシは時間軸抑えるのに全力で集中せなあかんと思う。

闘いには参加できへんやろ。

お前ら8人で頑張ってもらわなあかん。

でも、とっさの判断でワシが指示出す事くらいはできるとおもうねん。その時はよろしゅう頼むわ。

あ、この金剛杵は清明はんに預けとくわ。」

清明は弥勒から金剛杵を渡された。

「私はこの杖を自在に扱えるよう、2日間修行してみる。」

清明は杵を振りながら言った。

「父ちゃん、俺達はどうする?」

「休息する。」

「だよな、これ以上何もできないもんな。」

須佐之男と日本武尊の言った事は、清明以外全員に当てはまる事だった。

「じゃ、そう言う事ね、みんな気力だけは2日後に向けて最大まで高めましょう。」

卑弥呼の一言は心強かった。

みんな腹いっぱい食って、酒飲みまくって、フラフラになりながらそれぞれの部屋に戻った。


2,翌日もみんなそれぞれ自分の時間を過ごしていた。

驚いた事に誰も今日は酒を飲まなかった。

さすがに明日に備え制限しているようだった。

そこへ清明が戻ってきた。

「どうだ清明、金剛杵は使えるようになったか?」

須佐之男が訊いた。

「ああ、弥勒さん程じゃないが私も使えるようになった。」

「次の戦では期待してるぞ。」

「でも、次の戦いに弥勒のおっちゃんの力が借りれないのは不安よね。」

アルが言った。

「そうね、今まで弥勒さんには何度も救われたわ。」

卑弥呼もそう感じていた。

「でも、次の戦いにもし俺達が勝ったら、それは歴史を大きく変える事になる。という事は時間軸がその変化に耐えられず折れてしまい、地球が消滅する可能性も大きくあるという事だ。

