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伝説の七人  作者: HITOSHI
14/18

『伝説の七人』第14章中部のUFOの章

第十四章 中部のUFOの章

1,「みんなお疲れさま。今回は大変だったわね。弥勒さんが気を利かせてくれたおかげで誰も犠牲にならなかったけど、危なかったわ。」

卑弥呼がねぎらったが、今回だけはみんな頭が混乱してた。

「湯川の銃がなければ大変な事になっていたかもしれない。」

日本武尊は外で見ていたので、説得力があった。

「だが、あの人間もどきみたいな奴は何だったんだ。片言ながら言語をしゃべったが、機械だから全く感情が感じられなかった。」

清明の分析は冷静だった。

「人間が生物の頂点に立ってるという事を理解しよったんや。」

弥勒は言葉を続けた。

「今回の戦いで大事な事が2つ分かった。」

「え、何がわかったん?おっちゃん。」

アルが訊いた。

「おまえ、とうとうおっちゃんだけになっとるがな、もうちょっと仏さまを敬わんかいな。」

「まあええわ、説明するからみんなよう聞いときや。特に小角な」

「ぎくっ。」

小角は鼻をほじってる手を止め、顎を鳴らした。

「まず1つ目はあいつらは科学力が進んでるだけやない。精神世界にも通じてるってことや。」

「お前らも気付いてないやろうけど、あいつらはお前らと精神融合してた。せやから、人間が生物の頂点に立った事や、今までの人類の歴史も知る事ができた。」

「それと、人類が死を怖がってる事、それ以上に他人の死にまで心を痛める事を理解しとった。何の罪もない大勢の人が死ぬと脅せばお前らの動きを封じれる事まで理解しとった。」

「どっからそんな情報取得したんや?お前らの頭の中からとしか考えられへんやろ。そんなん機械には無理やろ。知的生命体でないと。」

「せやから、ワシはあのUFOはひとつの生命体やないかと思う。生命には魂が必要や。魂が宿ってるから命は繋いで行ける。つまりあのUFOには何らかの魂が宿ってるというのがワシのひとつ目の結論や。」

全員が真剣な面持ちで、弥勒の話に聞き入っていた。


「もうひとつは、あいつが4機目のUFOを爆発させようとしたことや。」

「それは俺達の動きを封じるためじゃ?」

湯川が訊いた。

「湯川、お前心のどっかでこう思ってなかったか、『俺達は3機のUFOを破壊した。もし後4機のUFO破壊に失敗しても、海水の7分の3は残る』と」

「はい、みんな必死に戦ってくれてるのに、そんな事口には出せませんでしたが、そう思ってました。もちろん7機全部破壊できればそれに越したことはないと思ってましたが。」

「そうやとしたら、あいつが4機目を自分の手で破壊しようとした事は矛盾する。つまり給水器は1機で十分地球の海水を全て汲み上げる事ができるか、一個のワームホールから七機の給水器が出現するかや。とワシは思う。」