それを防げるのは誰を置いても弥勒さんだけだ。

俺達でなんとか次のUFOを破壊する以外地球を守る方法はない。

弥勒さんが時間軸の崩壊を防いでくれないと地球は破滅する。

その2つが最後の希望だと思う。」

「ヒデキのくせにまともな事言いやがって。」

アルは涙を堪えながらそう言った。

「そもそも、あの海が消えた東京の海岸でお前が俺に声をかけて来た時から、この長く辛い、でも時には楽しいミッションが始まったんだ。俺は感慨深いよ。」

湯川は今まであった色んな事を思い出しながらそう言った。

「まさか僕もこんな長くなるとは思わなかったわ…、でもそのおかげで…、みんなと出会えた。

それぞれが、かけがえのない…存在になった。本当に…、みんなには心から…、感謝してるわ…。

ありがとう…、みんな。」

アルは泣きそうになるのを我慢して、言葉をひとつひとつ繋いだ。

「アルのくせに、いい事言いやがって。」

湯川も泣きそうになるのを堪えていた。

「もうみんな湿っぽくなっちゃって、今日が最後の1日なんだから、笑って過ごそうよ。」

香音が明るく言った。

「ほんと、香音の言う通りよ。」

卑弥呼も笑った。

「オラは最後にもう一度、湯川がアルに蹴られるのを見たかったなあ。」

空気を読めない小角らしい一言だった。

「あら、そんな事簡単じゃん。ヒデキ渾身の1発を決めるわよ!」

アルが立ち上がって、湯川に向かって行った。

「ぎょぇぇx~、やめてくれ~。」

湯川は猛ダッシュで走って逃げた。

その様子を見て、みんな大笑いした。

そして夜を迎えた。


3,卑弥呼が寝ようとベッドに入りかけた時誰かがノックをする音が聞こえた。

「誰?」

「お姉ちゃん、アル。」

「え、アルどうしたの?こんな夜遅く。」

「お姉ちゃん、今日は一緒に寝ていい?」

「アルならいいけど…。」

2人は一緒にベッドに入った。

アルは卑弥呼に抱きついていた。

卑弥呼はアルの頭を優しく撫ぜると、

「どうかしたの?」と優しく訊いた。

「明日、もしかしたらみんな死んじゃうかもしれない…、もし敵を殲滅できてもみんな元の世界に戻っちゃう…。今夜を最後にもうお姉ちゃんに会えなくなるかもしれない。

そう思うとさびしくて…、ぐすん。」

アルは卑弥呼の胸の中でボロボロ泣いていた。

「みんな死ぬなんてことはないわ。でも、元の時代に戻る事は仕方のない事ね。」

「離れたくない…。ずっと一緒に居たい。ぐすん。」

「わらわだってアルと離れたくないわ。でも地球を守るためには…。」

卑弥呼も涙で後の言葉が言えなかった。

「せめて…、今日だけは…引っ付いていたいの。」

アルはずっと泣いていた。

「今日はここでおやすみなさい。」

「うん…、ありがとう…ぐすん。」

アルは泣き疲れたのか、寝息を立てだした。

そして、いびきを掻き出した。

卑弥呼はゆっくり眠れない事を覚悟した。

夜中何度も目を覚ましながら朝を迎えた。


アルが目覚めると、卑弥呼は髪を乾かしていた。

「おはよう、アル。」

「おはよう、お姉ちゃん。」

「よく眠れた?」

「うん、熟睡しちゃった。」

「あんた、よっぽどストレス溜まってるみたいね。」

卑弥呼は笑いながら言った。

「え、」

「いびき、歯ぎしり、寝言まで言ってたわ。」

「お姉ちゃん、寝れなかったんじゃ?」

「隣でいきなり『ぷは~、ビールはやっぱ最高ね。』なんて言われたら、びっくりして飛び起きちゃうわ。」

卑弥呼はげらげら笑いながら言った。

「ごめんなさい。大事な夜だったのに。」

「わらわは大丈夫よ。神だから。」

「アルも早く用意してらっしゃい。一緒に朝ごはん食べましょう。」

アルは大慌てで自分の部屋に戻った。

この時、卑弥呼がアルの頭の中を覗いていたら、歴史は変わっていたかもしれない。

後に卑弥呼は後悔する事になるのであった。


アルはシャワーを浴び、身支度を整えると、

パワードスーツに着替え、首からお守りをぶら下げ卑弥呼の部屋をノックした。

食堂ではそれぞれが朝食を摂っていた。

「いよいよ最後だな。」

須佐之男が自身を奮い立たせるように言った。

「みなさん、準備は万全ですか?」

湯川がみんなに訊いた。

みんなの様子を見る限り大丈夫そうだった。

「最後のUFOは阿蘇山のカルデラに出現予定です。船はもうすぐ阿蘇に着きます。

後は金田一長官の連絡を待つだけです。」

香音が言った。みんな緊張で身体が引き締まった。

しかし待てど暮らせど、UFOは出現しなかった。

「おい、どうなってるんだ?もう1時間は経ってるぞ。」

須佐之男がしびれを切らした。

「俺達に怖れをなして、もう諦めたんじゃないか。UFOの野郎。」

日本武尊がまた軽口を叩いた。

「ならいう事ないんだけどね、弥勒さん、時間軸に変化はない?」

卑弥呼が訊いた。

「ああ、何も変わった様子はあれへん。」

ずっと緊張状態を維持するのは大変気力を要した。

アルは何故か食事の時以外、ずっと部屋にこもったままだった。

「もう昼になっちまうぞ。」

小角の腹が鳴った。

「なにか食おう。わしも腹が減った。」

須佐之男はスタミナ定食を注文した。

みんなそれぞれ昼食を摂った。

アルも食堂に戻って来て、昼食を摂っていた。

「アル、お前部屋に籠って何やってんだ。」

湯川が訊いた。

「清明さんを見習って瞑想してるの。」

「お前が瞑想?似合わない事するんじゃねえよ。」

湯川がからかった。

「ヒデキまた蹴られたいの?」

湯川は逃げ出した。

アルはまた部屋に戻った。

少し緊張がほぐれた。

「どないなってんねんや、湯川。」

「俺に訊かれても…」

「ほんまに、タケルの言う通りこのまま現れへんのかいな。」

「その場合、時間軸はどうなるんでしょうか?」

湯川が訊いた。

「長い事このまま2重の状態が続くというのはありえへん。どっかで折れてまうやろ。」

「現れる時間や場所が変わったという事は考えられないだろうか?」

清明が誰にともなく尋ねた。

それはみんな不安を感じてるところでもあった。

「それはあり得るかも知れないけど、時間や場所がどこに変わろうが、この船なら対応できるわよね、香音。」

卑弥呼がみんなの不安を打ち消した。

「ええ、出現の知らせさえあれば、どこへでも行けるし、もし時間的に間に合わなくても、その時間に戻れば破壊は可能ね。」

「その時、時間軸がどうなるかが問題やけどな。」

それは弥勒にしか分からないことだった。

「ほんまは、予定通りの時間、場所にUFOが現れて、あいつらの斜め上行く攻撃を防ぐことが一番時間軸に与える影響は少ないんや。」

弥勒の言う通りだった。

「俺達はここで待つしか能がないということか…。」

日本武尊が言った。

「う~ん、何か不安感ばかりが増しよる。」

須佐之男が心の内を言葉にした。

それも今までなかった、珍しい事だった。


4,時間は16時を迎えようとしていた。

「最初のUFOが現れたのが確か16時10分だったな。」

将門が思い出すように言った。

まさにその時、ついに金田一長官から通信が入った。

「今、中国州広東省の陽江からUFOが飛び立った。」

「長官ありがとうございます。すでに迎え撃つ準備はできてます。」

湯川が答えた。

「それがおかしいんだ湯川君、大きさが明らかに小さい、最初のUFOと同じくらいの大きさらしいんだ。」

「ええっ、どういう事なんでしょう?」

「やっぱり予想の斜め上行きよるな。」

「小さいけど、今まで以上に硬いということでしょうか?弥勒さん。」

「そんなん、ワシに訊かれてもわかるかいな。とにかく最初から全力で飛ばせ。」

「よしみんな行くぞ。」

「さ,早よ円陣や。」

『なんでやねん。』

今回は卑弥呼がずっこけた。

船に弥勒と香音を残して、8人は阿蘇山ふもとに転送されてきた。

轟音と共にUFOが現れた。

「なんだこの小ささは、確かに最初のUFOと同じくらいだ。」

UFOは阿蘇山のカルデラにすっぽり収まるように着陸した。