「え、それってマジなの?」

アルが驚いて訊いた。

「残り、4機の内1機でもあのミサイル発射できたら、あいつらの目的は達成するという事や。7機のUFOはたまたまであって、7という数字に何の意味もなかったんや。」

『ええっ!』

全員が口を揃えて驚いた。

「まあ、知らんけどな。」

全員ずっこけた。

「そう考えると、時間軸が歪んでないのも納得できる。」

「じゃあ、1機でも打ち漏らすと歴史は変わらないって事?」

卑弥呼が訊いた。

「でも今の俺達なら、ミサイルが月の軌道上で止まってる間に破壊する事も可能なんじゃないか?」

湯川が訊いた。

「もしミサイルが発射後すぐにワームホールを発生させたら、さすがに間に合わへんで。」

「とにかく前の時代に起こった事は今の時代では全く当てにならへんちゅうこっちゃ。」

「どんな予想外の事が起こっても、瞬間的に対応できる力つけなあかん。」

弥勒は一気にまくし立てた。


「でもあの時、おっちゃんはなんで木魚持って来たの?」

「いや、なんか仏さまらしいかなと思て。」

「なんやねん、意味ないんか~い。」

「いいね、タケルちゃん、その突込み。ひゃ~~。」

弥勒はまた引き笑いした。

本当にこの人が時間を止めて俺達を助けてくれたんだろうか…、さっきまでの説得力のある話が台無しになっていく、と湯川は思った。

「ところで湯川、あの銃はすごい威力やったなあ、しかも百発百中やったやないか。」

湯川はアンチマターマシンガンの仕組みを説明し、自動追尾弾丸の事も説明した。

「せやろな、お前ら2人があんなに銃の扱いに慣れてる訳ないと思っとた。」

「あんまり、機械にばっかり頼とったらいつか痛い目に会うで。」

「ぼこっ」

「痛い目にあうのはおっちゃんよ。」

弥勒はまたアルに頭を叩かれた。

「痛っ、またお前か。この罰当たり。」

「あの翼竜が街に放たれていたらどうなってたと思ってんのよ。」

「それを防いだのは僕と湯川よ。ねえ、卑弥呼姉ちゃん。」

アルは卑弥呼に怒られる前に、同意を求めた。

「まあ、そうね。」

「でも弥勒さんの言う事にも一理あるわ、あいつらはまた我らの裏をかこうとしてくる、予想もできない攻撃をしてくるのは間違いないわ。」

「どれだけそれに対応できるかが勝負だな。」

須佐之男の一言が全ての結論のように、湯川には思えた。

「ワシも一度高次元の世界に戻って、対策考えてみるわ。時間軸が歪んでないのも、もう1回チェックしてみるわ。」

「俺達はこれ以上何をしたらいいんだ?父ちゃん。」

「わしらの体力はこれが限界だと思う。これ以上修行しても身体が疲弊するだけだ。

体力を上げる事より、草薙の剣を鍛える事に専念しよう。」

須佐之男の判断は正しく思えた。

「私達も何か協力して能力を伸ばせないか相談しよう。」

清明と将門、小角は3人でグータッチした。「俺達もスーツと銃の性能を最大限まで使えるよう頑張ろう。」

湯川はアルに言ったつもりだったが、アルは無視して部屋に戻って行った。


2,翌朝、エスポワール号は4機目のUFOが出現するであろう北アルプス槍ヶ岳付近に着陸した。

コックピットから見える槍ヶ岳は雲海の先に尖った白い剣先を青空に突き刺しているような荘厳さが感じられた。

湯川と清明はその様子を眺めていた。

「湯川、日本にもこんなきれいな場所があったんだな。」

「多分、この風景は平安時代からも変わっていないでしょう。日本には他にもまだまだ多くの綺麗な風景が残されています。」

「私も日本中を見て回りたいものだ。」

「俺の居た未来ではこの風景は全て壊滅しました。風景はおろか生物や植物も全て絶滅しました。」

「残念な事だな。そうならないようにするのが私達の使命だ。」

「清明さん。」

「この美しい日本の自然を私達で守ろうではないか。なあ湯川。」


「あら、清明ちゃん、ここに居たんだ。将門ちゃんと探してたのよ。」

アルと将門がやって来た。

「アル、見てみろよ、この綺麗な風景。」

「なんだ、ヒデキも居たんだ。」

「お前なあ、どう考えても清明さん見えたら俺も同じ視線内に入ってるだろうがよ。」

「全然気づかなかったわ。」

「お前、わざとやってるだろ。」

「わざとじゃないわ。本当に視線から消えていたの。」

「その方が傷つくんだけど…」

湯川は肩を落とした。

「まあ、2人共そのくらいにしておけ。」

将門が笑いを堪えながら言った。


「で、何かあったのか?」

清明がアルに尋ねた。

「僕と湯川のアンチマターマシンガンがUFOの中でも使えるように、結界に穴を開ける事は可能なのかなって?」

「清明が穴の開いた結界をつくってくれたら、わしはそのまま強化できると思う。」

将門は自信を持って断言した。

「ふむ、狭間か。やってみよう。」

清明を先頭に4人は外へ出た。

清明は中に大きな五芒星を描くと大きな結界を張った。

そして今度は、極小さな逆五芒星を描き、結界に指を当てた。

すると、結界に小さな穴が開いた。

将門はロンギヌスの槍を立て構え念を込めた。

結界は銀に光り、穴の周りはより強く光り穴は固定された。

「アルこれで俺達もUFOの中の敵を倒す事ができるぞ。」

「そうね、香音ちゃんに弾丸を増産してもらわないとね。」

アルはピースサインをしながら言った。


3,その頃高次元から戻った弥勒と卑弥呼が食堂で話をしていた。

「弥勒さん、時間軸はどうだったの?」

「うん、やっぱり歪んでへんかった。」

「そうですか…、やはり歴史は変えれないんでしょうか?」

「これはワシの想像やけど、四機目、五機目六機目とUFO破壊したとしても、七機目のUFO出現まで時間軸はそのままやないかと思う。

七機目がもし破壊されそうになった途端、時間軸が大きく歪むんやないか、それほど大きな力が働くんやないかと思てる。」

「弥勒さんはどうなさるおつもりですか?」

「次の戦闘からはワシも参加しようと思ってる。想像もつかん出来事が起こった時、その場ですぐ対応せなあかんしな。」

「わらわはどうすれば?」

「う~ん、4機目から6機目までうまく破壊できたとして、多分ワシ七機目のUFOの闘いの時は時間軸を抑える事に全力を注がなあかんと思う。できたら卑弥呼はんには7機目のUFOの闘いには参加して欲しい、というのが本音や。」

弥勒は腕を組みながら、卑弥呼を見て考えながらそう言った。

「うむ。」

今度は卑弥呼が考える番だった。

「卑弥呼はんが大きな力隠してるの、ワシは知っとる。須佐之男はんに劣らんぐらいのな。」

「えっ!」

卑弥呼は驚いた。そんな事自分でも考えた事なかったからだ。

「ワシも戦いに備えて、インドラはんからヴァジュラ、金剛杵こんごっしょ借りて来た。

ゼウスはんからケラウノス、雷霆らいてい借りて来た。

弥勒は、厚手の生地で包まれた長尺の長い棒を静かに床に広げた。

そこには稲光をまとった長い槍があった。

雷霆は卑弥呼はんに預けとこうと思う。普通の人間やったら触るのも無理な槍や。

卑弥呼はんが念を込めたら使える筈や。

みんなには内緒でこっそりこの槍の能力引き出してくれへんか。」

「ええ、わかりました。お預かりしておきます。」

卑弥呼は槍を受け取ったが、普通に握れた。

「やっぱりな、その雷霆は世界を溶かす程の力があると言われている。きっと卑弥呼はんやったら役立ててくれるやろ。」

「それとワシの金剛杵もそうやけど、雷の力が込められてある。なんせあのゼウスの武器やからな。」

卑弥呼は槍を振ってみた。

「危ない、危ない。この船爆発してまうで。とりあえずみんなに見つからんように、部屋に隠しといて。」

「わかりました。」

2人は部屋に戻った。

この様子を香音はこっそり見ていた。そして全てを理解したかのようにほほ笑んだ。


4,それから4日が経った朝、金田一長官からイギリス、ドーンレイの原発跡地からUFOが出現したという連絡が入った。

全員予想はしていたので、すぐにコックピットへ集まって来た。

「ごぉぉぉぉ」という音と共に北アルプスにUFOが飛んできた。

「またひと回り大きくなってやがる。」

須佐之男が呟いた。

UFOはまた回転を始めると、槍ヶ岳を削り平地を作って着陸した。

「あの野郎、あの綺麗だった槍ヶ岳を破壊しやがった。」

湯川が悔しそうに言った。

「無念。」

清明も悔しそうだった。

「よし、みんな行くぞ!」

須佐之男の一言でみんな転送室に向かった。

「弥勒さん、その杖はなんなんですか?」

湯川が訊いた。

「これはヴァジュラや。雷の力が籠ってんねん。」

「誰がそれを使うんですか?」

「ワシや。」

『ええっ!』

全員が驚いた。

「弥勒さんも戦闘に参加するんですか?」

「わかったその杖、介護用の杖なんだ。」

アルは弥勒が杖をついて戦場をよぼよぼ歩くんだと思った。

「アホかお前、人を年寄り扱いしやがって。」

「え、マジで老人用の杖じゃないの?」

「お前、本気で言うてんのか?」

「だって、よくこけそうになってるじゃん。」

「アホか、あれはギャグや。」

「おっちゃんこそ本気であの戦場に出て行くつもりなの?足手まといにならない?」

「この槍はインドラ(帝釈天)が使ってた金剛杵や、自分の命くらい自分で守れるわい。」

「おっちゃん、死ぬよ…」

「アホか、仏さまが死ぬかいな!」

「もうええ、早う円陣組も。」

弥勒はアルとのやり取りを止めて、円陣の態勢に入った。

『なんでやねん。』

今回は卑弥呼がずっこけた。


5,卑弥呼と香音を船に残し。今回は8人がUFOの周りを取り囲んだ。

「前回よりシールドも強化してるかもしれん。タケル、最初から全力で行くぞ。」

「いつでも行けるぞ、父ちゃん。」

2人はより強い念を草薙の剣に込めると、大ジャンプした。

跳ね返されるんじゃないかと心配した2人だったが、剣の力が強かったのか、シールドが前回より強化されていなかったからなのか、案外あっさりシールドに突き刺さった。

2人は大きく切り裂くと、そこへ弥勒が金剛杵を使って何本もの雷を放った。

シールドはばちばち音を立てながら崩れ落ちていった。

UFOの船体が一瞬で露わになった。

「え、やるじゃん、おっちゃん。」