「よし、わらわがシールドを溶かす。」

卑弥呼は宙返りしながら大ジャンプした。

まさに卑弥呼の持つ雷霆が突き刺さる瞬間、UFOの発射管から光子ミサイルが発射された。

「しもた、そういう事やったんか!」

弥勒が何かを理解したように叫んだ。

「小角、僕を抱えてあのミサイルまで瞬間移動して、今すぐ。」

アルが小角に小声で囁いた。

小角はアルを抱えると姿を消した。

アルはパワードスーツの吸着機能をONにし、ミサイルにへばりついた。

そして胸の巾着袋をミサイルに押し付けた。

「小角は戻って、あ、それとこれ僕が戻るまで預かってて。」

アルは自分のアップルホンを小角に手渡した。

「早く戻って。」

「ああ、わかった。」

小角は姿を消した。


「まずい、ミサイルが発射されれば、UFOは大爆発する!香音全員転送だ。」

香音は船を阿蘇から遠ざけながら全員を船に転送した。

「なんてことだ!」

須佐之男が叫んだ。

「アルは?」

卑弥呼が気付いた。

「香音、もう一度アルを転送して。」

「おかしいわ、アルのアップルホンからアルの生体反応が感じられない。」

香音がそういうと、小角が手を広げた。

そこにはアルのアップルホンがあった。

「馬鹿やろう!なんでお前がアルのアップルホン持ってるんだ!」

湯川が怒鳴った。

「だって、アルがミサイルまで瞬間移動しろって、んでそれをオラに渡して、戻るまで預かってろって…」

「じゃ、アルはあのミサイルにしがみついてるって言うの?」

卑弥呼が小角に向かって訊いた。

「ああ」

「あのスピードのミサイルにしがみつくなんて無理だ。振り落とされるだろう。」

「清明の言う通りだ、小角落ちてくるアルを助けに行け。」

須佐之男が命じた。

「清明さん、スサノオさん、それは無理です。細かい事は後にして、アルのスーツには強力な磁石がついてます。振り落とされる事はありません。」

香音がそう言った。

「弥勒さん、時間を止めてアルを救って!」

「卑弥呼はん、無理や。時間軸がえげつなく歪んでる、抑えるので精いっぱいや。」

「小角、あんたもう一度瞬間移動してアルを連れ帰って来なさい!」

「卑弥呼さん、ミサイルはもう成層圏を抜けて、中間圏をも超えようとしています。マイナス90℃の空域です。

スーツは耐えれますけど、アルは顔むき出しです。その温度には頭が耐えられません。

そして大気圏を抜ける際には高温になり1000℃を超えます。スーツでも耐えられる温度を超えてしまいます。」

香音が卑弥呼に向け言った。

「あ、そうか!、アルが首からぶら下げてる巾着にはあいつ反物質弾丸を入れてたんだ。」

湯川が気付いたようだった。

「だめ、もう大気圏を突破するわ!」

香音が悲鳴のように声をあげた。

「アルは弾丸をメルトダウンさせてミサイルを破壊するつもりだ。」

湯川も声を上げた。

「みんな、さよなら、ありがとう。」

アルの声が卑弥呼の頭の中に響いた。

「きゃぁ~、アルゥゥ~~~~」

卑弥呼が悲鳴を上げた。

ミサイルは肉眼で分かるほど、大気圏外でアルもろとも爆発した。

同時に阿蘇山のUFOも大爆発し、九州が焦土化した。


5,「いや!いやよ!こんなの。」

卑弥呼はうつぶせになり大粒の涙がとめどなく雨のように流れ落ちた。

「アル…」

湯川も膝から崩れ落ち涙をぼろぼろ床にこぼしていた。

「何故アルが犠牲にならなきゃいけないんだ!」

須佐之男は泣きながら、床を拳で叩いていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、オラのせいだ。オラのせいだ。」

小角は赤子のように身体を震わせながら号泣し、アルのアップルホンを床に叩きつけた。

「なんで、アルが…、なんで。」

日本武尊も膝の上にぽたぽたと涙を流していた。

「私達の力不足だ。」

清明も跪いて拳を握りしめた。

「こんな最後なんて、酷すぎる。」

将門も崩れ落ち眼を腫らしていた。

香音だけは辛さを堪えて、凛としていた。

そこへ弥勒が時間軸から戻ってきた。

「どうしたんや、みんな何があったんや?」

香音が事の成り行きを弥勒に説明した。

「あのミサイル爆発はアルが起こしたんか。」

「そんなアホな…」

「ワシがあの時、時間止めれてたら…。」

弥勒も膝から崩れ落ち、堰を切ったように泣き出した。

みんな泣きつくし涙も枯れ、静寂の時が流れた。

卑弥呼が立ち上がり、弥勒に訊いた。

「弥勒さん…、時間軸はどうなったの?」

「ミサイルが発射された時、時間軸は大きく歪み、そのままにしてたらきっと2本とも折れてたやろう。

ワシが全力で抑えてた時、ミサイルが爆発した。

その瞬間歪んでた時間軸の方が元の時間軸に集約された。ほんで元通り1本になった、らせん状の地球のぶれもなくなった。」

「地球は救われたって事ですか?」

湯川が訊いた。

「ああ、そや湯川、前の時代の長官に連絡取って確認してくれへんか?」

「わかりました。」

湯川はタブレットを取り出した。

「金田一長官、湯川です。聞こえますか?」

「湯川君か!とんでもない事が起こった。さっき突然地球は元の姿に戻った。

私自身も、海が無くなった地球の歴史と、UFOが全て破壊された歴史の記憶がごちゃ混ぜになっている。」

「じゃあ、この通信は元の長官でもあり、今の長官でもあるということですか?」

「ああ、そうだ。でも私とタマヨ以外全員、UFOは湯川君とアル君2人で破壊したと思っている。

君達はこの世では英雄扱いだよ。」

「長官、ありがとうございます。すみませんそれだけ確認したかったんで、また改めて報告に上がります。」

湯川は通信を切った。

「湯川よかったじゃないか、お前とアルが地球を救った事になってる。」

須佐之男がそう言った。

「わらわ達が過去からやって来て戦った事は知られない方がいいわ、ね、弥勒さん。」

「そやな、そんな事知られたら大騒ぎになるわ。まだ時間軸は不安定な状態やしな。」

「弥勒さん、ミサイルが発射された時、『しもた』って言ってたけど、あれは何に気付かれたんですか?」

卑弥呼が訊いた。

「ああ、あれはUFOが湯川のおった歴史より毎回1日ずつ早う現れたのがなんでかという事に気付いたんや。」

「ワシらはUFOが1日早く現れてると思とった。でもそれは違ったんや。UFOは1機前のUFOがミサイルを発射してきっちり翌日に出現しとったんや。

早なってたんは、ミサイルの発射やってんや。

須佐之男がUFO現れたその日中に発射管引き抜いてたから、ワシらはUFOが1日早く現れてると勘違いしっとった。」

弥勒は自分の考えを一気にまくし立てた。

「そういや、湯川最初のUFOの時わしに言ったな、『ミサイルの発射は1週間後だから慌てなくていい』と、でも歴史は変わっていて1週間後ではなく6日後だったんだ、しかしずっとわしがすぐに引っこ抜いていたからわからなかった。」

須佐之男が悔やむように言った。

「それが1日ずつ縮まって、最後のUFOはカウントが0になった。」

湯川は全然気づけなかった事に後悔した・

「じゃあ。アルはそれに気づいていて準備してたって事か。」

湯川は大声で言った。

「それはないわ、ヒデキに頼まれる前から、反物質弾丸の設計図を作るようアルから頼まれていた。

パワードスーツを作る時も。自分のスーツにだけ強力な磁石機能をつけて欲しいって頼まれていたの。

アルはずっと前から覚悟していたんだと思うの。」

香音が誰も知らなかった事を明かした。

「昨日の夜、アルはわらわの部屋に来て一緒に寝て欲しいと言ったの、寝ながらずっと泣いていたわ。

1機目のUFOを倒した後にもわらわに抱きついて号泣していた。

あの涙はこうなる事を覚悟しての涙だったと思う。」

卑弥呼はしみじみとその時の事を思い出しながら言った。

「アルは俺の前でも一度号泣した。それは最初のUFO出現前だった。みんなと別れるのが嫌だと、みんなの記憶から消えるのが嫌だと…、でも今思うとあの涙もこうなる覚悟の涙だったのかもしれない。」

湯川も思い出しながら言った。

「わしとタケルの前でもそんな事があったな、あれは2人で修行してる時だった。」

「そうだな、父ちゃん、もう随分昔の事のように感じる。」

須佐之男と日本武尊もしみじみと語った。

「アルはミッションが始まる前からこんな最後を予想していたのかもしれない。」

湯川はアルの明るさの裏にそんな思いがあった事に気付かなかった事に悔しい思いだった。


「昨日の夜、わらわはアルの頭の中を覗く事を考えもしなかった。

あの時、アルの考えを読み取っていたらこんな悲劇は防げたかもしれない。」

卑弥呼の頬をまた涙が伝わった。

「アルの部屋にみんなに当てた手紙が置いてあります。自分の身に何かあったらみんなに渡すよう、アルから頼まれていました。」

香音の言葉を聞くや否や、湯川は走り出してアルの部屋に向かった。

「ありました。9通の手紙です。」

湯川は手紙の束を机に置いた。

「そうか今日アルはずっと部屋に籠ってこれを書いていたんだ。」

将門が言った。

「この見慣れない文字は一体何?」

卑弥呼が訊いた。

「これはドイツ語ですね。アルの母国語です。」

湯川が答えた。

「これじゃ何が書いてるのか分からないじゃないか。」

日本武尊がぼやくように言った。

「ちょっと借りますよ。」

香音がそう言いながら、すごい速さで手紙をペラペラめくり出した。

「全て理解できました。私の口から手紙を読み上げさせていただきます。」

「平将門様」

その声は香音の声ではなくまさにアルそのままの声だった。

「ちょ、ちょい待て。香音そんな事もできたのか?」

湯川は驚いたように訊いた。

「だから世界一のAIだといつも言ってるでしょ。みなさん席についてお聞きください。ではもとえ。」


6,「平将門様」

将門ちゃん、最初会った時から、将門ちゃんは強きをくじき弱きを助ける正義感に溢れた人だと感じました。

僕と湯川をあの、のこぎり円盤から救おうと自分の命まで投げ出してくれた事に、いくら感謝しても、感謝しきれない思いでした。

ありがとう。

そんな将門ちゃんが後世では祟り神と恐れられてる事に僕は憤慨した。

小角ちゃんに助けられた過去に戻ったら、兵を引き上げて落ち延びて下さい。

死なないでね、将門ちゃん。

生きてできるだけ多くの民衆を救ってあげてね。

戦わず民衆を救う方法はいくらでもあると思います。

それができるのは将門ちゃんだけよ。

未来で見た東京の繁栄は将門ちゃんの理想通りだったでしょう。

いつまでも東京を守ってね。

ありがとう、さようなら。

「ううぅぅぅ。」

将門は手で顔を覆い、雨粒のような涙を流した。


「安倍晴明様」

清明ちゃんはこのチームの良心でした。

熊野で最初に会った時も、自分の命を賭けても民衆を救おうとしていました。

そんな清明ちゃんに僕はこのミッションへの希望を感じました。

思った通り、清明ちゃんは僕と湯川にいつも結界を張って守ってくれた、心から感謝してます。

清明ちゃんが居なければ、僕も湯川も死んでたかもしれない。

悪さをする天狗を封印した事を小角ちゃんが仕方ないって思ってた事も、本当に良かったと思う。

元の世界に帰っても人を呪い殺したりはしないでくださいね。

清明ちゃんのその力、民衆を守る事に使ってください。僕からの最後のお願いです。

ずっと元気で長生きしてくださいね。

さようなら、ありがとう。

「アル…。」

清明は天を仰いで、悔しそうに泣いた。


「役小角様」

最初吉野の山で会った時はびっくりしたわ。

鬼をミノムシのように吊るして、封印してる小角ちゃんの姿はかっこよかった。

でも、会って話してみると変な人だった。

僕に「嫁になってくれ」なんて言うし、無理って怒ったけど、本当は少しうれしかった。

この手紙を読んでるって事は、僕の最後の作戦が成功して、僕は死んじゃったって事だと思うんだけど、小角ちゃん絶対に自分の責任だなんて思わないでくださいね。

僕が決めて、小角ちゃんに頼んだんだから、みんなも小角ちゃんを責めないであげてください。

小角ちゃんは純真で邪まな心のない人だから、やる事が突拍子もないけど、元の世界に戻ったらその純真さを民衆を守る事に使ってください。

それと鬼の肉はもう食べない事。

小角ちゃんがいたずらっ子なのは鬼の肉を食べてるからよ。

人を食う鬼だけをやっつけて。お願いね。

さようなら、ありがとう。

「わぁぁぁ~~。」

小角は顔じゅうをくしゃくしゃにさせて、号泣した。


「日本武尊様」

タケルちゃんはチーム集めの時からずっと僕と湯川を助けてくれてました。

最初スサノオちゃんに会った時も、タケルちゃんが居なかったら、湯川も僕も殺されていたかもしれない。

それからもずっと事あるごとに僕らを助けてくれました。

ありがとう。感謝の気持ちでいっぱいです。

敵と戦ってる時のタケルちゃんはめちゃめちゃかっこよかった。

僕の部屋の天井には、草薙の剣を振るうタケルちゃんの写真が飾ってあるの。毎日その写真を見ながら寝ると幸せを感じれました。

でもね、スサノオちゃんとタケルちゃん2人で修行している時に僕が弁当を届けに行った時、「俺が湯川を守る」って行った時、本当は「俺がアルを守る」って言って欲しかった。