「こんなん朝飯前や。将門、船体に穴を開けてくれ。あの翼竜が通れんくらいの小さな穴にしてくれ。」

将門は加減してロンギヌスの槍を船体に突き刺した。

ちょうど、ひと2人分が通れそうな穴が開いた。

「よっしゃ、清明と将門2人で結界作って先に入ってや。」

将門と清明は中に入ったがレーザーは発射されていなかった。

翼竜も出現しなかった。

「ふ~ん、レーザーも翼竜も無駄だと知って、その力を他の者に注いだんやろ。」

弥勒が呟いた。

「次に出て来る奴は強力だという事か?」

須佐之男が弥勒に訊いた。

「みんな気つけや。」

「清明さん、将門さん、例の結界張ってもらえますか。」

湯川とアルが、UFOの中に入った。

清明が2人の周りに結界を張り、周囲360度に小さな穴を十数か所開けた。

将門が念を込め結界は安定した。

その時、船底がせり上がり数百体のティラノサウルスドロイドが出現した。

「前のドロイドと相違ないではないか。」

「うん、大きさも変わらない。」

須佐之男と日本武尊が話してる間に、湯川とアルはアンマシを打ちまくった。

ドロイドたちは次から次へと爆発した。

「わし達も叩き斬るぞ。」

須佐之男と日本武尊は草薙の剣を振り回し、ドロイド達を破壊した。

「小角、ワシを抱えて空中に運んでくれ。」

小角は弥勒を抱えると翼を生やし空を待った。

弥勒は金剛杵から雷を一度に数十発放った。

雷を喰らったドロイドは電気回路が混線し動きが止まった。

動きが止まったドロイドを将門がロンギヌスの槍で溶かしていった。

湯川とアルは何度もマガジンを交換しながら、銃弾を打ちまくった。

ものの数十分でドロイドは全て沈黙した。

「はあぁ、はあぁ、。」

弥勒以外全員が肩で息をしていた。

「思ったほど大した事なかったな。」

須佐之男が吐き捨てた。

「まだ終わっとらん。」

『えっ!』

全員が驚いたその時、卑弥呼から通信が入った。

「みんな上に気をつけて!」

全員が散った。

天蓋が開いて、ひときわ大きいティラノサウルスドロイドが降りて来た。

「ドスン。」と爆音を立て、ドロイドは床に着地した。

「とんでもないでかさだな!」

小角が叫んだ。

「なんか今までのとは形状も違う。胸の部分が厚いぞ。」

清明が言った。


6,「ボスのお出ましかいな。」

弥勒はこの状況をある程度予想していたかのようだった。

ボスドロイドはミサイル発射管の前に立ちふさがると、発射管を守るかのように「ぐぅぉぉ~」と叫んだ。

全員何が起きるのか身構えた。

そんな中、アルがボスドロイド目掛けてアンマシを撃った。

銃弾は跳ね返された。

機体と同じシールドが張られているようだった。

銃弾はあちこち跳ね回りながら、船内を駆け巡った。

「湯川、アル、その銃は危険や。そいつにはもう使いな。」

弥勒が命じた。

その攻撃に反応するかのように、ボスドロイドの胸の辺りから、電動丸のこぎりのような円形の歯が飛び出した。

それは紙のように薄く、大きさは直径3メートル程あった。

1枚目が空中に留まり、2枚目が出現した途端に回転を始め、須佐之男と日本武尊目掛けて飛んで来た。

「ふん、こんな子供のおもちゃじゃあるまいし、片手で受け止めてやる。」

須佐之男と日本武尊は左手を目の前に突き出し、円盤を受け止めようとした。

「それはだめよ、すぐに避けて!」

卑弥呼の声だった。

須佐之男と日本武尊は身体をひねって円盤を避けようとしたが、左手の手首から先を斬り飛ばされた。

「げっ!あの2人の硬い皮膚を切り裂いた。」

湯川は驚いて叫んだ。

「くそ、やられた。」

須佐之男は呻いた。

「俺もやられた、父ちゃん…」

日本武尊はショックで気絶寸前だった。

円盤の1機は小角目掛けて飛んで行った。

小角は瞬間移動で避けていたが、何度も繰り返す内に円盤は小角の移動先を読んで先回りしだした。

このままでは小角までやられると思った弥勒は、円盤の移動先に雷を落としまくった。