うふふ。

タケルちゃん、元の世界に戻ってもお父さんに復讐しようなんて考えないでくださいね。

それにもう敵国を攻める事もしないでくださいね。

タケルちゃんが苦悩する姿なんて見たくないです。

どうか穏やかに過ごして、民衆のためにその力使ってください。

僕からの最後のお願いです。

さようなら、ありがとう。

「アル、わかったよ。」

日本武尊は堰を切ったように号泣した。


「須佐之男命様」

スサノオさんに最初会った時は怖くて怖くて仕方なかったわ。

この船でタケルちゃんと剣を交えた時のスサノオちゃんの鬼のような形相、今でも鮮明に覚えてます。

この人をチームに加えるのは絶対無理だと思いました。

でも卑弥呼姉ちゃんがそれを抑えてくれて、スサノオちゃんはしぶしぶチームに入った。

スサノオちゃんがずっと卑弥呼姉ちゃんを恨んでるって思ってた。

それが2機目のUFOを倒した後、「アルのおかげでわしは変わった。」と言われた時、心臓が止まるかと思うほど驚きました。

それからスサノオちゃんはみんなの先頭に立って戦ってくれた。そのすがたは凄くかっこよかった。

スサノオちゃんは人一倍プライドが高く、責任感が強い人だから、きっとこうなった事に責任を感じていると思います。

これは僕が決めた事だからスサノオちゃんは悔やまないでくださいね。

元の時代に戻っても、卑弥呼姉ちゃんと協力して日本のみんなを幸せにしてあげてください。もう暴れないでくださいね。

さようなら、ありがとう。

「わしはもう誰とも戦わん。」

須佐之男は天を仰いで悔し泣いた。


「弥勒菩薩様」

弥勒のおっちゃん、救出作戦は僕らにとっては、一番大事な大仕事でした。

卑弥呼姉ちゃんの計画の元、小角ちゃんの活躍でおっちゃんを無事救い出すことができました。

みんなドキドキしながら救い出したおっちゃんは、変な人でポンコツでした。

「誰がポンコツやねん。」

「弥勒さん口を挟まないの。」

卑弥呼に怒られた。

「はい。」

弥勒はうなだれた。

香音は弥勒を無視して続けた。

弥勒のおっちゃんがチームに加わったことで、チームが今まで以上に明るくなった。

その明るさが僕には希望の光に思えました。

そんな僕の思い通り、弥勒のおっちゃんは事あるごとに僕たちを助けてくれた。

時には強力な武器を授けてくれたり、時には時間を止めてみんなを救ってくれたり、弥勒のおっちゃんはこのチームに欠かせない存在になった。

でも、おっちゃんは決して威張る事もなく、みんなを和ませてくれた。

何度も頭をたたいてごめんなさい。

決して怒ってた訳じゃないので、わかってね。

そして、この手紙をおっちゃんが読んでいるという事は、時間軸は折れずに1本に集約したんだと思う。

僕の最後の仕事で地球は救われたと思ってます。

それもきっと弥勒のおっちゃんが時間軸を制御できた事が大きかったんだと思います。

本当に地球を救ったのは、やっぱり弥勒のおっちゃんだと思う。

さすがは救世主ね。

助けてくれた、ポセイドンちゃんやキリストちゃん、ゼウスちゃんにお礼言っておいてください。

本当にありがとう。そしてさようなら。

「アル…、なんでや、なんでやねん。」

弥勒は身体を二つ折りにして両手で顔を抑えて泣いた。


「香音様」

「これは私には読むことができないわ。ヒデキ代わりに読んで。」

「わかった。」ヒデキが代読した。

香音ちゃんには、ヒデキより先に大学の研究室で会いました。チーム結成の一番最初の出会いでしたね。

香音ちゃんは僕のAIとは全然違っていました。

人間味があると言うか、僕には全然AIとは思えなかった。

ヒデキは最初から香音ちゃんしか知らないから、香音ちゃんの凄さに全然気づいてなかった。

だから事あるごとに、香音ちゃんを人間扱いするようヒデキに言い続けた。

そしてだんだんヒデキは香音ちゃんを人として見るようになって行った。

僕はうれしかったわ。

香音ちゃんはいつも冷静な分析をして、僕たちを導いてくれた。おかげで地球は救われた。

ヒデキ、UFOを殲滅するのに香音ちゃんの力は欠かせなかったと、後世に伝えて。

この船を作ったのも、チームの人選決めたのも、時間の壁を超えれたのも、いつも必要な時に転送してくれたのも、アンチマターマシンガン作ったのも、パワードスーツ作ってくれたのも、みんな香音ちゃんよ。

ヒデキなんかより貢献度はよっぽど高いわ。

「い、マジかよ。」

湯川は思わず呟いてしまった。

「湯川。」

卑弥呼にたしなめられた。

香音ちゃんは、僕の親友だと思っていた。

もし生きて帰れたら、ヒデキから奪ってやるつもりだった。

でもこの手紙を読んでるって事は、僕は死んじゃったんだと思う。

だから香音ちゃんはこれからもヒデキを助けてあげてね。

香音ちゃんが居ないと、ヒデキはただのポンコツ科学者になっちゃうわ。

(湯川はアホかという言葉を飲み込んだ。)

大好きだった、香音ちゃんが。

さようなら、ありがとう。

「ううぅ、アル。」

香音は身をよじるようにうつむいていた。


「湯川秀紀様」

ヒデキ、本当に長かったですね。

一番最初にあの魚臭い東京の海岸で僕たちが会った事から、この長い戦いが始まりました。

ヒデキの科学力が無ければこの船を作る事もできなかった、僕の次元転移装置を活かす事も出来なかった。

それから色んな事がありました。

チーム集めの最初から、UFOの壊滅まで、最初から最後までずっと一緒に居てくれた。

日々、不安と心配の中、だんだんとメンバーが増え、このメンバーならという安心感が増して来て、不安が安心に変わったのは僕もヒデキも一緒だと思う。

大変な事もいっぱいあったけど、今思い出すと楽しい思い出の方が多かったと思います。

市場での買い物も楽しかったし、お寿司は格別に美味しかった。

そして、こうしてヒデキがこの手紙を読んでくれてるという事は、ミッションが成功したんだと思う。

僕がヒデキに最初に言った言葉覚えてる?

「日本で起こった事は日本人で始末つけな。」って、あれは自分に向けての言葉でもあったんだ。

原発は僕が作ったようなもんだった。その原発があのUFOをあそこまで成長させてしまった。

だからこの結果は必然なの。

僕の中にはずっとその覚悟があった。

だから、ヒデキはなんの責任も感じないでください。

決して、過去に戻って小細工しようなんて思わないで。

このまま地球が救われた事を誇りに思ってください。

でも、僕の事は忘れないでね。僕もヒデキの事は絶対忘れません。

それと、金田一ちゃんにはアルはなんの迷いも悔いもなく、天国へ旅立ったって報告してください。

ほんとの事だから。

さようなら、本当にありがとう。

「アル…、わかったよ。俺の方こそ本当にありがとう。」

「わぁぁぁ~~。」

湯川は辺り構わず慟哭した。


「卑弥呼様」

最初会った時、引きこもりとかひどい事言ってごめんなさい。

僕は何も考えず物言っちゃうから…

あの時も、わぁやっちまったって思ったけど、卑弥呼姉ちゃんはちゃんと話を聞いてくれました。

僕と湯川の意思を操ればよかったのに、そうしなかった。

きっと僕と湯川に、自分の家臣とは違う何かを感じたんじゃないかと思いました。

神としての誇りや責任の重さ、それ故の恐ろしさ、最初正直卑弥呼姉ちゃんの事が怖かった。

いつ呪い殺されるんじゃないかと、僕は心の内では怯えてました。

でもいざチーム集めが始まると、卑弥呼姉ちゃんは、僕と湯川に的確な指示を出して、全てを成功に導いてくれた。

そんな卑弥呼姉ちゃんはめちゃめちゃかっこよかった。

僕の中でのお姉ちゃんに対する恐怖は消えてなくなり、憧れと信頼感が大きく増しました。

そんな時、卑弥呼姉ちゃんが「私が変われたのはアルのおかげ。」って言ってくれた。

心臓が張り裂けそうな程嬉しかった。

実の妹のように思ってるって言われた時も、泣きました。

で、本当に卑弥呼姉ちゃんは僕の事を妹のように労わってくれました。

僕の中で一番辛いのは、卑弥呼姉ちゃんと離れ離れにになる事です。

でも、僕が死んでお姉ちゃんが生き残って、この手紙を読んでくれてるとしたら、僕にとっては最高の別れ方かもしれません。

僕以外誰も死んでない事を願います。

お姉ちゃん、元の世界に戻っても、人を呪い殺すとかやめてくださいね。

スサノオちゃんやタケルちゃんと仲良くして、みんなで協力して、素敵な天皇家を築いてください。

卑弥呼姉ちゃんの笑顔には民衆はきっと魅了されると思います。

その笑顔で素敵な国を作ってください。

さようなら、ありがとう。本当に大好きだった。

「いや、いやよ。アル…」

卑弥呼は大事な物を失ったように、身体を揺すりながら大粒の涙を振りまいた。


7,長い静寂の時が9人を包んだ。

誰も言葉を発する事無く、時が過ぎた。

卑弥呼が急に立ち上がり、窓から手を合わせ外へとこうべをたれた。

全員が同じように卑弥呼の真似をして、アルに敬意を表した。

数分間黙とうし、みんなまた席に着いた。

「湯川、何とかならないのか、過去へ戻ってアルを連れてくるとか…」

日本武尊が静寂を破るように湯川に訊いた。

「この船なら、簡単な事ですが…、そうするとあのミサイルは破壊できなくなる訳で…、それこそ歴史を変えてしまうと。」

湯川は考えながら言葉を紡ぎだした。

「じゃあ、こういうのはどうだ?」

将門がずっと考えていたかのように話し出した。

「反物質弾丸の入った巾着袋に強力な磁石をつけた物を作って、湯川が最後のUFO出現前のアルを呼び出して、アルの巾着袋と入れ替えて、小角がミサイル発射と同時にその巾着袋だけをミサイルに張り着けて来る。」

「あ、それなら。」

湯川はうなずいた。

「それじゃ、巾着袋が振り落とされる可能性もある。だからアルはミサイルを抱え込んだんじゃないか?

それに、アルが死んだ未来と、ミサイルだけが破壊された未来、また2つの時間軸が存在する事にならないか?」

清明が疑問を呈した。

「お前ら、何をごちゃごちゃと、わしが過去へ戻ってミサイル発射と同時に叩き斬ってやる。」

須佐之男が怒声を上げた。

「もう、みんなバカじゃないの!」

「アルがどれだけの覚悟で自分の命を懸けたかわかってんの!」

「あの娘は、このミッションが始まった時からずっと、最悪の場合は自分の命を投げ出す覚悟でいつもいたの。

それがたまたま最後のUFOだった訳じゃないわ。それは必然だったの。」

「だから時間軸も折れることなく、弥勒さんでも抑える事ができた。でしょ?弥勒さん。」

卑弥呼は悲しみを抑えながら、まるでアルの気持ちを代弁するかのように言った。

「そや、卑弥呼はんの言う通りや。湯川も小細工すんなってアルに言われとったやないか。せっかく救われた世界をまた危険にさらすだけや。」

「みんな辛いのは一緒や、でも下手なことして一番悲しむのはアルやで。」

弥勒の言葉に湯川は下を向いた。

「やはりこの事実を受け止めるしかないという事か…。」

須佐之男が噛みしめるように言った。

「みんな、アルの手紙を持って、元の時代に戻って日本の歴史を正しく紡いでくれ。」

弥勒がそう言うと。香音は全員にアルの手紙を日本語に翻訳した物と一緒に全員に渡した。

「まだ時間軸は不安定な状態や。みんなが元の時代に戻る事で、安定すると思うんや。」

弥勒の言葉にみんな頷いた。

みんなは部屋に戻ると、船に乗った時の服装に着替え、またコックピットに集まった。

と、突然湯川がひざまずき、土下座を始めた。

「みなさん、本当にありがとうございました。こんな歴史上の英雄のみなさんに来てもらって、しかも何の見返りも無いのに命の危険にまで晒してしまって、いくら感謝してもしきれません。心からお礼申し上げます。」