円盤には当たらなかったが、円盤の軌道を変える事はできた。

もう1機は、湯川とアルの居る結界を目掛けて飛んで行った。

「清明さん、こっちへ向かって来ます。」

湯川が叫び、アルは頭を抱えて身体を丸めた。

円盤は結界の狭間周辺を切り裂きだした。

「まずい結界が持たない。将門力を貸してくれ。」

清明が叫んだ時、結界はもう破損寸前だった。

「危ない!」

咄嗟に湯川がアルの上に覆いかぶさった。

ついに結界が破られ、湯川に円盤が迫った瞬間湯川の上にさらに覆いかぶさる人影がいた。

平将門だった。

もう1機の円盤に気を取られていた弥勒はその様子を見て咄嗟に、指を鳴らして時を止めた。

弥勒は止まった時間の中、1機目の円盤を金剛杵で地面に落とすと、将門の元へと駆け寄った。

「あかん、間に合わんかった。」

円盤は将門の襟元辺りから深く食い込んでいた。

将門は文字通り首の皮1枚で繋がってる状態だった。

「弥勒さん、弥勒さん。」

弥勒の頭の中に響く声が聞こえた。

「え、香音か。」

「はい、私です。弥勒さんの頭の中に直接語りかけてます。」

「今、時間止めてんねで。ワシ以外動けん筈や。なんでお前は動けてんねん。」

「それはまた後で説明します。その前に私に考えがあります。将門さんの下から湯川とアルを救い出して、時間を動かしてください。」

「それやったら将門このまま死んでまうで。」

「将門さんはもう首の皮1枚で繋がってる状態です。後は私に任せてもらえませんか?」

「わかった、香音を信じよう。」

弥勒は湯川とアルを引き出すと、離れた場所に運んだ。

そして時間を戻した。

「ぐぉぉぉ~」という声と共に将門は首を刎ねられ、円盤は船底に食い込んで動きを止めた。

将門の首は転送されたのか、その場から消えた。

船底には甲冑姿の将門の胴体だけが残されていた。

その様子を目の当たりにした須佐之男と日本武尊は同時に叫んだ。

『まさかど~~。』

須佐之男と日本武尊の頭の中で何かが弾けた。

「ちくしょう、よくも将門を。」

日本武尊が呻き、

「許さんぞ~。」

須佐之男が叫び、

2人の姿が変化した。

筋肉が盛り上がり、身体も大きくなり、須佐之男は皮膚が赤くなり、日本武尊は皮膚が青くなった。

2人は身長が5メートル程まで大きくなり、その姿はまるで仁王像のようだと湯川は思った。

「あいつら覚醒しよった。」

弥勒が呟いた。

と、同時に湯川とアルは自分達を救うために将門が犠牲になった事に気が付いた。

「将門さん。」

「将門ちゃん。僕たちを守るために自ら身を投げ出してくれたの。わぁぁぁ~~ん。」

アルは号泣した。

「ワシがもうちょっと早う気がついとったらたよかったんやけど…」

「弥勒さん時間を止めて俺達を助けてくれたんですか?」

湯川が尋ねた。

「ああ、ワシが時間止めんかったら、3人共切り裂かれてるとこやった。」

「ありがとうございます。しかし将門さんの首はどこへ行ったんですか?」

「香音がすぐ転送しよった。そんな事よりあれを見てみ。」

弥勒は須佐之男と日本武尊を指さした。

「何なんですか、あの仁王像のような巨大な物体は?新たな敵ですか?」

湯川は驚いて後ずさりした。

「アホか、あれはスサノオとタケルや。将門がやられた怒りで覚醒しょった。」

「まさか…、でかすぎる。でもあの手に持ってるのは確かに草薙の剣。しかも剣まででかくなってる。」

「小角、将門の胴体抱えてすぐ船に瞬間移動してくれるか。」

「うん、わかった。」

小角と将門の胴体は消えた。


7,「あの円盤を何とかしないと、しかもこっちは2人減った状態だ。」

清明が心配顔で言った。

「あの2人に任せといたら多分大丈夫や。見てみ、切り裂かれた手首も元に戻っとる。」

「ほんとだ、すご~い、スサノオちゃん、タケルちゃん。」

弥勒の言葉にアルが反応した。