「湯川それは違う。わしらはお前達から多くの事を学んだ。

この日本の将来が素晴らしいものだとわかった。その日本を救う事ができたのはわし達の誇りだ。

その誇りを持って、人の上に立つという事がどういう事かよくわかった。」

「そうだ湯川、俺達の方こそ感謝しなきゃならん。」

須佐之男と日本武尊はそう言った。

『湯川ありがとう。』

みんなが声を揃えてそう言ってくれた。

湯川は洟をすすりながら泣いた。

「香音ちゃんもありがとうね。」

卑弥呼が言った。

『そうだ、香音ありがとう。』

またみんなが口を揃えて言った。

香音の頬を一粒の涙が伝わり、床にポタっと落ちた。

え?、っと湯川は思ったが口に出さなかった。


8,「ほな、みんな自分の時代に帰ろか。迎えに行ったんと逆の順番で送ってもらえ。」

弥勒は時間軸の事を考えてそう提案したんだと、湯川は思った。

「そうなると。一番は弥勒さんになりますが…」

「湯川、ワシは、最後でええ。みんな戻って時間軸がどうなるか、見届けなあかん。」

「じゃ、将門さんからになります。」

「香音、将門さんを船に乗せた瞬間に移動してくれるか。」

香音は船を一度時間軸に戻した。

「久しぶりに見る光景だな…。」

しかし湯川の見る時間軸は少しぼやけているような、震えているように見えた。

「どや、あれがまだ時間軸が不安定な状態を示しとる。」

弥勒は見慣れた光景のように言った。

「早くみなさんを元の時代に送り届けなければなりませんね。」

香音はそう言いながら、船を将門の時代に向けた。

「将門、ロンギヌスの槍はキリストはんに返さなあかんから置いといてな。」

「はい、わかりました。」

将門はロンギヌスの槍を静かに床に置いた。

そして船はちょうど平貞盛と俵藤太が逃げ去った後に着いた。

「じゃ、将門元気でな。」

須佐之男が声をかけ、将門は全員と握手してコックピットから転送室に向かった。

「将門さ~~ん、本当にありがとうございました。」

湯川は深々とお辞儀をしていた。

将門がどうするのか、みんなで見守る事にした。

戦場に戻った将門は、全軍に退却を命じた。

「退却するぞ!東京に戻る!」

その声は戦場に響いた。

「将門公、東京とは?」

家臣が訊いた。

「間違えた、江戸じゃ。」

「しかし、敵の頭は逃げ出しました。今こそ攻め落とす好機かと。」

「これは命令だ。誰も死んではならぬ。しんがりはわしが担う。」

頭がしんがり等聞いたことがない、と家臣たちは思ったが、将門の気迫に押され全員踵を返した。

将門は家臣たちが傷つかぬよう、最後尾で火球を放ち敵の足を止めた。

「将門はアルの意思を継いでくれたようね。」

卑弥呼が嬉しそうに言った。


「次は小角さんね。」

香音は西暦650年の吉野へ船を向けた。

鬼を全て焼き尽くした後の吉野に着いた。

「小角、元気でね。もう悪さはしちゃ駄目よ。」

卑弥呼に諭され小角は下を向いた。

「小角さん本当にありがとうございました。」

湯川がそう言うと、小角は湯川に抱きついて「カクン、カクン。」と顎を鳴らしながら号泣した。

「オラにもしもの事があったら、清明さん後は頼む。」

「ああ、任せてくれ。」

湯川には小角と清明の会話の意味は分からなかった。

みんなとハグして小角は転送室へと向かった。

転送室から、「アルゥ~~、ありがとう~~~。」

と小角の大声が聞こえた。

「あいつ本当にアルの事が好きだったんだなぁ。」

日本武尊が涙を堪えて呟いた。

小角は吉野の山に転送されると同時に姿を消した。

「えっ?」と湯川が思ってると、次から次へと縄で縛られた鬼が降ってきた。

小角が帰って来てすぐ鬼の匂いを嗅ぎつけたようだった。

しばらくすると小角が帰って来た。

小角は顎を鳴らし、「ポッポッ」と口を鳴らすと船に向かってにっこり笑ってⅤサインをした。

「小角も大丈夫みたいね。」

卑弥呼もにっこり笑って言った。


「次は清明さんね。」

香音は979年の熊野に船を向けた。

「清明さん、本当に何度も守っていただき、ありがとうございました。」

湯川は深々とお辞儀し、清明と握手した。

清明はみんなと順に握手し、最後に須佐之男に肩を抱かれ、「これからも帝を守ってくれ。」と言われた。

「わかりました。みなさんからは本当に多くの事を学ばせていただきました。ありがとうございました。」

清明は深々とお辞儀すると転送室へ向かった。

熊野本宮大社では宮司たちが後片付けと掃除をしていた。

民衆が逃げ帰り、誰も居ない中、清明も戻ると後片付けを手伝っていた。

大社が元の姿に戻ると、清明は神殿に座り祈祷を始めた。

卑弥呼が清明の祈祷内容を探ると、清明は民衆の安寧と帝の守護を願っていた。

「清明さんも大丈夫ね。」

卑弥呼が微笑みながら言った。


「次は須佐之男命様ですね。」

香音は須佐之男が八岐大蛇を倒した時代へと船を向けた。

「須佐之男さん、本当にありがとうございました。」

湯川は今回は跪いてこうべを垂れた。

「湯川、やめろ。ここに残った3人は後の家族だ。わしは湯川の事も家族と一緒だと思ってる。そんな挨拶は不要だ。」

須佐之男も泣きそうになるのを堪えながら言った。

「わ。ワシわ~い。」

弥勒が突っ込んだが誰も反応しなかった。

「香音、わしが播磨稲日大郎姫に会うのは何歳の頃じゃ?」

「正確には申し上げられませんが、300~400歳の間かと思われます。」

「ちゃんと覚えておかねば、タケルが出生しなくなるな。」

「あんた何言ってんの?その根っからのスケベさは幾つになっても変わらないわよ。」

卑弥呼のその一言にみんなが笑った。

「じゃ、みんな元気でな。姉さん、タケルまた会おう。」

須佐之男は背に草薙の剣を担ぎ、転送室へと向かった。

転送先は深い谷を越えた、最初湯川と転がり込んだ場所だった。

須佐之男は谷を軽く超えると森の中を駆け抜け、櫛名田比売命を肩に抱えると猛烈な勢いで山を飛び越え、高天原へと向かって行った。

「変わらないわね、あいつは。

元の時代でまた会うと思うと気が重いわ。」

卑弥呼が肩を落として言った。


「次は日本武尊様ね。」

香音は西暦140年の相模へと船を向けた。

「タケルさん、本当にありがとうございました。最初会った時のタケルさんと今のタケルさんはまるで別人のようです。」

湯川は日本武尊と握手しながら言った。

「あはは、そうだな。お前のおかげだよ、湯川。」

「あんた、戻ったらどうすんの?」

卑弥呼が訊いた。

「もう戦はやめた。帝の地位にも何の未練もない。

後は民衆と一緒に静かに暮らすよ。」

「いい心がけよ、タケル。」

「この時代でも、叔母さんに会えるかな…」

「きっと会えるわよ。」

卑弥呼はにっこり笑って、ウインクした。

日本武尊は草薙の剣を背に担ぎ転送室へ向かった。

「タケル~、元気でな~、長生きせえよ~。」

弥勒が日本武尊の後ろ姿に声をかけた。

日本武尊は右手を挙げて答えた。

かって戦場だった街道に日本武尊の姿はあった。

日本武尊は東に向かうのを止め、西へと引き返していた。

そこへは追手の大軍勢が迫っていた。

「日本武尊、この大軍勢をお主一人で相手できるか。さっさと降参しろ。」

「ふん、くだらん。」

日本武尊は大軍勢に向かって駆けて行くと、手前で猛ジャンプし、軍勢を遥かに超え、凄まじい勢いで駆けて行った。

「タケルも誰とも戦わなかったわね。」

卑弥呼は安心したように言った。


「最後は卑弥呼はんやな。」

「卑弥呼はん雷霆はこの布に包んで置いといてくれるか?ワシは触るのも怖い。」

「それと、香音、卑弥呼はんだけは神棚と一緒に神殿の中へ転送したってくれるか。」

「卑弥呼はん、わかってくれてると思うんやけど、歴史の安定のため、時間軸の安定のため、スサノオが八岐大蛇倒して戻って来るまでは、怖い卑弥呼、引きこもりの卑弥呼を演じといて欲しい。

今の卑弥呼はんには辛い事やと思うねんけどな…」

「ええ、分かってますわ、弥勒さん。

今回のミッションは、わらわから始まった。わらわが元の世界に戻ってどう行動するのかが大事なのは、理解してます。

スサノオが変わって戻って来るのを待ちます。」

「はんまに苦労かけてすまんの。」

弥勒のその言葉を聞いて、湯川は床に両手をついて、大粒の涙をこぼした。

「卑弥呼様…、最初から最後まで…、本当にありがとうございました。」

湯川は、卑弥呼と別れる悲しみに耐え、泣きながら額を床に擦りつけた。

「湯川立ちなさい。」

卑弥呼は凛として言った。

湯川はぼろぼろ泣きながら、ゆっくり立ち上がった。

卑弥呼は湯川の肩にそっと手を当て、そのまま湯川を抱きしめた。

そして、湯川の涙を両手で拭うと、そのまま頬に手を当て、湯川の唇に自分の唇を重ね合わせた。

湯川は心臓が爆発しそうなくらい驚き、顔を真っ赤に染めた。

「お前達の時代ではキスって言うんでしょ?別れの時の挨拶なんでしょう?」

湯川はわなわなと震えながら、膝から崩れ落ちた。

「キスは…、恋人同士が…、するもので…」

湯川はなんとか言葉を紡いだ。

「湯川なら、わらわは恋人でも構わないわ。」

卑弥呼のその言葉を聞いて、湯川は床にうつぶせになり、手足をぴくぴくさせ、そのままピクリとも動かなくなった。

「おい、湯川、死んだんかいな?」

弥勒が湯川の身体を揺すった。

「あかん、こいつ気失っとるわ。」

「後はよろしくね、弥勒さん。」

あんた、恐ろしい女やな~、湯川はもう一生恋愛でけへんで、ひゃ~。」

弥勒は引き笑いした。

「卑弥呼はん、おおきにな。元気でな。」

「弥勒さんも日本のためにありがとうございました。お元気で。」

卑弥呼は颯爽と転送室に向かった。

そして神棚と共に神殿内部へと転送された。

「香音、ここからでは神殿の内部まで様子はわからんな。」

「そうですね、スサノオさんがクシナダヒメを連れて戻って来た未来まで確認しに行きますか?」

「さすが、香音、よう分かっとるやんけ。」

香音は船を一度時間軸に戻して、少し未来の邪馬台国に向かった。

ちょうど湯川も目覚めたようだった。

「あれ、卑弥呼しゃんは?」

湯川はふ抜けた表情で卑弥呼を探した。

「アホか、もうとおに元の時代にもどったわい。」

「え?俺も卑弥呼しゃんと一緒に行く。」

「うらやましいやっちゃな、あんな別嬪さんにキスしてもろて。」

「卑弥呼しゃ~ん。」

「湯川、いつまでふにゃふにゃしとんねん。黙ってそこで見とれ。」

弥勒に怒られた。でも気持ちいい。湯川は変な感覚に包まれていた。

エスポワール号のスクリーンには閉ざされた天岩戸が映し出されていた。

そこへちょうど、クシナダヒメを抱えた須佐之男がやって来た。

「姉さ~ん、新しいわしだ。生まれ変わったスサノオだ。ここを開けてくれ。」

須佐之男は傍らにクシナダヒメを降ろすと、大声で叫んだ。

天岩戸が開いた。

「天照大御神様がお出ましになる。」

家臣たちがざわついた。

天照大御神と名を変えた卑弥呼が現れた。

家臣たちはひれ伏した。

「随分待たせおって。」

卑弥呼は安堵の表情を浮かべていた。

「こっちの世界では何年経ったんだ?」

須佐之男が訊いた。

「おおよそ20年よ。」

「姉さんは20年も引きこもってくれてたのか!」

「引きこもりというな!歴史を変えないため、隠れていたのじゃ。」

卑弥呼の強い意思は20年の時を堪えていたのであった。

「卑弥呼さん、相変わらず綺麗だな~。」

湯川はスクリーンにかぶりつくように見ていた。

「姉さん、あの頃と変わらないな。」

須佐之男もそう感じたようだった。

「うふ、恋の力かな…」

「こい、恋だって、弥勒さん聞きました?恋って相手は俺?行って確かめて来ます。香音転送して。」

「ぼこっ。」

湯川は弥勒に頭をはたかれた。

「アホかお前は、卑弥呼はんがじっと20年も耐えてたんは何のためやと思っとんねん。お前が行って歴史が変わったら元も子もないやろ。」

「そうよ、ヒデキ、黙ってここで様子を見ておきなさい。」

香音にまで諭されてしまった。

「はい。」

湯川はうなだれた。


卑弥呼と須佐之男は天岩戸の前に立った。

「皆の者、よく聞きなさい。

これからこの国は、わらわとスサノオで和を持って治めて行く。

これにおるのはクシナダヒメの命、スサノオの妃である。

皆には今まで苦労をかけたが、これからは民衆をまつりごとの中心に置く。

皆の幸せが、わらわと須佐之男命の幸せである世を目指す。

どうか皆わらわ達について来て欲しい。」

卑弥呼と須佐之男は深々とこうべを垂れた。

民衆はざわついていた。

が、卑弥呼と須佐之男がお辞儀したのを見て、みんな跪いて敬意を表した。

卑弥呼と須佐之男は頭を上げると、満面の笑みでこう言った。

「皆の衆ありがとう。」

「天照大御神様と須佐之男命様が笑うなんて初めての事だ。」

民衆はその笑顔に魅了された。


「ふぅ、これでみんな大丈夫やな。」

弥勒がホッとしたように呟いた。

「卑弥呼しゃん…」

「あああ~、みんなからアップルホンを返してもらうの忘れてた!」

湯川は大声で叫んでしまった。

「未来のメカが過去の世界に残してしまった。悪用されたら歴史は大変な事に…」

湯川は頭を抱えた。

「お前はほんまどうしょうもないアホやの。そんな事お前以外みんな分かっとるわい。

あれはみんなアルの形見やと思て、大事に保管して誰の手にも触れんようにするに決まっとるやないか。そんな事も分からんのかいな、

なあ香音。」

「そうよ、ヒデキ、あれでみんなアルの事を思い出せるのよ。それだけみんなの心にはアルの存在が大きく残っているのよ。」

だめだ、俺は本当にポンコツになって行く。

湯川は自分を恥じた。

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