ボスドロイドは新たに円盤のこぎりを6機発射した。

円盤は仲間それぞれに対して向かって行った。

その瞬間、須佐之男と日本武尊が猛烈なスピードで、次々と6機を叩き割った。

「げっ、すげえ。あの円盤を素手で叩き割った。」

湯川は目を剥いた。

ボスドロイドは円盤を大量に発射した。

須佐之男と日本武尊は、「ぐぅーー」と唸りながら草薙の剣を振り回した。

剣はそれぞれ赤と青に光輝き、円盤を破壊していった。

2人は円盤を破壊しながら、ボスドロイドに近づいて行き、そのままの勢いでボスドロイドをぎたぎたに切り裂いた。

そこら中にドロイドの破片が飛び散った。

清明は湯川とアル、自分の周りに結界を張って破片で傷つくのを防いだ。

弥勒は金剛杵で破片を防ぎながら、「はあぁはあぁ」と肩で息をしていた。

須佐之男は赤い金剛力士像の姿のままミサイル発射管を引き抜いた。

そして2人は元の姿に戻った。

「弥勒さん、大丈夫ですか?」

湯川が声をかけた。

「ああ、大丈夫や。さすがに今の出来事は時間軸が歪みよった。それを抑えるのにパワー使ってもうた。」

初めて時間軸が歪んだんだ、湯川はなぜか弥勒には申し訳ないが、ホッとしてしまった。

「タケル、今のは何だったんだ。」

須佐之男が日本武尊に訊いた。

「俺もよくわからないが、怒りがMAXに達した感覚の後、記憶が定かでない。」

「わしもだ、あいつを倒した記憶が曖昧だ。」

弥勒が先程の戦闘の様子を2人に説明した。

「そんなに凄かったのか。」

日本武尊がまるで他人事のように言った。

「ただでさえとんでもなく強いのにその10倍くらい凄かったっすよ。」

湯川が答えた。

「まあ、色々と気になる事もできたし、一旦船に戻ろうや。」

弥勒の一言で全員船に転送された。


「将門はどうなったんだ、香音。」

須佐之男が血相を変えて訊いた。

「医療ポッドで眠ってるわ。」

「何!」

全員医療室へ急いだ。

「将門は死んでないんかいな?」

「ええ、小角さんがすぐに首から下を運んでくれたから上手く繋がったわ。」

香音が答えた。

「繋がったって、お前いくら何でも首刎ねられてんやぞ。繋がったって生き返る筈ないやろ。」

「過去の世界で将門さんが額に傷を負って、ここの治療ポッドで診断した時に、大変な事に気付いたの。

将門さんの心臓は後頭部にあったの。特殊体質ね。」

「そっか、だからさらし首にされても、まるで生きてるかのようだったんだ。」

湯川は合点がいったようだった。

「将門さんの場合、首から下を全部元に戻す事も可能だったけど、小角のおかげで短時間で手術は終わったわ。」

「将門の件はよかったとして、スサノオとタケルのあれは何やってん?」

「わし達にもよくわからん。」

須佐之男は吐き捨てるように言ったが、弥勒は続けた。

「あの変身が自在にできるようにせえ。」

「ふん、簡単に言いやがる。」

「そうですよ、弥勒さん、自分達でも無意識の出来事だったんですから。」

日本武尊も難しそうに思っていた。

「あの…、変身した時のあの姿、見覚えがあるんですけど…」

湯川がボソッと呟いた。

「何、湯川どこでいつ見たんだ。」

須佐之男が鬼のような形相で睨んできた。

「香音、船を奈良の東大寺に向けてくれ。」

「あいよ、ってかもう着いてるよ。」

「はいはい。」

なんでこいつは俺の考えがわかるんだろう。湯川は思った。

「みんな転送室へ行って。」

将門と香音を残してみんな転送室に向かった。

「あれ、卑弥呼姉ちゃんも行くの?」

「うん、興味があって…」

「なんだよ~、『わらわは絶対船から降りぬ』

とか言ってたくせに。」

湯川が冗談ぽく言った。

「あんた呪い殺すわよ。」

「うあ、こっわ~。」

「ひやぁぁ~」

弥勒が笑った。

「香音南大門前に転送してくれ。」

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